第101話 不屈か、雷帝か。
「あそこを見て?雷帝ね……。」
「雷帝、夫婦冒険者で
どちらも2Sかぁ……。
しかも確かあの夫婦って……。」
「オプティロン大陸の大国、ディメンタール王国の後見と
この西オーディン大陸の大国、ウィンガード王国の後見の
両方を持っている夫婦よね。」
「はっ、大国2つの後見とは大層なもんだな……。」
不屈の4人、と
縄で縛られ地面をずるずる引っ張られている無能は
三日月形の防波堤に近寄りつつ
遠目に雷帝の2人を確認していた。
「どうするつもりかしらね。」
「さぁ、向こうがどうするかはこちらには関係ない話よ。
さっ、私達は私達で準備しましょう。」
「そうだな。」
「ああ。」
「そうね。」
「うう……俺なんて……俺なんて……。」
「「「「……………はぁ……。」」」」
4人は1人落ち込んでいるエドワードを見て
「なんでこんなのに惚れたんだろう」と思いつつも
これも含めてがエドワードだと理解していた。
「ま、いつもの事だからね。」
「そうそう、放っておくのが無難だ。」
「縛っとけば大丈夫でしょ。」
「抜け出すような力も無いからね……。」
次の瞬間だった。
ターボカンクの居る場所に雷が落ちた。
唐突な空気を切り裂く、雷の音に驚き
晴れた空の中、落ちた雷の光も含め
港町の人々のみならず、不屈の5人をも驚かせた。
「いきなりなんかぶっ放してるぞ!?」
「あれが雷帝の由来になっている攻撃でしょ。
確か………『雷神』?」
「斧なのにハンマー?」
「別に私が名付けた訳じゃないから知らないわよ……。
どっちにしてもターボカンクがどうなったのか見に行かないと!!」
4人+無能が防波堤の先端に辿り着くと
雷帝の2人が
ターボカンクを覗き込んでいた。
「ん?リーサじゃねぇか。元気してたか?」
「あらぁ、久しぶりねぇリーサちゃん。」
「お久しぶりです。サンダース、エリス。」
「リーサは面識あるのか……?」
「あんた達、失礼極まりないわね!
冬将軍の討伐で一緒だったし
毎年1回は合ってるでしょ!?」
「あたしは興味ない事は覚えない事にしてる。」
「言うまでも無い」
「全略」
「流石に俺は覚えてるぞ……?」
「なんだなんだ、色男。
今日は縛りプレイか?それとも俺達に譲るつもりでハンデか?」
「貴方、エドワードはほら……。」
「ああ、男の癖に力不足だったな。
もう少しこう、鍛えた方が良いぜ?」
雷帝の1人であるサンダースは
腕を内側に向け、自らの筋肉を見せつけ始めた。
「流石にサンダース程の筋肉をつけるつもりはないな。」
「あらぁ、それでも4人の奥様達を
同時にお相手出来る位にはつけないと駄目よ?」
「まぁ、エロワードもまだ若いからな。
若さでなんとかなってんだろ?」
「若さとか言うな!あとエロワードじゃなくて
エドワードだ、エドワード!!」
「どっちも大差ねぇだろ?」
「くっ…………これだから頭の中まで筋肉な奴は……。」
「まぁそれは冗談としてもだ。
俺の一撃ですらターボカンクがこの通り……ほぼ無傷だ。」
そうサンダースが言い、指差す先には
2Sランク冒険者、超級冒険者であり
上級までの冒険者には魔物を厄災、厄災級と呼ぶのと同様に
「人外」「人外級」と呼ばれるだけの事はある。
そんな少しの傷がターボカンク残されていた。
しかもサンダースが振るっている斧は魔法金属ですらない。
ごくごく一般的な金属で作られた斧なのに
刃毀れ1つない状態でサンダースに担がれていた。
「で、お前さん達はどうやってこのターボカンクを
攻略するつもりだ?」
「まぁ、ここはやっぱりウィンディかしら。」
リーサに指名されたウィンディが何かを唱えると
ウィンディの周りに次々と白い物体が現れ始めた。
そしてそれらが全て集まると、ウィンディは
まるでロボットのような姿になっていた。
「ほぅ、久しぶりに魔導機士を見るな……。」
大きさこそ人の2倍程度の背丈だが
見た目はほぼロボットと言って良いその姿のウィンディが
次に取り出したのは巨大な鈍器、ハンマーだった。
「いきます!」
その声に周囲の人々が離れだす。
ウィンディが巨大ハンマーをグルグルと、ハンマー投げのように
横に回し始めた。
そしてそれが徐々に傾き始め……。
「はぁっ!!」
ターボカンクの上に遠心力すら利用した形で
ハンマーを叩きつけた。
それによって、ターボカンクの表面がメキメキと音を立て
破片のようなものが飛び上がった。
「……………駄目かぁ……。」
ウィンディの攻撃は、ターボカンクの殻そのものではなく
周囲についていたものを砕き、剥がしたに過ぎず
結果としては藻や汚れのようなものがターボカンクから剥げ
綺麗な巻貝状態になっただけだった。
そしてサンダースの一振りによる
僅かな傷が殻についている状況が明確になっただけだった。
「ウィンディの攻撃が効かないとなると……。
イズミルとのコンビで殴るか……。」
「あとは傷が入っているから、俺が地道に同じ場所に
傷を入れ続けていくか、って所か?」
「そうね……。
どのくらい割るのにかかりそう?」
「そうだな……3日、いや2日は掛かるか。
あれだけの一撃を連続して撃ったらすぐに魔力が尽きちまう。」
「魔力回復の水薬を併用しても2日ね。
ちょっと足出ちゃいそうだけど……。」
「これは雷帝に任せた方が
良いかしらね……。」
雷帝と不屈。
2つの冒険者PTが話し合い
ターボカンク殲滅の方向性が纏まり
サンダースが時間を掛けてターボカンクを割る。
そこまで決まった所で、このターボカンクを倒す為に
呼ばれた最後の冒険者PTとやらが
海の上を走ってきたのだった。
「うおおおおおおおおお!サザエ!サザエ!つぼ焼き!
ガーリックバター焼きにアヒージョに炊き込みご飯に甘辛煮!!」
『まだ対象も目視も出来ていないのに
なんで涎だけがこんなに出ているのでしょう……。』
それはリラだった。
ミラブアの港町を去る直前、冒険者ギルドから呼び止められ
ベーコンエッグ28世アリアポロスからの依頼、というより
お願いだった。
まだBランクでは無いリラには王侯貴族の依頼を
受ける事は出来なかった。
だからこそのお願いレベルでアリアポロスは
ターボカンクの素材、主に可食部を自由にしてよいという条件だけで
お願いした所、リラは2つ返事で受けた上
魔導客船すら待たず、ニンジャフォームで海の上を
ナックルウォーキングで走ってきたのだった。
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