またまた噂の男って素敵やん
「とにかくお願いね」
「ああ、任せとけよ」
ツィルマから、ジャーグル王国に隣国であるマズイヤ王国とカクルーン王国が侵攻する動きを見せている事を聞いた俺は、その情報を然るべき筋に伝えるべく魔導通信機へと急いだ。
学食の隅に置かれた魔導通信機で俺が最初に連絡したのはダーミット副長の所だった。
珍しく一発で繋がったダーミット副長に俺はツィルマから得た情報を伝えた。
「ありがとうございます、こちらで裏が取れたら関係各所に連絡しましょう。その情報は他に伝えましたか?」
「いえ、ダーミット副長が最初です」
俺は答える。
「それは良かった。この情報はあまり周囲に流さない方が良いでしょう。最近色々と続いたので民の間に不安が広がっています。確証が取れて我が国としての方針が決定し発表されるまではむやみに外へ漏らさないよう願います」
「ケイトモやボンパドゥ商会連合、うちのパーティーメンバーなんかにも話さない方が良いですか?」
「ボンパドゥさんには技術局経由で早い段階で伝わるでしょう。他はクルース君に任せますよ」
ダーミット副長が軽い感じで言う。いいのか?そんなに俺の事を信用して。俺はダーミット副長の答えに驚き一瞬言葉が詰まる。
「そんなに信用していいのかと思いましたか?」
ダーミット副長が俺の心を見透かしたような事を言う。
「ええ」
俺は正直に返事する。
「ふふっ、学園内には協力者もいますのでね。最悪、話が漏れても上手く処理できると思いますよ。まあ、協力者に力を借りるまでもなくクルース君は迂闊な事はしないと信じてますけどね」
ストームか。あいつはシャルドウトーラス関係で国家機関に協力してるからなあ、その時にスカウトされたか。いや、副長さんの口ぶりじゃあ他にもいそうだな。まあ、俺に敵対する存在じゃないし、むしろ味方みたいなもんだからいいか。
ダーミット副長は今回のエグバード王国留学生暗殺未遂を深刻な事件と捉え、関わった組織の大元まで押さえるように各所にはっぱをかけている所だと言う。特に大バックゼッド帝国中央覇道連合研究所のトップであるナシトダ子爵は、これまでも多くの事件への関与が疑われながらも貴族や大商会への影響力が強いため、あちらこちらから圧力や邪魔が入り無罪放免となっていたので、これを機会になんとかして引っ張りたいとダーミット副長にしては珍しく力が入った口調で言った。
「今回も色々と力添え感謝します」
「いや、こちらこそですよ」
俺は答える。
「いや、本当に助かってますよ。ただクルース君の名前がちらほらと聞かれるようにもなってきましたので注意して下さいね」
ダーミット副長が言う。はい?どこから?どんな評判で?疑問が頭の中を駆け巡る。
「えっ?どういう事です?」
「商会関係者からは、最近勢いのある新商会があるなと思えば後ろにひとりの少年の名前が出てくる、と言う話しを良く聞きます。まあ、これは特に心配はないと思うのですがね」
「他に心配になるようなのがあるって事ですか?」
もう、ダーミット副長~、じらさないで早く教えてよ~。グッドニュースバッドニュースじゃないんだからさ~。
俺はドキドキしながら続きを促す。
「ええ、裏社会の権力者や素行のよろしくない要注意貴族から聞く内容ですよ。ザ・ビッグフィクサーと呼ばれる大物が君に大きな借りがあると言っている、帝国に流れ込む違法薬物ボナコンの流通ルートを潰した、魔神降臨信奉集団を潰した、楽園城のピンチを救い万象会の大物に信頼されている、人身売買組織を幾つも潰している、モスマン族の高貴な血筋の武人を助け配下に置いている、レクーリュ硬貨に関わって生き残った……」
「もういいっす!スイマセン。勘弁して下さい」
「ふふっ」
つらつらと並べられて俺は怖くなって謝りダーミット副長が笑う。聞けば心当たりのある事ばかりだ。だけど。
「でもそれは、どれもこれも自分一人でやった事じゃないですよ?他に絡んでる連中もいるんですけど、そいつらにも注意喚起しといた方がいいですか?」
「それは大丈夫ですよ、君の名前しか聞きませんから」
「なんでです?おかしくないですか?」
俺はその理不尽に少しキレながら副長に尋ねる。なんでそんな厄介な連中にばっかり注目されんのよ俺?もっと、華やかな所から注目されたいよ。
「ふふっ、ご学友は皆、貴族ですからね。親御さんは大事な子供の評判には気を使うでしょう」
なんてこった。そう言う事か。
「今からでも、何とかなりませんかね?」
俺はダーミット副長にお願いする。
「さすがにこれだけ広まってしまうと難しいですね」
ダーミット副長の言葉を聞いて俺は頭を抱えた。
「まあ、そんなに落ち込まないで下さい。君はバッグゼッドの貴族ではないのですから、貴族の権力争いや裏組織に弱みを握られ便宜を図るよう強要されるような心配はないでしょう。ただ」
「ただ、なんです?」
「妙な所から気に入られて接触される事はあるかも知れません。クルース君に限って妙な組織に属する事もないでしょうが、変な関り方をすればトラブルに巻き込まれる事もあるかも知れませんので一応、忠告をしただけですよ。まあ、そう言っても君はトラブルに首を突っ込んでしまうのでしょうがね」
ダーミット副長がため息交じりに言う。
「いや、私だって好き好んで首を突っ込んでる訳じゃあないですよ」
「てっきり好き好んでだとばかり思ってましたよ」
「勘弁して下さい」
「ふふっ、冗談ですよ。ただ、あんまり名前が売れてしまうと君を紹介してくれという話が来ますのでね。私としては程々に願いますよ」
「わかりましたです」
俺はトホホと首を垂れながら通信機を切るのだった。
「なに暗い顔してんだよ!男だったら胸を張れ!ほら!」
ディアナが俺を見つけて背中をバチンと叩き叱咤激励してくれる。
「ありがとなディアナ」
俺は素直に感謝する。
「うわっ、こりゃ重症だな。飯奢ってやるから悩み事があるなら話してみ?」
「すんませんディアナさん」
俺は小さくなりながらディアナに着いて行く。今日はディアナが大きく見えるぜ。
ディアナはサクサクと注文すると開いてる席に座って先に受け取っていた飲み物のカップを俺に寄こした。
「で?どしたん?女子にいじめられたか?」
「いやあ、それがなあ」
俺はさっきダーミット副長から聞いた話をきかせる。
「てなわけで、どういう訳か俺の事が良くない筋で評判になってるらしいホントに嫌なんだけど」
俺は受け取ったカップの飲み物を一口飲む。お?ヤグー茶の炭酸割りか。
「ぷっ!今更かよ!そりゃそうなるだろ!つーか、モンコックのオッサンに頼めばいいんじゃない?そうすりゃうるさい事にはなんないんじゃないかい?」
「そりゃ余計マズい事になるだろ。万象会の大物だよ?噂に尾ひれがつくに決まってるっしょ」
「そりゃそうか。じゃあ、諦めな。考えてもどうにもならない事はクヨクヨ考えない!これが一番!あっ!料理が出来たみたいだ。取り行くぞジミー!」
「ウイッス」
おっとこまえな事を言うディアナに俺は返事をして席を立つ。
もうディアナ姉さんと呼ばせて貰おうかな。




