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13話

 

 

「陛下、姫様からお便りです。」

 

 

「…そうか。」

 

 

 ファール国国王はスチュワードのミネルから手紙を受け取った。

 

 

「アルフレート様にも届いております。」

 

 

 同じ場所にいたアルフレートは大して驚くことはなかった。シエラとの婚約破棄が決まって以降、彼女とカルの生活に水を差さないよう連絡を絶っていた。不義理と思われるだろうがシエラの決断の足を引っ張りたくなかった。

 

 

「清々しい顔をしてるなアルフレート。」

 

 

「…もちろん、私はシエラ様を心より愛しておりましたよ。だからこそです。あの時から沈黙していた私にシエラ様のほうから手紙を送られた。つまり、そういうことでしょう。」

 

 

 やれやれ、とシエラの父はため息をつく。

 

 

「ベスティア国第三皇子、あいつをここに誘拐したのが私の過ちの始まりか。」

 

 

「元々緊張状態でしたから、カル君にシエラ様を守らせることができたと考えれば全てが失敗とは言えないのでは?カル君がいなければ無血開城も出来なかったでしょう。」

 

 

「なんだ、あいつを英雄にでもする気か?」

 

 

「さてどうでしょうね。カル君は王族の紋様を身につけることを許されていますからそれも良いかもしれませんね。属国になった以上、魔族…いえ、ヒト種以外に対する我が国の意識を変えねばなりませんし、カル君が誠実さを見せてくれたおかげでそれが思ったより上手くいきそうなのも事実ですから。」

 

 

「まぁ…もはや私には口出しできまい…。ところでミネル、その手紙は?」

 

 

「はい、これはカルが、彼に人形を与えた者へ宛てた手紙で、もう一つは…私宛のようです。」

 

 

「相変わらずまめですね。」

 

 

 ミネルは下がり、国王とその養子になったアルフレートは各々の手紙を開けたのだった。

 

 

 

 ベスティア国王宮、カルとシエラの部屋で、シエラは独りカルの人形の手入れをしていた。きめ細かい布で丁寧に埃を拭き取って、少し撫でてから籠の中のベンチブランコに座らせる。

 

 

「お待たせー!」

 

 

 武術訓練を再開させたカルは、今日は弟達と稽古をして身体を洗ってから戻ってきた。

 

 

「行こうか。」

 

 

 シエラは差し出された手を取り、毛と肉球に細い手が包まれる。2人はカルの稽古が終わったら街へ出る約束をしていた。

 

 

 カルが贈ったブレスレットが付いている彼女の手を引いて、二人は目的の衣装屋に向かう。ファール国から着てきたカルのローブのサイズが合わなくなってきたので新しいものを、そしてシエラの新しい服を買いに行くのだ。

 

 宮殿にも仕立て屋はいるものの国民として振る舞いたいから、とカルは街に出ることを選んだ。


 

「ふぁ……うにゅ……」

 

 

「大丈夫?休んでからでも良かったのに。」

 

 

「うん…護衛を待たせるのは悪いと思ったんだ。」

 

 

 護衛の4人が2人のすぐ近くを囲んでいて、さらに6人が民衆に紛れて囲んでいる。外出する際はこの2重の円を作るための兵を集めなければならないので、急に予定を変更するのは気がひける。

 

 元皇族らしからぬ気遣いは上級使用人の名残だろうか。

 

 

「それにほら、あそこのお店の焼き鳥!売れ切れになっちゃうから。」

 

 

 カルの言う焼き鳥とは、羽や嘴などを取り除いた小鳥の丸焼きである。ネコ系獣人に人気だ。

 

 

「シエラも食べる?鶏肉もまだ残ってるみたい。」

 

 

「そうね。もらうわ。」

 

 

 ヒト種向けのものも売っているので、カルはタレと肉が焼ける良い匂いに鼻を膨らませながら3本の串を持って戻ってきた。小鳥の丸焼きが3つ刺してあるものと、一口サイズにカットされた焼き鶏肉が連なるものと、茶褐色の肉が連なるもの。

