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だから、面白いことを体験しない方がいい。その方が心にいい。刺激(面白いこと)を求めてしまうと、刺激中毒になってしまう。
冗談を言っているわけではない。刺激は追い求めない方がいい。本気でそう思っている。
心が動くようなことがなければ、生きていける。何も期待しなければ、何も生まれない。何も生まれないからこそ、安定が手に入る。動かない心が作れる。
刺激は終わりがない。一度刺激を味わったら、また刺激がほしくなる。
これは、どんな人間でも同じだ。
終わりがないとどうなるか。
大きな刺激を求めるために、犯罪に手を染めるかもしれない。もちろん、可能性の話だ。それに、刺激は必ず生まれるものだ。
昆布だって、刺激が全くない人生というわけではない。だけど、極端に少ない。だけど、不幸せではない。刺激がないイコール不幸せではないんだ。
不幸せではないけど、幸せでもない。
◆
昆布は教室にいた。
誰かがマックのハンバーガーを教室で食べたみたいだ。教室にファーストフード店のにおいが充満している。昆布にとっては、においというより臭いだった。つまり、あまり好きなにおいではない。
でも、ハンバーガーは好きだ。
ずっと前から思っていることがある。それは、教室でご飯を食べると、においが残るのでやめてほしい……ということだった。
しょうがないことだとは思う。だが、教室でご飯を食べないでほしい。これは願望だ。そして、本音だ。
この学校には食堂がある。そこでご飯を食べてほしい。昆布もご飯は食べる。昆布という名前だから、昆布は食べないようにしているが(共食いになってしまう)、それでもご飯は食べる。だけど、教室では食べない。
お腹がいっぱいになったときに、教室に戻る。ご飯のにおいが充満している。お腹が空いているときはいいにおいだと思う。だけど、お腹がいっぱいのときは臭いと思う。
些細なことだ。だけど、イライラしてしまう。なるべくなら食堂でご飯を食べてほしい。
昆布がそんな風を思っていたときのことだった。
「元気?」
幼馴染が声をかけてきた。
由香だった。ツインテールの髪型だ。ツインテールは漫画やアニメでよく見る髪型だ。現実でしている人はあまりいない。少なくとも学校ではいない。
だけど、由香はツインテールだった。
ずっと下を向いて机を見ている昆布。そんな昆布のことを、由香は元気に思えるのだろうか?
「元気だよ」
まあ、こんなものは社交辞令のようなものだ。元気じゃないと答えたら面倒なことになる。だから、元気と答えた。
「そんなに顔色が悪いのに?」
由香は首を傾げる。
「顔色だけで、人は判断できないよ」
「私はできるよ」
「あ、そうなんだ……」
「うん。昆布の考えていることを当てようか? 顔色で判断するよ」
「いや、いいよ……」
由香はとても元気だ。薬物でもやっているんじゃないのか?
アッパー系か。ということは、覚醒剤か、MDMA。もしくはコカイン。
「いいの?」
由香は目をキラキラさせている。
「いや、そっちのいいよじゃない」
「ああ。だめってことか」
由香は肩を落とす。落ち込んでしまってるようだ。
幼馴染は情緒が安定しないな。もしかしたら、スピードボールを体験しているのか。アッパー系もダウナー系も、両方体験しているかもしれない。だとしたら、悪質だ。
「だめと言われても、当てるよ。今、薬物のことを考えているでしょ?」
由香は言った。昆布はびっくりする。
「当たり。なんでわかったの?」
なかなか鋭い。と、昆布は思った。
「昨日、図書室でドラック大辞典を読んでいたところを見たからね。当てずっぽうで言ってみた」
「ああ、確かに読んでいたような気がする」
さっきから、ドラックの内容ばかり頭に浮かぶのは本の影響か。
「考えるのはいいけどさ」由香が心配そうに言った。「実際に試してはいないよね?」
「うん。大麻しか試したことがない」
「え! だめだよ!」
「冗談。合法ドラックしか試したことがないよ」
「それもだめだよ!」
「さっきのは冗談。お酒しか飲んだことがない」
「それなら安心か」由香はほっと息をつく。「いや、高校生でお酒はダメだから!」
「ごめん。今さっきのも冗談。法律を違反するようなことも、道徳的にダメなことも、したことがないよ」
「そっか。安心したよ」
「それなら、よかった……」
道徳的に反する行為はしたことがなかった。だけど今、道徳的にいけない会話はした気がする。下ネタとかよりもひどい内容の話だ。ドラックの話なんて、高校生でしてはいけないと思う。もちろん、大人でもダメ。
「うん。よかった! よかった!」
「じゃあ、もう離れてくれるかな?」
昆布は由香に言った。
「どうして?」
「いや、由香が嫌いってわけじゃないんだけど……」僕は辺りを見渡す。「周りの視線が、ちょっと……」
昆布に視線が集まっていた。由香と話していたからだろう。
高校というのは、男性と女性が喋っていただけで注目される。なぜなら、思春期だからだ。変に敏感になっている時期だ。
だからこそ、昆布と由香が話していたら、余計に注目を浴びる。
昆布が闇ならば、由香は光だ。
闇というとかっこよく聞こえるかもしれない。だけど、かっこよくはない。ただ、隠キャなだけだ。
注目されるのは苦手だ。しかも、いい注目のされ方をしていない。どちらかというと冷めた視線だった。
一人でいるときは、あまり見られることがない。なぜなら、空気のような存在だからだ。空気を注目するような人はいない。
だけど、明るい性格の由香と話していると、昆布は空気ではなくなる。目立ってしまう。
由香のことが嫌いではない。だけど、こんな空気になってしまうのであれば、由香は避けなければいけなくなる。




