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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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家族の絆を強めるディナーって素敵やん

 「え、え、え?ちょっと待ってくれハワード。夕食に招待って、親御さんはどう言ってるんだ?」


 突然ハワードから夕食に招待された俺は、なんとかその言葉をひねり出した。

 いくら聡明だと言ってもハワードは子供だ。そしてご両親は地位も財もある高名な人物である。

 ちょっと子供と遊んだだけのどこの馬の骨とも知らない学生を自宅に招くなんてあり得ないだろ。


 「パパが是非来てもらいなさいって」


 ハワードは満面の笑みを浮かべて言う。


 「いや、それはどうだ?お父さん、忙しいんじゃないのか?ちゅーか、俺の事、怪しんでたんじゃないか?」


「ううん、クルースさんから出して貰った問題をね、パパとママに出したんだ。そしたらね、パパが面白がってさ、誰に教わったんだって聞くんだ。だからクルースさんから教わったって言ったら、是非会いたいから夕食に招待しなさいって」


「え~?なんでそうなんの~?」


俺は事情がさっぱり呑み込めず混迷を深めた。


「いいじゃない、行ってあげなよ」


コラスが軽い調子で言う。この野郎、他人事だと思って面白がってやがんな。

よーし、わかった。ならば巻き込んじゃる。


「そしたらさ、友達が一緒でもいいかな?ほら、俺一人だけご馳走になるのも悪いからさ」


俺はハワードに尋ねる。


「うん、大丈夫だよ!クルースさんと一緒に草むしりしてる人がいるって言ったら、良ければその人達も一緒に招待しなさいって言われたから。あっ!そうだった、そう言われてたんだった!」


自分で言いながら掘り起こされた記憶に驚くハワード。はははっ、子供ってかわいいね、って言っとる場合か。

ハワードのお父さんは農水大臣の懐刀と言われる大物だ。そして、今、彼の周辺は色々な問題が山積みになっている状態である。

そんな中でのご招待って、どんな意図があるのだか考えるだに恐ろしい。


「どうしよう?」


 俺はビビッてコラス達に尋ねる。


「どうしようじゃないでしょ、人を巻き込んどいて。これでご招待を断るのは失礼過ぎるでしょ」


「そうですよクルースさん。ここまで言ってくれているのですから、ここは行かないと言う選択肢はありませんよ」


「ああ、まったくだ」


コラス、アーチャー、リッツの順に俺に言う。


「じゃあ、決りね!」


喜ぶハワード。

そんな訳で、俺達四人はハワードの招待に応じることになったのだった。もう、知らないぞ?

ハワードに案内された屋敷は大きくはあったが思っていたほど豪華ではなかった。

自己の利益よりも国益を考えると評判の農水大臣から厚い信頼を寄せられる人物の家っぽいと言えば言える。


「ただいまー!」


「お帰りなさいませ」


ハワードは元気良く入り口のトビラを開けると初老の女性が上品な口調で出迎える。


「パパとママは?」


「お帰りですよ。食堂でお待ちになられています」


「ありがとうニーテさん」


「いつも言っておりますが、ニーテとお呼び頂いて結構でございますよ坊ちゃま」


「わかったよニーテさん」


ハワードが答えニーテは表情を変えずに頷く。

うーん、なるほど。

このニーテさんと言う人は悪い人じゃあないんだろうけど、真面目過ぎるようだな。

両親は忙しく構ってもらえないハワードは、お手伝いさんにもっとフレンドリーに接して貰いたい。

だがニーテさんは真面目に仕事として一線を引いている。

ハワードを見る目は決して冷たいものじゃなかったから、昔なにかあってそれ以来、一線を引くようになったのかも知れないね。

これから会ってみないとわからないが、ハワードの親が子供とお手伝いさんがフレンドリーに接する事を許さないタイプなのかどうかにもよるが、許すタイプなら自然に対応は柔らかくなりそうだけどな。

