しぶとい奴らに負けはしないって素敵やん
表情に力が戻った子供達に俺は一旦のお別れをし、子供達は衛兵さん達と一緒に衛兵詰め所に引き上げて行った。
因みにだが、この地下闘技場は当然のことながら屋敷の暖炉にあった秘密の抜け穴以外にも外にアクセスできる通路はあり、衛兵さん達は捕まえた連中の案内で別の出口から外へと出て行ったのだった。
そりゃそうだな、沢山集まっていた観客にしても暖炉の通路からここに入って来たわけではあるまい。
「いやあ、お聞きしていた以上にお見事な手腕。感服しました」
デポイゼンさんが笑顔で握手を求めてきた。
「いやいや、お粗末さまです」
俺は恐縮し握手に応えながらなぜか脳裏に同じ顔をした六つ子の顔が浮かぶ。
「いえいえご謙遜なさらず、実際、驚きましたよ。我々技術局も近年では実利の出にくい研究に資金が出にくくなっておりましてね。この間ガニメデスイオや飛行山の侵入を簡単に許してしまったのは早期警戒システムの研究資金が下りなかったところもあるんですよ。クルースさんには是非、技術局の資金調達や国との折衝をお願いしたいですよ」
「いやあ、それはまた畑が違うと申しますか。それよりもデポイゼンさん、この物件の権利関係なんですが、子供達や家の無い人達への住居提供としての側面をありますんで、出来るだけ早くお願いできませんでしょうか?我がまま言ってスイマセン」
「ええ、お任せください。主催者連中の罪の立件にはそれほど時間がかからないでしょうが、物件利用の目的として孤児たち育英の意味合いが強い事を主張すれば特例として先に仮押さえができるでしょう。なんなら今から一緒に手続きに行きますか?」
「ええ、よろしくお願いします」
という事で俺はデポイゼンさんと一緒に屋敷の権利関係の書き換えのため商業ギルドへと向かう事になった。
「なあなあクルース、俺、考えたんだけどさ。俺達の名前なんだけどさ、ファリマス団って冴えないだろ?もっとイカス名前が良いと思ってさ。こんなのどうかな?ファルブリング精霊魔術便利屋ってのはどうかな?」
「長すぎるでしょフェロウズ」
「普段はハンディマンズって言うのさ。行くぜハンディマンズ!てな具合にな」
「それじゃあただの便利屋じゃないの」
屋敷を出て所業ギルドへ向かう道、フェロウズとアルヌーブが言い合っている。
「ちゅーか、なんでお前らついて来てんの?ファリマス団の仕事は終わってんだぞ?」
俺はなぜか一緒について来ているフェロウズ、アルヌーブ、ハルハに言う。
「ファルブリングスピリットマジックハンディマンズな!」
「だから長いって!」
自分の考えた新チーム名をまだ主張するフェロウズにアルヌーブがつっこむ。
「まあ、そう言わないで、我々も経営には興味があるんですよ。後学のため見学させて下さいよ」
ハルハが爽やかな笑顔で言う。
確かに俺達のクラスって、領地経営が上手く行ってなかったり経済状況が思わしくない者が多いからなあ。
「そういう事なら構わないけど、デポイゼンさんに迷惑かけるような事はするなよフェロウズ」
「なんで俺だけなんだよ!」
フェロウズが俺に抗議する。
「お前は騒がしいから何かとトラブルの元になるんだよ」
「失敬な!人をトラブルメーカーみたいに言うな!」
「みたいじゃなくて、そのままな」
「ムキー!!」
からかう俺に歯をむき出して怒るフェロウズ。
すると突然、歩いていた俺たちの前を塞ぐように男達が現れ道に横並びになった。
「ほら、お前を迎えに来たぞ」
「なんでだよ!」
俺の言葉にフェロウズがまた怒る。
「なんです、あなた方は?道を開けなさい」
衛兵姿のデポイゼンさんが腰の剣に手を当て強めの口調で言った。
男達の数は五人、無言で剣を抜くと俺達に襲い掛かって来る。
「問答無用ですか!」
デポイゼンさんが先頭の男の剣を自分の剣で打ち払い声を上げる。
「このやろっ!俺のせいだって言われんだろが!」
フェロウズがとんちんかんな事を言って火の木刀を振り回す。
火の木刀から発せられる熱気に怯んだ男達の動きが一瞬止まる。
俺は空雷弾をお見舞いしようと指を向けるが、先に青い光が飛んで男達の頭に当たった。
ハルハか!反応早いな!
