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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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捕らわれの子供達を解放せよって素敵やん

 「僕たちは家の無い孤児だよ。みんななんでそうなったのか事情は違うけどな」


 話し始めた子供の名前はハッチ。彼はストリートチルドレンを束ねてかっぱらいや拾ったゴミを直して売ったりして暮らしていた。

 他のストリートチルドレングループとケンカになる事も度々あったが、ハッチをはじめ腕っぷしが強い子供が仲間に多かったため、ストリートチルドレングループの中でも一目置かれる存在となった。

 

 「で、調子に乗ってたんだよな。孤児狩りにあっちまって俺達はあっさり捕まっちまったんだ」


 「なんだよ?孤児狩りって?」


 肩をすくめて首を振るハッチにフェロウズが尋ねる。


 「俺達みたいなのを捕まえる連中の事さ」


 「なんでそんな事をするの?誰がするの?」


 アルヌーブがまったく意味が解らないという風に聞く。うーん、賢いとは言えやっぱり貴族の子供、こうした話には疎いか。


 「誰がってのは非合法の組織、ギャングとかそういった黒い連中だろう。なんでってのは色々あるよ、安い労働力や、もっと汚い事とかな」


 俺はアルヌーブに答える。俺の答えを聞いたアルヌーブは、ゴメンと小さくつぶやいた。やっぱ賢いし感受性も豊かな子だよ。


 「いいんだよ姉ちゃん、別にホントの事だから」


 ハッチが大人びた事を言う。普通じゃない苦痛に満ちた経験をして一気に大人びてしまったんだろう、胸がムカムカするぜ。


 「それでハッチ、お前たちのように捕まった子供達はどこにいるんだ?」


 俺は一足飛びに尋ねる。


 「助けてくれるってかい?気持ちは嬉しいけど、無理だと思うよ」


 ハッチは低い声で言う。


 「俺は無理じゃあないと思うぜ?なんせこいつらの親は貴族だ、偉い人ともいっぱい知り合いなんだから」


 「いやっお前、うちは、もごもご」


 俺の言葉に異を唱えようとしたフェロウズがアルヌーブに口を押えられる。フェロウズは、うちはそんなコネねーよって言おうとしたんだろう。わかってるよ、フェロウズだけじゃない、アルヌーブにしてもハルハにしてもだが、うちのクラスの生徒達は領経営が上手く行ってなかったり、貴族としてギリギリの生活をしている親が多いのだ。

 それでも俺がこんな事を言ったのは、ハルハの凄技を見ていったん心を開いて話をしてくれたのにも関わらず、ここに来て気持ちは嬉しいが無理だというハッチの答えを聞いての事だ。

 これは武力じゃ解決できない問題ですってハッチは言ってるんだろう。力を持ったバックがいるんだって、そう言う事だろう。

 だったらこっちもデカイバックがいるんだって見せてやらないと安心して話してくれないだろう。

 実際、いざとなればバッグゼッド帝国国防軍や対外治安総局関係に話しを持って行く事もできるが、こっち関係の事をこの場で言っても子供たちにとっては説得力がないだろうからなあ。

 この場で一番わかりやすいのはファルブリングの制服だから、この手で押してみるさ。


 「そんなわけだから信用して欲しい」


 ハッチは仲間の子供の顔を見る。


 「信じていいんじゃないかな」

 「そうだよハッチ、こうやって話を聞いてくれてるんだし」


 「だから迷惑をかけらんねーだろ!」


 他の子供達の言葉にハッチが声を荒らげる。


 「大丈夫だぜ、迷惑なんかかからねーよ。どんな相手だか知らないけどよ、この姉ちゃんの家は名門貴族だからよ、コラーって言えば衛兵でも一発だぜ?なあ?」


 「あっ、えっ、うん、そうそう、お姉ちゃんに任せなさい!それにお姉ちゃんは強いからね!」


 突然フェロウズに振られて慌てながらもなんとか話を合せ、腰から抜いた水のバトンを抜いてビシッと決めるアルヌーブ。


 「ハッチよう、この兄ちゃん達なら大丈夫じゃねーか?助けてくれんじゃねーか?」


 ハッチの隣りに立つ痩せた子供がすがるように言う。


 「君、名前は?」


 俺はハッチに声をかけた子供に尋ねる。


 「ダン」


 「よしダン、俺達を信じてくれるか?」


 団は俺の問にコクコクと頷いた。


 「ダンはこう言ってくれてるぜ?どうだ?」


 俺はハッチを見る。ハッチは手をギュッと握りしめ、一生懸命考えていた。ハッチはこの歳にしちゃあ飛びぬけて大人びた奴だ。それだけ世間の厳しさを味わい尽くしたんだろうが、そんなハッチをここまで躊躇させる連中ってのはどんな連中なんだ?