なにしろハワードはかわいいし人懐っこいからな。

かわいい子供に懐かれて冷たく接し続けるなんて普通はしんどいだろうからなあ。


「こっちこっち!早く来て!」


ハワードは嬉しそうに言う。

コラスとアーチャーが加わった事でハワードのテンションは更にパワーアップしてるみたいだ。

なんだか親戚の集まりで大はしゃぎする子供みたいで微笑ましいよ。


「……じじゃないんです!」

「いや、同じようなものだ。今日くらいは楽しく過ごせないのか」

「それはあなたでしょ?不機嫌が顔に出てますからね!」

「だから、そんなに大きな声を出すなと言っているのだ」

「命令するのですか!」

「いや、お客さんが来るのだから」


「たっだいまっーーー!!」


男女の言い争う声が漏れるトビラをハワードは殊更元気良く、大きな声を上げて開けた。

この歳でこういう気を使える子なんだよ、この子は。

コラス達を見ると眉をしかめていた。

皆、トビラを開ける直前に見せたハワードの悲しそうな表情を見逃さなかったんだろう。

いつもヘラヘラしているコラスも珍しく真顔になっていた。普段、ニコニコしてる人の真顔って怖いよ。目が深い闇みたいになってるし。


「…れたよっ!ねえ?なにしてるの?早く!早く!」


両親になにやら説明していたハワードが俺達を見て言う。


「ほら、クルポン」


コラスが俺の背中を突っつく。


「あ、ああ、ごめん」


俺は歩みを進めて室内に入る。


「気持ちはわかるけど、顔に出しちゃダメだよ」


コラスが耳元でささやく。


「ワリー、気を付けるよ」


俺はコラスに小声で答えにこやかな表情を心掛ける。


「この度はご招待いただきましてありがとうございます。ファルブリングカレッジのトモ・クルースと申します。こちらは、エグバード王国からの留学生で友人の」


「エドアール・コラスです。お招き感謝致します」

「ジェニー・アーチャーです」

「ミーリーン・リッツです」


三人は俺の言葉を継いで華麗に礼をする。


「あら」


夫人がそれを見て表情を柔らかくする。う~む、コラスの野郎、いつものぼんやりヘラヘラフェイスからイケメン爽やか微笑みフェイスに切り替えてやがる。器用なやっちゃ。


「これは丁寧なあいさつ痛み入る。ハワードの父のギャビン・ハリスだ。こちらは妻の」

「マカナミです。ハワードがお世話になったみたいでどうもありがとうね。ハワードったらあんまり嬉しそうに言うものだから、でしたら是非、夕食にご招待なさいなと言ったのですよ」


父ギャビンの言葉を奪うようにまくしたてる母マカナミ。

ギャビンは渋い顔をするがぐっとこらえて笑顔に戻った。なかなかできた人物のようだが、ハワードが言うように夫婦関係はあまり良好とは言えないようだな。

俺達はギャビン氏に促されて席に着いた。

ギャビン氏は聞いた話だと二十六歳だって話だが、立派なひげを蓄えて貫禄があるのでもう少し年上に見える。

これはやっぱりあれだろうな、ギャビン氏がいる世界ってのが権謀術数に満ちた場所だから年齢でなめられないように貫録を出すべく気を配っているんだろうな。

マカナミ氏の方は年齢は知らないが華やかな服装にボリューミーで派手な髪形、流行のメイクでとても若く見える。実際に年の離れた夫婦なのかも知れないが、普通に考えれば旦那の仕事柄オフィシャルな装いに振りそうなものだ。

サイマーに聞いた話だと、マカナミ氏は慈善家として有名で社交界では名が知られているって話だった。

なぜ社交界で?と疑問に思ったがサイマーの話によれば、社交界の華と言われるルナリ公国元首の三女で皇帝の四男の妻であるイゼベリータが大の慈善家との事で、彼女に取り入るために熱心にやっているのだろうという事だった。

まあ、動機はどうあれ良い事をしてるならいいじゃないか、やらぬ善よりやる偽善と言うではないかと俺なんかは呑気に思っていたが、それで家庭がギクシャクしちゃうんじゃあ問題だよなあ。

