帰ってくる場所があるって素敵やん
マズヌルからノダハまでは馬車で帰ることにした。
エルミランドの壁向こうでやっていたような馬のレンタルサービス、レインザーでやってもいいかもね。
機会があればデンバーさんに話してみようかね。
ノダハに到着し久しぶりの事務所に着くと、事務所の隣りに大きな集合住宅のような長方形の建物ができていた。
なんぞ?
事務所に入るとシシリーが出迎えてくれる。
久方ぶりの再会を喜び、家に帰って来たなと実感していると奥からケインが現れ報告事項があると言う。
シシリーが出してくれたお茶を飲みながらケインの話を聞くことにした。
まず、となりに建設された集合住宅はみんなのための寮で我々の部屋も用意してあるのだと言う。
俺たちは、では家賃を払おうじゃないかと提案したのだが、元々この事務所も商売もトモさんの発案で出資だったわけで、今ようやくその利益を還元できるようになったのだから、住居くらいは遠慮しないで使って欲しいと、そんなことを言う。
まったく、立派になっちゃってオジサンは涙がちょちょ切れるよ。
俺たちはありがたく彼の申し出を受けることにした。
続けてオッドウェイ製造工房などの業務拡大報告、また空中ゴマのコマ部分の素材変更などの業務連絡を受けた。実際のコマを見せてもらったがゴムのような高い弾性と適度な重さがあり、これならばかなり高い位置から落ちても壊れることはないし回転の乗りもよさそうで理想的な素材だった。
植物の樹液と魔獣の素材を錬金加工したものだという事で、この材質自体、空中ゴマのコマ部分製造のために開発されたもので汎用性については、デンバーさんからいずれ相談に乗って欲しいと言付かっているとの事だった。
いや、これは馬車などのタイヤに使えますがな!原動機として簡易的でパワーも絞り危険性も低い魔導機関ができたら、ゆくゆくはバイクを作りたいねえ!
なんて夢が広がっていると、ケインから最後に大きな報告があると言うので俺もちょっと居住まいを正して聞くことにする。
「宣伝班に新たなメンバーが加わることになりまして、それは、トモさんも知っている人なのですが。」
「なに?誰よ?教えてよ?気になるじゃん!誰?誰?。」
「ちょっと、落ち着いて下さい、ちゃんと報告しますから。それはですね。」
「あーーっ!!トモちゃん帰ってきたーーー!!お帰りトモちゃん!おかともちゃーーん!!。」
事務所のトビラが開いて飛びついてきたのは、ハティーちゃんだった。
「もしかして?。」
「はい、ハティーちゃんです。歌唱担当で加入してもらうことになりました。」
「おおっー!!勿論、オウンジ氏の許可は取っているよね?。」
「はい、オウンジ氏は教会の他にデンバー商会と契約を結びまして、元発見者の方の心のケア方法を他の色々なことで傷つき苦しんでいる人のために役立てようと活動されてまして、それで一人にすることが増えてしまうハティちゃんを、ここに置いて何か仕事をさせて欲しいと頼まれたのです。それで、ハティちゃんに何かやりたい事があるか聞いてみると歌いたいと言うのでやって貰ったのですが。」
「うん。」
「大変な人気で。」
「ほーー!!やっぱり!!俺はハティちゃんには歌の才能があると思ったんだよねーー!!。」
「明日もチルデイマで公演があるんです。」
「凄いじゃん!!。」
「現在、この事務所での製造量は徐々に落として製造は専門の工房に任せていっています。その代わりに我々は宣伝や公演、技術指導に力を入れている所なんです。ああ、サラに関しては製品デザインの仕事もありますので、そちらが主体にはなっていますが。」
「なるほど。では公演には誰が行くんだい?。」
「明日の公演には全員で行きます。私とシシリー、サラは公演には参加しませんがゴゼファード公とデンバー商会の協力によって建てられた職業訓練学校の創立記念祝賀会ですので、関係者として出席します。トモさん達も出席して貰えると助かります。」
「そりゃ、勿論!出席しますとも!ねー、みんな?。」
「ええ、勿論。」
「楽しみだよ。」
「おう!行こう行こう!屋台も出るだろうな?楽しみな!。」
みんな一も二もなく賛成してくれる。
「良かった。先方さんがトモさん達と会って話がしたいと言われてたので、良かったです。」
