第106話 根源 前編
「君は新しい存在であり、そして元々の存在が創り出した。
この世界が気に入らないんだろう?
何故、私には0から創るという権利さえ与えられなかったのか。
だから君は破壊衝動に駆られた。
自らの箱庭だというのに、自らが全く関与して来なかった箱庭などに
興味なんて無い。だからこそ、元の存在を消し
そして自らが頂点に立ち、そして世界を滅ぼして
また0から新たな箱庭を創りたかった。
だが、元の存在はそこまで愚かでは無かった。
確かに彼は、箱庭に対して自らに課せられている枷を振り解いて
その箱庭に決してしてはならない事をした。
だから元の存在はそれから『邪神』なる存在とする事にした。
そしてその『邪神』の全てをまず消さなければ
新たな箱庭が創り出せない、という結論に達した。
それを君は伍莉良にさせる事とした。
そして彼女の身体を1から創る際に1つ細工を施した。
その中に、元の存在の一部を埋め込むように仕向けた。
彼女がこの世界に降り立ったのは『核心』がある場所であり
それによって君はこの世界に干渉せずに埋め込んだ。
そして彼女に『邪神の身体と精神』を集めさせ、最後は
彼女に自害させるつもりだった。
それによって、君は真に新たな存在になるつもりだった。
そうだろう?ガングレリ……。」
「……………やはり伍莉良の中に生きていたか。」
「勘違いをしては欲しくないな。
彼女には全てを話した。
彼女は快く承諾してくれたのだよ?」
「そんな馬鹿な話があるか!!
その娘は自らが死ぬ事を許容したというのか!?」
「いや、してないね。彼女が許容した事は
邪神とされる身体と精神の全てを集めた上で
君と言う存在を排除する事だよ、ガングレリ。」
「それを娘が信じたと……?」
「いや、信じてはいないだろうね。
だから私はゴリラアーマーのほぼ全権を彼女に与えた。
そして今、全ての権限を彼女に与え終わった。
これは君には出来ない事だ。
何しろ君はこの地上に直接的な干渉は出来ない。
精々、今のように邪神と呼ばれるものの身体の一部を介し
会話するのが限界だろう?
何しろ邪神の身体であろうと精神であろうと
地上にある間は聖遺物なのだからね。
だが、私は違う。これ以上の咎を背負う事が無い以上
彼女に力の使い方を教えてあげる事が出来た。
最早、彼女は私が居なくとも成しえるだろう。
ガングレリ、君を消すという偉業を………。」
「偉業だと……、何が偉業だ!」
「間違いでは無いだろう?ガングレリ。
君はこの世界を消し去り、新たな箱庭を創ろうとしている。
それはこの世界に生きる、全ての者達の死を意味する。
それも永遠の死だ、輪廻すら存在しない。
いいかい、ガングレリ。
かつての創造神と言う存在は、愚かではあったかもしれないが
決して自らの欲の為に邪神となった訳ではない。
だが、君は創造神という存在でありながら
地上に干渉しないまま愚かになろうとしているのだ。
その最たるものが『勇者召喚』だ。
本来、悪しき魔王の誕生に合わせ行われるものを
君は邪神の誕生に利用した、それも地上の干渉としては
非常に灰色ともされる、神託と言う形で!
しかし私は108の身体と12の精神に分かれて難を逃れた。
私はただ箱庭を守りたかっただけなのだよ。
だが、君はそれを全て1つに集め!
最後は彼女に自ら自害させるつもりで
彼女をニクジュバンニと呼ばれる存在に殺させた!
確かに神の定めでは、自らの管理する箱庭には
干渉してはならないとされている!
だが自らの管理しない箱庭にはそのような定めがない!
だから君は地球のゴリラの神と呼ばれる存在を利用した!
その眷属たるニクジュバンニと呼ばれる存在を利用した!
もういないのだろう?地球のゴリラの神、とやらは。」
「……………流石、良く解ってるじゃないか。
一応は私と同じ創造神であっただけはある。」
……………なんですか、これは……。
ゴリラの神様が既に居ない……?
私が利用された……………?
どういう事なのですか!?
「この邪神の消滅、はそもそも茶番劇だ。
今、この世界の創造神である君は最早神でも何でもないのだよ。」
「違う、違う違う違う!!
私は創造神、この世界を創りし存在だ!!」
「君は創っていないだろう?
この世界を創ったのは私であり、今は邪神と呼ばれる存在だ。
君はただ、この世界を干渉と呼ばれる神の定めの
黒と白の境目を利用しているだけに過ぎない存在だ。」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!
私は……私は創造神ガングレリ!
貴様などとは決して違う!
唯一にして最高神!この世界の神の頂点なのだ!
私が何をしようが、どこに問題があるというのだ!!」
「あるから今このような事態となっているのです。
君はいくつか見逃し過ぎた事が多い。
それで創造神を名乗ろうなど、経験の浅さが丸解りです。
君は私が邪神となった事で新たに生み出されたに過ぎないのです。
生まれたばかりの赤ん坊が手に入れた箱庭と言う玩具。
それに自らの思想などが反映できなくて癇癪をおこした
ただの赤子でしか無いのですよ?」
「せやで、やっとる事はまともやないで?
神さんやっていうから、もちっとばかしまともかと思ったけどな。」
あれは……魚人?の……三平?
「彼が私の協力者です。
別の世界からわざわざ来ていただいたんです。
この世界の者では無いのですから、君には到底
解らなかったかもしれませんが……。
彼の友人は、別の世界で創造神を倒し、神殺しと呼ばれている。
しかしそんな存在を連れてくれば
いくら君でも解るでしょう。
しかしこの三平さんは自由に世界を渡る力を持っている。
君のようなまだ生まれて間もない創造神では
知らないのも当然だし、彼は平和主義者でね。
諍いを起こす事はまず無く、どの世界も
彼だけは自由に受け入れているのですよ?」
「ま、報酬次第やけどな。」
「それは悪い事ではありません。
価値ある仕事に報酬があるのは当然です。
無償で何かしろ、と言う方に無理があるというもの。」
「ま、そういう事や。
わいは水さえあれば大抵の事が出来るんや。
この嬢ちゃん、最初から湖に手突っ込んでくれたお陰で
このゴリラアーマーとやらに徐々に干渉させる事も
上手く出来たんや。気付かへんやったやろ?」
「そりゃあもう。激流に飲まれた際にも干渉して下さったし
最後の干渉点はウィンガード王国の地下下水道です。
上水側から干渉した事で、誰も気が付きませんでしたからね。」
「ま、半年眠っとったって聞いて
その後、何度も大丈夫かと心配して
顔出しにいったんやけどな……。
ちょいちょい殴られて、わいの頭が変形するかと思ったで?」
一体、この人達は何を言っているのでしょう……。
マスターがおかしい、と思ったのはこれが原因……?
と、言うかガングレリが創造神?邪神が創造神?
私、ニクジュバンニにはもう何が何だか分からなくなってきました……。
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