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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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競走って素敵やん

 遊技場を出るときに俺の持ってるチップの換金を忘れないでやったのは、さすがに俺の貧乏性か。

 そうした所、ほっとけないんだよなあ。

 遊技場を出るとすぐにキーケちゃんが迎えに来た。


「すぐそこの茶屋でアルスが待っとる。行くぞ。」


「おう。」


 キーケちゃんについて行く。

 遊技場の出入口が見える距離に喫茶店のような店があり、中に入ると窓際の席にアルスちゃんが座っていた。

 俺たちも座り、各人飲み物を注文する。

 注文した品が揃い、ウェイトレスさんが去るとアルスちゃんが口を開いた。


「ゴドーさん、お疲れさまでした。彼で間違いありません。」


「良かったです。問題はこれからどうするか、ですな。」


「はい、ストーンキッズ商会との関係ですよね。誰かストーンキッズ商会と関りがある人いないですかねえ。」


「ふーむ。ちょいと門下生に当たってみますか。皆さんは、衛兵隊詰め所に案内しますんで、ネンさんに協力してもらってその線から追って見て下さい。」


 そう言う事で、我々は衛兵隊詰め所のネンゲウさんに会う事となった。


「ほうほう、そうですか。ストーンキッズ商会ねえ、ゴドさん、気を付けて下さいよ。ああした商会は叩けば埃のでる稼業ですからね、妙な所に手を入れると。」


「食いつかれるか。」


「そうですよ。」


「きひひ、上等上等。では、何手かに別れようではないか。」


 というキーケちゃんの案を採用し、俺とアルスちゃんとでネンゲウさんの伝手での聞き込み、ゴドーさんとキーケちゃんとで門下生の聞き込み、シエンちゃんはキングフィッシャーでイリルさんの警護という事になった。


「ゴドさんの道場にはうちの嫁さんも行かせますよ。」


「え?大丈夫なんですか?もしかしたら荒事が起きるかも知れないのに。」


 俺は思わず心配してしまう。


「ふふ、これは内緒にしてもらいたいんですけどね。剣術館の4剣鬼、残りの2人はイリル君とネンさんの嫁さんのシェリルさんでしてね。」


「ありゃま。なんと、そうでしたか。なら大丈夫ですね。」


「我もついている。安心せい。」


「シエンちゃんは、道場を破壊しないように気を付けてね。」


「わかってるわかってる!どーーんと任せろ!さあ、悪党さんいらっしゃーーい!くふふふ。」


 幾らかの不安を残しつつ我々は3つの班に別れる事になった。

 俺とアルスちゃんはネンゲウさんの伝手での聞き込みについて行ったのだが、昨日ゴドーさんと聞き込みしたのとはまた違うガラ悪地区だった。昨日は歓楽街的なところだったけど今日のはもう、よくわからない建物が増築で肥大し迷路のようになった区画に人々がゴロゴロ寝ていて、髭だらけの老人が虚ろな目でデカい水パイプをふかしていたり、寝ころんだまま小便している人がいたり、その小便溜まりに顔を突っ込んだままガーガーイビキをかいて寝ている者ありと、まあ退廃街以上に退廃した地区だった。


「ここは、デイアルアルの闇、高級遊技場で全てを失った者達の場所、通称バラック街です。ここに、ストーンキッズで番頭をしていた男がいます。」


「また、番頭まで勤め上げた人がなんで。」


「賭け事と薬ですね。ここでは良くある話ですよ。命まで取られなかっただけ幸運ってやつです。」


「そうですか。で、その人は?。」


「ふふ、したたかな奴でしてここでも商売してますよ。こっちです。」


 ネンゲウさんに続いてすえた匂いやら、良くない類の甘い匂いやらのする場所を進む。

 色々と良くない事を連想させる匂いに思わず顔をしかめてしまうが、ふとアルスちゃんを見たらいつもと変わらぬ薄っすらと笑みを浮かべた表情だったので、俺も普段通りの表情を心がけようと思うのだった。

