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世界と特異

白く弾けた世界が色を取り戻していく。

色が戻れば戻るほど、その世界が私の知らない世界であることが鮮明に脳内に刻まれる。

ここはどこなのだろう。

少なくとも、私の部屋ではない。何しろほとんど廃墟のようなたたずまいで、まるで古くなった神殿だ。

私は周りを見渡した。


見慣れているようなものは一つだって存在しておらず、埃のついた水晶のようなものが、大事そうに金色の古い台座のようなものの上に置かれていた。

それがどうしても気になって、私は水晶に触れようとした。


すると、ガサゴソ、と物音が響いた。私はほとんど反射的に手を引っ込め、神殿の柱の後ろに隠れて耳を澄ませた。

「……いいのか?忍び込んで。天罰が下るんじゃ……」

「天罰なんててめぇ、いい加減神がいないことくらい分かれよ」

「水晶盗むってのはちょっと罰当たりそうだけどな」


どうやら気配と声色を読む限り、男三人のようだ。水晶を盗みに来たらしい。


そんなに高価なものなのか、私には見当もつかなかった。見た限りただの胡散臭い物ににしか見えなかったのだ。

本来ならば飛び出して止めるべきなのかもしれないが、何年も目立たないようにしてきた体は、隠れているほうがいいと判断したようだった。


その時、私の足元で何かが動いた。下を見ると、そこにはあの、人類最大の敵ともいえる生命体がいた。

思わず叫びそうになった体を無理やり抑えてそれを凝視した。


カサカサ動いている。もう気持ち悪い。


そしてそいつは何だか止まって何か準備をしているようにも見える動きをした。


やめて。飛ばないで。飛んだら絶対叫んじゃう。そこにいるだけもう十分不快なのに!


が、私の必死の願いは届かず、その黒い生命体は飛翔した。


「きゃあああああ!!!」


やってしまった。瞬時にそう悟ったが、本当に無理だったのだ。


「誰だ⁉」


泥棒グループのリーダーらしき男は叫んで、私の方へときた。


私は瞬時に魔法を出そうと体を動かした。そうだ、このためにわざわざ世界を創ったのだ。


行け!男を吹っ飛ばせ!


だが、魔力が体を通っていく感覚もなければ、魔法の効果も表れない。


―――まさかこんな場面で失敗した?


そう思ったが、原因について考える余裕はなかった。男が刃物で襲ってきたのだ。


待って、怖い、無理だって!


格闘技であったら絶対に発してはいけないであろう三大ワードを一気に頭の中で放ったが、防御魔法が使えなければ、刃物を躱すのが精いっぱいだ。

他の男二人も刃物をもって切り込んで来ようとした。

もう無理だ。そう覚悟した瞬間、ずっと暗かった神殿内に光が差し込んできた。

そこで初めて、男の髪色を把握することができた。てっきり黒髪かと思ったら、チャラチャラしている赤髪だった。


似合わないな……


死が迫っているというのに私は、そんなのんきなことを考えた。

男が振りかぶって、私が覚悟して目をつむった瞬間、罰が当たるのではといっていた男が言った。


「…おい、こいつ、黒髪だぞ!」


「はぁ?」


私は思わず言葉を漏らした。

黒髪なんて、ザ・普通の代表格ではないか。何をそんなに驚いているんだ?

だがほかの男二人も私の髪色を見るなり、顔がどんどん青ざめていき、やがて叫んだ。


「創造神の化身だ!」


叫ぶなり、慌てた様子で逃げていった。


「……なんだったんだ?一体」


切り込んで来ようとしたり、慌てて逃げたり忙しい奴らだったと思いながら私は呟いた。

そんなに驚くほどのものなのか、黒髪とは。

行ったことがないからわからないが、外国なんかではあれくらい驚かれるものなんだろうか。


「あんた、髪黒いんだ」


私は急に響いた声の方向を探そうと、首をぐるりと回したがどこにも声の主はいなかった。


「上だよ、上」


そう言われて、私は穴が開いている天井から足が出ていることに気づいた。足は細く真っ白で、まさに美脚というのにふさわしい足だった。


「いつからいたの?」


私は言った。


「あんたが水晶を触ろうとしたところから」


最初の最初ではないか。ということは、私が刃物で刺されそうなのを、黙ってみていたのか。

私の恨む視線に気づいたのだろうか、女性というよりは女の子という方が正しい表現になるであろうその声で弁明した。


「別にあんたを見殺しにしたわけじゃないよ。ほんとに危なかったら、助けるつもりだったから」


「いや、ほんとに危なかったんだけど」


私はなんで助けてくれなかったのかという身勝手な怒りをぶつけるような口調で言った。

するとタン、という音を鳴らして、声の主は地面におりてきて着地した。

顔を見て、思わず私はアッと声を漏らした。相手も同じことを思ったのだろう。見覚えのある顔を精一杯驚かせた。


綺麗な足にスタイル抜群の体の上に乗っかっていたのは、私の顔だったのだ。


私の顔、というと少し怖く感じるが、本当にそうとしか思えないほどそっくりなのだ。違うのはスタイルに髪の色くらいだ。私は黒髪だが、目の前の彼女は綺麗な銀髪をしている。