 

 

「レバーを一本おまけしてくれた。栄養つけろって。」

 

 

 カルは獣人らしく小気味良い音を立てながら骨ごと食べる。シエラもこういった屋台の食べ物への抵抗もすっかりなくなって、二人で食べ歩きする姿は庶民のそれだ。

 

 護衛の囲みにも慣れて、カルは頻繁にシエラと街に連れ出しては彼女との逢引きを満喫できるようになっていた。

 

 

「あそこの角を曲がって…」

 

 

「…カル?」

 

 

 地図と道を交互に見ていた時、カルの視界に一人の獣人が、彼がつけている大きめのチェーンネックレスが目に入る。

 

 

「カル、」

 

 

「…大丈夫…です…。」

 

 

 動悸がして、視界が少し狭くなる。でもこうなることも覚悟の上で街に出ている。

 

 

「ちょっと…ごめん。」 

 

 

 そう言って立ち止まると、頭の中で鎖が地面に叩きつけられる音が鳴り響く前にシエラを抱き寄せた。

 

 今に始まったことではない。ペットだった時から、鎖や鉄印などを見ると気が動転してしまうことが多々あった。

 

 シエラはそんなカルをいつも通り黙って撫でて落ち着くのを待つ。何が原因で、何が引き金でこうなるかはもうカルの口から聞いている。

 

 ファールからベスティアに戻ってカルが一番変わったことは、シエラに弱みをさらけ出せるようになったこと。

 

 

「…もう大丈夫。ありがとう。」

 

 

 ふぅ、と深呼吸をして再び歩き出した。仕立て屋に着くとカルは既製品のローブを3着買って、それにシエラのワンピースを加えた荷物を自ら持って宮殿に戻った。

 

 その日の夕食のとき、カルは躊躇いながら切り出した。

 

「そうだ、明日、母上と2人で隣町まで出掛けようと思ってるんだけど…」

 

 

「良いじゃない。行ってらっしゃい。」

 

 

 午前中に出て夕方帰ってくることになるのだが、シエラが嫌な顔をしなかったのでカルは胸を撫で下ろす。

 

 最近では数人の友や弟と食事に出向くこともしばしば。会話の中で明るく笑うことも増えて、カルは確実に元の性格を取り戻しつつあった。

 

 時折発作のようにトラウマが蘇っても、シエラだけが頼りというわけではない。カルはもう1人じゃない。

 

 ベスティア国に戻って半年が過ぎ、16歳になってこの国での成人となったカル。縛られた6年余りの影響か周りから見ると彼はまだ幼く感じられたが、帰ってきたばかりの頃と比べると別人のようになっていた。

 

 

「ありがとう。ご苦労様です。」

 

 

 護衛に気を遣えるくらいの余裕が生まれたカル。廊下ですれ違う相手にも愛想よく挨拶する。不安定で近寄りづらかった時の面影はない。

 

 今日も土産の菓子を手に部屋へ戻ろうとすると父親に呼び止められた。

 

 

「ちょっと良いか。」

 

 

 呼ばれた先は宮殿の休養室。簡単に言うと豪華な病室だ。そのベッドの上にシエラが腰掛けていた。促されるままカルも隣に座る。

 

 

「ご懐妊です。」

 

 

 蜥蜴人の医者がそう告げて、カルは変な声を出してシエラを見る。

 

 

「ほ、本当に…?」

 

 

「はい。確かかと。」

 

 

 どうやらカルが街へ出ている間にシエラは体調を崩したらしく、診察したところわかったという。

 

 

「やっ………」

 

 

 やった、と言いかけて呑み込んだ。

 

 

「…身体は大丈夫?」

 

 

「えぇ。」

 

 

 微笑んだシエラに対して他にどう言葉をかけて良いかわからず、静かに彼女の肩を抱く。父や周囲が自分とシエラとの結婚に懸念を抱いていたその真意がようやくわかった気がした。