「え?シシリー、先方さんってのは?。」
「学園の理事さんですよ。学校を作るにあたって私たちも何度かお会いして話をさせて頂いたんです。とても良い方ですよ。」
「へー、一体何の話だろう?。」
「元々はキワサカの奴がお主の立ち上げたこの事務所のやり方に感銘を受けたのが始まりだからな。そりゃそこの責任者もお主の話が聞きたかろうよ。」
キーケちゃんは何か含みのあるような笑顔で言う。
「えー?別に大して話すような事もないんだけどねえ。」
「向こうは聞きたいことや頼みたいことがあるのだろうよ。きひひひ。」
「また、キーケちゃんはなにか思い当たる節でもあるの?。」
「きひひひ、思い当たる節だらけだろうに。まあ良い。明日になればわかるだろうて。」
なんだろ、気にはなるけど、まあ、悪い事ではないだろうし明日実際に会って話を聞くまでのお楽しみとしますか。
「トモさーーん!おかえりーー!!。」
「あっ!!やっと帰ってきたんだね!お帰りなさい!!。」
「わー!今夜はパーティーだ!。」
「久しぶりの全員集合ですわねお兄様。」
「ああ、皆さんご無事で良かった。」
事務所のみんなも次々に帰ってきたようで一気に賑やかになる。
「それじゃあみんな、仕事道具を置いたら寮の食堂に集合ね!!。」
シシリーの呼びかけで皆、それぞれの場所に道具を置きワイワイ喋りながら事務所を出て行った。
「では皆さんお部屋までご案内しますね。」
「ああ、頼むよ。」
我々はシシリーの案内で事務所隣に建設された寮に向かった。
長方形の集合住宅は内部が区切られた個部屋になっており、りっぱな寮であった。
1階奥には広くて清潔な食堂があり、厨房にはおばちゃんがふたり威勢よくフライパンを振っていた。
この寮には事務所のみんな以外に一般への貸出部屋もあるそうで、そうした人もこの食堂は利用できる様になっているのだそうだ。
ちなみに、我が事務所の宣伝販売活動が功を奏したのかノダハに観光に来る人が増え、それに伴い飲食店やその他の商店も繁盛し、そうなると従業員数も増えるわけで移住者も増える、すると問題になるのが住宅事情。
その問題解決の一助として我が事務所で建てたのがこの集合住宅というわけだった。
1階2階が単身者向け、3階が家族向けの間取りになってるってんだから驚くよ。
マンション経営までやるとは、前世界なら夢の不労所得!って大喜びするところだよな。
しかしこの世界、前世界のように便利なものはない、ネットもゲームも映画もマンガも車もバイクもエアコンも無いけれど、仕事は楽しいし信頼できる仲間もいるし、夜はスッと寝られるし朝はすっきり起きられる、前世界より全然充実してるし健康だよ。
なんてしみじみと感じているのを知ってか知らずか、シシリーは我々を部屋に案内してくれた。
「皆さんの部屋はこちらになります。」
2階の部屋のドアにはネームプレートがあり、金文字で名前が記載されている。
「おっ!みんな近くだな!トモちゃんは隣りだな!。」
シエンちゃんが言うように、俺の部屋の隣りはシエンちゃん、そしてアルスちゃん、キーケちゃんの部屋と続いていた。
通路は大きめにとってあり、部屋は通路両脇に並ぶようにある。
俺の部屋の対面はケイン、隣りがシシリー、そして、シン、アンと続いていた。
「それでは皆さん、荷物を置いたら1階の食堂まで来て下さいね。」
シシリーはそう言って1階へ降りて行った。
自分の名前が表示された部屋のドアを開けて中に入る。
あー、部屋の中の家具はそのままにしてくれたんだな。
彼らが俺のために用意してくれた物、俺にとっては大切な家具だ。
そして、机の上には俺の名前が書かれたプレートが置かれている。
このプレートも俺にとっては大切な物だ。これを見ると、彼らが俺を家族と認めてくれたあの日のことが思い出される。
タンスを開けて巾着と手紙を確認する。これは、初めて冒険者登録をした時に自分に何かがあったら事務所の為に使って欲しいと書いた手紙と共にはぐれグリフォンの素材引き取り金を置いておいた物だった。
もう、こんな心配をしなくても大丈夫なんだろうな、なんて思ってふと手に取ると俺が書いた手紙ともう一枚手紙があった。
おや?
