新たなる仕事って素敵やん
「クスクス、大丈夫だとは思いますけど、念のために気を付けてと言う話しですよトモトモ。現在、ファルブリングカレッジも学園都市も最近の情勢を鑑みて警備体制を強固にしていますから、相手もそうそう手出しは出来ないでしょう。それに、そもそもこうした事は研究内容が発表前に外に漏れないように気を付けて行われる物ですからね。今回は尚の事、情報漏洩には気を払って行われる事でしょう」
「だよねだよね。そうだよね」
百パーセント、そうだよね?そうと言って?俺はすがるようにアルスちゃんに言う。
「ただ、こうした事は完全にとは行かない物ですから、こちらとしても念には念を入れておきたいのです。トモトモがお友達になってくれれば、不安のタネがひとつ減ります」
ふひゃー、やっぱりそうだよねえ。
人のやる事だもんなあ、百パーセントとは言えないよなあ。
「クルポンが一緒にいてくれるなら、僕は安心だなあ」
コラスがとぼけた事を言う。
「俺より強い癖に何言ってんだよまったく」
「いやあ、それは無いと思うよ実際の話し」
コラスが更にとぼけた事を言う。
「何を言ってんだよもう。身体能力も素早さも、術の威力もどう考えてもお前の方が上だよ。自分より強い奴をどうやって守れってんだよ」
俺はコラスに言ってやる。
ついでに言うならヴァンピールなんだから防御力も半端ねーだろうし、虫や動物をコントロールする技以外にも隠し玉は持ってるだろうし。
俺が守って貰う方じゃね?
「何言ってんの、はクルポンの方だよ。実際、君にこうして守って貰ってるじゃないさ。それにねクルポン。力と速さだけが強さじゃないでしょ?確か君は授業で武に大切なのは心だって言ってたんだよね?聞いたよ~、もう、格好いいんだからクルポンは~」
コラスが両手の平をくっつけて頬の横で倒しながら笑顔で言う。
むぐぐ、前に授業で横柄な教師に目をつけられみんなの前で変則的な模擬戦をさせられた時の事を誰かから聞きやがったな?くっそー、確かに言ったよ。
しかも術式で力と速さが手に入れば体術なんて使えなくても強くなれると言ってたフェロウズに、それは違うとまで言ってたよ俺は。
「フェロウズが言ってたぞ?クルースからは本当の強さを教えて貰ったって」
リッツが笑顔で言う。
こいつはフェロウズをハニトラでハメたってのに謝罪してからそこそこ仲良くなってやがんの。
フェロウズがああ見えて器のデカい男だってのもあるが、リッツはリッツでストレートに人の懐に入って来る力があるからなあ。リッツは人付き合いもパワータイプだよ。
「あなたの戦いぶりはエドさんから伺ってます。中近距離の対人戦ではかなりの腕とお聞きしました。なにより、非殺傷での制圧術と気配察知に長けているとか。これは、群衆の中で狙われる立場を考えると非常に頼りになる資質です」
「頼りにしてますよクルース氏」
アーチャーとヒューズまでがそんな事を言う。
まあ、確かに俺が最も得意としてるのは風魔法の空気弾に帯電させた空雷弾だ。
こいつばかり使う理由は出来れば殺しはしたくないってのが一番だが、流れ弾の心配が減る事や非殺傷で無力化出来る事による心理的な軽さによるものが大きい。つまり気軽に撃てるって事だ。
それが戦う上で少なくないメリットにつながってる自覚は俺も持っていた。
コラス達は俺の戦い方からそこまで見抜いたって事か。
う~む、やっぱり俺が守る必要なさそうなんすけど?
どうにも釈然としないままコラス達を見る。
コラスはいつものようにニコニコしており、リッツ、アーチャー、ヒューズもなんの不安もないような顔をしている。
「そこでひとつ、私から提案があるのですがよろしいですか?」
ラインハートがメモ帳を片手にスッと挙手をする。
「なんでしょうか?」
アルスちゃんが穏やかに問う。
「現在、私達はマスターホフスの元で臨時のお助け隊としてクルース君と共に動いておりますが、それも本メンバーが帰って来るまでの事となります。そこで提案なのですが、私達とクルース君とで新たな組織を立ち上げるのは如何であろうかと」
ラインハートはメモ帳を見ながらそう言った後に俺を見て眼鏡をクイっと上げた。
「新たな組織?なんだか剣呑な響きだがクラブ活動の事だよな?だったら、マスターホフスのお助け隊で一緒にやれば良いんじゃないか?」
「それでは何かあった時にお助け隊の皆さんに迷惑がかかってしまいます」
「いやあ、あいつらもかなりの腕前だし話せば力になってくれると思うよ?」
俺はラインハートに答える。ちゅーかファルブリング精霊何でもやります団、略してファリマス団が正式名称だったはずだが?まあ、その名前で呼ぶ人は数少ないのでいいとするか。実際、俺も呼びにくいとは思ってたし。
「あいつはバカが付くほどのお人好しだ。だからこそ巻き込みたくない」
リッツが力強く言った。
まあ、そうだよなあ。フェロウズなんかは特に自分の身体を張ってでも助けちまうだろうなあ。
そんな風にフェロウズの事をわかって思ってくれるのは正直嬉しいぜ。
フェロウズって奴は普段は強気な事言ったり、意地張って間抜けな姿さらしたりしちゃうけども根はとことん優しい奴だからなあ。
生徒達の中にはあいつのそこんとこが見抜けず、ただただ軽んじるだけの者も少なくないからな。
「なるほどな、わかったよ。で?何をするってんだ?」
「よくぞ聞いてくれました」
ラインハートが胸を張って眼鏡を上げる。
いや、早く話してくれって。
この人、有能秘書タイプかと思っていたが結構天然ポンコツタイプなのだろうか?
