決戦、サッカー部のイケメンキャプテン③
遅れました……本格的なざまぁ系を書くのは初めてなので、微妙な部分あったら教えてくれると嬉しいです。
「凛香の声が聞こえなかったのか?」
低い声で、二人を問い詰める。
「いや、それは……」
まさか俺がキレるとは思っていなかったのか、鎌田先生はたじろいでいた。
「はぁ……、もう良いです。すみません、先生に対してとる態度ではなかったです。」
彼の急な態度の変化を見て、もう怒る気も起きなくなってしまった。所詮はこの程度か。俺はそれを一瞥してから、多田の方を向く。そして、
「で。お前、何嘘ついてんだよ。」
強い口調で言い放った。勝手に"凛香と親しい関係"などとほざいた挙句、先生達の信頼を悪用して一方的にこちらを貶めた罪は重い。
「う、嘘って何の事だ?僕はここに来てから真実しか話してないが」
しかし、ここまで来てしまったら簡単には引けないのだろう。彼は知らないふりをする。そんな愚行が見逃されるとでも思っているかのように。
勿論見逃す気のない俺は三つの、それも本当に凛香と親しい関係ならば簡単に答える事の出来る質問をしてみることにした。
「凛香と親しい仲なんだよな?じゃあ聞くぞ。凛香の誕生日は?好きな食べ物は?彼女の、一番の思い出は?」
「……」
質問すると、多田は気まずそうに俺から視線を外した。予想通りだ。彼は、凛香の外面しか見ていないし……あ、そもそも仲良くなかったな。そりゃ答えられないか。
押し黙る彼を見て、俺が変わりに教えてやることにする。
「誕生日は7月の28日、好きな食べ物はガトーショコラ。そして一番の思い出は俺と一緒に行った京都旅行。そんなことも知らないお前が、凛香と親しい関係?何か、おかしいよなぁ……?」
きっと、今の俺は意地の悪い笑みを浮かべていることだろう。それほどまでに、今まで散々苛つかされてきた多田を追い詰めることは爽快だった。だが、
「何を言ってるんだ!俺と桜庭さんは……」
この期に及んで、彼はまだ抵抗しようとしていて。俺が感じた爽快は儚くも終わりを告げ、再び形容しがたい怒りが込み上げてくる。
告白の時といい、本当に往生際の悪い奴だ。俺は再び彼を追い詰めてやろうと、口を開こうとしたが……、
「違います」
凛とした、鈴の様な声が響いた。最初、誰が発した言葉か分からなかったがすぐに気が付く。いつの間にか涙を引っ込め、冷静になっていた凛香が言ったのだ。
「わ、私は!貴方と仲良くなった覚えなんてありません!」
(凛香、成長したなぁ……)
凛香は怖い事があった時、いつも俺の後ろに隠れている様な女の子だ。それがここまで成長して……。
凛香が勇気を振り絞って出した言葉に、ようやく先生達の間でも疑念が生まれてきたのだろう。徐々に、鎌田と多田に浴びせられる視線には猜疑的なものが増えていった。
「先生、凛香本人の証言が出ましたよ?」
流石に本人の証言があれば認めざるおえないだろう、と思ったが。
「……証言だけじゃダメだ。確定的な証拠がない以上なんとも言えんし、大体卯月は手を出しているじゃないか。信用出来ん」
その予想外の言葉を聞かされて、俺は再び呆れる事となった。
十中八九自分の保身のためだろう。この期に及んで、まだ自分の非を認めようとしない教師。なんて頑固でプライドが高い奴だろうか。だけど、
「証拠?そんなに欲しいなら今ここで流しますね」
実を言うと証拠ならあるのだ。穏便に済めばいいと考えてたから、まさか使うことになるとは思っていなかったけれど。
内心穏やかでない、いやはらわたが煮えくり返りそうなほど苛立っていた俺は"それ"を使うと決意した。
「「……え?」」
証拠がある、と堂々と言い放った俺に対して。教師と多田、双方の間抜けな声が見事にシンクロした。
二人の呆けたような反応に、思わず吹き出しそうになる。彼らが呆然としている間に、俺ズボンのポケットから録音機を取り出す。そして、
「じゃあ流しますけど、覚悟しといてくださいね?」
俺はニヤリと笑って言った。瞬間、
『友達ぐらい良いだろうが!』
録音されていた怒声によって、周囲の空気が凍り付いた。先生たちはかなり驚いているし、多田と鎌田に至っては口を開けて唖然としている。
『ちょっと容姿が良いからって調子乗ってんじゃねぇぞ!』
多田の怒号が響くたびに、職員室の空気は変わっていった。先程までは完全に俺が悪者扱いだったが、その風向きは180°変わり。
いつの間にか、辺りの雰囲気は俺に味方していた。
「え、ちょ!ちょと待ってください!誤解だ!誤解なんだ!?」
多田は動揺して意味のないことをほざいているし、鎌田も顔を真っ赤にして俯いている。他の先生たちは、そんな二人に軽蔑の眼差しを向けていた。
そして、しばらくの沈黙の後、
「……すまなかった!」
意外にも鎌田は、俺に頭を下げて謝罪をしてきた。いくら頑固だろうがプライドが高かろうが、流石にこれは誤魔化せないと思ったのだろう。
「いえ、大丈夫です」
まあ正直に言うと、先生の事より多田だ。先生とやりあう気は毛頭ないし、ここで味方についてくれるならこれ以上責めるつもりはない。
「じゃあ先生、この件の元凶は……。もう分かりましたね?」
俺が言うと、先生はゆっくりと多田の方を向き、
「……多田、この後お前の親も呼んでじっくり話すことになると思うが、覚悟は出来ているな?」
低い声でそう言った。自分が恥をかいたこともあってか、その声には凄まじい怒気が含まれていて。
「……」
もう駄目だと悟ったのか。多田は、肩を落として項垂れていた。
これは後日談になるが。あの後、多田は両親の目の前で停学を言い渡され、凛香を脅した噂も広まり女子からの支持も急落した。