それぞれの後始末って素敵やん
「さてと、どうするクルポン?」
妄想に浸っていた俺にコラスが声をかける。
「ああ、そうだな。とりあえず衛兵さん達も来たみたいだし大丈夫だとは思うけど、一応、学園内を見回りしたいな。お前はどうするんだ?仲間なら多分、図書館にいるぞ?」
「そうだなあ、面白そうだからクルポンについてくよ」
「そうか?まあ、いいけどさ。デポイゼンさん、そんな訳で学園内の見回りに出ようと思いますが構いませんか?」
「ええ、構いません。また何か協力をお願いする事があるかもしれませんので、その時はよろしく頼みますね」
「はい、色々とありがとうございました」
俺はデポイゼンさんに感謝して応接室を出る。
廊下には衛兵さん達が歩き周っており、少しばかり物々しい雰囲気になっている。
「おーい!クルースくーん!無事かーい!」
廊下を歩いていると同じクラスのルグロが俺に声をかけて来た。
「おお、そっちこそ大丈夫か?ケガとかしてないか?」
「ああ、大丈夫だよ。生徒会とかが色々と動き回ってくれてたから、ケガ人は出てないと思うよ」
「魔物とか出てたけど、あれはどこいったんだ?」
「あれならエンポリオ先生とシエン先生があっという間に手なづけて、今は校舎裏にいるよ。飼うんだってさ」
ルグロが肩はすくめて言った。
「マジで?いや、学園で魔物を飼うとかさすがに無理っしょ?」
「エンポリオ先生もそう言ってたけどね。シエン先生はすぐに別の不審者見つけてそっちに行っちゃったからねえ。クランケル君とケイトさんも災難だよ」
「え?クランケルとケイトがどうかしたのか?」
「一緒に魔物を退治しようと校庭に出て来たとこをシエン先生に捕まってさ。手なづけた魔物を校舎裏につれてくように言われてた」
「おいおい、マジかよ。わかった、ありがとな!」
俺はルグロに感謝して廊下を走った。
「クルポンどこ行くのよ?」
ついて来るコラスが俺に尋ねる。
「今の聞いてなかったのかよ?校舎裏だよ校舎裏!」
「なんで?手なづけたんでしょ?だったら大丈夫じゃない?」
「いや、普通に考えて魔物を飼うなんて無理だろ?クランケルとケイトだって困ってると思うよ。シエンちゃんも無茶言うからなあ」
俺は頭を抱えたい気分で言った。
「そっか、シエン先生ってクルポンの冒険者仲間だったっけ。だったら責任とらなきゃだよねえ」
コラスが嬉しそうに笑って言う。
「だから走ってんだろうが。まったくお前はのんきでいいよ、俺の身にもなってくれよなあ」
俺はコラスに愚痴をこぼしながら校舎裏へと急いだ。
衛兵さんが来た事でひとまず厳戒態勢も解けたようで校内には生徒達が溢れ出ている。
「みんな平気っぽいねえ」
まるで何か楽しいイベント後のように笑顔で会話をしている生徒達を見てコラスが言う。
「何事も無きゃそれが一番だよ」
俺は言いながらも生徒達の浮かれ振りに少し呆れる。この辺、立ち直りが早いと言うのか、現実味がなくて喜んじゃってるって言うのか、なんにしても若者の逞しさを感じざるを得んな。
うん、バッグゼッドの未来は明るい、かも。
校舎裏に行くと生徒達の人だかりができている。
「なんか、かわいいかも」
「私も飼いたいなあ、ねだっちゃおうかなあ」
「でも、すぐにおっきくなっちゃうでしょ?」
「大きくならないやつにすればいいんじゃない?」
「ほら、見て。凄い懐いてる!」
「結構、賢いのねえ」
「あんたより賢いんじゃない?」
「うるさいわねえ!」
「参ったなこりゃ、ちょっとごめんなさいよ」
俺は集まった女生徒の間を潜り抜けて群れの向こう側に出る。
「これから、どうするんです?」
「それは私が聞きたいですよ。飼うと言っても餌はどうするんです?」
そこでは色々な魔物を前にクランケルとケイトが首をひねっていた。
「おい、災難だったな」
俺はクランケルとケイトに声をかける。
「ああ、ジミーさん、いい所に来ましたね。シエン先生がこの魔物達を飼うと言うのですが、さすがに無理があるのではないかと困ってまして」
ケイトがホッとした様子で言いクランケルも同じ気持ちだったようで俺を見て頷いた。
「待ってよ~クルポ~ン。どんどん行っちゃうんだもん、冷たいよな~」
女子生徒の波をかき分けてコラスがやって来た。
「コラスさん、あなたラインハートさんが探していましたよ?かなりお怒りの様でしたが、お会いになられましたか?」
コラスの姿を認めたケイトが声をかける。
「うえっ!?本当に?どれくらい怒ってた?」
「かなり怒ってましたよ」
「うへえ、こりゃマズいなあ。クルポンごめん!ちょっと身を隠すよ」
ケイトの話を聞いたコラスは慌てた様子で俺に言った。
「ちょっと待て!身を隠すってどうするんだよ?」
俺はまた女生徒の群れの中に潜ろうとするコラスに声をかける。
「ほとぼりが冷めるまでしばらく街を出ようかな」
「バカだなお前は、そりゃあ火に油を注ぐって奴だ」
「じゃあ、どうしろっての?レイアちゃんホントに怖いのよ?僕、死んじゃうかも、いいの?クルポン」
かわいい感じを出して言うコラス。こいつ、マジで真剣みの無いやっちゃで。
「女の子が怒ってる時は速攻で謝罪。とにかく言い訳しない事!後はなんかお詫びの菓子でも持参しろ。確か売店に贈答用の菓子折りがあったはずだ。金はあるよな?」
「いやあ、これ買っちゃったから」
コラスは背中に背負った巾着を俺に見せてテヘヘと笑う。かわいくねーっちゅーの!
「しょうがねーなー、ほんじゃあこれ持ってけ」
俺はコラスにお金を渡す。
「悪いねえ、やっぱクルポン頼りになるなあ」
「ったく調子の良い事言っちゃって。ディアナに事情を話せば良いようにしてくれると思うからな。ちゃんとやれよ」
ディアナだったらラインハートさんの好みなんかも把握してるだろう。
「うん、わかった!ありがとね!この借りは必ず返すからね!」
「貸した金だけ返してくれればいいよ」
俺は手を振って女生徒の間に消えるコラスに声をかけた。
「さてと、問題はこっちだな」
俺は魔物達を見る。
人くらいのサイズから軽自動車くらいのサイズまで、色々な魔物が甘えるように転がり腹を出して見たりクランケルの足に頭をこすりつけてみたり、魔物同士でじゃれ合ったりしている。
女生徒たちはそんな愛らしい魔物の姿を見て、またキャイキャイと騒いでいる。
ケイトもクランケルも野性味を失った魔物達を見て困っているようではあるが、まんざらでもない感じにもなっている様子。
こりゃあれだ、子供が猫を拾ってきて最初は反対していたが、すぐにかわいさにやられて一番猫好きになってしまうお父さんパターンだな。
まあ、いずれにしても俺らの一存じゃ決められないからな。
衛兵さんや学長と話して決めなきゃどうにもならんだろう。
俺に出来るのはその辺と相談する事と飼えないとなった時にシエンちゃんを説得する事だな。
「みんな、なんの騒ぎだ?」
「道を開けてくれ」
ギャラリーの向こうから聞こえてくるのはブリーニェル副会長とマックイーン書記の声だ。
丁度良い所にいらっしゃった。
相談しようそうしよう。




