部の合宿って素敵やん
そうして翌日の放課後、俺たちは魔導列車でワスターの街へ向かった。
ワスターは魔導列車で一時間弱程だが、なんせ駅と駅の間が離れているもんだから学園とは距離的に結構離れている。
「いやあ、のんびりしたいい所だねえ」
駅を出て開口一番コラスが言う。
確かにのんびりした土地だ。
駅前なのに人はほとんどおらず、一般の家が幾らか建っているだけ。
後はキレイに刈られた芝生と木立が見えるばかり。
「こんな事言っちゃあれだけど、なんでこんな所に駅を作ったんだろーな」
「最高峰ミルクで有名な農場があるのが一番の理由みたいですね。ここから帝都にも出荷されているようですから。後は、やっぱりアナスホーですかね」
ラインハルトが手帳を見て言う。
どうやら昨晩色々と調べて来たらしい。
「で部長。最高峰ミルクはどこで飲めるの?」
「えーっと、この先に大きな公園がありまして、そこに行けば」
「おいおい、まずはアナスホー氏の記念碑じゃないんかい」
俺はのんきな事を言うコラスと律儀にそれに応えるラインハートにツッコんだ。
「その公園こそがまさにその場所なんですよ。なんたって名前がスライムの姫公園ですからね」
「そのまんまやんけ。もうちっと工夫せーや」
胸を張って答えるラインハートに俺は再びツッコんだ。
「私が付けた訳ではないですからね」
「じゃあクルポンならなんて付けるのさー?」
メガネをクイッとして言うラインハートに続いてコラスが意地悪そうな笑みを浮かべて俺を見る。
「俺か?俺なら、えーと、えーと」
「出てこないのかよっ!」
すぐに答えを出せなかった俺の背中をリッツが盛大にぶっ叩く。
「ぐほっ!」
「ほうほう、グホ公園ね。で、それってどういう意味?」
「たっ、ただ咳き込んだだけだよっ!」
ニヤニヤと笑うコラスに俺は言う。
「ほらほら、遊んでないで行きますよ」
「ジミーさん、あんまり部長を煩わせないように」
ラインハートに続いてケイトが俺に言う。
ちくしょー、なんで俺が怒られなきゃいけねーんだ。
コラスを睨むが、当の本人は軽い足取りでケイトの後に続いている。
ちぇっ、どうも分が悪いなあ。
「グズグズしてると置いてくぞ!」
「ふぇーい、待ってよー」
リッツに喝を入れられた俺は情けない声を出して小走りで皆を追いかけるのだった。
皆に続いてのどかな田舎道を歩いていると前方に可愛らしいバラの垣根とフラワーアーチが見えて来た。
「見えてきましたよ、あれがスライムの姫公園です」
ラインハートが手帳を見ながら言う。
別に手帳見なくてもでもわかるだろうに。
「あら、かわいらしい、まるで童話の中の世界みたいですわ」
アーチャーが珍しく乙女チックな事を言う。
「あ~、喉乾いちゃった。早く最高峰ミルク飲みに行こーよー」
「記念碑広場に売店があるそうですから、そこへ向かいましょう」
のんきな事を言うコラスにラインハートが眼鏡をクイと上げ答える。
ラインハートのこの出来る秘書的なキャラは、コラスの我がままリクエストに応えているうちに形成されたのかも知らんなあ。
有能秘書ラインハートの案内で公園内を歩き、大きな石板みたいな物が置いてある広場へやって来た俺達。
「ふへ~、でっけー石板だなあ。あれが記念碑?」
俺は広場の中央に置かれた石板を見上げて言った。
石板は高さ三メートル、横幅五メートルはあるだろうか?ざっと見て中型のバス位はありそうだった。
「まずはミルク!それ行け最高峰!」
コラスはそう言って売店に走って行った。
「仕方ないやっちゃなあ」
「まあ、いいじゃないか。まずは一息ついて、それから改めて調べれば、だろ?」
ぼやく俺の肩をガッチリつかんで男前なスマイルを浮かべるリッツ。
うーん、なんだか頼れるアニキ風がビンビンと吹きつけられるぜ。
俺はリッツのアニキ風に押されて一緒に売店に行く。
まあアニキがそう言うならいっかとなってる自分がいる。
恐るべしリッツ。
「なんだかんだ言って、めっちゃ吟味してるじゃないさ」
メニューとにらめっこしてる俺に大きなジョッキを持ったコラスが言う。
「ああ、ちょっと商売の参考にしようかと思って、ってお前、凄いなそれ?そんなに飲めるのかよ?」
俺はコラスの持ってるジョッキを二度見する。
ほとんどピッチャーくらいのサイズがあるぞ。
ピッチャーって普通二リットル弱入るからな。こいつは牛か?