 「じゃあ、せめて捕まった仲間がどこにいるのかだけでも教えてくれない?」


 アルヌーブがハッチに目線を合わせて聞いた。


 「それを聞いたら帰ってくれるかい?」


 ハッチが言う。


 「う~ん、どうだろ?帰るんなら君達と一緒に帰りたいな」


 「そういう訳にゃいかねーんだ。俺らが逃げたら仲間が殺される」


 「でもようハッチ、あれじゃあ、どのみち死ぬ事になるぜ?だったら兄ちゃん達に頼ってよう、一旦ここから逃げてさあ、この姉ちゃんの家でもなんでもいいからお願いしてよう、なんとかして貰えばいいんじゃねーか?」


 「それじゃダメだ!今日はゲイブ達の出番なんだ、下手な事すりゃあまた無茶な相手とやらされちまう。お前だってわかってんだろう?サイモンが逃げようとした時、当番の連中がどんな目に遭ったか」


 ハッチに言われてダンは下を向いて黙り込んだ。

 ハッチの話にアルヌーブが暗い表情になる。俺がさっき言った孤児を攫う理由、汚い事をさせるためってのが脳裏に蘇ったんだろう。ハルハも難しい顔をしているトコを見ると、子供達がどんな目に遭っているか想像してしまったんだろう。


 「なあ?仲間が殺されるとか一体何させられてんだ?無茶な相手となにやらされてるってんだよ?」


 フェロウズがズバリ聞いた。おー、こういう時は単純で空気を読めないフェロウズが強いね。

 アルヌーブとハルハの呼吸が一瞬止まり緊張した空気が流れる。


 「……戦わされてるんだよ」


 ハッチが絞り出すように答えた。


 「は?戦わされてる?どういう意味だ?」


 フェロウズが首をかしげてハッチを見る。


 「そのまんまさ、この地下には闘技場があってそこで俺達みたいな攫われた孤児同士戦わされて見世物になってるんだよ」


 「なんだって?なんだよそれ!!許されるこっちゃねーぞ!!ふざけんな!!助け出すぞクルース!!」


 ハッチの話しを聞いたフェロウズは本気で怒り俺に詰め寄った。


 「お、おう、そりゃ助けるけど、ちょっと落ち着け」


 俺は喰ってかかる勢いのフェロウズの背中をポンポンと叩き諌める。


 「す、すまん。あんまり腹が立ってよ」


 フェロウズが謝る。こいつは本当、いい奴だよ。


 「いいんだ。それでハッチ、詳しい事を教えてくれよ」


 俺はハッチに促した。

 ハッチは改めて自分達の置かれている状況や地下で行われている状況を話し出した。

 地下の通路の先には子供達が捕らわれている檻があり、その先には選手の控室がある。そして控室の先には件の闘技場がある。

 闘技場では孤児同士の戦いが行われており観客たちはそれを観て、またはどちらかに賭けて熱狂しているという。

 孤児の首には術式具がかけられていて、試合の際はその術式具の影響で極端な精神高揚状態になり暴力衝動に歯止めが利かなくなるため、腕力のない子供同士の戦いでも大怪我をするし死者が出る事も珍しくはないのだそうだ。

 更に、逃走を試みた者がいた日の試合や反抗的な者の試合用に魔物が用意されており、そうした時は試合と言う名の残酷ショウになるのだと言う。

 ハッチやダンそしてここにいる子供達はそれぞれストリートチルドレングループのまとめ役で、この上に建っている屋敷に人が近付かないようにお化け屋敷現象を起こす事を役割として与えられているのだそうで、彼らが問題を起こせばそのグループの人間に制裁が加えられる事になっているのだそうだ。

