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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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夜遊び三人組って素敵やん

 「危険な事になるかも知れないのでマドリさんはどこか安全な所で待っていて下さい」


 「いいえ!娘がいるかもしれないのに待ってるなんて出来ません!邪魔にならないようにしますから、ご一緒させて下さい!」


 俺の提案にマドリさんは首を振る。


 「いいではないか。それともあれか?おまえは彼女を守り切れんか?自信がないのか?」


 「あ!そんな事言いますか?それは心外だなあ~」


 俺はむくれる。


 「だったら良いではないか。それに母は強しじゃ、侮るでないぞ」


 「ういっす師匠!」


 「お?いいのう、その言葉を待っとったぞ!」


 ホフスさんご満悦だ。ふっふっふ、ちょろいな。


 「ん?今、良からぬ事を考えおったか?」


 「いやっ!そんな事はありませんです師匠!」


 クルッとこちらを振り返るホフスさんに俺は背筋を伸ばして答える。あぶねー、異様に勘が鋭いんだったよこのお方は。


 「よしよし、それで良い」


 ホフスさんは笑顔を浮かべながら確かな足取りで歩き出す。

 つーかホフスさん、港がどこかわかってるんかね?これ、どこか知らずに歩いてるってパターンちゃうやろね?

 

 「あのー師匠、つかぬ事を聞きますが港がどこかご存知で?」


 「知らんよ」


 あちゃー、やっぱり。


 「だが、海の方向はわかる」


 頭を押さえる俺を見てホフスさんは笑って答える。


 「なんで?それも精霊術?」


 「ふひひひ、ぬしには素養がある。よーっく目を凝らして見てみよ」


 ホフスさんに言われて俺は呼吸を整え意識を目に集中し、らせんを意識して体内を循環させた魔法の気を目のあたりで重点的に回してみる。

 目の奥に熱を感じてくるとホフスさんが歩いている前方の宙に緑色の光の玉がふたつ、クルクルと回りながら飛んでいるのが見えた。


 「はやぁ~、緑の玉がふたつ見えますわ~。これ、精霊っすか師匠?」


 「ほう?奇妙な事をするのう?面白いわ。それに色まで見分けるか、う~む、惜しいのう。いや、これで良いのか」


 「なにがっすか師匠?」


 「おぬし、その気になれば天下を取れる素材だと言うておるのよ。だのにたいした欲も持たず、いや、欲を制しておるのか?いずれにしても、世界を統べようなどという気はあるまい」


 「あったりまえっしょ!物騒な事を言わんで下さいよ!」


 俺は魔王とか悪の組織のボスじゃあないんだから。


 「物騒な事とな?ううむ、やはり惜しいな。世界を統べる事を物騒と捉える感覚は貴重じゃ」


 「えー?普通じゃないっすかー?」


 目を細めるホフスさんに俺は答える。普通じゃないの?うーん、この感覚はやっぱあれかね?前世での感覚なのかね?前世では世界征服と言えば悪の秘密結社や魔王のお家芸だった。そしてその野望はかならず正義のヒーローの手によって挫かれるのだ。

 そうでなくとも世界を征服でも統一でもいいが、とにかくひとつの力の下に置くなんて事を実行するには、武力行使以外に方法なんてありえないだろうし、武力を用いれば当然、反発する力も現れて戦争になる。戦争になれば兵士以外にも多くの民間人の命が失われることになるし、経済状態は滅茶苦茶になってしまう。こっちに来る前の世界では核兵器があったので、そんなもんを使って争いになった日にはそれこそ人類滅亡の危機だ。

 かの天才学者はおっしゃってた、第三次大戦でどんな武器が使用されるかはわからないが、第四次は棒と石器だろう、という言葉はそれを端的に表している。


 「お前がそれを普通にしてみろ。各国の王にその価値観を植え付けてやれ」


 「無茶言わんで下さいよ師匠」


 「かっかっか。やはり、これで良いのか」


 ホフスさんは満足そうに笑う。


 「なにがっすか師匠?」


 「くくく、ぬしは国生み破壊神の話しを聞いた事があるか?」


 「いや、ないっす」


 「ならば港へ行く道の暇つぶしに聞かせてやろう」


 ホフスさんはそう言ってひとつの物語を聞かせてくれた。

 国生みの破壊神とは大陸各地に伝わる神話で、昔々の大昔、いわゆる神代の昔に巨大な破壊神がいて、荒れ果て岩山だらけであった土地を破壊して歩いたという。そしてその破壊神が壊して歩いた後には草木が生え生き物が集まり豊かな土地になったのだった。

