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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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荒野の生物って素敵やん

 「君達にはこれまでにも十分に協力して貰った。後は専門家に任せて自分達の仕事に戻ってくれ。我々は明日一番でここを立つ。君達は時間をずらすかルートをずらしてくれたまえ」


 チャレンジさんは俺達をしっかりと見てそう言った。

 ううむ、こうした所が周辺の衛兵から敬意を払われるに値する特質なんだろうが、今回ばかりは俺達もはいそうですかと引く訳にはいかない。

 なにしろ行く道は一緒なんだ、無理して行動が重ならないようにしたあげく何かあったら俺達はその事をずーっと引きずってしまうよ。

 ここに居る連中はそういう連中なんだから。

 

 「お言葉ですがチャレンジさん。それは非常に非効率的な事と言えるでしょう」


 ラインハートが眼鏡をクイッと上げて言う。

 お?いいぞいいぞ、こういう時はお前さんの出番だ。理路整然とした理屈で納得させちゃれ!いけいけゴーゴー!

 俺は心の中でラインハートにエールを送る。

 

 「非効率的?なぜだい?」


 チャレンジさんが食いつく。


 「なぜなら、そんな事を言われても我々はあなた方を尾行してしまうからです」


 ラインハートはエヘンと胸を張ってそう言った。

 え~、そんな理屈ぅ~?

 俺は心の中でガクッとズッコケる。


 「ぷっ、何を言うかと思えば。ダメだよそんな事をしては」


 チャレンジさんは思わず吹き出し、笑ってしまっていた。

 そりゃそうだよな、こんな子供みたいな事を言われちゃ笑っちゃうよなあ。


 「ダメだと言われても一緒に行けないならそうするしかありませんからねえ。この事件は我々にとってもまだ終わってないんですから。もしかしたら、こちらが先に犬を見つけて追い払っちゃうかも知れませんね」


 ラインハートはにこやかに言った。

 むむむ、これはこれで強引ではあるが、逆に同行させない方が危ないぞと思わせる効果があるか。

 気が付いて?チャレンジさん。ラインハート、おそろしい子!

 俺は心の中で白目になる。


 「参ったね。そんな事を言われちゃ、こっちは何も言えないじゃないか」


 「勝手に離れてついて来てしまう位なら、一緒にいた方が安全ですよ。犬だって人数が多ければ襲うのに躊躇するでしょうしね」


 「相手はただの犬じゃない、対人戦闘のエキスパートだ。そっちの兄さんは対人戦もなかなかやるみたいだが」


 ラインハートに答えたチャレンジさんはヒューズを見た。

 そういやチャレンジさんはヒューズがリューガン牧場のとこの見張り相手にコインの早撃ちをした所を見てたっけっか。


 「いや、対人戦でしたら私よりも彼女たちの方が優れていますよ。私はどうもすぐに感情的になってしまうようで、良くたしなめられますよ」


 ヒューズはリッツとアーチャーを優雅に手で示しそう言った。


 「ううむ、いずれにしても黙ってついて来てしまうと言われたら、こちらはお手上げだからな。くれぐれも無茶はせず、怪我なんかしないようにしてくれよ?」


 「怪我させてくれるような相手なら面白いんだけどねえ。こないだの奴、なんて言ったけクルポン?」


 コラスが俺を見る。


 「こないだのって、ボックスとか言う連中の事か?」


 「そうそうそれそれ、あと督戦隊だっけ?あいつら名前のハッタリは効いてたけど、実際やってみればホント拍子抜けもいいとこだったもんねえ」


 「おいおいおいおい、ちょっと待ってくれよ?もしかしてそいつはこないだのファルブリング爆弾騒ぎの時の事か?あれに君達も関わっていたのか?」


 俺とコラスの話しを聞いていたチャレンジさんが驚いて声を上げる。


 「うん、そうですよ~。ナンバーズの何番だったっけっか?途中よくわかんなくなっちゃいましたけどね~。四人いたけど大した事なかったですよ」


 「ナンバー七影潜のフィース、ナンバー八怒涛のゴズビ、ナンバー五解体人グルバウト、それと正体不明だったナンバー三。その四人が捕縛されたと聞いたが」


 「そうそう!そんな人達だった!僕は七番と三番、クルポンは八番をやっつけたんだよね?」


 「まあ、そうだな」


 チャレンジさんの言葉に思い出したのか嬉しそうに言うコラスに俺は答える。

 あの時は解体人の人は災難だったよなあ。


 「ふうむ、その話が本当ならば君達の戦力は申し分ないな」


 「そりゃそうよ~、なんせモスマン族近衛兵団長の娘さんだっているんだから」


 「なにぃ~?お嬢さん、モスマン族なのか?」


 ケイトを見て言うコラスの言葉を受けてチャレンジさんが驚く。


 「ええ、まあ、そうですけど」


 「なんてこった、話に聞いていた破壊神がこんな可憐なお嬢さんだとはな」


 「いや、そんな」


 驚くチャレンジさんの言葉に少し頬を赤らめるケイト。

 ケイトの奴は初めてあった時こそキャリアンと見間違えはしたが、学園の制服を着用している事や立ち居振る舞いにいちいちいい女ムーブが出ている事などもあってほとんどモスマン族だと認識されないのだ。