「軽いもんだよ。なにしろ最高峰だからね、ングングングング、プハーーーーッ!最高峰!」
コラスはそう言って豪快にジョッキを煽った。
うひゃー、お腹痛くなりそーなんて思っていたら、ラインハート、リッツ、アーチャー、ヒューズの留学生組は皆、コラスと同じピッチャーサイズのジョッキを手に持っているのが見えた。
「スゲーな君達」
「ええ、ホントに」
思わず驚きの声が出る俺の横で同意するケイト。
「って、お前もそこそこデカイジョッキやないかい!」
ケイトが手に持っていたカップはビールの大ジョッキサイズだった。
「レギュラーサイズを頼んだらこれが出てきました。彼らが頼んだのはファミリーサイズで普通は家族でシェアする物だそうです」
「ファミリーサイズか。まあ、そうだろうな」
そんなものを腰に手を当てて風呂上がりの牛乳のようにゴクゴク飲んでる連中を見て、俺は空恐ろしくなる。
「ですが味は確かに絶品ですよ。これでレギュラーサイズと言うのも頷けます」
ケイトはそう言ってグイッとジョッキを傾けた。
「そうか、そんなに美味しいのか。なるほどねえ。うんうん、じゃあ、俺はアイスクリームで行くぜ!」
「なんでそうなるんですか!」
ケイトがツッコむ。
「あ!ぼーくも!」
空になったファミリーサイズジョッキを売店に返しに来たコラスが、アイスクリームを注文する俺を見てそう言った。
「まだ入るのかよ」
俺は呆れて言う。
「昔から言うっしょ?ミルクは別腹って」
「言わねーっての」
「アイスです。お待ちどうさまー」
売店のお姉さんが俺とコラスのやり取りに笑顔を浮かべながらアイスを手渡してくる。
「ありがとー」
俺は店員さんに料金を支払ってアイスを手に取る。
紙カップに入っていたのはしっかりとした固形のアイスクリームであった。
「よしよし、しっかりとアイスクリームだ。ムヒヒヒヒ」
俺は思わずほくそ笑み、付属の木べらでアイスをすくい一口食べる。
「ムホーーーーッ!!!メッサおーいしーーーーーー!!」
俺は驚いて思わず大きな声を出してしまった。
マジで美味い。
濃厚な味わい、しっかりとした食感、適度な解けっぷり、後味の残り方、どれをとっても最高のアイスクリームだった。
「どれどれ、うっうっうっ、うっまっーーーーーい!おいしすぐるぅぅぅぅぅ!」
同じく店員さんから受け取ったアイスを一口食べたコラスが大きな声を出す。
「ちょっと、私もお願いします」
「あ、私も」
それを見ていたラインハートとリッツが後に続き、アーチャー、ヒューズ、ケイトまでが同じくアイスクリームを注文した。
「美味しい!!」
「これは、まさに絶品ですね」
「最高じゃないかこれ!」
アーチャー、ヒューズ、リッツが笑顔で言う。
「これは、確かに素晴らしいですね。まるで舌の上でサラリと解ける極上の音楽のようです」
「ええ、固すぎず柔らかすぎず、まるで深い山の新雪のような舌ざわり。まさに官能的な体験と言えますね」
ケイトとラインハートが言う。
なんだ君達?女将を呼べ!なのか?しゃっきりポンなのか?
「なんだなんだ?」
「ママー、あれ食べたーい」
「すげー美味そうじゃね?」
「てか、めっちゃ可愛くない?あの人ら?」
「アイス食べればモテるって事か?」
「乗るしかねえ!この大波に!」
アイスを食べる俺たちを見て人がワラワラと押し寄せて来る。
「うっ、お店の迷惑になってしまいましたか」
「いや、かえって繁盛して良かったんじゃない?でも店の真ん前じゃあれだから、ちょっとズレよう」
申し訳なさそうな顔をするラインハートに俺はそう言う。
ワチャワチャしだした売店から少し離れた俺たちはアイスを食べながら石碑を見る事にしたのだった。




