プロローグ
新作です!
残酷な夢を見た。
「凛香、今日俺の家で遊ぼないか?前やったゲームの続きしたいし」
俺は放課後の教室で、大好きな幼馴染を遊びに誘おうとしていた。
幼稚園から、ずっと一緒だった女の子。俺達の距離はとても近く、周りからは付き合っているのではないかと噂されるレベルだ。
今更その距離が離れる事などないだろうし、この提案もきっと受け入れてくれるはずだ。そう思っていたのに。
「しゅうくん、ごめんね……。もう、しゅうくんの家に行くことは出来ないの」
何故か彼女は申し訳なさそうに断った。それも、最後に決別の言葉を付け加えて。
「え……、どうしてだよ!」
突然言われた言葉の真意は、到底理解できるものではない。もしかして俺は嫌われたのか?焦って聞き返すと、
「私ね、彼氏ができたの」
絶望。今まで、彼女は恋愛に興味すら示していなかったのに。事態が呑み込めず、呆然と立ち尽くす。そして、
次に紡がれた言葉は、俺の心を引き裂くのに充分すぎる力を持っていた。
「じゃあね、しゅう君。私彼氏のところに行ってくるから!」
「うわぁぁぁぁ!!!!」
自分の絶叫で目が覚めた。
「って、なんだ夢か」
今までで一番、嫌な夢だったかもしれない。自分の好きな人が誰かと付き合う夢など、何でそんな悪夢を俺が見なきゃならんのだ。
「……でも、夢で良かった」
現在高校2年生の俺、卯月修斗には思いを寄せる幼馴染がいる。それも、とびきり美少女の。日本とロシアのハーフで、銀髪碧眼という魅力的な容姿。性格も穏やかで勉強だって出来る。
当然、そんな彼女は男子から絶大な支持を集め毎日のように告白されている。しかし……、凛香が誰かと付き合ったことはない。
何故なら、彼女は恋愛を知らないのだ。今まで誰にも恋をしたことがなく、またそういった知識も持ち合わせていない。
その純粋さ故に、あの手この手で騙そうとしてる野郎共がいるのも難点なのだが。
そんなことを考えていると、突然部屋の扉が開いた。
「しゅう君、ご飯できたよ?」
……凛香だった。彼女は、ごく自然に俺の家にいる。彼女とは家が隣であり、両家の交流も盛んであるためこうやって俺の家に来てはご飯を作ってくれるのだ。
彼女のことが好きな俺としては、まさに至福の時間である。
「ああ、ごめん。寝てた」
俺が言うと、
「……さっき、すごい叫び声が聞こえたんだけど何かあったの?」
彼女が怪訝そうな表情で聞いてきた。
「え、いや!何でもないよ!?」
まさか凛香が誰かと付き合っている悪夢を見た、なんて言えないので適当に誤魔化しておく。
「まあ、それなら良いんだけど」
凛香はそれ以上追及してこなかったので安心した。
それから俺は制服に着替えて、凛香の作った朝食を食べていた。彼女の作る料理は絶品で、それを毎日のように食べることの出来る俺は本当に幸せ者だと思う。
俺が、黙々と口に運んでいると、
「しゅうくん、そういえばさ」
凛香が暗い表情で話し掛けてきた。
「ん?どうした?」
いつも元気な彼女にしては珍しい。聞くと、
「私、昨日ラブレター?っていうのをまた貰っちゃって。」
それはある程度予想していた内容だった。先程も言った通り、彼女はとてもモテる。しつこく迫られることもそこそこあり、うんざりしているのだろう。
「……そうか。誰から?」
「3年の多田竜吾って人」
それは、滅茶苦茶心当たりのある名前だった。というか、最近しつこくアプローチを仕掛けている男だ。サッカー部キャプテンのイケメン少年。女子から絶大な人気を誇る、白馬の王子様。しかし……、
それは彼の表の顔に過ぎない。裏の顔は、恐ろしいまでに冷酷だった。付き合った女性に対して浮気、暴力、金銭の要求は当たり前。今までに、数え切れないほどの女子を泣かせたクソ野郎。
その情報を知る者はほんの一握りだから、今も人気な訳だけど。
「まあ、勿論断るんだけどさ」
「でもお前、本当に誰とも付き合わないんだな。」
「だって、そしたらしゅう君といる時間が減っちゃうじゃん!」
「ゲホッ!?」
思わず吹き出しそうになった。彼女の眩しすぎる笑顔を向けられて、平常心を保てる男などまずいないだろう。
だが、決して誤解してはならない。今の言葉は、俺が好きだからとかそういう意味ではないのだから。けれど……、
「……おい凛香、間違っても他の男子にそんなこと言うなよ?」
それを他の男等に言って回れば、間違いなく面倒なことになる。一応注意しておくと、
「え?うん、言わないけど」
きょとんとした顔でそう返された。凛香は俺以外の異性で親しい友人がいないので、心配の必要はなかったかのしれない。
「それなら良かった。あ、凛香。多田の告白、俺も立ち会うから」
ついでに言っておく。彼の裏の顔を知っている俺としては、凛香が告白を断ったところで逆上してくる可能性もあるんじゃないかと不安に思っていたのだ。
「別に良いけど……。しゅう君、早く出発しないと学校遅刻するよ?」
凛香はそれを受け入れつつ言った。時計を確認すると、確かにもう家を出る時間だ。
「そうだな、そろそろ行くか」
俺は気を引き締める。ここで負けてはいけないから。
今日も、また始まるのだ。……幼馴染をゲス男達から守り抜く為の、仁義なき戦いが。




