第10話 G、心の声を聞かされる。
俺はオークビッツ族のタブロク。
今日は森に狩りに出ていたのだが、留守中に
弟達と妹達が勝手に集落を離れた事を知った。
今から6か月位前の事だ。
俺達の集落の近くに魔物であるオークの集落が出来た。
それによって、この集落の辺りは
狩りをしても碌に獲物が取れなくなってきていた。
だがオークは俺達オークビッツ族のような
素早さは無いが、力だけはある。
オークを狩り、食えれば良いのだが
俺達は非力で、あのオークの皮は中々に切り裂けない。
人族共が防具として扱う程に
オークの皮は優れていても、俺位になればまぁ何とかなる。
だが筋肉が多いのか、力を籠められた途端
あの皮膚を貫く事も切り裂く事も叶わなくなるし
何よりオークビッツ族の全てがオークと戦える訳でもない。
俺達の集落はオークには未だ見つかっていない上に
集落を移そうにもそれに適した場所が見つかっていない。
俺達はオークビッツ族と言う獣人であるにも係わらず
オークという魔物に怯え、暮らすしかなかった。
しかしここの所、狩りの結果が芳しくない。
それによって、今狩りが出来る者達は
全員がオークに出会わないよう、気を張りつつ
狩りをしていくしかなかった。
だからなのだろう。
集落の警備が手薄な所を腹を減らした
弟達と妹達が集落から抜け出していた。
俺達はすぐに探したが、すぐに弟達は見つかった。
弟の1人が、顔を腫らし身体中に打ち身と思われる跡が
多数あった。
他の弟や妹達は泣き叫ぶばかりで
どうしてこうなったのかを教えてくれなかった。
そんな中、ただ一言だけ聞き取れた。
「オオショウジョウ」と言う言葉を。
大猩猩、それは人型とも呼ばれる魔物の中でも
オークを軽く超え、非常に強い力を持つ魔物であり
厄災級、と呼ばれる魔物だ。
たった1匹で街や村を滅ぼせるだけの
非常に強力な魔物で、過去に国を滅ぼした事もあると
族長は昔仰っていた。
そんな魔物がこんな場所に……?
この辺りでは精々オークが上位で、獣の方が多い位だ。
だがそんな魔物がやってきたとなれば
この集落も無くなるかもしれない。
俺達オークビッツ族は獣人だが、大猩猩は魔物だ。
オークはまだ共通している言葉にオーク語があるから
話は出来るが、俺達を襲ってくるから敵でしかない。
それでも多少は話の通じる奴も居る。
だが厄災級の魔物等、話の通じるものじゃない。
族長の判断は、今からすぐにでも集落を捨て
遠くに逃げたいとは思ったようだ。
だが、ここから逃げて何処へ行くと言われれば
これまで数か月と移動先を探してきたにも係わらず
適した場所は無かった。
ならどうするか。
俺は囮を買って出た。
俺はこの集落でも最も足が速い。
これまで森の中を1日中駆け抜けるだけの体力も
誰もが認めるものだった。
だから俺は囮役となり、大猩猩の気を引き
遠くへと連れて行くつもりだった。
まぁ、出来ればオークの集落を通ってでも……。
だが、居たのは確かに大猩猩だった。
しかし族長が言うような巨体では無かった。
大猩猩と言えば身の丈4メートルは超える
巨大なゴリラだと聞いてきた。
だが目の前に居るのは精々1メートル50あるかどうか。
つまりこれは大猩猩の子供、幼体だろう。
なら危険な芽は今のうちに詰んでしまえば良い。
それに大猩猩の肉は食えるとも聞いてきている。
だから俺は相棒を腰から抜き
大猩猩の子供に一撃二撃と叩き込んでやった。
俺の予想は外れていなかった。
どうやら表皮が非常に硬いようだが、中には俺の攻撃が通ったようで
前に倒れつつ、地面を手で叩き始めた。
だが、子供と言えど侮れなかった。
その手で叩いた地面に亀裂が走っていたからだ。
小さくとも大猩猩……。
やはりこの場で仕留めておかねば、俺達の集落は全滅しかねない。
だから俺は全力で大猩猩へと次々と素早い移動速度を活かした
攻撃を叩き込んでいった。
だが、少し感じがおかしい。
手ごたえが途中から妙に変わったからだ。
しかし大猩猩は未だ起き上がらない。
手で地面を叩くのは辞めたものの、目線すら俺に合わなければ
そもそも目で追えていないのだろう。
安全を確保した形で、俺が攻撃し続ければ
いくら力の強い大猩猩とは言えど、倒せないものでは無い。
それが俺の過信だったのかもしれない。
黄色いものを突然ばら撒いたが
見た感じ、ただの植物か果物か。
とにかく甘い匂いはしたが、毒のようなものでも
睡眠を促すようなものでも無いように見えた。
むしろ大猩猩が攻撃を受け続けておかしくなったのかも……。
そして大猩猩に攻撃をしに向かったと同時に
俺は既に罠に掛かった事に気が付いた。
その大量の地面を埋め尽くす黄色い物体に足を乗せたと同時に
俺は滑り、自らの動きが取れなくなった。
滑ると同時に左右に飛ぼうとしたが
それすらも許されなかった。
この黄色い物体が地面との摩擦を無くし
俺の足の踏ん張りを全て無くしてくれやがった。
過信はこれだけじゃなかった。
これまで大猩猩に簡単に攻撃が入っていた事で
俺はどんどんと速度を上げていき
安全の確保という重要な部分の幅を自ら狭めていた。
黄色い物体によって足が滑った俺の行先は1つ。
目の前にある巨木だ……。
それでも後ろから攻撃されないように
なんとか反転までは出来た。
そして俺は頭を巨木に激しく打ちつける形となり
意識を手放したようだ。
「うほぉぅ……?」
「……………ん?……おぎょっ!?」
目を開けると大猩猩の顔が目の前にあり
驚いたが、今は割と冷静だ。
俺は何やら樽のようなものに詰められていた。
だがこれは木製ではない、どうやら鉄製だ。
そして俺はその中に入れられ、中には土が詰められていた。
大猩猩の特有の捉え方なのだろうか?
俺は正直身動きが取れなかった。
オークビッツ族は非力だ……。
こいつ、子供かと思っていたが
やはり厄災は厄災って事か……。
俺がこれから抜け出すなんて出来ないと解っている。
そんな俺を見据えた捕まえ方だ……。
このまま俺は殺されるだろう………。
タブイチ兄ちゃん、タブニ姉ちゃん、タブサン兄ちゃん
タブヨン兄ちゃん、タブゴ兄ちゃん…………。
兄ちゃんと姉ちゃんは成人後に
それぞれ集落を出たけど、元気かな……。
タブナナ、タブハチ、タブキュウ、タブジュウ、タブゼロ……。
お前達は生き延びてくれよ……。
俺が大猩猩をここで倒せなくて済まない……。
俺が倒せる、だなんて思ったとしても
遠くへ連れていく事を優先すれば
集落を守れたかもしれないのに………。
「あー、そういえばバイザー開けてなかったか。」
そんな言葉と共に、目の前の大猩猩の口が開いた。
食べられる!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………え?」
大猩猩の口から、人族の子供が!?
「まっ……丸飲みも嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺はまた意識を手放したようだ……………。
「また気絶したよ………。
ところで、この心の声が駄々洩れていた黒豚どうする?」
『目覚めるまで放置で良いのでは?』
「ははは、もう1回気絶したりしてね。」
『創作物にそれなりにありそうなネタですね。』
この後、起きては気絶を3回ほど繰り返したのです……。
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