 破壊神はひとり荒れ果てた土地を破壊して歩く。彼の通った後には生き物が集まるが、生き物は彼と接触することは無い。なぜなら、彼に近付けばその破壊の嵐に巻き込まれてしまうからだ。

 破壊神はその凄まじい力を持って荒涼とした大地を破壊し、その破壊は再生と恵みを産む。

 人は彼を国生みの破壊神と呼んだ。

 

 「それで、破壊神はどうなったんです?」


 俺は尋ねる。


 「消えたのよ」


 ホフスさんは短く答える。


 「消えた?なんで?」


 「さあ?なんせ人は近づけぬ存在ゆえ、詳しい事はわからん。だがな」


 「なんすか?」


 「おぬしならば、なぜ国生みの破壊神が消えたのかわかるのではないか?」


 ホフスさんは意味ありげな笑みを浮かべて俺を見る。俺はその笑みを見てドキッとする。それは、その何もかも見透かしたような目もだが、その笑みが凄くキュートだったからだ。


 「ん?んんんん??」


 俺は慌てて目を擦る。


 「なんじゃ?見惚れたか?かっかっかっか!なんなら弟子ではなく愛人にでもなってみるか?ん?」


 「う~、なんか術使いませんでした?」


 「なにも使っとらん。ぬしが勝手にかかったのだろうよ」


 「何にです?」


 「恋の術によ。かーかっかっかっかっかっか!!」


 ホフスさんが大きな声で笑う。まさに呵々大笑といった感じ。まったく、敵わんよこのお方には。

 

 「で、結局、さっきの話はなんだったんですか師匠?」


 俺は殊更『師匠』という所を強調する。


 「なんじゃダーリン?知りたいのか?恋の術とはだな」


 「違いますって!それにダーリンってなんすか!もう!」


 おどけて言うホフスさんに俺はツッコむ。もう、この人と一緒にいると俺がツッコみ役になっちまうよ。本来俺はボケ役で光るのに。


 「かっかっか、それじゃあなんじゃ?」


 「破壊神の話しっすよ、もう。俺の事と関連付けて話してくれたんでしょ?もう」


 「もうもうもうもうと、おぬしは牛か?」


 「教えて下さいよ、も~う」


 「かっかっか、忘れたわい」


 「はっ?」


 「だから、忘れたと言うておる」


 軽い調子で言うホフスさん。


 「もう、敵わんなあ」


 「かっかっか、わたしに勝とうなど二年早いぞい」


 「結構、短いな!」


 俺はテンポよくツッコみホフスさんはカラカラと笑う。


 「あ!港が見えてきました!」


 緩やかな下り坂の先にみえた港の灯にマドリさんが興奮気味に声をを出す。

 俺達は坂を下り港へと向かう。

 港付近には港湾労働者向けの飲食店が並んでおり、人が行き交い賑やかであった。

 

 「すんませーん、アニーツイスターって店に行きたいんですけど」


 向かいから歩いて来た男に尋ねると、男は指をさし、この先の一番明るい店がそうだと教えてくれる。

 俺達は男の指した方向に向かって歩く。

 結構な距離を歩いて辿り着いた店はド派手な看板に『アニーツイスター 夕方から夜明けまで』、と書いてあった。

 う~ん、なんか物騒な感じがするぞ?従業員全員バンパイアとか言わないよな?

