束の間の休息
夕方。
「一件落着かなぁ」
多田との揉め事もひとまず解決して、とにかく疲れた俺はソファーに座ってひたすらボケっとしていた。
そこに、
「しゅう君、ご飯食べよー」
人懐っこい笑みを浮かべた凛香が近付いてくる。あれからすっかり元気になっていて、その姿を見ているだけで俺の心は和む。
……で、何でここに凛香がいるのかというと、
「……おう」
現在、俺は凛香の家にお邪魔している。学校から多田の話をされた凛香の両親がいつもお世話になっている礼も込めて、と言って一緒に夕食を振る舞ってくれることになったのだ。
凛香と俺の家はすぐ隣なので、遅くなっても心配はないし目一杯楽しむつもりである。
「家が隣って、幼馴染感滅茶苦茶あるというか。最高だ……」
その幸せを実感するあまり、思わず言葉が零れた。愛しの凛香は俺の隣家、俺の隣家は愛する凛香。将来も、ずっと近くにいてほしいなぁ。
なんて、くだらない事を考えていると、
「はい!あーん!」
いつの間にか目の前まで来ていた凛香が、俺の口元へ箸を伸ばす。って、いやいや……。これは恋人がすることであって幼馴染同士の距離感ではない気がする……そうだよね?
「あ、あーん」
しかし、可愛い彼女のお願いを無視することなんて出来ないし、そもそも俺からすればご褒美でしかないので勿論応じる。……彼女は、特に意識せずこういうことをしてくるので卑怯だ。
「凛香、これ他の男子にやったら面倒なことになるから気を付けた方がいいぞ」
他の奴にやってる所を想像したら、モヤっとしてきた。一応凛香に忠告しておくと、
「ん?しゅう君以外にやるわけないじゃん」
何言っているんだ、とばかりに返された。
「そ、そうか」
誤解してはダメだぞ俺……!凛香は親友という存在を特別視していて、今回もその例には漏れないのだ。決して、彼女の言葉に他意はない。……他意はない。正直言うと、他意があってほしかった。
「「相変わらずラブラブだね~」」
そんな俺達の様子を見て、凛香の両親は生暖かい視線を向けてくる。ていうか、凛香の親もいることをすっかり忘れてしまって、目の前でイチャついてしまった。
それを認識した瞬間、自分の頬が火照っていくのが分かるが。
「?どうしたのしゅー君。顔が赤いよ?」
勿論、自覚のない凛香は不思議そうにこちらの顔を覗き込んで来るだけだった。近いよ、近い。
「な、何でもない」
あぁ、好きな女の子の両親の前でイチャつくとか……。俺が後悔に苛まれている間にも、何が嬉しいのか彼女の両親はヒートアップしてきて。
「あらあら、お熱いこと。昔を思い出すわね~」
「ははっ、まあ修斗君になら凛香を任せれるよ」
いや!アンタの娘恋愛について疎すぎて、任せるも何も始まってすらないんですけど!?……何て面と向かって言う度胸は到底持ち合わせいていないので、俺は愛想笑いで誤魔化しておいた。
凛香の天然は、この二人から譲り受けたものなのか……。
もしよろしければブックマーク・感想・評価等頂ければ嬉しいです!