表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
930/1114

強敵登場って素敵やん

 ハルハはと見ると武器を持ったふたりの男は既に倒れており、部屋の隅に固まって怯える子供達に歩み寄っている所だった。

 選手控室の壁際には剣やメイス、モーニングスターなど様々な武器が立てかけられているが、胸がむかつくのはどれもサイズが小さい子供用である事だった。

 アルヌーブも近くにいる子供に声をかけ、助けに来た事や牢の仲間は解放している事を伝えている。

 

 「よし、みんなこっちに来い!仲間と一緒に待機してろよ!」


 部屋に入って来たフェロウズが火の木刀を担ぎながら言った。ちゅーかお前、それ使ってねーよな?

 控室にいた子供達は互いに顔を見合わせてからおずおずと牢部屋へと向かって行く。

 

 「とりあえずこいつらを拘束しましょう」


 アルヌーブはそう言って壁にかかっていた手枷を手に取り倒れている男達にはめていくので、俺達もそれに続いた。

 

 「この向こう側、大勢の人の気配がありますね」


 ハルハが控室奥のトビラに近付きこちらを見て言う。


 「とっとと踏み込もうぜ!」


 「しかし、なんの策も無しでは」


 「悠長な事言ってる場合か!子供達が戦わされてるかもしんねーだろー!おらっどけ!」


 難色を示す慎重派ハルハに対して勢いで行くタイプのフェロウズは、言うが早いかトビラに手をかけ開け放った。


 「仕方ないですね」


 勢いよく飛び出すフェロウズに続くハルハ。俺とアルヌーブもトビラの向こうに飛び出した。

 飛び出した先に見えたのは壁で囲まれた闘技場で複数の子供達が大きな声を上げて戦う姿、そしてそれを取り囲む多くの観客が立ち上がり歓声やヤジを飛ばす場面だった。

 

 「畜生!ふざけやがって!やめろやめろバカ野郎!!」


 フェロウズが大きな声で怒鳴り火の木刀を振るう。

 高熱をはらんだ蒸気が木刀から観客席に飛び、興奮する客に浴びせられる。

 

 「うおっ!!」

 「あっちぃぃぃぃぃ!!」

 「なんだなんだ!!」

 「あっつ!!いってぇぇぇぇぇ!」


 火の木刀の技を喰らった観客が叫び声を上げる。


 「なんだこれくらいでっ!!子供たちの痛みに比べりゃなんでもねーってんでい!!!」


 フェロウズが火の木刀で闘技場を囲む壁をぶったたきながら叫んだ。

 騒ぎに気付いた観客がざわつき、それは波のように伝播する。


 「皆さん、お静かに!!これは新しい見世物でございます!いつも同じでは飽きが来る事でしょう!本日のメインイベントとなります!いつもの剣闘士達が力を合わせてやや年上の剣闘士達と戦います!さあ!オッズを発表しますので皆さん、お見逃しなく!!」


 闘技場正面上にあるボックス席から身を乗り出した男が音声拡大の術式具を手にそう言った。

 ボックス席には身なりの良い男女が複数人座っており、なにやら話し合って嫌な笑みを浮かべている。

 

 「なんだなんだ??俺達、罠にはめられたのか??」


 「いえ、そんな気配はありませんでした。恐らく、機転の利く奴がいるんでしょう」


 キョトンとするフェロウズに冷静に答えるハルハ。


 「そんな事、言ってる暇はなさそうよ」


 アルヌーブの言うように先ほどまで戦っていた子供達が一斉に俺たちの方を向き、武器を構えて襲い掛かって来た。

 

 「うおっ!!よせよお前ら!!」


 子供たちの攻撃を避けながらフェロウズが叫ぶ。


 「首輪よっ!首輪の術よ!」


 アルヌーブが叫ぶ。


 「マジかよ!クソが!この野郎!」


 フェロウズが子供の首輪を叩く。


 「おーっと!!無駄な事をしています!!首輪を外せるのは我々主催者だけでございます!盛り上がってまいりましたよ皆さん!!どんどん賭けて下さいねえ!!」


 ボックス席の男が叫ぶ。


 「クソー!!クルース!!お前の技が一番ケガさせねーだろうが!!やってくれよ!!」


 子供たちの攻撃をギリギリでかわしながら言うフェロウズ。こいつ、あえてギリギリでかわしてるんじゃなさそうだ。どうやら、全力で避けてあの調子なのか。


 「お前、精霊術を教わったからって体術さぼっちゃダメだぞ?」


 「ふひー、今はそんな事はいいから子供らをなんとかしろってんだよ!!」


 俺の言葉にフェロウズが息を切らせながら答えた。ボチボチ限界か。子供の力とは言え刃物で切り付けられたらフェロウズもケガするからな。仕方ねえ、自分で気づいてもらいたかったが教えてやるか。


 「おいフェロウズ!お前は何のためにマスターから精霊術を教わったんだよ!」


 「なんのためって、ひいひい、俺が教わったのは、小手先の技だし」


 「ばーか!今こそ、その技が役立つ時だろうが!」


 「でもよう、あんなのハッタリだし」


 「そんじゃあ子供に切られるんだな」


 俺は子供の攻撃を避けながら言う。


 「わーった、わーったよ!!無駄だと思うけどやってやらあ!!」


 フェロウズはそう言うと子供の攻撃を避けながら印を結ぶ。


 「畜生!獅子の咆哮!!」


 フェロウズが叫ぶと周囲の空気がビリビリと震えた。

 観客たちは耳を塞ぎ、悲鳴を上げへたり込む。

 殺気立っていた子供達は我に返り、武器を地面に落とす。


 「うそっ!効いた!!」


 「だから言ったろう?子供たちを逃がすぞ!!」


 俺は皆に言う。フェロウズの教わった技、獅子の咆哮ってのは敵をビビらす技だ。戦いが始まりそうな時などに一発放って敵の気勢をそぎ、戦わずして敵を退散させる事を目的にした技なのだ。