 

 「どうした?怖気づいたか?」


 「う~ん、なんか嫌な感じがしてさ」


 俺はホフスさんに答える。


 「ふむ、確かに良くない空気が渦巻いておるな。下劣な淀みを感じる。が、こうした場所ではそれも仕方あるまい」


 「ふーーー。よし、じゃあ入りますか」


 俺は深く息を吐いて言う。


 「ああ、行こう」


 俺とホフスさんはマドリさんをかばうように前を歩きアニーツイスターに向かう。

 店の前では大きな男が腕を組んで立っており、俺達を一瞥すると近くにいた若い男に目配せする。

 若い男達は俺達のボディチェックをする。


 「きっひっひ、なんじゃ?わたしといい事がしたいのかや?」


 ホフスさんがボディチェックをする若者に色目を使うと、若い男は嫌な顔をして逃げるように離れて指示を出した大男に頷く。俺とマドリさんのボディチェックをしていた男達もすぐに離れて同じように大男に頷いた。

 大男はそれに頷き返してから中に入れとアゴを動かした。

 まったく、客を客とも思っとらんな。

 つーか、あれか。若造と老婆とおばちゃんだもんなあ。金持ってそうにも見えないし、扱い雑になるのも仕方ないか。


 「ほれ、さっさと入るぞい」


 ホフスさんが弾んだ声で言う。


 「なにウキウキしちゃってんのよ師匠」


 「これで心弾まずして何とする!行くぞい!」


 ホフスさんは嬉しそうにトビラを開ける。

 店内からドデカイ音楽と目がちかちかしそうな光が外に漏れてくる。

 おいおい、クラブですか?ここは?

 中に入ると天井にはギラギラした丸い光源体が回転しており、奥のステージでは大勢の人間が楽器を演奏しているのが見える。

 そして、ステージは奥から中央に向かって伸びており、そこには裸同然の恰好をしたお姉ちゃんたちが踊り狂い、客はそれを見て酒を飲み金を投げていた。

 うわー、前世で映画で見たやつ!下着にドル札ぶっこむやつだー!

 俺は思わずそのテイストにやられてしまう。


 「おいおい、初めて見る訳でもあるまいし。そんなに珍しいかったかや?何なら今晩わたしがじっくり見せてくれようかいな?」


 「いやいやいやいや!いやーーん!」


 俺はブルブルブルブルと高速で首を振る。


 「かっかっか!まずは情報収集と行こうじゃないか。皆の者!ついてまいれ!」


 手を大きく掲げるホフスさんに俺とマドリさんはついて行く。

 ホフスさんは確信に満ちた足取りでステージ近くのボックス席に陣取り、やってきた給仕にエールとつまみを人数分頼むと、袖の中から例の伝票さしにぶっ刺さった札束をデンっとテーブル上に乗せた。

 それを見た踊り子さんがこちらにやってくる。


 「ほれほれ、どうじゃ?ん?欲しいかや?」


 ホフスさんがぶっ刺さった札を三枚千切りとりフリフリすると踊り子さんはステージに寝転がりホフスさんに顔を近づけた。


 「よーしよしよし、めんこいめんこい」


 ホフスさんはそう言って踊り子さんの首輪に札をねじ込んだ。

 踊り子さんは怪しい笑みを浮かべてホフスさんにウインクする。

 くぅ~、さすが師匠!慣れてらっしゃる~!まるで、若くして成功した証券マンみたい!ホフスオブウォールストリート!酩酊運転で高級車をベッコベコにしたい!


 「ところでなお嬢ちゃん、キススに会いたいんじゃがどこにいるかわかるかい?」


 ホフスさんはニヒルな笑みを浮かべて踊り子さんに耳打ちする。

 踊り子さんは急に険しい顔になってステージ奥へと逃げるように引っ込んで行く。


 「ありゃりゃ、これマズくないっすか?」


 「いや計画通りじゃ」


 「計画なんてあったんすか?」


 「勿論あるぞい」


 ホフスさんは嬉しそうに言う。

 この顔はあれだな、行き当たりばったり、臨機応変が計画だって顔だな。でも一応、聞いておくか。


 「その計画とは?」


 「聞きたいか?」


 ホフスさんが楽しそうな笑みを浮かべて聞く。そして、店の奥からは屈強な男が数人出てきてさっき逃げるように引っ込んでった踊り子さんと何やら話しをしてこちらを見ている。


 「聞きたいっすねえ」


 「それはな」


 「それは?」


 「ズバリだな」

 

 「ズバリ?」


 「機転をきかせろ!これじゃい!」


 ホフスさんが嬉しそうに言う。

 やっぱりなあ。


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