第11話 G、樽に短剣を刺したくなる。
「で、これどうしようか……。」
『こうなさるのはどうでしょうか?』
ニクジュバンニの提案は、今私の用いれるものによって
この黒いオークビッツ族を拘束するに十分だった。
まず樽にオークビッツ族を入れます。
隙間に土を入れ、顔だけが出るようにします。
土を少し固めるようにすれば
あっという間に拘束されたオークビッツ「樽」の完成!!
「絵面がどうもどこかで見た気がするんだけど……。」
『間違ってもその2本の短剣を樽に刺さないように。』
「あー……黒いしねぇ……。」
何かに似ていると思ったら黒豚危機一発。
もとい黒〇危機一発だ……。
確かに短剣を刺したくなる絵面だった。
「まぁこいつの持ち物だから勝手には使わないけどさ……。
それにしても綺麗な短剣だね?」
『魔法金属製の短剣ですから。』
「マギウスメタル?」
緋色のアポィタカラ、ヒヒィロカネとも呼ぶとか。
漆黒のオリハルコンに白銀のミスリィルが世界3大魔法金属と呼ばれ
それ以外にも複数の魔法金属が存在していて
魔力の素である魔素の影響を受けて生まれる事から
地球には存在しない金属だとか。
「でもこれ完全に白いのと黒い2種類あるよね?」
『白い方がフラハルコンで黒い方がシャハルコンです。』
「何、そのバッタもんみたいな名前……。」
フラハルコンは光属性の魔法金属で、シャハルコンは闇属性の魔法金属なのだとか。
オリハルコンが魔力や属性を一切受け付けない無属性金属であるのに対し
この2つは属性を持っている事からついた名前だそうです。
「結構価値があるって事で良いのかな?」
『それなりに。』
「へぇ……。」
「……………ぶぅーん……ふごっ!?」
「ん?起きたかな?」
私が樽を持ちつつ森を歩いていると
どうやら黒いオークビッツが目覚めたらしい。
「なっ!?なんだこれは!!
何をしてやがる!!ぬぐっ………うごけねぇ。」
「そりゃこっちの台詞だよ……。
突然襲い掛かってきておいて良く言うわ……。」
「襲い掛かった……?
あっ!お前、大猩猩!?」
「と、勘違いしたオークビッツがまず最初に言う事は無いのかな?」
「何を言う!お前が弟のタブナナを襲ったんだろうが!!
弟は顔を腫らし、身体中を腫らして戻ってきたんだぞ!!」
「あー、そりゃオークがやった事だからね。
私はむしろ助けた側だし?」
「オークが!?……………お前、嘘をついてるんじゃないか!?」
「疑い深いなぁ……。
そもそも私が襲って何の益があるってのさ。」
「その顔、人族だろう!
俺達を食うつもりで襲ったに決まってるだろうが!!」
「はい?」
ニクジュバンニ曰く、オーク肉はブランド豚のような味わいだけど
オークビッツ族は獣人ながらも味が良い事から
ゴリラでは無いけど食用肉的に捉えている人も居るそうで
極上のオーク肉、と偽ってオークビッツ族を誘拐などして
売る人が居るのだとか。
オークより美味い、と言うのがポイントなのだとか。
「キモイわぁ……。」
「なんだと!?」
「いやだって、獣人を食べるんでしょ?
気持ち悪い以外、言う言葉が見つからないんだけど?」
「お?………おぅ……。
その……なんだ………すまなかった……。」
「うん、悪いと思ったら素直に謝る。
それが出来るなら拘束はしなくても良さそうだね。」
但し樽から出す際に、この無限樽はどうやら壊れない仕様だそうで
仕方なく両手を脇辺りまで差し込んで
力尽くで持ち上げる事で黒いオークビッツを出してあげた。
「俺はオークビッツ族のタブロクだ。」
「私はリラ。」
アナグラムと言うか、逆から読むと黒豚だと言う事に気が付いたけど
多分怒りそうなので、心の中に仕舞っておく事にした。
名前の語源は父親がタブ、と言うそうで
上から順番にタブイチ、タブニと付けていった結果
6番目だからタブロクだとか。
オークの事はとりあえず置いておいて
集落に案内してくれると言うので
やっと獣人ながらも人の住む場所にいけると
案内されていったのですが………。
「何これ……。」
「おい!どうしたんだ!!」
集落である場所は建物がほぼ全壊。
人々が地面に倒れ、赤く塗れていて
ただ事ではない状況だったのです。
「お………オー……。」
「オークか!オークの連中が攻めてきたのか!?」
なんていうか気が早いと言うかか……。
タブロクはあっという間に集落から飛び出して
どこかに行ってしまったのです。
『なんとも早とちりなオークビッツですね……。
これはオークではなくオーガの仕業です。』
「オーガ?」
『日本で言う「鬼」です。毛で覆われているものをトロールと呼び
毛が無いものをオーガと呼びます。
身の丈が小さいものでも2メートル以上はありますが
地面の足跡から、恐らく4メートル級のオーガだと思われます。』
「強いの?」
『魔物ランクで言えばAランクになります。
力と素早さを兼ね備えた非常に厄介な魔物です。』
「力と素早さ、どっちもあるとかチートじゃない?」
『知性が非常に低く、ほぼ思ったままに行動するので
狙いを定めて戦うのが苦手です。
この集落も多くが薙ぎ払われたように壊れているのも
狙いを定めず、腕で払うように壊したり人々を襲ったのでしょう。』
「ふむ……。」
『それともっと重要な事があります。
痕跡から1匹ではありません。
恐らく3匹居たと思われます。
普通、オーガは群れません。
かなり特殊な個体だと思われます。
そもそもオークビッツ族は素早い動きが特徴です。
オークならいざ知らず、オーガに後れを取るというのは
考えられない事です。』
「つまり?」
『3匹のうちのいずれかに
高い知性がある可能性が考えられます。
突然変異種とも呼ぶべき個体が混ざっているかと。』
突然変異種。
変異種は過去に例があれど、突然変異種は全く新しい
変異種であり、本来持ち合わせていない身体能力や
技能、魔法、能力に目覚めている可能性があるのだとか。
『オーガはそもそも魔法を使う事がありません。
しかし右側の木の傷には焦げた痕跡があります。
火の属性を持った力を行使した可能性があります。』
「これにオークが係わっている可能性は?」
『ありません、オーガをオークが御する事は不可能です。
逆であったのならば、オークの痕跡があってしかるべきですが
オークの痕跡と思われるものが全くありません。』
「つまりタブロクは?」
『勘違いしているだけでしょう。
放っておけば戻ってくるでしょうから
マスターはここで待ちましょう。』
「そっか……。」
『しっかり気を張ってくださいね?』
「え?」
『マスターが待つのは3匹のオーガです。
地面の一部に血溜まりがあるのにも係わらず
そこに遺体が存在していない場所が多数あります。
これはオーガの食事習性によるものでしょう。』
「食事習性?」
『オーガは知性がありませんが、何故か食べる獲物を
水洗いしないと食べられない繊細な魔物なのです。
恐らく足りない遺体は川や水場まで持っていって
洗って食べている可能性が非常に高く
持てるだけでは食事としては足りないでしょう。
ここに再度戻ってくる可能性が非常に高いと推察されます。』
「潔癖症か!」
その頃のタブロクは、と言うと……。
「忌々しいオーク共め!皆殺しにしてくれる!!」
彼は勘違いしたまま、オークの集落へと向かっていた。
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