楽しいロケハンって素敵やん
「それは、計画とは言わないと思うんすけど?」
こちらに向かって肩を怒らせてやって来る男達を見て俺はホフスさんに言う。
「いいや、これこそ一番有効な計画じゃい。見てみい?すでに結果が出ておる」
「お客さん、ちょっと来てもらえますかい?」
こちらにやって来て声をかける屈強な男、そして、勝ち誇ったような顔をするホフスさん。
「結果ねえ。まあ、どっちにしてもこうなっちゃうか」
「けっけっけ、もちっとおなごを観たかったか?」
「いや、こういう遊びはどうも苦手で」
俺は席を立ち肩をすくめる。
ホフスさんとマドリさんも席を立つ。
「ついて来てもらおうかお客人」
俺達は声をかけて来た男の後に続く。一緒に来た男達が俺達を囲むように位置どる。
「押すなって」
後ろから小突く男に俺は不平を言う。
「けっけっけ、わたしの事は触らんのかや?ほれほれ、つついてみい?まだまだ若い者には負けんぞい?」
ホフスさんは笑いながら自分の胸を突き出す。
屈強な男達は表情一つ変えないでいる。なかなか笑いに厳しいねえ、やっぱ、こういう所って女性のショーの合間にめっちゃ手練れのコメディアンとかが出て場を繋いだりしてるのかね?こういうとこってみんな裸見に来てるから、そんなとこで笑わそうとしてもかなり難易度高いらしいね。ヤジとかも凄いって言うよ。だから、こういうトコで鍛えられた芸人は強いって良く聞くよなあ。
「やっぱ、おじさん達もちょっとやそっとの事じゃ笑わない感じ?笑いにはうるさくなっちゃう?ここで働いてると」
俺は小突いてきた男の顔を覗き込んで尋ねる。
男はやはり無表情のままだ。おじさんと呼んだ事へのコメントも無しときた。
「くぅ~、クールだね~。血ぃ吸うたろかー?」
俺は鼻の前に人差し指を出して言う。男の眉が少し下がる。ふっふっふ、どうだ?おもろかろう?笑ってもいいんだぜ?
俺は男の顔の前で人差し指を∞の字に動かす。男は眉を戻し無言で俺の人差し指を掴んでねじ上げようとする。
「血ぃー吸ぅたろか~」
俺は力を入れて男がつかんだままの状態で無限軌道を続ける。
「おい!つまらんことはするな!入れ!」
先頭の男が店の奥にあるトビラを開けて恫喝する。俺の指を掴んでいた男がその手を放し燃えるような憎悪の目でこちらを見る。俺はベロを出してやる。男の額に血管が浮き出る。べーっだ。
「連れてきました」
「おう」
部屋に入ると屈強な男達は退路を塞ぐように俺達が入って来たトビラの前に並んだ。正面には高そうな机があり、そこには固めに眼帯をした鷲鼻の中年男が座っている。眼帯男の両隣にはこれまた人相の悪い男達が並び嫌な目でこちらを威圧している。
「キススはどこじゃ?この部屋におるのか?」
ホフスさんは軽い調子で尋ねた。
「聞いた事の無い名前ですね」
眼帯男は丁寧な口調で答える。だったらなんでこんな所に連れて来たんだよ。
「だったらなぜこんなお出迎えをしてくれたのだ?ん?」
ホフスさんが俺の思っていた事を代弁してくれる。
「親切心ですよ」
眼帯男は机の上に肘をつき組んだ手の上に顔を置いて言った。おいおい、どこの奥さん大好きダメ親父総司令ですか?
