表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
908/1108

夜の倉庫へ殴り込みって素敵やん

 「なかなかの見張りっぷりじゃったのう」


 「予想以上でしたね」


 ホフスさんに続いてマドリさんが言う。

 俺達は地図に書いてあった倉庫を遠巻きに見て来たのだが、倉庫の外だけでも護衛らしき者達は軽く二十人はいたのだ。

 俺達は倉庫から離れた小高い丘の上にある空き地にて作戦会議をしていた。


 「ぼうずよ、ぬしは遠距離攻撃が得意だったな?」


 ホフスさんが俺を見る。


 「まあまあっすね」


 「よし、ならばぬしはここからサポートせい。わたしが行って攪乱するでな。内部に攻め入ったらばぬしも降りて来て加勢に入れ」


 「ああー、それなら師匠、俺が行きますよ。俺、遠距離よりも中近距離のが得意なんすよ、それに魔力の蓄積量には自信ありますし」


 「・・・・良いのかや?かなり危険じゃぞ?」


 ホフスさんの表情がいつになく真面目なものになる。


 「任せといてくださいよ、なんたって一晩弟子っすから。みっともない所は見せないっすよ」


 俺はホフスさんにそう言って立ち上がる。


 「良し、ならば任せよう」

 

 「んじゃあ、いっぱつ行ってきますんで。よろっす」


 マドリさんが青い顔をしていたので俺は極力軽い調子で言う。

 ホフスさんもその辺は心得ているようで、軽妙に片手を上げるとコミカルな動きで袖から杖を次々に出して地面に刺していった。

 なんだかわからんが、ちょっと凄そうだねあれは。

 俺は闇の中をしゃがんだ状態でゲイルで身体を浮かして進んで行く。

 倉庫に近付き特定の範囲に入ると明確に魔力の吸収がしづらくなる。

 まるで細いストローで水を吸っているようだ。とてもじゃないがこのストローじゃ呼吸は維持できないなって感じ。なるほどね、これじゃあ、魔力蓄積量の少ない人はたまらないだろうな。

 だが、ガニメデスイオほどの事じゃあない。俺にとってはこれ位でも吸収できるなら十分戦える。おまけに、今回は燃費の悪い魔法を使うような局面にはならないだろう。

 俺が近付いている方向、倉庫街の入り口方面は遮蔽物が少ない。長方形の倉庫はこちらから見ると長い辺を正面にして、海方面に向かって並んでいる。そんな列が八つほどあり、列の隣りの倉庫までは結構な間隔がある。

 倉庫の屋根の上にも警備がいるこの状態では隠れながら近付く事はできそうもない。

 しゃーない、すっとぼけたふりして近付いて後は撃ちまくるか。

 そんな事を思っていると一台の馬車がやって来る。

 馬車はかなり豪華な凝った作りでただの乗合馬車ではなさそうだった。

 倉庫から離れた藪の中で息を殺して様子を見ると、馬車から降りて来たのはアニーツイスターにいた眼帯男だった。

 俺は風魔法のサウンドコレクションを使って耳をそばだてる。


 「お疲れ様です」


 「リーブルボクーさんはいるか?」


 「今日は来ておられません」


 「そうか良かった。では引き取りには誰が?」


 「モヤンビエンさんがいらっしゃってます」


 「そうか。おかしな連中が店に来て、キススの事を探しているようだったんでそれを知らせに来た。警備の数を増やしてくれ」


 「わかりました」


 眼帯男が指示を出し男が頷いた。なるほどねえ。結局、ホフスさんの作戦は上手く行ってたってわけか。

 よし、だったらこれを上手い事利用してやるか。


 「アニキ!ここっすかブツの在り処は!早いとこ頂いてきましょーよ!」


 俺は倉庫に入ろうとする眼帯男に風魔法でブーストをかけた音量で声をかけ馬車に近付く。


 「どういうことです?」


 警備の男が険しい声で眼帯男に問う。


 「ばかやろう!あいつがそのおかしな連中だ!やっちまえ!!」


 眼帯男が叫び警備の男達は手に持った武器を俺に向けて発射する。大量の短槍が俺に向かって降り注ぐ。

 馬が暴れて馬車が踊るように進む。

 俺は短槍を避けながら馬車に近付き土魔法の鉄鋼散弾を連射して馬を縛っている綱を切る。

 馬は走り出し馬車は停まる。

 俺は馬車の影に隠れて空雷弾を連射する。

 

 「やれやれっ!やっちまえ!!」


 眼帯男の叫び声が聞こえ、敵の攻撃が激化する。馬車は高級そうな作りで頑丈そうだったが、短槍の連射を受けて車軸が壊れタイヤが外れ、本体は傾きあちこちから煙が出て壊れ始める。

 おいおい!大丈夫かこの馬車?積んでる魔導機関が発火したりしないよな?

 つーか、バカスカ撃ちやがって!俺は伝説のカップル強盗じゃねーっての!!もしくはあれか?妹が乱暴されてキレたギャングボスの長男か?

 

 「どっちにしても、やりすぎだっちゅーの!!こんな派手にやって衛兵も来ないのかよ!!」


 俺は独り言ちながら馬車の影に隠れ続ける。敵の攻撃が途切れないので隙をぬって撃ち返す事も出来ない。

 クソが!弾無限技か?それとも、あれか?三段撃ちみたく順番にやってんの?もしかして敵に第六天魔王いたりする?

