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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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適材適所は適当にって素敵やん

 「それで、今日のお仕事はなんだっけ?」


 「どうもあなたは真剣さが足りませんね。少しはエドさんを見習ったらいかがです?」


 俺の問に長身グラマー美人アーチャーが言う。


 「コラスのどこに真剣さがあるんだ?」


 俺は横でヘラヘラしてるコラスを見る。


 「やだなあクルポン、僕の事はコラポンって呼んでって言ってるじゃない」


 コラスは笑う。

 これをどう見習えと?


 「おいクルース!コラポンと呼べって言ってるだろ!」


 マッチョ美人のリッツが俺の背中をバチンと叩きながら言う。


 「いって!いったいよーリッツさーん」


 「男のくせに情けない声を出すな!ホントは大して効いてないだろっ!」


 リッツはそう言ってまた俺の背中を叩く。


 「勘弁してよ、マジで効いてるっちゅーの。コラスも止めろよっ!」


 「コラポンなっ!おい!」


 リッツが俺の頭を鷲掴みする。


 「ううっ、コラポンさん、やめさせて下さいよ~」


 「え~、ミーちゃんに絡まれて嬉しそうじゃないのさ~」


 頭を掴まれたまま言う俺にこれまた楽しそうに答えるコラス。ちなみにミーちゃんってのは、ミーリーン・リッツの事である。アーチャーはジェニー・アーチャーでコラスはジェニちゃんと呼んでいる。

 この辺の気安い呼び方といい、女子二人のコラスを妙に立てた態度といい、やはりどこか怪しい雰囲気を醸し出している。


 「嬉しくねーちゅーの!頭が歪むわっ!」


 「大袈裟な事、言うなよ!」


 「ふんがっ」


 リッツに頭頂部をグンッと押されて思わず声が出る俺。我ながら情けない。


 「きゃははは!おもろー!おもろだよクルポン!」


 「そっすか?もう一度やりますか?」


 「やめんかっ!」


 笑うコラスにアンコールをしようか聞くリッツ。俺はふたりにツッコんどく。


 「いやー、やっぱクルポンおもろだわー。そんで、今日のお仕事はなんだっけ?」

 

 「はい、今日は猫探し、草むしり、ネズミ退治ですね」


 コラスの問に答えるアーチャー。


 「なんだよ、俺ん時は真剣さが足りないとか言ってた癖にー」


 俺はアーチャーに不満を言う。


 「男が小さい事気にすんな!」


 「ぶほっ」


 リッツに背中をぶっ叩かれて思わず吹き出してしまう。


 「じゃあ、どうする~?手分けする~?」


 「そうだな、それぞれ得意な奴をやった方がいいな。コラっ、コラポンは虫系強いからネズミか?」


 リッツの肩に力が入ったのを察知した俺は咄嗟にコラポンと言い換えた。我ながらナイス反射神経と褒めたいね。

 

 「そうだねえ、じゃあ僕がネズミ退治、ミーちゃんは猫探し、ジェニちゃんとクラポンは草むしりでどう?」


 「いいのか?俺んとこだけふたりで?」


 「いいのいいの、適材適所、ね?そんじゃあ、終わったらニーライカーナで待ち合わせね。一番遅かった人の驕りねー!」


 コラスはニコニコしながらそう言って去って行った。

 ニーライカーナってのはミルク系の酒を多く取り揃えているお店だ。

 

 「では、後ほど」


 すっと伸びた背筋に洗練された仕草で立ち去るアーチャー。向かう先は猫探しなんだけどね。


 「ほんじゃあ、行きまっか」


 「ああ、ゆっくりいこう」


 「なんで?早く行って早く終わらせないと驕りになっちゃうぞ?」


 俺はリッツに問う。


 「だから遅く行くんだよ。エドさんに持たせるわけにいかないだろうが」


 「お前らってコラポンの事をリーダーとして随分信頼してんのな」


 「信頼?それ以上だよ」


 リッツはどこか誇らしげにそう言った。

 どういう関係性なんだろうなこいつらは。ちょっと気になるが、まあ、つきあってりゃおいおい見えて来るだろう。

 

 「しっかし、俺達だけふたりでいいのかね?猫探しの方が人手がいるんじゃないか?」


 「適材適所といったろ?あれはジェニーの得意分野なのさ」


 「ふーん、じゃあ草むしりはリッツさんの得意分野なのか?」


 俺はリッツに尋ねる。


 「こっちは体力勝負だからな。エドさんが言ってたぞ、クルポンは良く働くって」


 リッツが俺を見て言う。いや、良く働くって言われてもな。あいつといる時の俺の動きなんてな、全部巻き込まれてそうせざるを得なかったってだけだしなあ。俺は本来、仕事は嫌いなんだよ。前世でも仕事辞めた時に貯金があれば極貧生活をしててでも無職を続けたもんだ。

 どこまで食費を減らせるかがポイントなんだよな。飯は美味くないほうが少ない量で満腹感を得られるんだよな。

 飯が美味くないと食欲もわき辛くなるし一石二鳥だった。まあ、食欲はわき辛くなるが空腹にはなるからなあ、冬とか寒い時期は切ない気持ちになっちゃうのが難点だけどな。冬場は暖房つけないで過ごしたから尚更だった。

 でも仕事のストレスがない生活ってのは実に快適だった。

 

 「ほら、着いたぞ」


 うっかり昔の思い出に浸っていた所をリッツに現実に戻される。


 「着いたって、どこよ?」


 目の前にあるのは柵に囲まれた林だった。


 「どこって、目の前にあるだろうが」


 「目の前って、これ林だろ?林の草をむしるのかよ?」


 「正確に言えば草むしりってよりも下刈りだな。道具は中に置いてあるって話だったが」


 リッツは俺の驚きなど構わずに柵の中の林に入って行く。

 マジかよ?こりゃあ、キリがねーんじゃないか?池の水を全部抜くみたいな事だぞ?

