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生徒会長は下着泥棒でした。  作者: 熊谷葡萄
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3

 

 由香が目立つ理由はもう一つある。


 それは、由香が生徒会長だからだ。高校二年生なのに、生徒会長になっている。意味がわからない。どうやら、信頼されているみたいだ。生徒会での仕事をしっかりこなしているのかもしれない。


 生徒会長が目立たない人と話していたら、目立ってしまう。ましては、空気のような存在の昆布だ。より目立ってしまう。


 昆布は目立たない人間のままでいたいと思っていた。


「周りの視線がどうしたの?」由香は言った。「気に入らないの?」

「気に入らないっていうか……」昆布は小声で言う。「苦手なんだ。注目されるのが。由香と話していると、僕は注目されてしまう」

「気のせいじゃない?」

「気のせいでもないし、木の精でもないよ。いつもより注目されているのは事実だよ」

「そっか」由香は肩を落とした。


 由香を落ち込ませたいわけではない。傷つけたいわけではない。だけど、注目されるのは嫌なんだ。下手したら、過呼吸を起こしてしまうかもしれない。


 苦手なことから逃げる。それは、いいことじゃないかもしれない。でも、克服できそうにない。辛いことから逃げることしか考えていない。今が幸せじゃないからこそ、不幸せになりたくない。幸せでも不幸でもない人生を大事にしたいんだ。


 この気持ちを、由香はわかってくれるだろうか? 

 多分、わかってくれない。


「じゃあさ……」由香は言った。「中庭に行こう!」

「どうして?」

「中庭はあまり人がいない。それだったら、話に集中できるでしょ?」

「いや、僕は……」

「私の会話したくないの?」

「そういうわけではない……けど」

「じゃあ、中庭に行こうよ」

「でも、あんまり動きたくもないっていうか……」

「歩いて三分だよ? 動くってほどでもないでしょ?」


 十分、動くってことになると思う。昆布はスマホの画面を指でスクロールしただけで、疲れてしまうことがある。それくらい運動不足だ。ついでに言うと、呼吸をするのも疲れる。


「いや、中庭まで歩くのは大変だよ」

「大変じゃないよ」

「由香はそう思うかもしれないけど……」

「じゃあ、どこがいい? どこで話したい?」

「ここがいい。正直、話さなくてもいい。由香が離れてくれれば、それでいいよ」


 はやくどこかへ行ってくれ。

 由香が嫌いなわけじゃない。だけど、周りの視線が気になってしまう。

 だから今、昆布は床しか見てない。


「私は昆布と離れたくないよ」

 告白みたいなことを言う由香。

「どうして?」

「だって、会話したいもん」

「他の人としたらいいんじゃない?」


 由香と会話してくれる人はいっぱいいるはずだ。由香なら初対面の人でも五分くらいで仲良くできる。会話能力が高いんだ。


 他の人と会話してくれ。そのことを、切実に願う。


「昆布と話したい」

「わかったよ。ちょっと待ってて」


 昆布はそう言って、教室から出て行った。つまり、廊下にいる。


「どこに行くの?」


 由香は教室の中から言う。大きい声だった。廊下まで聞こえた。


 昆布は答えなかった。


 昆布は食堂に行くと、あるものを買った。


「ほら。これで、昆布と話せるよ」


 そう言って昆布は、昆布(食べ物)を由香に渡した。


「……そのネタをやるために、わざわざ昆布を買ったの?」

「うん」

「あはははは。昆布って面白いね」

「どっちの昆布が」

「こっちの昆布が」

「どっち?」

「こっち」

「いや、それじゃあわからないよ。まあ、どっちでもいいけど」

「どっちでもいいのかい。じゃあ、こう言えば伝わるかな? ……喋る方の昆布が面白いと思うよ」

「なるほど。買ってきた昆布の方か」

「何を言っているの? そっちの昆布は喋らないでしょ」

「とりあえず、僕から離れてくれると助かる……」


 由香が大笑いしたおかげで、昆布はとても注目されている。昆布(食べ物)の方も注目されている。


「面白かったから、満足した。もう離れるよ」


 そう言って、由香は昆布から離れようとする。昆布はホッとした。

 昆布(食べ物)はどうだろうか? ホッとしただろうか?


「じゃあ、今日は一緒に帰ろうね。昔みたいにさ」


 由香は言った。それから、昆布から離れた。


「え、ちょ……」

 いつも一人で帰っていた昆布。 


 昔みたいに一緒に帰ろうだと? 


 確かに、小学生の頃は一緒に帰っていた気がする。だけど、本当に昔のことじゃないか、そんなの。今は高校生だ。高校生にもなって、男女で一緒に帰るのは、ウェイ系とカップルくらいだ。


 勘弁してくれよ。誰か助けてくれ。悲鳴をあげたくなる。注目を浴びたくないので、声は出さないけど。でも、心は悲鳴をあげている。


 助けてくれ助けてくれ助けてくれーーーー。


 そんな言葉が頭の中でリピートされていた。心臓がバクバクしていた。


 ◆


 下校の時間だ。


 いつもなら一人の昆布。だけど、今日は隣に由香がいた。


 生徒会長の由香。明るい由香。


 どう考えても、一緒に帰るのはおかしい。恥ずかしい。


 どうにかして、一人で帰りたい。由香に離れてほしい。昆布はそんな風に思っていた。だけど、由香は離れてくれそうにない。


 昔から、由香はそんな感じだった気がする。

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