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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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童話と神話って素敵やん

 「所でさ、スライムの姫ってどんな話なんだ部長?」


 俺はアイスを食べながらラインハートに尋ねる。


 「この石碑に書かれていますけど……これは子供向けにまとめたものですね」


 「いや童話って元々子供向けだろ?」


 俺は石碑を見ているラインハートに言う。


 「まあ、そうなんですけどね。ちょっとこのお話しの序盤は子供に聞かせるには問題がありましてね…」


 ラインハートが言葉を濁す


 「へえ、どんな内容なのよ?」


 「ざっくり説明しますとね。昔々ある所に王と王妃とその娘が暮らしていた。ある日、王妃が重い病に倒れ帰らぬ人になり、王は次の妻を探す事にします。すると王の側近が亡き王妃以上の美貌と才を持つ女性は王の娘以外にいないと進言するのです。それで王は自分の娘を妻にしようとするんですよ」


 「そりゃ色々と問題がある内容だなあ」


 俺は答えて石板を見る。

 確かに石板に刻まれている話では、妻を亡くし人が変わってしまった父から逃げた姫はとなっているな。

 

 「それで、続きはどうなるんだ?」


 「続きはほぼ同じですから、自分で読んでください」


 「なんだよケチ部長」


 「誰がケチ部長ですか」


 あはは、怒っとる怒っとる。

 俺は仕方なく石碑の続きを読む。

 その内容はこうだ。

 父王の元から逃げた姫は素性を隠すために森で暮らし、全身に死んだスライムゼリーを纏い醜悪な姿へと変身し王に見つからないように潜伏して暮らした。

 ある日、森の中で一人の美しい青年が傷つき倒れているのを見つけたスライム姫は、見捨てる事ができずに介抱してしまう。

 美しい青年はスライム姫の懸命の介抱の甲斐あって一命をとりとめるのだが、青年を探しに来た一行の声を聞きスライム姫は逃げ去ってしまう。

 無事に生還した青年は隣の国の王子であった。

 王子は森で自分の事を助けてくれた人のことが忘れられなかったが、高熱のために意識がはっきりしていなかったために相手の姿かたちはわからず、覚えているのはその美しい声、証拠となるのは助けられた時に頭に当てられていた布の中に入っていた指輪だけだった。

 介抱してくれた相手の事がどうしても忘れられなかった王子は、国中の女性からその声と指輪が当てはまる人物を探すが見つからない。

 ある日、各国を回る行商から、王子が発見された森に異形の者が住むという話しを聞き藁にも縋る思いで森を捜索する王子。

 そうして王子は森の中でスライムの死骸を纏った醜悪な姿の姫を発見する。

 お付きの者達は鼻をつまみ顔を歪めたが、王子だけはそうはしなかった。

 王子にはスライム姫の内面の美しさがわかったからだった。

 そして王子は持っていた指輪をスライム姫の指にはめ、それはピッタリとハマったのだった。

 そうして王子と姫は末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。


 「なるほどねえ」


 俺はアイスのカップとサジを畳み、顎の下に手を当ててうなる。


 「何がなるほどなのですジミーさん?」


 ケイトが俺に尋ねる。


 「いやさ、これって恐らく大昔から伝わる話、神話とかそういったものがベースになってるんじゃないかと思ってさ」


 「それは、どういう事です?」


 「まず部長から聞いたここから省かれた話しね、これって色んな神話に見られるんだよ」


 前世で俺が知ってるだけでもケルト、ヘブライ、中国、日本、アフリカ、インドネシア、北欧などなど、近親婚はあちこちの神話で見られるテーマだ。

 


「神は神同士で、選ばれた存在の者は選ばれた存在の者同士で子をなすべきだという考えが根底にあったからそうした話が多いのだなんて事も聞いた事がある。なんにしても世界樹や大洪水伝説なんかと同じく、世界中で語られる昔話のテーマだからな。この地でこの話を書いたって事は、この地に伝わる似たような神話をアナスホー氏が耳にしたからじゃないかね。ちなみになんだけど、姫が父から結婚するよう迫られた時に無理難題を言って切り抜けようとするが父がそれをすべて叶えてしまう、なんてエピソードもあるんじゃないか?」


「ええ、その通りです。燃える氷の冠、七色に光るマントなどを要求するエピソードがあります。姫が身に着けていた指輪もそのうちのひとつで死骸纏いの指輪というものですね。しかし、なぜわかったのです?」