 

 シエラは本当に自分との子供を望んでくれているのだろうか。

 

 そして、シエラも全く同じことを思っていた。

 

 

 大事をとって診療室に残ったシエラを置いて、カルは父に送られながら自室へ向かう。

 

 

「相談役にはコロニラが適任だろう。」

 

 

「えっ?」

 

 

 黙ったまま歩いていたカルは唐突な一言に父の顔を見上げる。

 

 

「アンバルでも良いかもしれないが、シエラの気持ちを考えたいならコロニラに相談するのが良いと思うぞ。私やアガタよりも、な。やはり多妻と一妻では違うだろう。」

 

 

「お見通し、ですか。」

 

 

「お見通しというほど大したものじゃないさ。ただ、お前はすぐ独りで思い詰めるみたいだから、先に言っておこうと思った。」

 

 

 カルの頭を片手で雑に撫でると父は去っていった。独り部屋で考え込もうとしていたカルは、父の一言で答えが出ないような余計なことを考えるのをやめた。

 

 

「シエラの人形、作ってもらおうかな…」

 

 

 いつのまにか草を模したらしい黄緑色の毛糸が籠の底に敷き詰められていて、それだけで少し明るくなったような感じがする。いつもひとりで座っている白地に黒斑のネコ獣人をかたどった人形、その隣にヒト種の女の子の人形が座っていたら…と想像してカルは独り微笑んだ。

 

 

 シエラが身籠ったとわかってからもカルの生活が特に大きく変わることはない。武術の稽古に励み、多少の勉学にも手を出し、空いた時間には街へ出向く。

 

 最近、ようやく故郷に帰ってこれたような気がして、静かに本を読むことがなんだか勿体無く感じてくるのだ。


 それに、特別気を遣いすぎればむしろ気苦労させてしまうのではと思ったからだった。

 

 もちろんシエラをないがしろにするわけではない。

 

 

「シエラ大丈夫?僕も疲れたから昼寝する…」

 

 

 シエラがベッドで休んでいるとここぞとばかりにカルも隣に寝っ転がった。

 

 

「…もう、甘えにきただけでしょ。」

 

 

 これでは飼い猫に逆戻りだと内心でため息をつきながら、シエラはカルの方を向いて彼の頬擦りを受け止める。

 

 

「…また背が伸びたわね。」

 

 

「背だけじゃないんだ。靴もキツくなってきたから買いに行かないと。」

 

 

 さすが成長期というべきだろうか。1ヶ月単位で身長が伸び、ヒト種の女性の中では背が高い方だったシエラの背丈も追い越してしまった。

 

 心の安定と共に雰囲気も落ち着いたものとなり、もとの容姿も相まって放っておかないであろう好青年に変わりつつある。それでもカルは変わらない。

 

 

「今日の夜、母上が牛肉のスープを作ってくれるって。シチューも好きだけどこれも美味しいよ。」

 

 

「そう…楽しみにしてるわ。」

 

 

 その後しばらくカルを撫でていると、気がついたら彼は寝息を立てていた。どうやら疲れていたというのは本当だったらしい。

 

 

「…随分可愛いお父さんね。」

 

 

 少し前までは夜な夜な起き出して部屋の隅で声を押し殺して泣くこともあったカル。気づいても声をかけられなかったことを気に病んでいたのだが、彼はもう自分だけに頼らずとも立ち直れる。

 

 両親兄弟とも仲良く過ごす彼が少し羨ましく思えた。

 

 

 カルが人質で、ペットで、召使いで、上級使用人だった日々が遠くなったとは言えない。しかしカルが周囲にも心を開いてからの時間は流れるように進んでいく。

 

 カルは2人の時間を大切にはするものの、日中の半分くらいはシエラをひとり残して外出することがほとんど。

 

 シエラにとってもコロニラやアガタなどと交流したりひとりで休める時間を取れるので気にはならない。

 

