第105話 G と 海上の罠 後編
「つーかおかしいよね!?この状況!!」
間違いなくアクオルスの首から上は無い。
つい先程海の中に沈んでいった。
だというのにこの球のような海水が海面から
私に向かって飛んできているのが止む事はなかった。
それだけでなく、この半球状の海水。
ドーム型のこの私を閉じ込めている部分も
消える事無く、そのまま維持されていた。
「ならさっさと潰せばいい!私のこの手がゴリゴリ咆える!
母なる核心を潰せとウホウホ哮ける!」
母なる核心を潰してしまえばこの猛攻も止むだろう。
そう私は確信してアクオルスを潰す事にした。
そして私は一気にアクオルスへと駆けた。
そのまま右の拳を………。
おい、どこに母なる核心があるのさ。
ニクジュバンニ!仕事しろ!ニクジュバンニ!!
距離を詰めたのは良かったけど
そもそも私に核心にしても
母なる核心にしても
ある位置が解るという訳では無いのです。
この技によって、手が導かれていくのだから……。
『マスター、罠です!』
その言葉に、意味が解らなかった。
つい先程、目の前に母なる核心の存在を
ニクジュバンニは確認していた。
そして私は母なる核心の位置を聞いた筈。
なのに帰ってきた答えが罠??
「くくっ……ようこそ、永遠の闇へ。」
その声が聞こえた時には遅かった。
私の足元、そしてアクオルスの足元さえも
そこにあった海水が消えたのです。
そして私とアクオルスは真っすぐで巨大な穴を
いつまでもいつまでも落下する事となったのです。
まっすぐとあの半円型の海水の真下の海水。
それが完全に消え失せていた。
いくらニンジャフォームと言えど、空を二段ジャンプとか
出来る訳もなく、私は自然落下する以外に無い。
さらに言えばアクオルスも共に落下している。
ただあの声は………。
「あれはガングレリの声だった……。」
『すみません、マスター!
この目の前のアクオルスに入っているのは核心です!』
そうニクジュバンニが言った事で合点がいく。
母なる核心が入っているのはあのガングレリの方……。
そしてニクジュバンニから
これがどういう事なのかが語られた。
これは罠魔法と呼ばれる一種で、作り出すのに
まず時間が掛かる上に、作っている間は無防備になるのだとか。
あの半球状のドームの外でガングレリがこの罠を作っている間
目の前のアクオルスが時間を稼ぐ………。
そして永遠の闇へようこそ?
この縦穴の行きつく先にある闇だなんて容易に予想できる。
「深海………。」
つまりあのガングレリはこの目の前のアクオルスを
囮にして、もっと強大なこの罠を作り
そして私を落下させるつもりだった、と……。
「いや、逆か……。」
私が目の前の落下しているアクオルスをゴリラ鑑定して
やっと気が付いた。
こいつの名前はアクオルスではなくガングレリ。
つまりあの9歳のガキンチョこそが
ガングレリと名乗っている……宝瓶宮のアクオルス。
そして共に落下しているこのガングレリの体内にあるのは核心。
あの本当のアクオルスは核心すら犠牲にして
私を罠に嵌めた、と考えるべきだろう。
と、言うか私は核心と母なる核心では
潰す際の詠唱が異っている。
それを知ってか、両方が同時に現れ
そして正体を偽るなんて方法を取るなんて
それこそ理外、そもそも違う事に気が付いているとすれば
私かニクジュバンニくらいのものだ。
「質問、私どれだけ落ちるの?」
『10983メートル落下します……。』
「まさかのホーマック山越え!?
っていうか私、生きていられると思う!?!?」
『痛いとは思いますが、死んだりはしないかと思われます。』
即座にダメージの減るであろうベーシックフォームへと変えた。
「まぁそれだけの深さがあるって事は海溝とかだよね……。」
『はい、登れるかどうか現在マッピング中です。』
「もう1つ質問。私が海底10983メートルの気圧の中で生きてられる?」
『ゴリラアーマー内の気体をゴリラコンテナと連動して
エア・コントロールを行えば可能かと思われます。』
「明確じゃない答えと明確な答えをどうも……。」
そして直後、私は海溝と思われる場所へと到達。
目の前の新ガングレリであり旧アクオルスと共に底まで落ち切ったのです。
「痛い……これまでにない位痛い……。」
『骨にヒビ1つ入ってませんよ。ヨカッタデスネー。
ニンジャフォームからベーシックフォームにシタコトデ
ダメージもオサエラレマシタシ?』
「何故。棒読みかつカタコト……。」
そしてそこに落ちてくる海水。
私は洗濯機に入れられた洗濯物になったような気分で
深い海溝の底をぐるんぐるんと海水に揉まれたのです。
「流石に水の勢いも痛かったけど、目も回った……。」
そして私は目の前が全く見える訳もない
日の光の届かない世界に閉じ込められたのです。
「だというのにえらく明るくしてくれてさ……。
キモいったらありゃしない……。」
一緒に落下してきた筈の宝瓶宮のアクオルスと
名乗った身の丈の大きな男。
開いている目と口から光を放っていて
まぁ実に発見しやすい事……。
「ガングレリ、北欧神話に出てくる王の別名とでも言いたいけど……。
確かグリームニルの歌に出てくる『旅路に疲れたもの』か……。
肩でも凝った?それとも……。」
「……………。」
「破壊衝動にでも駆られた?」
『マスター……?』
何かがおかしい。
マスターの記憶には確かに北欧神話にまつわるものがある。
だけどガングレリについては無い……。
それに破壊衝動……?
その言葉に繋がりそうな知識も見当たらないし……。
マスターはどうなっているのでしょう……。
「……………。」
「かつて神は人を作った、とよく言うよね。
だけどその節には別のものが存在する。
神が最初に作ったものは、猫に近いものだったとされていると。」
「……………。」
「人は霊長類だ、そしてその霊長類最強はゴリラだ。
だがそのゴリラにはチーターと言う天敵がいる。
チーターはネコ科だ。
しかし決してチーターは強くない。
ハッキリ言えば力において、ヒョウには勝てない。
だというのに何故ゴリラの天敵となったのか。
それは夜襲、強襲。時間を選ばずして
ゴリラの不得手とする戦場を選ぶ事で
ゴリラを不利な状態に追い込む事で勝ちを拾っているからだ。」
『マスター……………。』
最早マスターですらない……。
口調も違えば、記憶にも触れられない。
気が付けばゴリラアーマーの全ての権限が
私から全て奪われた……。
「さて、この場はどうみてもゴリラには不利な戦場だね。
水の中では思うように力は発揮出来ないし
何よりこの水圧で身体が悲鳴をあげる。
その状況を創り出したかったのだろう?
ガングレリ……。」
「……………。」
最早、ここにいるのはマスターでは無かった。
その口調、その知識。
いくらなんでもマスターにあったものではない……。
一体何が起きているのか。
ゴリラの神様……、何故お答えいただけないのでしょうか………。
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