夫人の慈善活動や社交界での知名度はギャビン氏の仕事の役にも立っているだろうから、ギャビン氏も痛し痒しと言ったところじゃないかというのはサイマーの意見。

なるほどねえ。

なかなか難しい問題でもあるなあこれは。

子供に家族に愛情を注ぐってのは大切な事だが、それも飯が食えて生活が成り立つのが前提だ。

勿論、厳しい生活でもお互いを支え合って精一杯生きてらっしゃる立派な方々も多くいる。

だが、この方々は貴族だ。

今更、そんな生活に戻る事は到底できまい。

それにギャビン氏の仕事は国の存続にかかわる大切な仕事だ。

元から、夫婦や家族の事情ってのは迂闊に他人が口出すべきじゃないからな。

ふう、ちょっと気が重くなるが気を取り直せ俺。にこやかににこやかに。ハワードを見ろ、一所懸命、場を盛り上げようとしてるじゃないか。

子供のハワードに気を使わせてどうするんだ。

俺は運ばれてきた食前酒を一口飲み、気合を入れる。


「はっはっは、そうそう。その問題には見事にしてやられた。クルース君はレインザー王国の出身だったね?レインザーではこうしたものが流行っているのかい?」


「いやー、そう言う訳でもないんですが、個人的にこうした話が好きでして」


ハワードの話を聞いて愉快そうに笑うギャビン氏に答える。


「非常に興味深いねえ。こうした発想は、なかなかできないものだ。私の周りにこんな発想ができるものがいてくれたら助かるんだけどなあ」


「僕が大きくなったらパパのお仕事手伝うよ!それまでいっぱい問題出してねクルースさん!」


ギャビン氏の話にけなげな事を言うハワード。ええ話やないか。


「ああ、また面白い問題を出してあげるよ」


「クルース君はケイトモ商会の創設者なんだってね。ワットモウでの事は語り草になっているよ」


 ハワードに答える俺にギャビン氏がいきなり切り込んで来た。

 唐突にブッコんで来たなあ。


「いや、そんなたいしたことは」


「謙遜なさらずに。ワットモウのギャビン王子とは同じ名を持つ者という事で特別親しくさせて頂いているんだ。王子から聞いたよ、お茶の国の話は非常に興味深かったとおっしゃられていた」


ギャビン氏が言っているのはワットモウで第二王子に俺が話した事だ。


「なんですの?お茶の国のお話しって?私も聞きたいわ」


マカナミ夫人がギャビン氏に甘えるような口調で言う。


「ワットモウ王国が交易で栄えてきた国だという事は知っているだろ?クルース君は王子にこう言ったそうだよ、諸外国は自国のお金がワットモウに行くばかりでは不満が募ると。それで王子に聞かせたのがお茶の国の話でね…」


ギャビン氏は話し出す。

俺がワットモウの第二王子に話した事、それは前世の清とイギリス間で行われたアヘン戦争の話だ。

イギリスは清のお茶を買うために銀を大量に使ったが、代わりにイギリスが清に売って銀を得るような手段がなかった。銀の枯渇を恐れたイギリスは清にアヘンを密輸しそれで茶のために支払った銀を回収したのだ。

元々アヘンを禁じていた清は怒り、アヘンの使用売買について厳罰を課し国内でのアヘン蔓延を防ぐことで銀の流出を防ごうとしたが、それを不満に思ったイギリスは強引な理屈をつけて戦争を仕掛けて来たのだ。