どういうことか、俺はその手紙を読む。
勝手に手紙を読んでしまってごめんなさい。家具を移動する際に見つけてしまいました。トモさんには沢山守ってもらいましたね。沢山心配させてしまった事でしょうね。ただただ感謝しかありません。
私たちにとって、今、一番大切なのは、家族で団結して暮らしていくことです。
私たちは、みんな家族です。
どこにいても、いつまでも家族です。
みんな同じ気持ちです。
どうか、無理をされないで下さいね。
シシリー
手紙にはそう書かれてあった。
俺はゆっくりとその手紙をたたみ、机の引き出しに大切にしまった。
そして、遺言ともとれるような、というかいざと言う時はそうなるように書いたのだが、とにかく、シシリーを心配させてしまった書き置きを、破いてゴミ箱に捨てた。
そして、ここが、こここそが自分の帰ってくる場所なんだ、と改めて強く実感した。
「おーーい!トモちゃんいるか!入るぞ!。」
しみじみ感慨にふけっていると賑やかな声がしてシエンちゃんが部屋に入ってきた。
「ありゃ?なんだ、トモちゃんの部屋の家具は地味だなあ。我の部屋に来てみよ!ほら!。」
シエンちゃんに引っ張られて隣りのシエンちゃんの部屋に行く。
シエンちゃんの部屋は、白を基調とした大人っぽいものながらガーリッシュなテイストのものだった。
家具やベッドは猫脚で部屋の雰囲気を柔らかい優美なものにしている。
「いいねえ、シエンちゃんにピッタリな大人カワイイ部屋だねえ。」
「だろ?だろ?ふふふーん。我にピッタリ!。」
「失礼しますよ。あら、トモトモ、こちらにおられましたか。うふふ、良いお部屋を用意して頂きましたねえ。わたしの部屋もとっても可愛いですよ。是非、見て下さいな。」
「おうおう!我の部屋に勝てるかな?。」
「いやシエンちゃん、こういうのは勝ち負けとかじゃないからねえ。」
「うふふ、ほらほら、おいでなさって下さいな。」
アルスちゃんに引っ張られて隣りの部屋へ入る。
「あら、カワイイじゃないのさー。」
思わずそう口にしてしまう全体が薄いピンクの室内は、天蓋付きのベッド、脚の太い小ぶりなイス、ふりふりしたレースのカーテンと可愛らしさ満載のお部屋だった。
「うふふ、年甲斐もなく可愛らしいお部屋を用意して頂いちゃいました。」
「いやいや、アルスちゃんにピッタリなお部屋だよ。」
「そうそう、アルスにピッタリな!キーケちゃんの所も行ってみよう!!。」
「おっ!行ってみっか?。」
「うふふ、そうですね、行ってみましょう。」
という事で皆でキーケちゃんの部屋に行くことになった。
「なんだなんだ、みんなして。とりあえず入れ。」
キーケちゃんは押しかけた我々を笑顔で迎え入れてくれる。
「おー!シャレてるじゃんさー!。」
キーケちゃんの部屋は薄いブルーの壁紙に、木のローテーブルに生成りのクロス、壁には棚があり花びらの入った小瓶が幾らか並び、全体的にシンプルながらウッディーなテイストでシャレオツなことこの上ない。
「そうかい?きひひ、ありがたい事よなあ。みんなの部屋とは違うのかい?。」
「うん、みんな違うよ。ひとりひとり、その人にあった部屋を用意してくれたみたいね。シエンちゃんもアルスちゃんもピッタリの部屋だったよ。キーケちゃんとこも、大人っぽい上品な可愛らしさがあってキーケちゃんにピッタリだよ。」
「そうかい、そうかい。お子達がそこまでしてくれたかい。ありがたい事よ。」
噛みしめるようにキーケちゃんは言った。
「さあ、食堂に行こうよ、みんな待ってるから。」
俺は3人に声をかける。
「そうだ、あまり待たせると悪いもんな。」
「うふふ、帰ってきたって感じがしますね。」
「きひひ、いいもんだなこういうのも。」
みんな言葉はそれぞれだけど、きっと同じことを思っているんじゃないかな。
ここにいるみんなが家族のようだって。