 

 「あったあった。ほら、これ」


 リッツは木の根元に置いてあった木箱から鎌を取り出し俺に手渡してくる。


 「マジでやるのかよ?ウィンドカッターかなんかでやった方が速いんじゃないか?」


 俺は鎌を受け取りながらリッツに言う。

 林の広さはそこそこありそうだ。


 「お前なあ、下刈りってのは林の維持が目的なんだよ。そんな雑なことしてたら林がダメになっちまうだろーが」


 「うえー、なんでこんな林を維持しなきゃいけねーの?」


 「マスターホフスの話、聞いてなかったのか?ここの持ち主が身寄りのないお婆さんでな、ひとりで管理できないからって頼まれたんだよ。そういう時のためのお助け隊だろ?」


 リッツに言われて俺は何も返せなくなる。それを言われちゃ仕方ねー。


 「くれぐれも魔法を使うなよ?お婆さんの話じゃ近所の子供の遊び場になってるらしいからな。子供に怪我でもさせたら大変だからな」


 リッツは木箱の中からノコギリとナタが装着されたベルトを腰につけながら俺に言う。


 「なんだよ、枝打ちやんのかよ?だったら俺がそっちをやるぞ?」


 枝打ちってのは余分な枝や枯れた枝をナタやノコギリで除去する作業で、草刈りよりも力を使うし危険も伴う。

 そんな作業を女子に任せられんねーだろ。


 「枝打ちやった事、あるのかい?」


 「いや、あんまないけど」


 俺は正直に答える。


 「だったら任せときな。私はこういうの慣れてるからね」


 リッツは腰のベルトからノコギリを抜き刃を見る。


 「うん、手入れは行き届いてるね」


 ホントに慣れてるみたいだな。ここはリッツの言う通り任せちゃうか。


 「じゃあ任せるけど、怪我しないように気を付けろよ?」


 「なんだ心配してくれんのか?ありがたい話しだが、そういう事は私より腕が太くなってから言ってくれよなクルポン」


 リッツは腕をまくってグッと筋肉を盛り上げて笑う。

 ううっ、かっこよすぎる。そして俺、情けなさすぎる。


 「ふいーっす、俺が怪我しないように気を付けまーす」


 「はっはっは!そうしろそうしろ」


 リッツは豪快に笑った。

 ちぇっ。

 しゃーない、確かに適材適所だ。

 俺だって前世の仕事で施設の管理をやっていた時は良く草むしりをしたもんだ。

 よーし!やるぞー!

 俺は気合を入れて草むしりを始める。

 リッツの言っていたように道具の手入れは行き届いているようで、鎌の切れ味は非常に良い。

 鎌で草刈りするときのコツは振るんじゃなくて、草をつかんで鎌を引いて切る事だ。

 刃物ってのは基本、引いて切るものだ。

 ついつい刀を使うように勢いで叩き切りたくなっちまうが、それでは危ないし草のような繊維の集合体を一気に切るのは難しい。

 刃物部分をスライドさせるように切るのがコツだ。

 後は反復作業になるので一定のリズムでテンポよくやる事。そうする事で身体の疲労を抑える事ができる。

 そして大切なのは無理をしない事。

 堅くて切れない草束は二度に分けて切る、高い草も同じく二度に分けて切る。

 刃物を使った作業で疲れて来た時に横着したり無理すると思わぬ怪我に繋がるものだ。

 てなわけで俺は無理せず、テンポよく草を刈り続けた。

 こういう作業って、没頭しちまうね。

 

 「お兄さん、何やってんの?」


 「うおっ!」


 草刈りマシンと化していた俺は突然話しかけられて驚いてしまう。

 

 「何やってんの?」


 俺は声のした方を見る。そこに居たのは小さな男の子だった。

 年の頃は八歳くらいか?十歳には満たないくらいの幼い子供がつぶらな瞳で俺を見つめていた。

 

 「草むしりだよ。君はなにしてるのかな?」


 俺は男の子に尋ねる。


 「探検!」


 男の子はさらっさらの金髪おかっぱヘアーを揺らして元気良く言った。

 何この子?天使みたいやん。

 

 「そうかー、探検かー。凄いなあ」


 「うん!凄いでしょ!」


 男の子はフンスとばかりに鼻息荒く胸を張る。


 「凄いなあ。でも、もう夕方だしそろそろ家に帰った方がいいんじゃないか?」


 「帰ってもパパもママもいないからつまんない」


 男の子は口を尖らせる。着ている服を見ると中々上等な服のようだし、裕福な家庭のように思えるが。


 「家族はお仕事で忙しいのかい?」


 「うん、そう。だから探検してるの。お兄さんは草むしりの人なの?」


 「ホントは学生だよ。ファルブリングカレッジって知ってるかい?」


 「知ってる!僕も大きくなったら行くんだ!そんで、パパの仕事を手伝うんだー、そんでねそんでね…」


 男の子は俺の近くにしゃがみ込んで話し始める。

 めっちゃ人懐っこい子だなあ。

 俺は子供の動きに注意しながら草刈りを続け話を聞くのだった。


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