結果、清はメッタメタにやらられた上に不平等な条約を結ばせられる事になる。

しかも質が悪いことにイギリス以外の国もその不平等条約に乗っかる始末で、清はほぼ植民地化してしまうのだった。


「…と、そんな事が実際に起きたと言うんだよ」


「まあ、なんて事でしょう!そんな酷い事が許されるのですか、あなた?」


「我が国が植民地主義を手放したのはこうした蛮行を許さないためという側面もあるのだよ」


「やはりバッグゼッドは進んでますのね」


マカナミ夫人はうっとりしたような表情でギャビン氏を見つめる。

お?なんだなんだ?いい感じじゃないの。

夫婦仲が深まった事を肌で感じたのかハワードがホクホクした顔をしている。

こりゃ、あれか?ギャビン氏は家で、と言うか夫人に仕事の事を詳しく話したりしてなかったのかな?まあ、立場上、話せない事なんかもあるんだろうけど、普段ギャビン氏がどんな事をやっているのか、どんなやりがいがあるのか、どんな問題があるのか、そんな話を家族に話す事は悪い事じゃないと俺は思うけどね。

そうする事で、ただ忙しくして家族をあまり構わないだけじゃないって事も理解できると思うし、本気で向き合おうとしてくれているんだなってのも伝わると思うんだ。


「更にクルース君は労働こそが富だと王子に言ったそうだよ」


「労働が富みですか?なぜ?」


「国民を豊かにさせるためには自国に外貨を貯めるより、どんどん他国から輸入してその品を国民に消費して貰うほうが良い事もあるんだ。金は流動してこそ。あくまで輸出は必要な外貨を獲得するための手段であって手段を目的にしてはいけない、そう王子に言ったんだったねクルース君?」


夫人に問われたギャビン氏はそう答え俺に話を振った。


「ええ、確かにそう言いました」


「私もまったくもってそう思うんだよ。自分の国だけ豊かになれば良いという時代は終わったんだ。これからは諸外国と足並みをそろえて助け合い、調整して皆で豊かになる必要があるんだ。お前がやっている事は、そうした面から見てもとても立派な事だ事だと思うよ」


「まあ」


ギャビン氏に言われて頬を赤らめる夫人。そうそう、ギャビンさん。そういう小さなありがとうが大切よ。


「ところがそれをわかっていない者がまだまだこの国には多すぎる。しかも、だ。自国だけ豊かにどころか、自分とその身内だけ豊かになれば良いという考えのものがいるのはまったくもって許しがたい!同じバックゼッド貴族として恥ずかしい限りだよ」


ギャビン氏の声のトーンが上がって行く。おや?こりゃあ、例の農水大臣の甥っ子の事か?


「そうは思わないかね?皆さん?」


ギャビン氏は話していて自分のテンションが上がってしまったのに気づいたのか、ワインを一口飲み落ち着いた口調で言った。


「確かにおっしゃる通りですね。力を持った者が国益よりも自らの経済活動の利益を実現しようとすれば国も民も苦しむ事になりますからね」


「わかってくれるかね」


「ええ、ギャビンさんは特にそうしたお仕事に関わってらっしゃるとお聞きしていますので、ご苦労が多くおありだろうと思います」


「そう言ってもらえるとありがたい。私の仕事は帝国民の生活を守り、より良い生活を送って貰う、そのためにある仕事だと自負している。私の上役も私以上にそうした思いの強い方だ。そんな立派な方の親戚がなぜあのような私利私欲に目がくらみっぱなしの男なのか、不思議でならなんよ」


「あなた」


「ああ、言い過ぎたな。すまんすまん、空気が悪くなってしまったかな?」


「いえいえ、非常に興味深い話しです。我が国も他人事ではありませんからね」


夫人に注意され気を取り直したギャビン氏にコラスが答える。


「ほう?エグバード王国でもかね?エグバート人はとても効率を重視すると聞くが、こうした事は非効率的ではないかね?」


「エグバート人は家族をとても大切にしますので、やはりそうした話は良く聞きました」


「ほう、エグバードではそうした事にはどう対処しているんだい?」


「エグバードでも問題になっていましてね…」


ギャビン氏とコラスの会話が弾みだした。

夫人はコラスとギャビン氏の話に興味深そうに耳を傾け、ハワードは運ばれてきた食事の美味しい食べ方をリッツとアーチャーに指南している。

夕食会はいい感じに温まってきたぞ。


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