 戦争が夢だったかのように、日々は平凡に過ぎていった。

 

 

「本当にカルの子ができたのね…」

 

 

 今日は体調が余りすぐれないのでひとりでソファに座って休むシエラ。目に見えて大きくなったお腹がもぞぞと動いて、シエラは応えるようにさする。

 

 初めのうちは全く実感が湧かなかったが、今は嫌でもその存在を感じられる。

 

 

 あんなに小さくて、首輪にリードをつけて散歩したこともあるカルとの子供。そう考えるとなんだか感慨深い。

 

 カルの家系にヒト種はいないので、この子もきっとカルと似たような姿の獣人の子になるだろう。少なくともヒト種が生まれることはない。

 

 妊娠したことはファール側にも伝わっており、おそらく民衆にも知らされている。王女が魔族との子を身籠ったと知ったらどんな反応をするのだろうか。

 

 

「…やっとあなたの気持ちがわかったわ。」

 

 

 カルはシエラに全てを握られていた。シエラに気に入られ続けなければ先は真っ暗だった。異国の地でたった独り、カルは必死ですがり続けた。

 

 そして今、立場は綺麗に逆転した。

 

 今はシエラの全てをカルが握っている。周囲の人たちは思ったよりも友好的だが、それはカルが人前でシエラに甘えることでシエラは悪人ではないと印象付けたから。本来シエラはベスティアの者たちから罵倒されてもおかしくない立場なのに。

 

 

 お腹をポンポンとたたくと元気な蹴りが返ってきて、シエラは微笑んだ。本当に、獣の子を我が子として愛せるのだろうか。

 

 カルの心配をすることが少なくなったからこそ、自分の不安が露出してしまったのだ。

 

 その不安を拭える唯一の人物がようやく部屋に戻ってきた。

 

 

「ただいまシエラ。」

 

 

「お帰りなさい。」

 

 

「アルフレート様から手紙が届いてたよ。」

 

 

「…後で読むわ。」

 

 

 カルは頷いて手紙をテーブルの上に置く。

 

 

「ごめんね、夕飯に間に合わなくて。」

 

 

 もうじき民衆に向けた第三皇子の退冠式が開かれるため、カルはその打ち合わせをしていたのだった。

 

 

「あなたはもう食べたの?」

 

 

「うん。みんなで食べた。」

 

 

 カルはいつものようにシエラの隣に座って、彼女の頬に額を擦り付けながらシエラのお腹を優しく撫でる。

 

 以前よりカルと過ごす時間は減った。その代わりカルの愛情表現が激増した。シエラに対しても、お腹の子に対しても。

 

 

「…元気ないね。体調は大丈夫?夜は食べれた?」

 

 

「うん…」

 

 

 カルはシエラのお腹を撫でるのをやめて彼女を抱きしめた。彼のふわふわな毛はいつだって心地良い。

 

 早くいつものように生まれるのが楽しみだとか言ってこの沈んだ気持ちをどうにかして欲しかった。今日も彼の気持ちは変わっていないと確かめたかった。

 

 

「シエラ様、」

 

 

 突然どうしたのかとシエラは彼を見上げる。カルは穏やかな瞳で視線を返した。

 

 

「私は忘れません。きっと忘れられない。沢山の辛い出来事を、昨日のことのように思い出せます。」

 

 

 両手を後ろに縛られ猿轡をはめれて馬車に押し込められていた時のことを。暗い檻に閉じ込められて、殴られたことも、蹴られたことも、鎖で打たれたことも。毛皮にされると言われた時のことを、背中で肉が焼ける音がした時を。

 

 恐ろしい記憶だが、それはもう過ぎ去ったものだ。それに、一切の希望がなかったと言えば間違いになる。

 

 

「あの時シエラ様が下さった優しさも、ずっと覚えていることでしょう。今もシエラ様が側にいて支えてくださったからこの暮らしを謳歌できる。ありがとう。私はあなたのような人と巡り逢えて幸せです。」

 

 