 一軒の屋台に近づくとネンゲウさんはそこの親父に声をかけた。


「調子はどうだい?。」


「ああ、ダンナかい。良くないね、まあ、ここに来てから良かったためしがないけどね。」


 コウモリのような顔をした店の親父はしきりに鼻をすすりながらそう言う。


「ほどほどにしておけよ。ところでちょいと聞きたいことがあってな。」


 ネンゲウさんは懐から硬貨を出して言う。


「なんです?。」


 硬貨を受け取った親父はぶっきらぼうに聞く。


「いや、最近のストーンキッズなんだが、いい評判を聞かなくてな。おかしな客人を出入りさせているとか。その辺の事でなにか聞き及んでないかと思ってな。」


「ああ、そんな話も聞きますねえ。何だったかなあ、誰かがそうした客人の接待役をさせられたってボヤいてたっけなあ。誰だったかなあ。」


 これですよ、って目をして俺を見るネンゲウさん。

 俺は頷いてから話を引き継いだ。


「おじさん、売り物はなんですか?。」


「へい、これでさあ。」


 おじさんが指し示すのは屋台の上、雑多なものが並べてあるが、古めかしいランプやドアノッカー、壊れた懐中時計、牛の頭骨の彫刻がされたベルトのバックル、ガラス玉、等々、よく言えば古物商、率直に言えばまあガラクタ市だな。


「これは珍しいですねえ、これ下さい。」


 俺はビー玉サイズのガラス玉を手に取って、レインザー硬貨をひとつ渡した。


「いやあ、これは値打ちものだ。いい買い物が出来ましたよ。」


「どうもダンナ。こちら、領収書ね。」


 紙辺にサラサラと何かを記入してよこす屋台のおじさん。

 俺はそれを受け取ると、ネンゲウさんとアルスちゃんに目配せしてここから立ち去った。


「さて、クルースさん。成果はいかがでしたか?。」


「これですね。」


 俺はネンゲウさんに領収書を渡す。


「調教師ポンドマークですか。」


「ネンゲウさんはご存知ですか。」


「ええ、レースガルムの調教師ですけど評判の良くない男です。」


「どんな評判なんですか?。」


「ガルムの調教情報を売っているとの事です。業界では固く禁止されている事なのですが、どうしたわけだかこの男は評判は立てど尻尾を掴ませないのか、のうのうと調教師をやっておりますよ。」


「背後に大きな旦那衆がついてらっしゃるのかも知れませんねえ。」


 アルスちゃんがにこやかに言う。


「ふうむ、それなら合点がいく。ストーンキッズの客人の接待をしたってのも、そう言う事ですな。」


「そうでしょうねえ。早速、行ってみましょうか。」


 アルスちゃんののんびりした物言いに釣られそうになるが、話は核心に迫っており危険信号も点滅しだしているのではなかろうか、ちょいと気を引き締める。

 そして俺たちはネンゲウさんと一緒にレースガルムの調教場へと向かった。

 調教場はレース場と同じ大きさのトラックコースがあり、そのトラックの中、内周部に坂道やダートコース、ウッドチップが敷かれているコースが設置され、カラフルなゼッケンを着けたガルムたちが走っている様子がうかがえる。


「ゼッケンの色はガルムの年齢や賞レース勝利によって違うんですよ。」


「ネンゲウさん、お詳しいんですねえ。」


「いやあ、私もガルムレースは嫌いじゃないほうでして。嗜む程度ですけどね。」


「あらあら、奥様に怒られないようにお気を付けくださいねえ。」


 アルスちゃんに言われたネンゲウさんは、照れた様子で財布は嫁に握られてますんで、もっぱら観戦主体で賭けるのは小銭ですけどね、などと言っていた。

 しかし、馬ほどの大きさの逞しい犬が走る様子は競馬とは違った野性味あふれる荒々しさがある。

 何度も話すが元々俺はギャンブルはあまりやらないので、当然競馬もほとんどやったことがない。

 やったことはないのだが、競走馬育成ゲームは好きでよくやっていた。

 それに、前世界では有名なトレーニングセンターの隣り町に住んでいたこともあった。

 その頃、地元の人に、競走馬を運んでいるトラックには気を付けろよ、競走馬を怪我させる損失が大きいとそちらを優先させるからな突っ込んでくるぞ、なんて怪しげな地元伝説を聞かされたりもしたもんだ。