 グループリーダーの責任感を利用した悪辣な采配だ。


 「許せねえ!ぜってぇー許せねえ!」


 「こればっかりはフェロウズに賛成」


 アルヌーブがいきり立つフェロウズに続いてきっぱり言った。


 「勿論、それは私もだがむやみにやるのは良くないだろう。まず、優先順位を決めるべきだ」


 「そんな悠長な事言ってる間にも子供達が戦わされてるんだぞ!」


 「ちょっと黙ってフェロウズ。そんな事はみんなわかってるんだから、ハルハ君の話しをちゃんと聞いて」


 「うっ」


 アルヌーブにたしなめられてフェロウズは黙った。


 「コホン、話を続けるがまず最優先は子供たちの保護という事でいいな?」


 「あったり前でい!」


 「よし、それじゃあ観客が一斉に逃げ始めるだろうがそんな連中は相手にするなよ?」


 「なんでだよ!みんな同罪だろっ!!悪者を逃がせって言うのかよ!」


 フェロウズが興奮して言いハルハはヤレヤレと言った感じにこめかみを押さえた。


 「バカねえ、子供たちの安全がなにより最優先って事よ!他は二の次、余裕があればって事よ!あんたがそんなだと、子供達が不安になるでしょ!!」


 「でもよう」


 「でもようじゃないの!これは子供達の安全にかかわる事なんだから、ここはしっかり飲み込みなさい!最優先は何か言ってみなさい!ほら!」


 「うっ、わかったよう。子供の安全最優先。わかってるさ」


 「後、あんた自身が行動不能になっちゃったら意味ないんだからね?それも気を付けなさいよ?わかった?」


 「わかったよう、もう」


 アルヌーブに諭されてフェロウズは身を縮めるように返事をする。


 「よし、それだけしっかり心得てくれれば問題はない。ではハッチ君、案内をお願いできるかな?」


 ハルハに言われてハッチは頷いた。

 よしよし、こいつら三人、良いトリオだな。

 俺は安心する。

 ハッチの案内で部屋の外の通路を進む。通路は真っ直ぐじゃなく折れ曲がっており、屋敷の地下を巡っているようだった。そうして通路を進んで行くと前方に鉄の格子が見えて来た。


 「あの鉄格子の向こうが牢になってて仲間達が捕まってるんだ。牢の前には番をしてる奴が必ず三人いる。番に声をかけて鍵を開けて貰わないと向こう側にはいけないのさ。ちなみに無理やりこじ開けようとすると警報が鳴るようになってるぜ」


 ハッチが通路の角に隠れて説明してくれる。

 

 「どうする?敵は三人だ、上手くやらないと逃げられたら厄介だ」


 「私なら瞬時に倒せますけど、問題は鍵ですね」


 「それなら俺に任せてくれよ」


 俺はハルハに土のお箸を見せる。


 「ああ、そうでした。では鍵はお任せしますよ」


 ハルハはそう言って通路に躍り出て風のスリングショットを放った。

 三つの青い空気弾は鉄格子の向こうにいた三人の男の頭に見事命中、男達は昏倒する。

 俺は檻に近付き土のお箸の能力、離れた所にある物をつまめる力を使って倒れた男の腰についている鍵束を外し、つまんでこちらに持ってくる。

 このお箸、凄いんだけどつまんだ位置で距離が固定されるから、こっちに持ってくるには箸を持った俺も一緒に下がらないといけないのがたまに傷だ。

 俺が持って来た鍵束をアルヌーブが受け取り鉄格子を開ける。


 「みんな、助けに来たぞ!」


 フェロウズが颯爽と言い、ハッチが子供達の閉じ込められた牢を先ほど奪った鍵で開け放っていく。

 

 「子供達は先に逃がした方が良いんじゃないか?」


 「首輪の術式を解かないでここを離れたら首が閉まっちゃうんだ」


 「くそっ!どこまでも卑劣な奴らだぜ」


 ハッチの言葉にフェロウズが憤る。


 「そう興奮するなフェロウズ。ここから離れられねえって事はここのどこかにその起点となる術式具があるってこった。とっとと下らねえ見世物は解散させて、そいつをぶっ壊せば済むことだ」


 「クルース君の言う通りだよ。すぐに私の探査術で探し当ててやるさ」


 「ああ、そうだな!よし、わかった。んじゃあハッチたちはここで待機していてくれ。俺達はこの先にいる子供たちを解放して来るからよ!」


 ハルハの言葉に納得したフェロウズは子供たちにそう言った。

 

 「ちょっと待って下さい。トビラの向こうに気配があります、五人ですね。入って右側にふたり左側に三人」


 牢部屋の奥にあるトビラの近くでハルハが言う。

 俺達は頷く。

 

 「俺が開けるから一気にやってくれ」


 「右のふたりは私が対応しましょう」


 「じゃあ、左は私とクルース君ね」


 トビラに手をかけるフェロウズに続きハルハとアルヌーブが言う。

 フェロウズが指を三つ立ててカウントダウンをし一気にトビラを開けた。

 ハルハと俺が飛び込みアルヌーブは精霊術で空中に浮かび部屋の中に踊りこんだ。

 部屋に入って左側、武器を持った三人の男が驚きの目でこちらを見ている。

 俺は空雷弾でひとりの男の身体を撃つ。

 男は身体を硬直させ倒れこむ。

 次の男にターゲットを移すと、そいつはアルヌーブの水のバトンから出た水を目に受けて仰け反っている所だった。

 俺は一応、仰け反っている男の身体に空雷弾を撃ち込み気絶させ、次の男を見る。

 次の男は首に水の鞭を巻きつけられ持ち上げられ地面に叩きつけられる所だった。

 やるなあアルヌーブ、俺との呼吸ばっちりじゃんか。

 ちゅーか、あいつが俺に合わせてくれたんだな。なんだかんだ言ってアルヌーブって結構人を見てるし気ぃ使いなんだよなあ。ありゃあ、気苦労絶えないタイプだよ。


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