「そりゃあわざわざどうも。ならば、教えてくれんか?キススの居所を。なんなら拉致したおなごの居所でも良いぞい?」
ホフスさんが言うと眼帯男の両側にいる男達の表情に怖いものが走る。ビンゴですね、これは。
「何を言っているのか良くわかりませんけどね、ひとつ、この場所で生きている先輩として忠告してあげますよ。あなた方がしている事を止めはしませんけどね、それは無駄な事ですよ。衛兵に言おうとどこに言おうと、目撃者もいない被害者もいない、つまり何も起きてはいないんですよ。何も起きていないものをどうやって探すんです?この辺りは物騒なところですよ、無駄な事をして追剥にあってもつまらないでしょう、早く地元に帰る事をオススメしますよ」
眼帯男は丁寧に言う。
「なるほどのう、わかった。親切にありがとうの」
ホフスさんはそう言って出口に振り返る。え?ひと暴れしないの?俺はホフスさんの顔を見る。ホフスさんは俺を見てウインクする。何か考えがあるってか。俺は不安そうな顔をするマドリさんに頷くと歩みを進めるホフスさんの後に続いた。
「結構結構、賢い選択です。お客さんがお帰りだ」
眼帯男が言うと出口を塞ぐように立っていた屈強な男達がさっとトビラを開ける。
「邪魔したの」
ホフスさんはトビラを開けた男に軽く手を上げる。俺は血ぃ吸うたろかのポーズをして部屋を出る。
「あの、いいんでしょうか?あれは絶対になにか知っている感じでしたけど」
店を出た所でマドリさんが言う。
「ああ、知っとるだろうよ、と言うよりも完全に関わっておるだろう」
「だったらなぜ?」
答えるホフスさんにマドリさんが詰め寄る。
「まあ、そう興奮するな。糸はまだ途切れとらん」
ホフスさんはそう言ってアニーツイスターの脇の路地に向かった。
ほら、やっぱなんか考えがあったんだ。
俺はわかったもんね。まあ、具体的になにがあったのかはわかんないけども。
「どういう事ですか?」
「かっかっか、気づかんかったか?わたしの話を聞いた踊り子が血相を変えて引っ込んだ時、それを見たバーテンがずっとこっちを見ていたのを。店を出る時もこっちを見て、目配せしとったわい。あれは、何かを伝えたいか、わたしに惚れたかどちらかじゃい」
「気付きませんでした」
マドリさんが驚いた様子で答える。
「惚れておったんだったらごめんな」
ホフスさんが言うと路地の先にあるトビラが開いてバーテンがゴミ箱を抱えて外に出て来てこちらを見るとすぐにゴミ箱を置いて中に戻って行った。
「惚れたんじゃなさそうっすね師匠」
俺はホフスさんの顔を見て言う。
「そうホッとした顔をするな。気持ちは嬉しいがわたしとて乙女よ、少しは傷つくわい」
ホフスさんはそう言ってゴミ箱に向かって歩いて行く。
「あの、本当になにかあるのでしょうか?ただゴミを捨てに出ただけなのでは?」
マドリさんが心配そうな声を出す。
「ひひひ、まあ、乙女の勘を信じよ」
ホフスさんはそう言ってゴミ箱を開ける。
「ほれ、これを見よ」
ゴミ箱の中から一枚の紙きれを出してホフスさんは笑みを浮かべる。
「恋文っすか?」
俺も笑みを浮かべて言う。
「残念ながら違うようだぞい」
ホフスさんがこちらに向かって紙を見せる。そこには何かの地図と書き込んだ文字が見受けらえる。
「どれどれ、ちょいと場所を変えてじっくりと見ようじゃないか」
ホフスさんはそう言って紙を袖にしまいトテトテと歩き出す。俺とマドリさんもその後に続く。
「ここいらで良いだろう」
ホフスさんはアニーツイスターから離れた港の埠頭まで来ると、そう言って袖から紙を出した。
俺とマドリさんはホフスさんを囲むように肩を寄せてその紙を覗き込んだ。
その紙には長方形が並んでおり、矢印と共に注意書きが書き込んであった。
「倉庫周辺は安全対策で魔素希釈剤が定期的にまかれている。ブツは13番、中と外に護衛あり。護衛はジャーグル28型術式武器を所持か面倒だのう」
ホフスさんが書いてある文字を読み上げる。
「魔素希釈剤ってなんすか?」
俺はホフスさんに尋ねる。
「なんじゃ、なんも知らんのだなあ。ああした倉庫には色々なものが保管されておってな、その中には慎重な扱いが求められる物もあるのだ。そうした物が魔力暴走して発火したりせんように周囲の魔素を薄める薬剤が定期的に散布されとるのよ。だからこの場所は魔力を吸収しづらくなっておるわけだ。護衛が持っているのが魔力蓄積型の飛び道具なのもそう言う理由だろうな」
「ふへ~、じゃあジャーグル28型術式武器って?」
「エグバート王国軍が正式採用していた術式武器のジャーグル生産品だ。土魔法系統の飛び道具で貫通力に優れておるが安全のための装置が省略されており現在では一線での使用は退いておる。だもので各国の暴力組織に流れておって問題になっとるものよ」
ほーん、なんか前世のトカレフみたいね。
「土魔法しか使えないの?」
「ああ、小型の鉄槍を放つのみの術式具だが、シンプル故に丈夫で故障も少ないのだ。魔力が吸収しにくい場所でそんな物を持った奴らが大勢いるとなると、厄介じゃのう」
「まあ、あれっしょ。まずは、現地調査っしょ、ねえ?」
俺はアゴに手を上げるホフスさんに言う。
「まあ、そうだな。まずは下見と行くか」
頷くホフスさん。
そんな訳で俺達は敵陣偵察へと向かうのだった。




