腰を据えて話し合いって素敵やん
俺達は転がった襲撃者たちを拘束しながら、アルヌーブの話しを聞いた。
「逃げた奴らは捕まえて、今、ハルハ君が見張ってるんだけどね。あいつら、おかしな事を言ってるのよ」
「なんです?おかしな事とは?」
デポイゼンさんが尋ねる。
「それがですね、街の人みんなが人質だって。今日、捕らえられた者達を解放しないと、人質に危険が及ぶぞって、そう言うんですよ」
「なんだって?何をバカな事言ってんだ?んな事、出来る訳ねーだろーが!」
アルヌーブの説明を聞いてんなアホなと驚くフェロウズ。
「ううむ、にわかには信じられない話ですが、条件を考えるとワター達の関係筋という可能性が高いですね。となると、ただばかげた話と切り捨てるわけにはいかなそうですね。ちょうど、衛兵達が来たようなのでここは彼らに任せてハルハ君の所に急ぎましょう」
デポイゼンさんはそう言うと、騒ぎを聞いて駆け付けた衛兵に事情を説明し拘束した襲撃者共を引き渡した。
「では、アルヌーブさん、案内お願いします」
「はい」
デポイゼンさんに言われたアルヌーブの頬が心なしか赤くなっているように見える。おやおや?こんな時にアルヌーブさん、恋の芽生えですかい?確かにデポイゼンさんは誠実そうで頼りがいのある大人でルックスもシュッとしててカッコよろしいけども。ふ~ん、おじさん、ちょっと注意して見ちゃおうかな。
「デポイゼンさん、さっきの剣、なんすかあれ?めっちゃカッコ良かったんすけど!」
そんな空気を知ってか知らずか、街を走りながらフェロウズの奴がデポイゼンさんに天真爛漫な調子で尋ねた。
お?デポイゼンさんの隣りにいるアルヌーブがちょっとムッとしたぞ。くくくく、フェロウズの奴はこうやってアルヌーブの中の得点を小刻みに下げてるから風当たりが強いんだな。なるほどなるほど、他人ごととして見ていると良くわかるな。
あれ?よく考えるとアルヌーブの奴、俺にも当たり強いよな?てことは俺もフェロウズと同じって事か?
あちゃー、そう考えると気を付けなきゃマジーな。なんせ中身は五十路にかかるオッサンだからなあ、あんまガサツな事やってんと老害って言われちまうぜ。
まあ、中身の年齢を知ってるのは一部の人だけだからあれだけど、老害的行動ってのは年齢関係なく気を付けなきゃマズいからなあ。
「ああ、これは新しい武器の試作品ですよ。刀身に並んだ極小の刃が高速で回転する事で、力を入れずとも対象を切り刻むことができる、そうした武器です」
デポイゼンさんが腰の剣を叩いてフェロウズに言う。
「はぁ~、スゲーっす!俺、腕力に自信がないんで欲しいっすよ」
「ふふっ、量産されたらまずは軍用となるでしょうから市販化までは時間がかかると思いますが、その際には是非、お買い求め下さい」
「ウイッス!絶対買うっす!」
「技術局は自分で資金調達できるんですよね?」
俺はデポイゼンさんに声をかける。
「ええ、そうですけど、何か良い案が浮かばれましたか?」
「ええ、もう研究がされてるかもしれないですけど、その剣をベースに兵器ではなく作業工具を作れないかと思いましてね」
「聞かせて頂いても?」
俺がデポイゼンさんに説明したのは、あの剣の仕組みを聞けば前世の人間なら誰でも思いつく物、チェーンソー
についてだった。
前世の仕事で施設の維持管理をやっていた時、敷地内にある林の管理にチェーンソーを使用していた事があった。
チェーンソーってのは実際に使うとなると結構、コツが必要だったりする。俺も最初は上手くできなくて、やた
ら疲れるし時間はかかるしで腹立たしくなったので、ネットで使用法の動画を見たり、注意点がかかれた記事を読
んだりしたものだった。
使う前は映画やなんかのイメージで、触れればなんでもスパッと切断しちまうんだろーくらいに思っていたのだ
が、高速で刃が回転しているってのは思ってるより厄介で色々と危険が伴うって調べるにつれわかって来た。
特におっかなかったのはキックバックと呼ばれる現象で、チェーンソーの先端の円になってるとこ、その上側に
硬いものが当たると刃部分が自分に向かって跳ね返るのだ。