 フェロウズは、こんなの格好良くないと不満をこぼしたが、マスターホフス曰く、普段から根拠もなく強気でハッタリが効いているフェロウズにはピッタリの技だとの事だった。

 マスターホフスの見立て通り、フェロウズの奴が習得した獅子の咆哮は威力範囲共にずば抜けたものであった。

 この技は相手の意識に働きかけてショックを与えるもので、こいつほどの使い手なら精神系のカース、混乱や誘惑などを一気に覚ます事も可能なのだが、いかんせん本人が気に入ってないからあまり使いたがらないという悲劇。

 まったく本人が望まぬ才能ってのは悲しいもんだよ。

 俺達は呆然としている子供達を抱えるようにして控室に逃す。

 闘技場内は獅子の咆哮の影響から覚め始めた観客たちが悲鳴を上げ、我も我もと逃げて行きパニック状態になっている。


 「待てい貴様ら!!このまま逃がすと思ったか!!」


 子供たちを押し込むように控室へ逃がした俺たちに向かってボックス席から声が上がった。


 「へっ!!やるってのかよ!!上等だよクソ野郎!ハルハ!止めんなよ!!あいつらまとめてこのフェロウズ様がしょっ引いてやるぜ!!」


 ボックス席を振り返りフェロウズが息巻く。


 「元より子供たちの術式を解いてもらわないといけませんからね」


 ハルハが同意して控室に続くトビラを閉める。


 「何、ふたりとも格好つけてんのよ」


 アルヌーブが言い水のバトンを構える。


 「と言う訳で、お前ら全員捕縛するから大人しく投降しなさい」


 俺はボックス席に座る身なりの良い男女に言ってやる。


 「あ!クルースてめえ、俺が言いたかったのに!!」


 「どこまでもふざけた奴らだ。だがなあ、そのおふざけもここまでだ。これだけの事をしたんだ、その身体で償ってもらうぞ!例の物を出せ!!」


 ボックス席の男が叫ぶと、我々がいる場所の反対側にある大きなトビラがゆっくり開く。


 「ケッ、魔物でもけしかけようってか!無駄無駄!こっちにゃ秘密兵器があるんだぜ?」


 フェロウズが火の木刀を構えて言う。


 「お前のは気軽に見せすぎで全然秘密じゃねえけどな」


 「うっせー!」


 俺の茶々にフェロウズが鼻息荒く答える。


 「なんか妙なのが出て来たわよ」


 アルヌーブが言うように、トビラが開いて出て来たのは見た事の無い物だった。身長は三メートル程だろうか、人型をしているが全身金色に輝くスケルトンボディーの奴だ。


 「なんだありゃ?」


 ナニスタルボーイだよ?光線兵器が効かないとか言わないだろうな?


 「わからないけど、ヘパタロスじゃない?」


 「その通りだ、だがただのヘパタロスじゃないぞ?遥か大古の魔導技術により作られたロストヘパタロスだ!」


 アルヌーブの言葉に答えるようにボックス席の男が叫んだ。

 そもそもヘパタロス自体が古代のテクノロジーによるものじゃなかったか?

 

 「なんだかわかんねーけど、これでも喰らえってんだよ!!」


 フェロウズがやたら滅多ら木刀を振るい、大量に発生した熱気がロストヘパタロスに襲い掛かる。


 「やったか!!」


 フェロウズが言っちゃあいけないセリフを言う。


 「いや、効いてないみたいだ」


 平然と立ちこちらに向かって歩いて来るロストヘパタロスを見てハルハが言う。


 「一斉に攻撃するわよ!!」


 アルヌーブが叫び水のバトンを振るうと水の塊が槍のような形になりロストヘパタロスへ向かった。

 ハルハも風のスリングショットを連射し、俺は土魔法の鉄鋼弾を連射する。


 「まったく効いてねーぞ!!」


 俺たちの技を喰らいながらも速度を緩めず歩み寄るロストヘパタロスを見て、フェロウズが叫ぶように言う。


 「やべっ!!避けろ!!」


 ロストヘパタロスが拳を振り上げ殴りかかって来る。

 俺達は左右へジャンプして避けるが、ロストヘパタロスの空振りしたパンチが闘技場の地面をえぐり、その破片がバチバチと飛んできた。


 「きゃっ!」

 「ぐっ!!」

 「あいたたた!」


 アルヌーブ達が声を上げる。


 「こいつはどうだ!」


 俺はまだ地面に拳を突き立てているロストヘパタロスに向けて光魔法のフォーカスレーザーを放つ。

 フォーカスレーザーはロストヘパタロスの身体に当たり弾かれて天井に当たった。


 「うおっ!!やべーぞクルース!天井が崩れる!!」


 崩れ落ちてくる石の破片を受けながらフェロウズが叫ぶ。

 マジか!フォーカスレーザーが効かねーって、どんな身体してやがんだ!

 ちゅーか、俺の最大攻撃なんすけど、これ、本格的にヤバくない?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