 この人だけは自分に優しくしてくれる。ならこの人に好かれ続けなければならない。いつのまにかそれが彼女への好意へと変わった。

 

 そしてここに来てから沢山の同胞と交流を重ねて、普通の感覚を取り戻しつつある。それでもやはり、彼女は特別だった。身分という壁が消えて心の枷が緩み始めた今、その気持ちがより強くなっても不思議ではない。

 

 

「…使用人はこれで最後って言いたいの?」

 

 

 カルは少し照れたような顔をした。

 

 

「…というより、あなたに拾われた者としての礼をまだちゃんとお伝えできてなかったと思いまして。前は、御宅を並べただけでしたから。」

 

 

 離れたくないから恩返しという口実を作ろうとした。今は違う。

 

 カルは顔ほどの大きさがある平たい四角の箱を鞄から取り出して、シエラの方に身体を向けてまた座る。

 

 

「獣人は指輪を好まない。肉球が引っかかるからね。だから、この国では代わりに首飾りを贈るんだけど、」

 

 

 箱に収められていたのは、正面に長短様々にカットされた細長い長方形の紫水晶が連なる首飾り。中心に位置する紫水晶は深い色でその周囲は淡めの色、間には装飾が施された銀が挟まれていて、それらが丈夫そうな黒い革紐に通されていた。

 

 

「綺麗…」

 

 

 カルは嬉しそうに笑った。この首飾りは職人に材料を揃えてもらってカルが作ったものだ。

 

 

「父上が、僕と君の結婚の披露式をやってくれるって。その時、これを君の首にかけたい。雄が自分と同じ首飾りを相手にかける。…そうやって愛を誓うんだ。」

 

 

 そう言ってシエラを見つめるカルに不安は感じられなかった。自分がこうするのは当然のことであると、そう思わせるようなしっかりとした視線だった。

 

 今贈るわけではないものをわざわざ見せたのは、シエラの不安に勘づいたからなのかもしれない。

 

 

「いつの間に、頼もしくなっちゃって。」

 

 

 シエラは彼の頬に指を伸ばすとカルは首飾りの箱をテーブルに置いて、引き寄せられるように彼女に顔を近づけて額を合わせた。

 

 

「恩人でも主人でもなく、ただのシエラとして愛してる。今ならそう言えるよ。」

 

 

 恐れることも緊張することもなく、さらりと言えるようになった。

 

 

「僕もシエラを支えたい。できることがあったら言って。」

 

 

「…ありがとう。」

 

 

 少し前、自分が彼にしたことをそのまま返されていることにシエラは気づく。いくら周りが良くしてくれても拭えきれない疎外感。カルはその気持ちを痛いほどわかっているから、あの時して欲しかったことを、してくれて嬉しかったことを逆の立場になったシエラに返している。

 

 ただシエラがカルにした時と違って、彼はただ自分の内の感情を表に出しているだけ。不安や迷いを押し殺しているわけではなく、自分の気持ちを素直に伝えているだけ。

 

 

「…私にはもったいないくらい。」

 

 

「それは残念、シエラしかいないのに。」

 

 

 そう言いながらカルはシエラの顔を自分の胸に抱きよせて、彼女の頭に顎を乗せると目をつむった。この二人の時間が、カルにとっての至福だということは今も以前も変わらない。

 

 そしてシエラにとっても、いつのまにか、カルといる時が最も心安らぐようになった。大分存在を主張し始めたお腹の子も、このときはたまらなく愛おしく思えるようになる。

 

 当然だ。彼が最も自分を愛してくれる人で、お腹の子はそんな彼との、彼も心待ちにしている子なのだから。

 

 シエラはそっと彼の身体から離れて、カルをまっすぐ見た。

 

 

「…愛してるわ、カル。」

 

 

 カルは少し驚いたような顔をした。

 

 

「ちょっ…もう……」

 

 

 そして満面の笑みを浮かべるといつも以上に激しく甘えたのだった。

 


 

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