 話はズレたが、そんな事もありギャンブルはやらないが競走馬は好きだったりするのだ。

 あの、走るために突き詰められた自然界では存在しえない機能美溢れるフォルム、近くで見ると美しくて見惚れてしまうものだった。

 その走る姿も優雅さや美しさの他に、精密機械のような繊細さを感じさせるものだった。

 しかし、ガルムは違う。パワフルでアグレッシブ。

 どっちかっていうと、バイクのレースを見ているみたい。

 巻き込まれたらエライ事になるという恐怖すら感じるような姿だ。

 これはこれで有りかもしれない。


「さてと、奴はどこにいますかねえ。おや、あいつか?。」


 ネンゲウさんがそう言って視線を送った相手は、競走馬で言う厩舎だろう、ガルムの寝床らしい場所で壁に寄りかかっている瘦せたネズミ顔の男だった。

 我々が近づくと、こちらを見て走って逃げていった。


「おい!待て!。」


 ネンゲウさんが真っ先に走り、俺たちもそれに続く形で追いかけた。

 ネズミ顔の男、ポンドマークはネズミ顔に相応しいすばしこさで逃げて行く。土地勘もあるのだろう小屋と小屋の隙間を通ったかと思うと立てかけてあった梯子を倒したり、柵の下を潜り抜け、屋根に上り室内に入り窓から外に出てと、まあしぶとく逃げる。

 我々は建築物を使った逃走法にゲイルを使うスキも二手に分かれての挟み撃ちをするスキもなく、只々相手のペースで走って追いかけっこを続けるしかなかった。

 そうしてしばらく追いかけていたが、素早さはあっても持久力はなかったようで足取りが怪しくなってきた。

 もう、調教場からも離れた路地裏でやっと追い詰めたなと思ったその時、マスクで顔を隠した者たちが複数人出てきて無言で襲い掛かってきた。


「どうやらネンゲウさんが言っていたようになったみたいですね。」


 俺は覆面男の振るう剣をよけながら言った。


「そのようですな。」


 ネンゲウさんは腰から剣を抜きながら答えた。

 アルスちゃんがトンと跳ねて、切りかかってくる覆面男の肩に足をつき、また跳ねて男の後ろへ着地する。

 同時に肩を踏まれた男は半身を凍り付かせて倒れ込んだ。

 俺は先ほど切りかかってきた男の額に、バラック街のガラクタ屋で買ったガラス玉を指ではじいて叩き込んだ。額にガラス玉の当たった男はそのまま前のめりに倒れ込む。

 ネンゲウさんは剣を使い相手の得物を弾き飛ばしてから、剣の柄で、または蹴り技で昏倒させていき只今3人目を相手どっている。

 アルスちゃんも路地の奥から出て来た覆面男達を宙に舞いながら、華麗に凍り付かせている。

 俺はガラス玉投擲で更に3人、ネンゲウさんとアルスちゃんが続けて4人を倒したところで立っている者は俺たち3人だけとなった。

 あとは地面で寝ているいる覆面男達と、座り込んでブルブル震えているポンドマークだけだった。


「さてと、何で逃げたのか、こいつらは何者なのか説明して貰おうか。」


 ネンゲウさんが飄々とした口調で言う。

 やっぱりこの人、かなりの手練れだったな。

 これだけの立ち回りをして息切れひとつしていないよ。

 剣鬼の異名は伊達じゃないってか。ていうか、夫婦で剣鬼なんだっけ?おっかない夫婦ですな。

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