不思議な島にいこーねって素敵やん
俺達はボンパドゥ商会連合のお仕事、この世界の理を外れた事象の確認保護のために奇妙な音が止まない無人島ミナシ島最寄りの漁師町マズーンへと向かう事となった。
俺がこの現象に興味をそそられたのは前世で似たような話しを聞いた事があったからだ。
怪しい音絡みの奇妙な話ってのは結構あって、有名な所ではアポカリプスサウンドというものがある。
空から突然ラッパのような音が響き渡ると言われ世界各地で確認されている謎現象だ。
アポカリプスってのはキリスト教の聖書の最後に書かれた書である黙示録の事で、書かれている内容の解釈についてはキリスト教徒の中でも多くの論議を呼んでいる。
その解釈の中でもっとも有名で最も多くの新宗教が模倣しているのが予言としての終末である。
終末の在り方についてはこれまた解釈が色々と別れるが、有名なのはキリストが再臨し人類すべてを裁くというものだろう。
そしてその前兆のひとつとして聖書中で語られるものに天使が七回鳴らすラッパというものがある。
世界各地で報告された不思議な音がアポカリプスサウンドと呼ばれたのは、その音を聞いた人、もしくはこの話を聞いた人が近いうちに終末の日がおとずれる前兆に違いないと思ったからに他ならない。
それだけこの終末思想ってのが多くの人に知れ渡り影響を与えていたと言う話しなんだが、動画を気軽に撮れる時代だった事もあって動画サイトに山のようにアポカリプスサウンドと言われる物が載せられており、中には大きな野球試合の最中に謎の音が響き渡り、アナウンサーが実況するなんてものまであったりした。
これは俺の子供の頃の経験談なんだが、ある日、父親が外でキジが鳴いている、地震の前兆かも知れないぞ、と言うので俺は音の発生源を探りに行った。音が大きくなる場所を探してついに探し当てたのだが、その正体は鯉のぼりのポールの上についてる矢車と呼ばれる回転球だった。
風で回転する矢車がさびていたのか時折こすれてキジの鳴き声にも似た金属音を出していたのだ。
幽霊の正体見たり枯れ尾花とはこの事だった。
そんな経験もあったもので俺はアポカリプスサウンドの正体も似たようなものだろうと考えてはいる。
多くの動画はフェイクである事が証明されてたが、そうでないものに対しても科学的な説明はつくと言われており、大気圏内で隕石が燃え尽きる音説や電磁波説、飛行機や工事音など人工的な音説が挙げられていた。
まあ、なんで俺がこんなに詳しいのかと言えば、それは単純に興味があったから、こんな話が好きだからなのだ。
さて、この世界での不思議サウンドの謎の正体はなんなんだ?
最寄りの漁師町マズーンまでは魔導飛行船での移動となった。
操縦はボンパドゥ商会連合研究主任のフーカさんで、今回の仕事の立会人でもある。
「しかし、あれだね。随分と揺れるねえ」
来る時と違って船内がかなり揺れるのでおちおちお茶も飲んでられないよ。
「随分速く飛んでるみたいだな。あやつ急いでおるのだろうよ」
「早く現場が見たいって意気込んでたからなあ」
キーケちゃんに続いてシエンちゃんが言う。ふたりともこれくらいの揺れにはびくともしない。
ホフスさんとアルスちゃんもこんな揺れなどなんでもないようで、精霊術についてなにやら話し合っている。
「酔わないように外の景色でも見てよーっと」
窓から外を見ると太陽光を反射しキラキラと輝く海が目に入った。
「着陸しますので皆さん、準備をして下さい」
船内にフーカさんの声が響き船はガクンと大きく一度揺れ下降して行く。どうやらフーカさんの操縦は荒っぽいようだ。ペーターミュラーさんが仕事が忙しいので同伴できず申し訳ないと言った理由はこれもあるんじゃないか?
なんにしても地面に降りられるのはありがたい。
船は無事に着陸しトビラが開いた。
「お疲れ様でーす!では早速向かいましょう!!」
高いテンションで意気揚々とやって来て船外に出るフーカさん。
俺達も後に続いて外に出ると漁村はすぐそこで、村人と思われる人達が数人出迎えてくれていた。
フーカさんは村人たちに今日は買い付けではなくミナシ島の件で来たと告げると、村人たちはしきりに感謝を口にする。
村人たちの話しでは、どうやら腕利きのベテラン漁師ほど現場の細かい状況の変化に敏感で、ミナシ島の周辺海域での漁には出なくなっている状態のようだ。
海での仕事は危険がつきものだろうからな、違和感を感じたら無理はしないのが無事に長くこの仕事を続ける秘訣なんだろう。
そんな事を気にしない連中はまだ若く技術が追い付かないため島周辺での漁は危険で出来ないらしい。
島の周辺は見えない岩礁が多く海流も複雑なため漁をするとなればやはりベテランじゃないと難しいのだと言う。
島の周辺海域は魚量が豊富なので困っていたとの事で、フーカさんの到着は非常に歓迎されたのだった。
フーカさんはついて早々に波止場に向かい停泊している漁船に乗り込み始めた。
漁船の船首付近にはボンパドゥ商会連合と書いてある。
「皆さん!早くお乗りください!」
俺達はフーカさんに続いて船に乗り込んだ。
「しゅっぱーつ進行!」
フーカさんは元気に言って操舵隣を回した。この人、なんでも操縦できんのねえ。
魔導機関が積んであるようで漁船はスルスルと波間を進んで行く。
「ミナシ島周辺はベテランでないと難しい海域だって言ってましたよね?大丈夫なんですか?」
俺は鼻歌混じりに操舵するフーカさんに尋ねる。
「漁をするわけじゃあないですからね。波止場につけるぐらいなら私でもできますよ」
「波止場があるんですか?」
無人島だって聞いたけど。
「そりゃあ、ありますよ。海の具合で帰れなくなった時なんかに避難する場合もありますからね」
なるほど、人が住んでなくても上陸する事はあるんだな。
「ちなみにどんな島なんです?山とか洞窟とかはあるんですか?」
「いえ、風が吹き下ろすような山はなく起伏があっても丘レベルですね。洞窟や浸食洞など風の通りで音を出すような地形は確認されてませんね」
さすが研究主任さん、こちらの質問の意図を汲むのが早いね。
「森林はどうです?」
「島の半分は森ですね」
森の中ってな茂る木々によって音が複雑に反響するからなあ。
自然の中に居て人恋しい時なんて、聞こえてくる音を脳が人の声や人工音に結び付けようとするからな。
だが、今回は島の周辺の海に居ても聞こえるってんだからなあ、よっぽどデカイ音なんだろう。
ワクワクするなあ、どんな音なんだろう?アポカリプスサウンド系かな?それとも山の怪音系かな?




