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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
992/1116

皆が考える隠し場所って素敵やん

 リューガンさんに指示された男の案内で、行方をくらませた警備主任の家に着いた俺達。


 「もう、随分人が集まってますね」


 こじんまりした家の周りにはリューガンさんのところのカウボーイ達以外にも、近所の人達なのか野次馬らしき人達が集まっていた。


 「小さな家だが、アーケンの家族は?」


 「独り身だと聞いてます」


 チャレンジさんの言葉に案内の男が答える。

 案内の男とチャレンジさんは、家の周辺を守るようにしているカウボーイ達に軽く手を上げ中へと入って行くので俺達もそれに続く。

 中ではカウボーイ達が忙しそうに家探しをしている所だった。


 「何か見つかったか?」


 案内の男が家探ししている男に声をかける。

 

 「いえ、怪しい物は何も。そちらは?」


 家探ししていた男が俺達を見て聞く。


 「ボスの依頼でこの件を調べてくれてる方々だ。失礼な事がないように気を付けろ」


 「はい」


 案内の男に言われて家探ししていた男は答える。


 「いつもこんな感じなら助かるんですけどねえ」


 「基本いつもこんな感じさ。そうじゃないのはお前が頼りないからじゃないかミッチ?」


 「そんなあ」


 チャレンジさんに言われてミッチが情けない声を出す。

 

 「これだけ大勢で家探ししても見つからないんじゃ、何も残しちゃいないんだろうなあ」


 忙しく家探しする男達を見てチャレンジさんがぼやく。


 「ったく!建付け悪いんだからいちいち閉じるな!」


 「ああ、すんません!」


 「クソが、警備主任の癖に安いトコ住みやがってケチ野郎が」


 「ジミーさん、あれはもしかすると」


 トビラの開け閉めで揉めているカウボーイ達を見てラインハートが俺を見る。


 「ああ、もしかするともしかするかもな」


 「すいません失礼します」


 俺の言葉を聞いてラインハートは目を輝かせてカウボーイ達をかき分けかき分け隣の部屋に行く。


 「ありました!」


 ラインハートは戻って来て手にした脚立を俺達に見せた。


 「どうしようってんだい?」


 「以前に似たような事があったんです」


 尋ねるチャレンジさんに建付けの悪いトビラ近くに脚立をセットしながら答えるラインハート。


 「似たような事?どんな事だってんだい?」


 「まあ、見ていて下さいよ」


 チャレンジさんに答えながらラインハートはトビラ付近の天井を押す。


 「ん!やっぱり!」


 天井の一部が上にズレ、ニヤリと笑みを浮かべたラインハートは天板をずらし天井裏に頭を突っ込んだ。


 「あったあった。やっぱりありましたよ」


 ラインハートは嬉しそうな声を出すと、天井裏からズタ袋を引っ張り出した。


 「受け取りますよ!」


 サッと駆け寄ったミッチがラインハートに言う。


 「重いので気を付けて下さい」


 「任せといて下さい!こう見えて力持ちなんですよって、うっ、お、重い」


 ラインハートからズタ袋を受け取ったミッチがよろけて唸る。


 「おい、落とすなよミッチ」


 「はっ、はい」


 チャレンジさんに言われたミッチは顔を赤くしながらズタ袋を床に降ろす。

 ズタ袋を置いた床が音を立ててきしむ。

 こりゃ、かなりの重量物だな。

 ミッチがよろけるのも無理はない。


 「これで全部ですね」


 天井裏に首を突っ込んでいたラインハートが木箱を抱えて脚立から降りて来た。

 ラインハートが木箱を床に置くと、これまた音を立てて床がきしむ。

 こっちもかなりの重量物のようだ。


 「な、なんすかね、これ?」


 ミッチがズタ袋の中身を床に出して言う。

 中身は金属製の筒に取っ手が付いたようなものであった。

 

 「こっちも何か良くわからない物が入っていますね」


 ラインハートが木箱を開けて言う。

 木箱の中身は金属製の箱のような物であった。


 「これが何かわかるかい?」


 チャレンジさんが案内の男に尋ねる。


 「こいつは……間違いない、土壌検査のための術式具です」


 男がズタ袋の中身と木箱の中身を調べて言う。


 「それは警備に必要な物なのかい?」


 「いえ、関係ありません。それにこれはとても高価なものですから個人で所有するような類の道具じゃありません」


 「天井裏に隠していた事を考えても、真っ当な理由で持っていた訳じゃあなさそうだなあ」


 チャレンジさんが顎の下に手を当てて唸る。


 「にしても、なんでわかったんです?」


 ミッチがラインハートに不思議そうな顔をして尋ねた。

 ラインハートは、以前ひとり暮らしのお婆さんの家の修繕を頼まれた時にまったく同じような事があったのだとミッチに話して聞かせた。


 「はひゃー、なるほどねえー。そんな事があれば気づくかあー」


 「なーに言ってんだミッチ。お前ならその時にも気づかないだろーが」


 「そりゃないっすよー」


 チャレンジさんに言われてミッチが口を尖らせる。

 

 「隙間にこんなものが」


 ヒューズが木箱から封筒を引き抜きこちらに見せる。


 「ちょっといいか?」


 「ええ、どうぞ」


 「すまんな」


 チャレンジさんはヒューズから封筒を受け取る。

 