だとしたら、温い目で見てあげねばなるまい。
「なんですその目は?どこか憐憫を感じるのですが?」
「うっ、気のせいでしょ」
こんな所で有能キャラ発揮してどないするんじゃ。
俺は焦ってとぼける。
「ではそう言う事にしておきましょう。話を戻して新たな組織についてですが」
ラインハートがそう言ってチラリとコラス達を見る。
するとコラス達は一斉に自分の太ももをパシパシとリズムよく叩きだした。
ムムムッ、こりゃあドラムロールか!
こやつなかなかやりおる!
「パシンッ!」
コラス達の太ももクラッピングドラムロールが止まる。
「教えてバッグゼッド文化!バッグゼッドの事なら何でも知りたい!そのためなら不可能でも可能にしてみせる、どこにでも現れ何でもやってのける!我らバッグゼッド文化研究野郎スペシャルチーム!」
「「「「わーーーー、パチパチパチパチ」」」」
コラス、リッツ、アーチャー、ヒューズのやる気のない声と拍手が室内にむなしく響く。
「なんすか?それ?女子も多いのに野郎?」
俺は思わず聞き返す。
ちなみに野郎の対義語は女郎だがほとんど聞いた事がない。さらにちなみのちなみだが、前世では野郎って言葉は元々は月代というヘアーカットをした男を指す言葉だったが後に男性への蔑称として使用される事になり、俺の世代なんかだと蔑称としての意味も薄れ、男くさい、ザ・男といった意味合いが強くなりその後、ほとんど聞かれない言葉となってしまった。
だもんで俺のような心はおっさんの人間にとっては懐かしくもワクワクするような響きではある。
嫌いじゃないぜ野郎。
ヒューズは色男だからそのルックスを生かしてなんでも調達する係ね、下着から術式兵器までなんでも揃えて見せてくれ。リッツはマッチョだから装備の修理係ね、でも魔導飛行船だけは勘弁な。コラスは奇行が目立つからなんでも操縦する係、奇人変人?だからなに?とくればラインハートは作戦立案指揮係だなあ。ラインハートのような天才じゃなければ百戦錬磨の強者どものリーダーは務まらん!動くなよ!弾が外れるから!って中の人に引っ張られちまった。
「て、待てよ?それじゃあ俺とアーチャーはどうすりゃいいんだよ?」
「いきなり何を言っているのですかあなたは?」
一瞬の間に色んな妄想が脳内で走り回っていた俺の口から思わずほとばしった妄想の欠片に、アーチャーは困惑した表情を見せる。
「いやー、なに?クルポン、わたしというものがありながら、しどい、しどいわぁー」
コラスが笑って俺を冷やかす。
「す、すまん。ついラインハートさんのつけたチーム名に興奮してしまって」
「そんなに衝撃を受けて頂けると私も必死で考えた甲斐があると言うものです」
「必死で考えたんかい」
俺は小声でツッコむ。
「コホン。では改めましてバッグゼッド文化研究野郎スペシャルチーム、略して文研チームの活動内容ですが」
随分な略し方だなあ。
「バッグゼッドの食、産業、行事など、あらゆる文化を知るためにその道のエキスパートに話しを聞かせて頂き、できれば実際に体験してみる。そしてその事を学内で発表しファルブリングカレッジの生徒にも自国の事をより身近に知って貰おう!という非常に意義深い内容となっております」
なんだか急にバラエティー番組っぽくなってきたぞ?
それはそれで面白そうだけども。
「確かに自国の文化って意外と知らなかったりする事あるもんなあ。自分の国の事だから当たり前すぎて目を向けなかったりして廃れつつあるけど、実は世界的に見れば注目すべき技術だったり、これからの世界にこそフィットする考え方だったりって事は結構ありそうだよねえ」
俺はラインハートに言う。
前世でもそうした文化は沢山あった。
すでに廃れて若者からは見向きもされず後継者がいないので自分の代で廃業だ、なんていう腕の良い職人さんの元に、その文化に興味を持った外国の人が弟子入りするなんて話しも聞いたもんだ。
故きを温ねて新しきを知る。
昔の技術や考え方ってのは、現代でも通じるというよりも現代だからこそ見つめ直した方が良い場合があるからな。
前世だとやっぱりエコロジカルな分野でそれを強く感じたなあ。
「私が言いたいのはまさにそれです!さすがクルース君!目の付け所がクルース君です!」
ラインハートがビシッと俺を指差して言う。
どこかの企業のキャッチコピーじゃないんだから。
でも褒められてちょっと嬉しかったりするのだった。




