納得いくまで問いただすって素敵やん
デポイゼンさんと共にゴズビとフィースのしょっ引かれた衛兵詰め所に行く俺達。
達、と言うのはこいつも一緒について来たからだ。
「バッグゼッドって罪人にも丁寧だよね」
「まあな。ちゅーか、なんでお前も一緒に来てんだよ」
俺は笑顔のコラスに言う。俺はコラスに衛兵さんと一緒に学園に戻れと言ったんだが、こいつは俺の言う事なんか聞きやしねーんだよなあ。
「だってあれじゃん、僕も当事者じゃない?やっぱ一緒に行く義務があるでしょー」
「義務だあ?ったく、洒落たことぬかしおってからに」
「僕って洒落者だからねえ」
大仰に肩をすくめるコラス。
「どうぞお続き下さい」
手続きをしてくれていたデポイゼンさんに詰め所の衛兵さんが言い、俺達はゴズビ達が勾留されている場所に案内される。
詰め所の奥の奥、衛兵が立ち番をする通路のさらに奥にある牢の先、頑丈そうな鉄扉の更に先の通路へ通される。
「こちらとこちらの部屋になります」
兵が立ち番する通路に並ぶ二つの部屋の前で案内してくれた衛兵さんはそう教えてくれた。
「右の部屋が灰色装束の男、左の部屋が鎧の男なのですがひとつ問題があります」
「なんでしょう?」
デポイゼンさんが困った顔をする衛兵さんに聞き返す。
「ふたり共、魔術疎外の拘束を施しているのですが鎧の男は単純に腕力が強く抵抗を続けるものでして、イスに座らせることもできず壁に鎖で括り付けております」
「そうですか、一応、見せて頂いても?」
「勿論、構いませんが、狂暴ですのであまりお近づきになられませんように」
衛兵さんの注意の元、鎧の男ゴズビの拘束されている部屋に入る俺達。
部屋に入るとまず目についたのは壁に鎖で拘束されている鎧を脱がされたゴズビの姿、そして脇に寄せられたイスと机のスクラップだった。
派手にやってくれたねえ。
「うおうっ!!ごの野郎っ!!ぶち殺してやる!!こっちへ来やがれ!!喉笛噛み切ってやるうぞ!ぐろあああ!」
拘束具をガチャンガチャン言わせながら荒ぶるゴズビ。壁に埋まった鎖の根本がゴンゴン引っ張られて、そのうち抜けやしないか心配になる。
「これでは尋問になりそうにありませんね」
「ええ」
デポイゼンさんが言い俺も同意する。
こんなに興奮してたんじゃあ、正に聞く耳持たないってやつだ。
「クルース君のやり方だとできないの?だったら僕がやってみようか?結構得意だよ?話聞くの」
コラスがいつもの如く軽い調子で言うが、こいつのやり方ってのが不安しか感じさせない。
「ちなみにだが参考までに、お前のやり方ってのを教えてくれないか?」
俺はコラスに尋ねる。
「取り返しのつかない欠損は有り?無し?」
「もういい、却下だ却下」
「えぇ~、それじゃあどうやって尋問するのよ~」
ぶーたれた声を上げるコラス。バッグゼッドは基本拷問禁止なんだよ。
「それは隣の部屋で見せるよ。あんたも無駄に力を使わない方が良いよ?腹が減るだけだし意味ないよ」
俺はコラスに一声かけてからゴズビを見て言った。
「ガルルルルルル~、ガウガウガウ!ガウガウ!」
顔を歪めながら吠えるゴズビ。聞く耳ねえってか。
俺は肩をすくめて部屋を出る。
「フィースは大人しくしていますか?」
ゴズビの部屋を出た俺はここまで連れてきてくれた衛兵さんに尋ねる。
「ええ、静かなものです」
「わかりました。では、入らせて頂きますね」
俺が言うと衛兵さんは頷いてトビラを開ける。
部屋の中ではフィースが静かにイスに座っていた。フィースの手は机の上に出されており、机の上に埋まっている逆U字型の鉄枠に通った手錠を嵌められている。
「あなたでしたか……完敗でしたよ、気持ち良いほどの」
閉じていた目を開きコラスを確認したフィースは静かに口を開いた。
「どーも」
コラスは軽い調子で答える。
「それで、何を聞きたいんですか?」
「あら?答えてくれるの?」
「いいえ。あなた方がどこまで知っているのか、それを教えて頂きたかったのですよ」
落ち着いた様子で言うフィース。
「あらら、この人、すっかり覚悟決めちゃってる感じだよ?これは話を聞きだすの厄介だよ~?ど~する~?」
コラスが嬉しそうに言う。
「なんで厄介なのがそんなに嬉しいんだよ。まあ、試しにやってみっからちょっと見てな」
俺はコラスに言ってフィースの正面に座った。
「…………」
俺を見たフィースは再び目を閉じ黙り込む。ちぇ、俺に話すことは無いってか。まあ、いいさ。俺は気を取り直して机を中指の第二間接でコツコツと叩く。
丈夫な素材で作られているようで身のつまった良い音が部屋に響く。
「ボックスナンバー八番、フィースさん。ボックスナンバー八番、フィースさん。いらっしゃいましたら、お返事お願いします」
俺はコツコツと一定のテンポで机を叩きながら言う。
フィースは目を閉じたままだ。
「いらっしゃいましたね。お返事ありがとうございます。ゴズビ様になにか伝言があれば言付かります。ゴズビ様になにか伝言があれば言付かります」
机を叩くテンポはそのまま言葉のリズムは落として言う。
フィースの瞼がピクピク動き、ゆっくりと片方の目が開いた。
「おぬし、おかしな術を使う。これは意識変性の術か?」
「言付かりました伝言繰り返します。隠し立てをしても無意味につき洗いざらい話されたし、当方もこれより全
て話します。繰り返します、隠し立てをしても無意味につき洗いざらい話されたし」
「何を言っている?」
フィースが俺の言葉を遮るが無視して言葉を続ける。
「……当方もこれより全て話します。確かに言付かりました。それでは、引き続き話されて下さい、それでは引
き続き話されて下さい」
「い、い、い、」
フィースの両の目が開くがその瞼は眠気に抗うようにヒクヒクと痙攣し、のどぼとけが上下し短い言葉を断続的
に発するようになる。
「そのままでは瞼が落ちます、どうか喉に意識を集中させて下さい。瞼が落ちます、喉に意識を集中して下さい」
フィースののどぼとけが激しく動く。
「意識を喉に、意識を喉に、意識を喉に」
俺は短い言葉を連続して口にする。
「い、い、い、意識、喉に、意識、喉に」
フィースが俺の言葉を繰り返す。
「そうです、良くできました。もう、大丈夫です。あなたは何をしにファルブリングに来たのですか?」
「仕事で……来ました」
瞼が半分閉じトロンとした目になったフィースが答える。
「仕事の内容は?」
「覇道連の破壊活動のサポートと口封じ」
「誰の口封じですか?」
「内通者の」
「内通者とは?」
「ファルブリングカレッジ理事ロジッタ、ファルブリング第二衛兵隊隊長デイジン、バルエ商会役員チャイフゼ
の三人」
「仕事に来たのはあなた方だけですか?」
「三番と五番も来ている」
「お疲れ様でした、ゆっくり休んでください」
俺がそう言って机を叩くのを止めるとフィースは静かに机に突っ伏した。
「ヒュ~」
コラスが口笛を吹く。こいつはまったく軽いやっちゃで。