 「バンコッツ歌劇場のチケットか」


 「あ!それもしかして、やっぱりそうだ!」


 チャレンジさんが封筒の中から出したチケットを見てミッチが興奮する。


 「なんだ?こいつがどうかしたのかミッチ?」


 「知らないんですか?ドメサンコ・ガールチーニの歌劇、拾ったファンゴールのチケットですよ!」


 「なんだい、そりゃあ?」


 「本当に知らないんですか?まったく、そんなだからもてないんですよボスは」


 ミッチが肩をすくめて得意げに言う。


 「いいから、早く教えろミッチ」


 「ドメサンコ・ガールチーニは元宮廷楽長で今、一番人気の作曲家ですよ。拾ったファンゴールはガールチーニの最新作です。大人気でなかなかチケットが取れないんですよ」


 「そんなもんがなぜこんなところにあるんだ?」


 「そりゃあ、なかなか取れないチケットだから隠しといたんでしょう」


 ミッチが言う。


 「果たしてそうでしょうか?ちょっと見せて貰ってもよろしいですか?」


 「あ、ああ。構わんが」


 ヒューズに言われてチャレンジさんはチケットを渡す。


 「席が指定されていますね。それもバルコニー席ですよ」


 チケットを見たヒューズが言う。


 「ええ!バルコニー席ですか!それ凄い値段しますよ!警備主任って高給取りなんすねえ!」


 「そうなのか?警備主任ってのはいい給金を貰ってるのか?」


 驚くミッチの言葉を受けてチャレンジさんは案内してくれた男に尋ねた。


 「いや、バルコニー席のチケットを取れる程のものじゃあないはずだ。まあ、節約して金を貯めて買ったってんなら話は別だが」


 「奴は熱狂的な歌劇好きだったのか?」


 「そんな話は聞かないね」


 「家の中にそれらしき物もないし、警備主任の趣味の線は薄いかね。だとすればこいつはなんなんだ?」


 男の話しを聞いたチャレンジさんがヒューズの持ったチケットを見て首をひねる。


 「チケットの日付は今日のようですね。ここに行けば何かわかるかも知れませんよ」


 「なんだって?今日の日付だって?」


 ヒューズの言葉にチャレンジさんが驚く。


 「ええ。給金に見合わぬ高価なチケット。それも特別好きでもないようなもので、席はバルコニー席。誰かに会うためと考えた方が自然ではないでしょうか?」


 「なるほど!確かにその線はありっす!バルコニー席なら他の誰にも話を聞かれないし、会っている所を目撃される心配もないですから!」


 ヒューズの言葉にミッチが手を打って同意した。


 「なるほどねえ。なんだか良くわからんが、行ってみるか」


 「だったら、急がないと!ああ!後、キレイな格好をしてかないと追い出されますよ!一旦、家に帰って着替えないと!」


 「別に観劇に行くんじゃないんだぞ?」


 「それでも、あんまり浮いた格好じゃ怪しまれますって!ボスは礼服は持ってるんすか?」


 「ああ、あるこたぁあるが」


 「だったら急いで着替えてこないと!」


 「参ったなあ。まあ、そんな訳だから俺達はこの線を追ってみる事にする。リューガンさんにはそう伝えてくれ。何か進展があればまた連絡する」


 ミッチの話しを聞いて苦い顔をしたチャレンジさんは男に言った。


 「ああ、そう伝えておくよ」


 そう答える男に軽く手を上げて俺達は軽く今後の作戦を決め、幾らかの物品を拝借してから警備主任の家を後にする。

 一旦、詰め所に戻った俺たちはミッチとチャレンジさんが正装してくるの待ってから、ミッチの案内で歌劇場へと向かった。

 歌劇場はアルドラッド村から馬で小一時間ほど飛ばしたイエローアウトと言う街にあった。

 イエローアウトの街はザ・歓楽街という佇まいの街で、到着した頃には夕闇に包まれていたのだが、ここからが本番だと言わんばかりに明かりが灯り、どこかの飲み屋で奏でられているのか音楽が鳴り、人の騒ぐ声が周囲に満ちていた。

 

 「なんだか騒がしい街ですねえ」


 「ここいらじゃあ一番の歓楽街だからなあ。明かりに集まる蛾のように娯楽を求めて人が集まってくるのさ」


 俺の言葉にチャレンジさんが答えてくれる。

 なるほどねえ、欲望の街ってわけか。

 俺には縁のない街だね、こりゃ。


 「ありました!あれが歌劇場っす!」


 ミッチが嬉しそうに声を上げる先に見えたのは夜のしじまに浮かぶまるで神殿のような作りの建物であった。

 

 「うわっ、なんかスゲーな」


 「またまた~、もっと凄いトコ、幾らでも出入りしてるっしょ~」


 「んな事ねーっちゅーの、俺は基本、庶民なんだから」


 「良く言うよ~」


 コラスが俺の事を嬉しそうに弄る。

 いや、でもマジでこんな神殿みたいな歌劇場、気圧されちまうってーの。

 ライトアップされた建物の美しさとキレイさはなんだか現実味がないし、何と言ってもあの入り口のデカさね。

 正面に五つ、アーチ型に切り抜かれた入り口の高さや幅は近付くにつれ威圧感すら感じさせる。

 とにかく、金も手間ももの凄くかかっていると素人目にもわかる建築物だ。

 

 「馬は向こうの厩舎に停めましょう」


 俺達はミッチの案内で歌劇場隣にある大きな厩舎に向かった。

 前世で言えば大きなパーキングってなもんか。

 しっかし、大丈夫だからと言われて学園の制服のまま来ちゃったけど、場違いじゃないか心配になるよ。

 歌劇なんて前世じゃ生で見た事なんてないもんなあ。

 動画では見た事あるけど。

 歌劇ってオペラとかアリアみたいなもんだろ?ミュージカル映画は嫌いじゃなかったけども、どうなんだろーなー?ちょっとハイソサエティー過ぎてピンとこないよ。

 あー、緊張して来た。

 マジで緊張して来たんですけど?


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