 まあ、実際のモスマン族を見た事ある人がほとんどいないって事も理由のひとつだと思うが、やっぱり恐るべしはケイトが全身から発しているいい女ムーブメントだよ。

 俺は個人的に鱗粉に秘密があるんじゃないかと睨んでいるのだが、それを言うと怒られるから言わないでいる。

 ケイトは怒らせるとおっかないからな。


 「わかったよ。少なくとも君達には、自分の身は自分で守れるだけの力はあるようだ。移動中は基本的に我々の指示に従って貰う事になるがそれでも構わんのなら一緒に来てくれ」


 チャレンジさんの言葉にミッチが安堵の表情を見せる。


 「では、そう言う事で明日はよろしくお願いしますね」


 ラインハートはにっこやかにそう言った。


 「やれやれ、参ったな」


 「ボスが言い負かされるの初めて見ましたよ。ラインハートさん凄いっすね」


 頭を掻くチャレンジさんに続いてミッチがラインハートに羨望のまなざしを向けた。

 惚れるなよミッチ。

 その後、俺達はチャレンジさんに教えて貰い詰め所近くの宿を取り、改めて明日の予定を決めてその日を終える事となる。

 そうして翌日。


 「なんだよ、アーケンも一緒なのかよ」


 昨日のパリッとした紳士ルックから打って変わり、ワイルドなカウボーイスタイルになったザンザが俺を見て言った。


 「俺はアーケンじゃねーっつーの!それから、なんだよ、そのワイルドっぷりは!」


 「へっ、こっちの方がホントの俺だよ」


 ザンザは肩をすくめる。


 「変装のつもりでさせたんだが、どうやらこっちが素だったみたいでな。今まで無理してたってこったな」


 「目くらましにちょうどいいっすよ」


 チャレンジさんとミッチが言う。


 「まあ、そんな訳だからひとつよろしく頼むぜ偽アーケンさんよう」


 「誰が偽アーケンだ!」


 俺はふてぶてしく言うザンザにツッコむ。


 「そう言えば本物のアーケンはどうなったのでしょうか?」


 ラインハートがふと気が付いたように口走る。


 「それなら昨晩遅くにスカイソルト駅で保護されたよ。夜更けに取り調べで寝不足だよ」


 チャレンジさんが伸びをしながら言う。


 「そうでしたか。無事なら良かったですよ」


 「無事も無事、ピンピンしてるよ。ああ、ついでに言えばジニアスアクト農場から行方をくらました術者も一緒に保護されたよ。ボナンザと言う女性術者なんだが、どうやらアーケンとデキていたようでね。ふたりで逃げる予定だったらしい」


 ホッとするラインハートにチャレンジさんが教えてくれる。


 「まったく、責任感の欠片もない連中だね」


 「お前が言うな」


 呑気に言うザンザにチャレンジさんがツッコむ。

 むう、チャレンジさん、ツッコミスキルもなかなかお高いと見た。

 事件の細かい進展を聞いた俺達は、馬を預けていた厩舎で馬を返してもらいアルドラッドに向けて出発したのだった。

 アルドラッド村までは今いるイエロアウトの街から馬を飛ばせば小一時間程。

 今回は事件解決し普通に帰路についているのを装っているので、馬に無理をさせないペースとなり一時間半程の道のりとなる。

 道中は荒野の街道を通り、途中一部小さな山を越える峠道となる。

 荒野の街道は見通しも良く不意打ちには向かない地形なので、襲撃されるとしたら峠道が一番可能性としては高い。

 次に考えられるのは荒野の街道に点在する岩山だ。

 そんな岩山地帯を通過していた時、突然、轟音が周囲に響き渡り地面に砂ぼこりが連続して立った。

 

 「襲撃だ!隠れろ!!」


 俺達は馬から転がるように地面に降りると各々近くにある岩の影に隠れる。

 馬は興奮して駆け去って行く。

 これは織り込み済みだ。

 馬ってな賢いから騒ぎが収まればまた戻って来るのだそうだ。

 

 「バチバチバチッ!!ガァァァァァァンッ!!」


 敵の術式武具か攻撃術式かが放たれて隠れている岩が削られる。

 俺は呼吸を整え周囲に意識を広げ敵の気配を探る。

 む?攻撃が放たれた瞬間はその位置がわかるのだが、すぐに気配が消失してしまう。

 なんだってんだ?


