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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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俺はわからんちんって素敵やん

 「いやあ、アリビオ団の皆さんにお力添え頂けて本当に助かりました。今回のお仕事、報酬の方は上乗せさせて頂きますので、お受け取り下さい」


 ペーターミュラーさんに言われて俺達は冒険者証を出し今回の報酬をチャージして貰った。提示された額が多かったのでビックリして間違いじゃないかとペーターミュラーさんに言ったのだが、標識の件にモバイルバッテリーの始末方法、サイレンヘッドの食事問題の解決方法等々の料金も含まれているのでとにこやかに言われたのだった。

 そんなこんなで色々と説明したり手続きをしたりで日も暮れてしまい、サイレンヘッドとの意思疎通について今少しシエンちゃんの協力をお願いされる事もあり俺達は研究所で一泊する事となった。

 研究所の中には食堂から雑貨屋、床屋、喫茶店等々ちょっとした町ができており、そこをぶらつくだけでも結構楽しかった。

 ホフスさんの話しじゃ職員の中にはほぼここに住んでいる者もいるとの事で、この仕事の大変さや機密性の高さが伺い知れた。

 まあ、これだけいろんなものが揃っているならここで暮らすのも悪くないなと思ってしまう俺もいる。

 

 翌日、直接学園まで魔導飛行船で行くと学長に怒られるという事で、我々は一旦飛行船で最寄りの駅まで送って貰い魔導列車で学園まで帰る事となった。

 最近、良く列車に乗るねえ。

 そうして学園に到着したのは夕刻ごろであった。

 俺達は学長室に出向き、ボンパドゥ商会連合での仕事を無事に終えた事を報告しそれぞれの持ち場へと戻るのだった。

 俺は授業も終わってるし飯は列車の中で済ませてたのでそのまま寮に戻った。

 シャワーでも浴びてさっさと眠っちまうかと思っていると、部屋に戻って早々ルーメイトのストームにつかまっちまった。


 「ちょっとクルース君、どこ行ってたのよー。ケイトさんが怒ってたよ?」


 「おいおい、なんでケイトが怒ってんだよ?勘弁してくれよ」


 俺は少しだけビビッて言った。なんかあいつ怒らせる事したか?


 「だって肝心な時にいないんだもん」


 「なんだよ肝心な時って?」


 「留学生歓迎祭だよ、もう!忘れたの?」


 ストームが呆れた顔をして言う。


 「げっ、そうだったっけ?もう終わっちまったの?マジで忘れてたわ、ゴメン」


 「それはケイトさんに言ってよね。アルスさんはちゃんと根回ししてたからあれだけど、クルース君、何も言わなかったっしょ?」


 「え?だって、俺、歓迎祭の仕事何もないし、特に報告すべき相手もいないからいいかなって」


 「あちゃー、ダメだよクルースくーん。それ、女子に言っちゃダメだよ絶対!火に油を注ぐから」


 ストームがこめかみを揉みながらそう言った。えー?なんで俺、年下男子から女性の扱いについて説教されてんのー?


 「あ!その顔!絶対ダメだよ、そんな顔しちゃ。不満がありますって顔に出ちゃってるからね」


 「す、すいません」


 ゲッ、見抜かれた。そんなにわかりやすい顔してるか俺?


 「なんだかんだ言っても生徒解放戦線の連中を留学生歓迎祭に巻き込んだのはクルース君だからね、ゲンツケン君もクルース君には一目置いてるトコあるし」

 

 「いや、そりゃどうかと思うけど、それよりなんでケイトが切れてんだよ?それを教えてくれよ、マジで」


 理由によっちゃ死活問題だよ。あいつ、何気に男女問わず人気あんだよ。ちょっと超然としたトコあるからねケイトは。それでもって結構世話焼きだったりするし、立ち居振る舞い全部がいい女ムーブかましてるもんだからやられちゃってる生徒も多いんだよ。だから、あいつを敵に回すと俺の居場所がなくなっちまう。


 「あのねえ、本当にわからないの?」


 ストームが困り顔で俺に言う。


 「うん、わかんない。なんで?」


 俺はとびきりイノセントなスマイルを浮かべて尋ねる。どうだ!この無垢な笑顔ならどういう事情があっても許さざるを得まい!


 「ちょっとなにその顔?そんな顔したら女子に殴られるよ?なめてんのって言われるよ?さすがの僕もちょっと腹立ったもん」


 マジか!これが効かぬとは最近の若者、恐るべしだぜ。


 「そ、そうか。わかった、もうやらないから、本当のトコを教えておくれよ~」


 早く教えてくれないと栄光に向かって走り出しちゃうよこっちは。


 「なんか真剣みに欠けるけど、まあ、いいや。君が中庭のガゼボでやった事、あれが結構評判になってるの知ってる?」


 「中庭のガゼボでやった事?ゲンツケンとの話し合いの事か?あれなら覚えてるが」


 「あの件で君がこの学園で強い影響力を持つ人物であると多くの生徒に認められたんだよ」


 強い影響力を持つ人物だって?勘弁してくれよ、この学園のインフルエンサーってか?何か案件が来たりするのか?無料で物を貰えるのはありがたいが、良くない物を良いって言うのは俺、無理なんですけど?昔、配送の仕事で営業もやっていた事あったけど、色々と実態を知ってるだけにとても人にお勧めできねえと思って営業なんてほとんどやらんかったもんね。


