4
「どうしたの? なんだか、キョロキョロしているね」
由香は言った。
「キョロキョロしたくもなるよ。だって、由香と帰っているんだよ」
昆布は言う。
「私、何か悪いことしたかな?」
「悪いことはしていないと思う」僕は首を振った。「だけど、目立ってしまっている」
「どうして?」
「由香が人気者だからだよ。可愛いし、明るいし、生徒会長だし。……だから、僕みたいな奴と一緒に帰っちゃダメだよ」
「私は人気者じゃないよ。もし、人気があったとしても、昆布と帰って人気が落ちる。……その程度の人気だったら、そんな人気はいらないよ」
由香は笑った。
その程度の人気? 由香はわかっていない。人気というのは、脆いものだ。綻びやすいものだ。芸能人ですら、不祥事を起こしたら復帰が難しくなる世の中だ。
人気者という地位を軽くみないでほしい。とても重要なことだ。人気は少しでも不信感があると、すぐに不がつく。不人気になってしまう。
「私は昆布と帰りたかった。だから、一緒に帰ろうと言った。それがダメなんて、おかしいよ」
由香は大きな声で言った。
「いや、おかしいよ。僕は変な人だからね。一緒に帰ると、不信感を抱かれるよ」
「変な人? 犯罪でもしたの?」
「いや、何もしていないよ」
「じゃあ、変な人じゃないよ。法律を犯していなかったら、普通の人じゃない?」
「犯罪はしていない。だけど、変わり者ではあると思う。それに多分、隠キャだと思う。由香は陽キャ。だから、あまり僕と関わらない方が……」
「楽しく会話することの、何がいけないの?」由香は言った。「隠キャとか陽キャとか、変なカテゴライズだよ。同じ人間でしょ? しかも、話す言語が違うというわけではない。それに、私達は幼馴染だよ? 会話してまずいことなんて、何もないよ」
「そうかもしれないけど……」
正論だと思う。
変なカテゴライズは必要ない。確かに、そう思う。
だけど、やっぱりダメだと思う。理屈ではなく、心がそう言っている。由香と関わっちゃいけないと言っている。
「私と昆布が関わっちゃいけない? そんなのおかしいよ。私と関わっちゃいけないなら、まだわかる。でも、昆布と関わっちゃいけない理由はない」
「ちょっと待って。どうして、由香と関わっちゃいけないの? 由香は完璧な人間じゃん。勉強もできるし、容姿もいい。おまけに話もうまい。……関わっちゃいけない理由はないと思うんだけど……」
「それは、私のことをよく知らないからだよ。私は私のことをよく知っている」
「まあ、自分のことは自分が一番知っているよね」
そうとも限らない場合もある。
他人の方が、自分のことを知っている場合もある。だが、内面的なことなどは、自分しか知らない。他人に自分の心の声は聞こえないからだ。
「私は、あまり人には言えないことをしているんだ!」
由香が楽しそうにいう。
人には言えないことをしているのか。だったら、楽しそうに言うな、と思う。
まあ、大したことではないだろう。じゃないと、こんなに明るくは話せない。そこまでの秘密ではないはず。
「よかったら、家に遊びにきてよ」
由香は言った。
「え、家? 誰の?」
「もちろん。私の家だよ」
「ど、どうして、家に遊びに行くの? どういう意味?」
昆布はテンパってしまう。女性に家に誘われたことがないからだ。
「別に変な意味じゃないよ。ただ、遊ぼうって思っただけだよ」
「遊ぶって、何をして……?」
どうしても、変な意味に聞こえてしまう。これは、童貞特有の妄想かもしれない。
「遊ぶというより、ちょっと、見せたいものがあるんだ」
「何を?」
「それは、今は言えない。直接見てよ。きっと、驚くから」
由香は目をキラキラさせている。
なんだか、楽しそうだ。
「驚くものなんだ。見てみたい、気もするかな」
昆布は言った。
一体、何を見せたいのだろう?
■
「ただいまー」
由香は言った。
「お、お邪魔します」
昆布は言った。そして、由香の家に入った。
本当に来てよかったのだろうか? と、昆布は思っている。由香とは幼馴染だ。だけど、仲が良かったのは小学生のときくらいだ。中学生になってからは、昆布は由香を避けるようになった。
思春期はそんなもんだ。女性を意識していない小学生の頃は、仲良くできた。男性も女性も一緒だと思っていた。だけど、思春期になってからは違う。どうしても、女性を意識してしまう。