 「ピュイィィィィィィィィ!」


 そんな中、空気を切り裂くような甲高い口笛の音が周囲に響き渡る。

 音のする方向を見ると岩陰に隠れたラインハートが自分の耳を指差している姿が見えた。

 どうやら聴覚強化の術を使えと言っているようだ。

 俺は風魔法のサウンドコレクションを使う。


 「……ますか?聞こえますかジミーさん?」

 

 「おう、聞こえるぞ」


 「今、襲撃者の気配を探っているのですが、どうやら相手は認識疎外か隠形術を用いているようです」


 「俺も気配を探ったが、攻撃の瞬間はわかるんだがすぐ消えちまう」


 「そうでしたか、チャレンジさんも同じ事を言ってましたよ。それで今、エドとドワイトが使役生物で探っています」


 「敵は認識疎外か隠形術を使ってるんだろ?それでわかるのか?」


 「使役生物は匂い、熱、振動、呼吸などを人以上の感覚で認識できますから、余程の事がない限り感知できるでしょう」


 「うぎゃぁぁぁ」

 「なっ!!なんだっ!」

 「いてえ!いてーよー!」

 「きゃぁぁぁ!」

 「ぐわっ!」

 「うげぇぇぇぇぇ!」


 「どうやら感知できたようですね」


 複数の叫び声の後、ラインハートが言った。


 「今少しお待ちください………うん、大丈夫のようです。皆さん出てきて大丈夫ですよ」


 ラインハートの声を聞き俺は岩陰から出る。

 ケイト、ザンザと一緒のチャレンジさん、ミッチも同じように岩陰から出てくるところが見えた。

 

 「おーい!みんな無事ぃ~?」


 離れた岩陰から顔を出したコラスが呑気な声を上げる。


 「こっちは大丈夫だ。敵さんはどうした?」


 俺は大丈夫と手を上げるザンザ、ミッチ、チャレンジさんを見てコラスに言う。


 「こっちで痺れてるよー」


 「マジか、今行く」


 俺はゲイルダッシュでコラスの元に飛ぶ。


 「あ!来ない方がいいかも」


 「なに言ってんだよ、もう来ちゃったってーの、うっ」


 俺は倒れている奴を見てコラスの言ってる事の意味を一瞬にして理解した。

 倒れている黄土色のフード付きマントを身に着けた男の身体には蛇とサソリと蜘蛛の大群がまとわりついていたのだ。


 「こ、これ生きてるのか?」


 「勿論、生きてるよ。弱い毒性の奴を選んだからねえ。まあ、半日位は動けないと思うけどさ」


 「うひゃー、こりゃ、ちょっとたまらんものがあるなあ」


 俺は倒れている男にたかりウゾウゾと蠢いている奴らを見て怖気を振るった。

 なんともたまらんものがある。

 ゾッとするのに目が離せない。

 俺は前世で観た、考古学者が活躍する極上アドベンチャー映画内のトラウマシーンを思い出していた。

 あれは天才映画監督がその天才性を悪趣味方向にいかんなく発揮した映像だったが、こっちはモノホンだ。

 

 「ふひぃ~、スゲェなこりゃ。えげつねぇなあ」


 「とか何とか言って、ずっと見てるじゃん。結構、好きだったりする?なんなら何匹かあげようか?」


 「いい!いい!勘弁してくれ!」


 非常に嫌う事を蛇蝎の如く嫌うなんて言うけど、正にこれは蛇蝎、ヘビ、サソリだもんなあ。しかも毒蜘蛛のおまけつきときてるもんなあ。

 う~ん、エグイ。けど見ちゃう。

 

 「こいつら、どうしますか?」


 ヒューズがフードの襲撃者を片手で持ち上げながらチャレンジさんに尋ねる。


 「連れて歩く余裕はないからな。そこら辺に縛っておくか」


 「縛らなくても半日は動けないと思いますが」


 「だったら日陰にでも並べとくか」


 「わかりました」


 チャレンジさんの言葉を聞いたヒューズが両手に襲撃者を持って岩のくぼみに並べだす。

 キレイに同じ姿勢で座らせて並べるヒューズ。


 「あいつ結構、几帳面だったりする?」


 ちょっとその様子に好感を抱きながら俺はコラスに尋ねた。


 「う~ん、そうねえ。確かにドワイトちゃん、そういうとこあるかも。女の子によって連れて行く店とかあげるプレゼントとか重ならないようにしてるしねえ」


 「それは几帳面ってよりマメなプレイボーイだな」


 俺の中で上がっていたヒューズへの好感度が一気に下がるのだった。

 

 「こいつは例の犬か?」


 「迷彩気配遮断効果付与がついたマント。間違いない、漆黒の犬だよ」


 チャレンジさんに聞かれたザンザは襲撃者のマントを触って暗い表情で言った。


 「そんな暗い声で言わないでよオジサン。こんなの幾ら来たって何でもないって。怒ったレイアちゃんの方が百倍怖いって、ね?」


 気を使ったのかコラスは微妙な事を言う。


 「そうですよ、心配しないで下さい。って!エドアール!」


 「ほら、ね」


 ラインハートに怒られたコラスがザンザにウインクする。

 むう、ラインハートめ、ノリツッコミもできるのか!おそろしい子っ!


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