「それも多くの神話で見られるエピソードだからさ」


結婚しようとする時に難題を課せられる物語、いわゆる課題婚って奴だ。

 前世で有名なのは竹取物語かぐや姫の物語だが、それも元となったのは大国主神話の中のスサノオノミコトのエピソードではないかと言われている。

 世界各地にその手の話はあり、アラビアンナイトの千一夜の話しなんかもその類型だと言われているのだ。

俺は畳んだカップとサジをゴミ箱に入れながらケイトに言った。


「クルポンはそういうの好きだよねえ」


コラスが同じようにごみを捨てながら俺に言う。


「ああ、好きだねえ。もっと言えば大衆から蔑まれるような女性が高貴な美青年に見初められるってのも、多くの昔話で見られるエピソードではあるんだ」


 これは有名なのはシンデレラだな。シンデレラストーリーなんて言葉があるほどだもんな。

 だがこの手の話しも世界中には様々なバリエーションで転がっており、最も古い話しは紀元前一世紀のギリシャの記録と言われてた。

 日本なら平安末期の書である落窪物語などがそれにあたる。

 とにかく、これも大昔から語られる題材なのだ。


 「それで、ジミーさんはその事から一体何を思いついたのですか?」


 「アナスホー氏がこの地でスライム姫の物語を書いたという事は、この土地にその元ネタとなるような昔話が伝わっているんじゃないかって話しだよ」


 「近親婚、出される無理難題、逃亡して身を落としてから王子に見初められる、そんな話がこの辺りに伝わっていたと?」


 「いや、さすがにその全てを含んでたとは言わないよ。でも、何かきっかけになるようなエピソードが眠ってるんじゃないかと、そう思ってね。この近辺で他にアナスホー氏絡みの物って残ってないの部長?」


 ケイトに答えてから俺はラインハートに尋ねる。


 「ある事にはありますが、見る事は出来ないと言いますか」


 「なによ?ある事はあるけど見学できないの?」


 歯切れの悪い事を言うラインハートに俺は聞く。


 「ええ。アナスホー氏が下宿していた家がそのまま残っているようですけど、土地の所有者が公表を控えているそうです」


 「なんで?観光資源になる貴重な物じゃないのかい?」


 「ええ、それで国から取り壊さず保護するように言われているので持ち主もそのようにしているようですけど、公開せよとは言われていないと土地の所有者は言っているようで、現在は非公開という形になっているようです」


 ラインハートが手帳を見ながら言う。


 「その持ち主ってのは誰なのよ~部長~」


 コラスがラインハートに聞く。


 「それが、非公表となってまして」


 「それなら誰だか知ってるよ」


 渋い顔をして答えるラインハートの元に笑顔でやって来たのは先ほどの売店のお姉さんだった。


 「あっ、突然声かけたりしてゴメンね、感謝の言葉が言いたくってさ。ほら、あなた達のおかげで今日の売れ行き大幅アップだからさ」


 売店のお姉さんは今だ人の波引かぬ売店を指差して言った。


 「いやいや、騒がしくしてしまって返って申し訳なかったですよ」


 ヒューズが言い、売店のお姉さんは少しだけ頬を赤らめた。


 「ううん、売上良ければ給金も上がるから願ったりかなったりなの。それに、あなた達を見て繁盛のコツみたいなのも見えて来たしね」


 「あなたのようなお綺麗な方の少しでもお役に立てたなら幸いですが、お聞きしてもよろしいですか?そのコツとは?」


 ヒューズが歯の浮くような事をサラリと言う。

 恐るべし男だなヒューズ。


 「単純な事よ、なんで今まで思いつかなかったのかしら。それはね、お店の前で美味しい美味しいって食べて貰う事なの。今まで、お客さんには景色の良い所で食べて貰うのがサービスだと思って景色の良い所にしかベンチを設置してなかったけど、お店の真ん前にも設置する事にしたのよ。これで、売り上げアップすれば改めてジニアスさんに提案するつもりよ。それで各店で正式に採用されたら、またお給金が上がっちゃうもんね。うふふ」


 「なるほど、それは素晴らしい。あなたはとても商才があられるようだ」


 目がお金マークになってるお姉さんの手を取りヒューズが言う。

 

 「うふふ、ありがと。それで、お礼と言っちゃあれなんだけど、さっきの話しね」

 

 お姉さんはヒューズの手を軽くあしらう。どうやらこの姉さん、花より商売っ気タイプのようだな。


 「アナスホー下宿の土地の所有者なら、ジニアスアクト農場のジニアスさんよ。私達の雇い主でもある」


 「雇い主さんが非公表にしているものを言ってしまってよろしかったのですか?」


 ヒューズがお姉さんに言う。


 「この辺の人ならみんなしってるもの。それにお兄さん達、私から聞いたなんて言わないでしょ?」


 「それは、勿論、そんな事は言いませんが」


 「でしょ?これでも私、人を見る目には自信があるのよ。お兄さん達、ここのミルクとアイスクリームをとても気にいってくれたでしょ?だったら農場直売所で搾りたてを飲んだらもっともっと美味しいからね、そこでさっきみたいになればジニアスさんも喜んで、見せてくれるかもよアナスホーの下宿を」


 「なるほど、ありがとうございます。助かりました」


 「ううん、いいのよ。クラブ活動なんでしょ?頑張ってね!学生さん!」


 売店のお姉さんは元気良くそう言って店に帰っていった。

 ヒューズはキレイな礼をしてそれを見送っている。まるで騎士だなこいつは。

 俺たちはバックゼッドの文化を研究するため、こうして足を使って人の話しを聞き追及している。まるで探偵みたいな事をやってるが、ヒューズだけは騎士みたい。

 探偵騎士か、後はこれが特ダネだったら、複雑な現代社会に鋭いメスを入れなきゃならんところだった。

 趣旨がぶれるところだった危ない危ない。


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