無人島の一夜って素敵やん
「おうおうおう、そうかそうか、うんうん、それはさみしかったなあ、よしよし」
シエンちゃんはサイレンヘッドの頭のスピーカーから聞こえるボッボッボッ、ボツボツ、ピィー、プー、と言う音を聞いて返事をしている。え?言ってる事わかんの?
「なんて言ってるんですか?」
フーカさんがシエンちゃんに尋ねる。
「寝て起きたらここに居たと言ってる。自分の置かれた状況がわからず混乱していたようだな」
「なんと。彼は名前はあるんですか?」
「名前はなんてんだ?うんうん、そうか。わからないみたいだな。どうやらまだ小さい子供のようだ」
シエンちゃんが言う。
「え?これで幼体なんですか?」
「そうなるな」
「なんと・・・」
シエンちゃんの話しを聞いたフーカさんは口をあんぐり開けて絶句してしまう。
「さてフーカよ。これからどうするんだ?こやつを連れて帰るのか?」
ホフスさんがフーカさんに聞く。
「うっ、そうですね。ここに放置しておくわけにはいかないですから研究所に連れて帰りたいですけども、可能なんですかね?嫌がりませんかね?」
「ひとりは嫌だと言ってるぞ」
シエンちゃんが答える。
「う~ん、そうですねえ。一旦、研究所に帰って大型飛行船に乗り換えて来るとして、う~ん、もう日が傾いて来てますからねえ。大型飛行船で夜間にこの島に着陸するのは厳しいですから、う~ん、申し訳ないんですが誰かここで待って貰っても良いですか?」
「だったらみんなここで待ってるからフーカひとりで行って来れば良い」
「え~、私ひとりですか~?それ、ちょっと寂しくないですかあ~?寂しいですよねえ~?」
シエンちゃんに言われてフーカさんはすがるような口調で言う。
「うふふ、でしたらわたしがご一緒しましょうか」
「しかたないな、あたしも行こう」
「やったー!ありがとうございます!」
アルスちゃんとキーケちゃんに言われてフーカさんは喜ぶ。
そんな訳でアルスちゃんキーケちゃんフーカさんは一旦研究所に戻る事になり、俺とホフスさん、シエンちゃん、そしてサイレンヘッドはこの島で一晩過ごす事になったのだった。
フーカさんとアルスちゃんキーケちゃんが去り、徐々に日が傾いてくる。
「さてとボウズ、とりあえず飯と寝床の調達だな。どっちを担当する?」
ホフスさんが俺に言う。
「どっちでもいいけど、ホフスさんはどっちが得意?」
「わたしは寝床の確保のが得意じゃな」
「んじゃ、俺は飯の調達にするよ」
「よし、それじゃあ頼むぞい」
てなわけで俺は飯の調達をする事になった。
飯と言えば、そのために羊が放たれてるんだしやっぱ羊か。
つーか、サイレンヘッドは何を食べるのかね?前世の設定だと人を食べちゃうって話だったけど、どうやらこいつは前世の設定とは違う存在っぽいしなあ。でも、羊を追いかけてたよなあ?わかんないからシエンちゃんに聞こう。
「シエンちゃーん、食料の調達をして来るけどその子は何を食べるの?やっぱ羊?」
「いや、羊は寂しくて友達になりたくて追いかけてたんだってさ。食べ物はこれだって」
シエンちゃんはそう言って指先からビリビリっと小さな雷を発生させた。
なるほどね電気を食べるのか。なんだか凄いね、普段は透明化してたり電撃を放ったりできるのかね?
「それじゃあ食料調達はうちらのだけで大丈夫そうだね。羊にしようかと思ったんだけど、その子が悲しむかな?」
「ああ、ちょっとそれは勘弁してやって欲しいな。別ので頼むよ」
シエンちゃんは時折指から電撃を発しサイレンヘッドに文字通り喰らわせながら言う。なんだかシエンちゃんの中で母性が目覚めたみたいだな。サイレンヘッドはシエンちゃんの隣りに膝を折ってうずくまり体育座りの体勢になった。その仕草が子供っぽくてなんか、ちょっとかわいらしい。
「オケ!んじゃ魚にすっかな」
俺はシエンちゃんに軽く手を振り海の方へと向かう。
途中入った林の中で大きなシュロの葉を発見したので刈ってザックリと編み込み簡単な籠をこしらえる。
本当に簡易的な籠だが、別に置物にしようってんじゃなくって捕まえた魚を持ち運べりゃあ良いんだからこれで良い。
俺はシュロカゴを持って海辺に出る。魚影が濃そうなところを探そうかと思ったが、どこも魚の姿は多く見られた。なるほど、豊かな漁場と言うだけの事はある。
俺は魚影が濃い所に空雷弾をバツバツ撃ち込み、浮いて来た魚をゲイルで飛んで捕まえて行く。
アジやイワシのような魚、カサゴやアイナメみたいな魚、浜辺ではクルマエビみたいなエビが沢山とれた。
こりゃあ、バーベキューパーティーだな。
俺は土魔法で作った小刀で鱗を落とし内臓を取り除いた。
ベースキャンプに戻る途中の林で枝を削って串をこしらえる。
にししし、こりゃあ楽しみだなあ。釣った魚でバーベキュー!夢だったんだよなー!