他の男達に目をやるが既にハルハが風のスリングショットで放った青い光や、アルヌーブが水のバトンで放った水球を受けて昏倒している所だった。
「皆さん上です!!気を付けて!!」
デポイゼンさんの声がして頭上に目をやると近くの建物の屋上から大きな檻が落ちて来るのが見えた。
俺は近くに昏倒している男ふたりを抱えゲイルで檻を避ける。
「大丈夫か!」
「ああ、こっちは大丈夫だ」
「無事よ!」
「襲撃者も巻き込まれませんでした」
落ちて来た檻の向こうからフェロウズ達の声が聞える。
「気を付けて下さい!魔物です!」
俺の後ろに立っているデポイゼンさんが叫ぶ。
落下して来た檻は歪み、出入口が開いてしまっている。
そして檻の中から大きな白いカマキリが首を振りながら出て来た。
「こいつは、さっき地下から運び出された魔物ですね」
デポイゼンさんが剣を構えて言う。
「移送中に奪われたって事ですか」
「こいつらも、関係者でしょうね」
俺の言葉に地面に転がった襲撃者を一瞥してデポイゼンさんが言う。
「クルース君!ここ、任せちゃうからよろしくね!」
アルヌーブが精霊術で屋上に飛びながら叫ぶ。
「どこ行くんだ?」
「こいつ落とした奴を追いかける!」
「ちょい待て、ひとりで行くな!」
「私も一緒に行きます!」
俺の言葉に答えるようにハルハが叫び、建物の壁を蹴りながら屋上へと駆け上がった。
「おい!俺を置いてくなよ!!」
フェロウズが地団太を踏むが移動術や体術サボってたんだから仕方ない。
「とっととこいつを倒してしまいましょう」
デポイゼンさんはそう言うと剣を振り上げ白い巨大カマキリに躍りかかって行った。デポイゼンさんは素早い動きで剣を繰り出し幾度も切りつけるが、カマキリはそれに負けない速さで鎌を振り上げ剣を退ける。
「うわっ!!やべっ!!」
打ち合いを続けるカマキリの鎌から風魔法のエアカッターみたいな鋭い半透明の鎌が四方にとびフェロウズが悲鳴を上げる。
俺は光魔法のフォーカスソードで飛んで来る空気鎌を打ち砕いて行く。
「こちらも少し本気を出しますか」
デポイゼンさんがそう言うと、持っている剣から高い音が響き剣の刃が鈍く光り輝いた。
つばぜり合いをしていたカマキリの鎌のトゲトゲが一瞬で削り飛ばされる。
どうやら剣の刃に何かの仕掛けが施してあり、切れ味がアップしたようだ。
「一気に行きますよ」
デポイゼンさんはそう言うと、更に剣速を上げて攻撃をする。カマキリの攻撃速度も上がり四方八方に飛ぶ空気鎌の数も増えて行くが目に見えてカマキリの鎌はボロボロになって行く。
「これでお終いです!」
デポイゼンさんは両手の鎌を刻まれたカマキリの首を飛ばしてそう叫んだ。
「ふひぃー、しんどかったわー」
火の木刀を杖のように地面につきながら額の汗をぬぐうフェロウズ。向こうに飛んだカマキリの空気鎌はあいつが打ち落としてくれたんだな。ちょっとは剣術も上達したようだが体力がついて来てないようだな。
「さてと、アルヌーブさん達を追いますか」
「その必要はないようですよ」
俺は路地の先からやってくるアルヌーブを見てデポイゼンさんに答える。
「どうだった?」
俺はひとりで戻って来たアルヌーブに尋ねる。
「それが、ちょっとおかしな事になってるみたいで」
アルヌーブが困ったような顔をする。
なんだなんだ?いったい何があった?