 

 「ゴアッ!!」

 「グウッ!!」


 ちょいと弱気になっていると上空に紫色の光の玉が走り倉庫の屋根にいる男達にぶち当たる。

 光の玉はまるで流れ星のように飛来し、次々に男達にぶち当たった。


 「チャンス到来!!」


 俺は途切れた敵の攻撃の隙を縫って馬車から上半身を出し空雷弾を連射する。

 倉庫周りにいた男達は俺の反撃を受け倉庫の中へ逃げて行く。

 俺はゲイルダッシュで倉庫の入り口に入り込む。倉庫の中は木箱が積み上げてあり、木箱の上や奥の木箱の影から短槍がこちらに向かって降り注ぐ。

 俺は近くの木箱に隠れ手だけ出してやたら滅多ら空雷弾を撃ちまくる。

 敵の攻撃が止むと空雷弾を連射しながらゲイルダッシュで前の木箱の影に移動する。

 移動しきる前に短槍が降り注ぎ身体をかすめる。


 「あっぶな」


 ちょいと今のはヤバかった。無理に距離を詰め過ぎたな。隠れている木箱にバチバチと短槍が当たり周囲に木片が飛び散っている。

 

 「これ、中になに入ってんだ?」


 俺はちょっと気になって木箱に鉄鋼散弾で穴を開ける。

 あけた穴からコーヒー豆がザラザラと流れ落ちてくる。


 「コーヒーか」


 俺は敵の攻撃の隙間を縫って空雷弾を撃ち返しながら零れ落ちるコーヒー豆を見る。

 落ちるコーヒー豆の勢いが落ちると奥にソーセージのようなものが大量に入っているのが見えた。

 俺はそのソーセージみたいなもんを手に取ってみる。腸詰のような感触だが色は真っ白だ。軽く手で揉んでみると粉の入っている感触がする。

 はは~ん、なるほどね。

 俺は木箱の中の白ソーセージを敵に向かってぶん投げる。

 敵の短槍が降り注ぎ白ソーセージを破裂させる。


 「バカ野郎!!幾らすると思ってんだ!!」


 眼帯男の声が響き渡り敵の撃ち方が止む。


 「人身売買に違法薬物売買!!こりゃあ、現場を押さえられたら言い逃れできんなあ!!」


 俺は大きな声で言ってやる。


 「お前は俺が言った事を聞いてなかったのか?目撃者も被害者も誰もいないのさ」


 「ちゃーんとここにおるぞい!!」


 倉庫の奥から声がしてまばゆい光が倉庫内に差し込む。


 「ぐっ!何者だ!!」


 眼帯男が叫ぶ。


 「目撃者と被害者、そして加害者だ」


 強い光を纏ったホフスさんが大きな声で言う。

 俺は木箱の影から顔を出す。


 「お疲れさんでーっす!!」


 「おう!ゴリっとやってお疲れさん!ほれ!お前ら!武器を捨てろ!こいつがどうなっても知らんぞい!」


 ほら、やっぱりゴリさんじゃん。後光が差しているホフスさんは杖で前に立つ中年男の背中を叩いた。

 

 「痛い!乱暴しないで下さい!」


 中年男は情けない声を出して抗議する。


 「モヤンビエンさん」


 眼帯男が小さな声で言う。


 「攫ったおなご達も確保しておる。諦めて武器を収めろ」


 ホフスさんが言うと眼帯男は周りの男達に目配せをする。男達は手に持っていた術式武器を腰に収めホフスさんの身体に差していた光が徐々に弱まり消える。

 俺も安心して木箱の影から表に出る。

 

 「きっひっひ、素直で結構。じゃあ、皆、大人しくお縄頂戴せよ」


 「ふふふ、武器は引きましょう、女たちも好きにすればよい。だが、私達は捕らえられる事はありませんよ」


 ホフスさんの言葉に眼帯男が笑って答える。


 「なぜだ?」


 俺は眼帯男に問う。


 「なぜか?それはここがリーブルボクー海運商会の倉庫だからだよ」


 眼帯男がニヤリと笑うとドヤドヤと音がして倉庫に衛兵が入って来た。


 「騒ぎが起きたと聞いて来たのだが、なんの騒ぎだ?不法侵入者か?」


 「いやあ、ちょいと若いもんが酔ってケンカを始めちゃいましてね。ご面倒おかけしました」


 眼帯男はそう言うと懐から札束をスッと出して衛兵に手渡した。


 「本当に大丈夫なのか?不法侵入で引っ張らなくって?」


 「ええ、大丈夫ですよ」


 衛兵に言われた眼帯男が笑顔で答える。


 「あの、ちょっと衛兵さん、これ見て下さいよ」


 俺は木箱の下に散らばった白い腸詰を手に取り衛兵に見せる。


 「それが何か?」


 「いや、何かじゃなくって、これ、違法薬物でしょ?」


 「証拠は?」


 衛兵がダルそうな声で言う。


 「いや、証拠って言われても」


 前世の刑事ものみたいにペロッとなめてもわかんないしなあ。それに、この勢いじゃあ確実にこの衛兵はリーブルボクー海運商会の息がかかってるだろうから、ここで何を言ってもどうにもなりはしないんだろうな。


 「帰るぞ弟子よ」


 ホフスさんが俺に言う。


 「でも師匠」


 「師匠に口答えするでないわ。いいから行くぞい」


 ホフスさんはそう言って俺に向かって歩き正面出口に向かう。


 「ここで問答しても時間の無駄じゃ。まずは、マドリのところに戻るぞい」


 すれ違いざまに俺に耳打ちするホフスさん。


 「どーもお邪魔しました」


 俺は口を尖らしてそう告げホフスさんに続いて倉庫を出るのだった。

 まったく、理不尽な世の中だよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