顔はそっくりだというのに、スタイルと髪色だけでこんなにも印象が違うのか。

私は自らのポテンシャルに喜ぶとともに、彼女との違いに悲しくなった。


「……ハハ、嘘みたいにそっくり」


最初に声をあげたのは彼女の方だった。

彼女は私をじーっと見てきた。こんなにしっかり見られたことなんて記憶上ないから、何だか気恥ずかしかった。


「ほんとに真っ黒なんだね。創造神にしか見えないや」


「創造神って?」


さっきの男からも発せられた言葉が気になって私は聞いた。

少女は驚いた時の私に瓜二つな顔をした。


「知らないの?創造神エリナだよ。七千年前にこの世界を創った神様。最高神で、真っ黒な髪が特徴なの。この世界には滅多に黒髪が生まれなくて、生まれたらそれはそれは大ニュースになる。「創造神様の化身だ」って言ってね。最後に生まれた黒髪が四百年前だから、あんたは四百年ぶりの黒髪になるわけだ。黒髪の人は出世するのがジンクスらしい。四百年前の黒髪の人も、「現代世界魔術の父」なんて呼ばれてるらしいからね」


思わず、私はアッ、と声を漏らしそうになった。


エリナというのは、私の名前だ。漢字で絵里奈。そこでようやく、創造神なるものの正体に気づいた。創造神は私だ。この世界を創ったのは私だから、この世界にとって私は創造神になるんだ。そして黒髪は珍しいから、奴らは怯えて逃げたのだ。


だけどどうして、七千年前なんてそんな昔の話になるんだろう?

しかしそれより、創造神だなんて大層な個性を持ってしまった。

これがばれたらまた―――

私は八年前の恐怖を思い出した。

絶対に、ばらすもんか。


「あんた、名前は?」


まるで私の決意を邪魔するかのようなタイミングで少女は言った。

エリナ、と答えようとして、寸前で思いとどまった。

ここで創造神と名前が同じだなんて言ったら、怪しまれてしまう。私は何か特別なのでは、と。


「ア…アリレア」


わたしはとっさに出た名前を口にした。

すると少女は先ほどよりも驚いた表情をした。


「ウソ、名前おんなじ⁉」


それは私が言いたいセリフだ。なんでとっさに出た名前と、偶然会ったそっくりな少女の名前がかぶるんだ。ありえない確率じゃないか、これ。


「じゃああんたは髪が黒いから、ブラックね」


特に迷うわけでもなく、まるでそれが当たり前だとでも言うようにアリレアは言った。

別に適当につけた名前だったから愛着があるわけでもなかったから、私は黙ってうなずいた。


「ブラックあんた、荷物も持たずにこんなとこいるなんて、どうせ家もないんでしょ。いいよ、ウチに泊めたげるから」


決めつけるような言い方に思わず反論したくなったが、事実のため何も言えず、ありがと、アリリアとだけ言った。

するとアリリアは不思議そうな表情をした。


「自分の名前呼ぶなんて、気持ち悪くないのか?てっきりシルバーかと思った」


私はあいまいな笑みを浮かべた。そもそも、私の名前ではないのだ。

私のはっきりしない態度を気にする風でもなく、別に気になることができたようでアリリアは言った。


「ブラック見てると不思議だな。魔力がかけらも感じられない」


私はまた曖昧な笑みを浮かべようとしたが、真顔になってしまった。


何だって?魔力がない?


だからさっき魔法が使えなかったか?


まさか世界を創るときにあたしの体に何か異変が起こったのか?


「…魔力がないって、普通じゃないよね?」


私は恐る恐る聞いた。

アリリアはもちろん、といった表情でうなずいた。


「みたことないよ、そんな奴」


私は思わず天を仰いだ。


魔法が非常識な世界で魔法が使えて、今また魔法が常識な世界で魔法が使えない。しかも今度は神のおまけつきだ。


―――ああ神様。


私は思わず心の中で呟いた。といっても、この世界の神は私なわけだが。


―――世界はどうしてそんなに私を、特異にするんですか?


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