 「やめて欲しいな、そういうのは。だが、それがケイトの機嫌を損ねるのとどう関係してくるんだよ?」


 「そうやって結論焦るのも女子を怒らせるから注意した方がいいよ」


 ストームがしたり顔で俺に言う。こんにゃろー、女子を怒らせるって言えば俺が黙ると思って好きかって言いやがって。しかしながら、こいつは噂のプロだからなあ。多くの人の口の端に上る事については確かな目を持ってるだけに言い返せん。


 「また不服そうな顔してるけど、何も言い返さない所を見ると渋々でも納得して貰えたみたいね」


 「うぐっ、お前なあ、そんなにズバズバと思ってる事を当てちゃうと怖がられるぞ?気を付けた方がいいぞ?」


 「大丈夫、普通の人にはこんな話し方しないから」


 「俺は普通じゃないってか?」


 「うん、君は大丈夫。わかってる人だから」


 「なーんもわかってないよ俺は」


 俺は肩をすくめてストームを見る。


 「ほら、それ。なかなか自分の事をそんな風に言えないよ普通は。ほとんどの生徒は、自分は多くの人がわかってないような事もわかっているって思ってるよ。自分は他の人とは違うんだってね」


 そりゃ若いからなあ、若い時はみんなそう思うもんだ。


 「まあ、それも悪い事ばかりじゃないからいいんじゃないか?自分を高める動機付けになる事もあるし、ってそんな事はどうでもいいっちゅーの!」


 「あははは、ちょっと話が逸れたね。ごめんごめん。とにかく、クルース君が強い影響力を持っている存在と認知された事で注目を受けたのは誰なのかって事だよ」


 「それがケイトだってのか?あいつは元々、注目されてただろ?」


 「これまでは彼女の人柄による人気だったんだけど、今度のは違うんだよ」


 ストームはわかってないねえと言わんばかりに顔の前で指を振って言う。


 「どう違うってんだよ」


 「今までは慕う人達が集まって来てたんだけど、今は利用しようとする人達ばかり集まって来てるんだよ」


 「……それは、スマン事をしたな」


 そりゃ、嫌な目に遭わせちまったなあ。シエンちゃんやキーケちゃんも言ってたもんなあ、自分を利用しようとする者ばかりが群がるのは本当に嫌な気持ちになったって。キーケちゃんが隠遁生活に入った原因のひとつはまさにそれだし、シエンちゃんが人とまともにつき合う事の懐疑的だったのもそれに起因するものだ。

 俺自身は前世でも今でも特に利用価値があるような人間じゃあないから、そうした思いはした事がないが、それでも前世では親しかった人に裏切られたり騙されたり不誠実な対応をされた事は少なからずあるから、その気持ちは察するに余りある。


 「いや、そんな顔しないでよークルースくーん。ケイトさんだってモスマン族の有力者だからね、そんな事は慣れてるって言うのは変だけど、まあ、初めてじゃあないからさ。彼女の怒ってるポイントはそこじゃないんだよ」


 「じゃあ、どこなんだ?」


 「君が別件で学園を留守にするって話しをそういう連中から聞いたからだよ」


 「は?なんで、そんな事で腹立てんだよ?」


 「そんなの決まってるっしょー、まったくもー。君だってアルスさんが君に何も言わずに姿を消して、その理由を軽薄な連中から聞いたらムカツクっしょ?」


 「心配はするけどムカつきはしないなあ」


 「え~?」


 ストームは心底呆れたと言った顔をする。う~む、これは、あれだな、俺の感想が間違ってるんだな。これ、たまにあるんだよな。前世で敬愛していた先輩から、お前はどこか人として大事なものが欠けてる、と言われた事があったし、付き合っていた娘からも似たような事をを言われる事があった。

 なんとなく、自分でもわかっちゃいるんだけどなあ。俺は他者と接する時、相手は成熟した対等な関係だと思って接しているつもりなんだが、それが時には冷たく思われる事もあるんだよな。

 それはこの世界に来て自分なりに改善しているように感じていたのだが、どうやらまだまだっぽいなあ。

 なんやかんやで、やっぱり一番難しいのは人間関係だよなあ。


 「まあ、さっきの顔でクルース君がケイトさんにまったく関心がない訳じゃあないってわかったから僕は良いけどさあ。それをケイトさんにも伝えてあげてよね。後、ディアナちゃんにも」


 「なんでディアナにもなんだよ?」


 「ふぅ~。もう、説明するのも面倒だよ。とにかく明日、ケイトさんとディアナちゃんとブランシェットさんにはフォロー入れといた方がいいよ」


 「なんか増えてないか?」


 「そんな事言ってると、どんどん増えるよ?とにかく女子を怒らせない事、わかった?」


 ストームは子供に言い聞かせるように俺に言う。クソー、腹立つけど確かに言う通りだから仕方ない。


 「わかりましたです」


 俺は素直に返事をする。

 ストームは満足そうに頷き、じゃあ、何があったのか聞かせてよ、と詰め寄って来たがボンパドゥ商会連合の仕事なんで詳細は話せんのだと伝えると、なるほど、それじゃあ仕方ないねと納得してくれた。

 あのストームが納得するんだから、ボンパドゥ商会連合の仕事と言えばケイトたちにも納得して貰えるだろう。

 俺は安心してシャワーを浴び旅の疲れを落とすのだった。


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