俺はワクワクしながら小走りで皆の元に戻ると、そこにあったのは立派なキャンプ地だった。
大きなワンポールテントに机とイス、焚火はふたつあり、ひとつには三脚が立てられ鍋が吊るされており、今一つの焚火には四つ足の平たいグリルパンが乗っかっていた。
「うっわ!なんすかこれ?もう最高じゃないっすか!」
「かっかっか!そうじゃろそうじゃろ?そっちはどうじゃ?」
「こんな感じだけど」
俺はカゴに盛った魚とエビを見せる。
「おうおう!上等上等!それじゃあ、煮込みはそっちの鍋、焼きはそっちの鉄板でやろう」
ホフスさんは木製ジョッキをグッと煽って言う。
「ちゅーかホフスさん」
「なんじゃい?」
「これ、みんなホフスさんが出したの?」
「そうじゃが、なんじゃ?ああ、酒か?勿論、ぼうずの分もあるぞい。心配するな」
ホフスさんはそう言って袖からジョッキを出し俺に手渡す。
「んぐんぐんぐ、美味い!最高!ってそーじゃなくて!もしかして食べ物も出せたんじゃないの?ねえ?ホフスさん?」
「ああ、勿論、出せるぞい」
やっぱりか。
「じゃあ、なんでわざわざ俺に調達させたのよー」
俺は嬉しそうに答えるホフスさんに不満を言う。
「そんなもん気分に決まっとろう。こういう所に来たら飯か寝床、どちらかくらいはそれっぽくしたいじゃろう?」
「いや、寝床も十分それっぽいですって」
「そうか?ふむ、わたしのセンスもまだまだ捨てたもんじゃないな」
ご満悦のホフスさん。まあ、いいか。美味そうな海の幸が沢山とれたし、寝床を選択しなくて良かったと自分のチョイスを褒めるべきか。
そんな訳で魚とエビ料理に舌鼓を打ち俺達は楽しい夜を過ごしたのだった。
すっかり日が落ちてシエンちゃんはテントの中に寝転がり、サイレンヘッドはテントの近くでごろりと転がった。
俺とホフスさんは残った魚をつまみながらワインを飲んでいた。
「これ、もしかしてハルワナシュのチンピラから巻き上げた奴っすか?」
「いや、これは港の倉庫にあった奴じゃ。どうだ?上等だろう?」
ホフスさんがにっこりと笑って言う。
しっかし、調味料から酒から食器から机テントまで、マジでこの人の袖の中はどうなってんだ?
「いやー俺、ワインの良し悪しなんてまったくわかんないからあれっすけど、なんつーか飲みやすいっすねえ」
俺は木製ジョッキに注がれたワインをグビグビ飲んで答えた。
「きっひっひ、おぬしエールのように飲んどるがなあ、こいつは一本で上等な馬車と同じくらいする物ぞ」
ホフスさんがワインボトルを振って言う。
「ま、マジすか。んじゃあ、俺、馬車半分くらい飲んじまった」
俺は驚いて自分のジョッキを見た。
「かかか、まあ、気にするな、どうせ悪党から巻き上げた物だ。こうして善人が飲み干してやる事で浄化されるってもんだ」
ホフスさんは自分のグラスにワインを注いで言う。
「いや、そんな高価な物なら先に言ってよー。だったら俺もこんなジョッキじゃなくてホフスさんみたいにグラスで堪能したかった」
「酒など美味いと思う飲み方でやれば良い」
ホフスさんが笑う。
焚火の木が弾ける音がし、遠くで潮騒が聞える。
いいねえ、いい夜だよ。
自然の中で美味い食い物と美味い酒、そして語らう事の出来る仲間がいる。言う事ないねえ。
なんて思っていたら、まとまって静かにしていた羊たちが急に騒ぎ出した。
「どうしたんじゃ?」
ホフスさんが立ち上がる。
俺は周囲の気配を探るが特に殺気や敵意は感じない。
「害意は感じないっすね」
「あれを見よ」
ホフスさんが静かに指さす。地面から何か木のような物が突き出て興奮した羊が列をなして走っているのが見える。
何が起きてるんだ?
シエンちゃんとサイレンヘッドがスヤスヤと眠り起きない所を見ると、危険性は低いと見て良いのか?
ひとまず俺とホフスさんは顔を見合わせ、事態の把握に努めるのだった。