玄人が木を切る時にチェーンソーの刃の根本部分を最初に当てるのはそのためなのだった。
説明を見ると最初に持ち方や姿勢をうるさいほど念を押すのも、そうした危険を避けるためなのだった。
そんな事を含めて、木材伐採のための道具として改良すれば多くの人に喜ばれるのではないかと俺は提案した。
「確かにこの武器の注意点は跳ね返りなんですよ。刃の合わせ方に気を使わないとならないために、使用できる
剣術が限られてしまうのが問題点なんです」
「でしたら先端部にカバーをつけてそのカバーの先を鋭利にするって手もありますね」
「なるほどー、その手がありましたか」
デポイゼンさんが走りながら頷く。
「まあ、そこまでしなくても木材伐採目的の用品を作った方が利益になると思いますけどね。どうしても武器化
を進めたいのなら、ハルバードの斧部に使用するとかもしくは思い切って大型化してですね、馬車のサイドに装
備するとか二台の馬車の間に通すように装備するとかして敵の間を走り回る兵器にするとかはどうですかね」
「むう、やはり是非うちに来てもらいたいですね」
「いやいや、ただ思いついた事を言ってるだけですんで、あまり真に受けられないで下さいよ。実際に実験して
みれば俺の提案なんて障害だらけで製品化なんて出来たもんじゃないかも知れないですし」
「研究とはそう言うものですよ。とにかく案を出して後は実際やって見て失敗すれば角度を変えてまたやって見る、この繰り返しですからね。とにかく多くの案を、それも他の人には出せないような案を出せる人材を求めているんですよ」
デポイゼンさんが俺を熱い目で見て言う。ううっ、アルヌーブの視線が痛い。
「だったらやっぱり若者ですよ。今日の子供達の中に明日の世界を担う人材が居るかも知れませんからね」
「国ではなく世界ですか。ううむ、スケールが大きいですねえ、その視点の大きさがクルースさんの強みなのかも知れませんね。しかし、若者と言いますがクルースさんも十分に若いでしょうに」
「うっ、いやあ、まあ、そうなんですけどね」
中身がオッサンってのがちょくちょくにじみ出ちまう、気を付けなきゃだな。
そんなこんなしているうちにハルハの元に到着する。
行き止まりになった路地に地面に座らされた男が三人おり、その脇に風のスリングショットを構えたハルハが立っていた。
「お疲れハルハ」
俺は声をかける。
「いえいえ、そちらは大丈夫でしたか?」
「ああ、デポイゼンさんが駆けつけた衛兵さんに話しをつけてくれたんで任せて来たよ」
「それで、街全体が人質とはどういう事なんですか?」
俺に続いてデポイゼンさんがハルハに尋ねる。
「ええ、それなんですがね、街のあちこちに爆散術式を施した術式具を隠したというんですよ。それで街の住人の命が惜しければ先ほど捕まえたワター達を解放しろと、そう言うのですよ」
「ふっ、そういう事だ。さっきの魔物もどうやって兵から奪ったと思う?爆散術式具を使ってだ。わかったら、さっさとワター達を解放するんだ。勿論、俺達もな」
ハルハの言葉に続いて地面に座っている男のひとりが不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「どうすんだよクルース!街の人が大変じゃねーか!」
「ううむ、これは面倒な事になりましたね」
フェロウズとデボイゼンさんはそう言って俺を見る。
「いやー、ちょっとおかしいな」
俺はそう言って不敵な笑みを浮かべる男の顔を覗き込む。
「なにがおかしいと言うんだ?」
男は余裕の態度で返すが瞼がピクピクと痙攣している。こりゃ、何かあるな。
「デポイゼンさん、ちょいとこいつと話をさせて貰って良いですか?」
「構いませんが、拷問は困りますよ?後で問題になったらこいつらの背後にいる者達が有利になりますので」
デポイゼンさんが言う。
「ええ、それは大丈夫です。拷問はしませんから」
「でしたら、結構です」
デポイゼンさんに言われて俺は男の正面に座り込む。
「な、何をしようと言うのだ?」
男が警戒の色を強くする。
「何をするって、話し合いに決まってるでしょ」
俺は男に言う。
さあ、話し合いを始めましょうか。




