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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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海って素敵やん

 ウトウトとまどろんでいると潮風を肌に感じ海の匂いがする。


「んんんーーーー!よっし!」


 大きく伸びをして進行方向を見ればやって来ました海だっ!

 ハティちゃんはかぶりつくように海に見入ってる。


「いやー、海ですねー。潮風が気持ちいいー!」


 誰に言うでもなく俺は言う。


「トモちゃん起きた!ねぼすけトモちゃん!ねぼトモちゃん!ねぼすけトモちゃんねぼトモちゃーーん!」


 元気いっぱいだなー。子供は元気が一番!

 俺はハティちゃんの頭をワシワシして言った。


「どうだ!海は!」


「凄いねーー!広いねーー!しょっぱい匂いがするねーー!」


「クルース殿起きられたか。今しばらく進むとダスドラック領屈指の大河ジーフサ川にぶつかるのである。ジーフサ川を渡ればマズヌルまですぐなのである」


「おーー。みんな休まなくて大丈夫?まだまだ日も沈まないでしょ。どこかで一休みしてかなくて大丈夫?」


「ふふ、クルースさんが寝ておられる時に休憩しましたから大丈夫ですよ」


 オウンジ氏が言う。


「ありゃ、そうでしたか。なら安心ですね。運転代わりますか?」


「いや、大丈夫ですよ。今日はほとんどクルースさんでしたからね。マズヌルまでは私が運転しますよ」


「ではお願いします」


 海沿いの道を馬車は進む。遠くに船が見える。


「なーに、あれ?」


 ハティちゃんが船を指さして俺に尋ねる。


「あれはお船だよ」


「お船?」


「そう、人が乗って海の上を進んでいるんだよ」


「凄い!海の上を進むの!海って水でしょ!」


「まあ、そうだね塩水だね」


「凄い凄い。水の上を進むー!水の上を進むー!進んで進んで下から弓で撃つーー!」


「下から弓で撃つ?」


「なにが?弓ってなに?」


 俺はスーちゃんと顔を見合わせてうなづいた。きたな例のやつが。


「これは、例のあれであるな」


 スーちゃんがオウンジ氏に確認する。


「恐らくそうだと思います」


「まあ、考えられるのはジーフサ川を渡る橋の上での襲撃でしょう」


 俺は言った。


「吾輩も同意見である」


「しかし、ハティもいるのにそんなことをしてくるでしょうか」


 オウンジ氏が言うのももっともだ。

 こういう場合、敵の行動としてなにが考えられる?

 橋の上の我々に川からの攻撃。足止め?逃げ道の少ない橋の上で?挟み撃ち?十分に考えられるな。


「挟み撃ちかも知れません」


 俺は言った。


「うむ!それなら理屈は通るぞな!船で遠隔攻撃し足止めしての挟撃であるな!それは厄介であるぞ」


「橋の手前に街はありませんかね」


「大きな川故に橋の前後が宿場町になっているのである」


「ではそこで作戦を練るとしましょうか」


 そういうことになった。

 橋のふもとの宿場町は我々が到着した方が上りの町、橋を渡った向こう側が下りの町と呼ばれているとの事だった。

 しかし、橋、でけーーー!よくこんなもん造れたな。

 橋の幅だってすげーぞ。10メートルじゃ効かないぞ。15メートルか下手すりゃもっとあるかもだ。

 長さもすげーよ。歩いて渡ると20分程かかるってんだから1キロはあんじゃねーの。

 やっぱ、魔法だとかワイバーンだとかがあると違うな。

 さてと、これだけ川と海に近ければ俺の考えている職人さんがいるんじゃないかな。

 探しているとすぐに見つかった。船大工が。


「船でも作るのであるか?」


 スーちゃんが問う。


「いやいや、そんなことはしないよ。すいませーん」


 俺は中に入り棟梁と話しがしたいと告げる。

 すると身体のがっちりした気難しそうな顔をしたオッサンがこちらにやってきた。


「俺がここの責任者だが何かようか?」


 職人らしいぶっきらぼうさだな。基本的には素人相手の商いはしないのだろうな。

 俺は考えていることを棟梁に話した。


「ええ?まあ、あるこたぁあるけどよ。ちょっと見せてみな」


 俺は外に停めてある馬車を見せる。


「馬ごとかよ?」


「後ろの白い馬もね」


「ちょっと測らせてくれや」


 棟梁は口は悪いがいい人っぽいな。つーかちょっと面白そうだとか思っちゃってる感じがするな。


「うーん、平底なら丁度いいのがあるな」


「そうっすか!でどのくらいでできます?」


「時間は幾らもかかんねーよ」


「じゃあ、後は値段ですな」


「おう、じゃ中に入れや」


 てな具合に話しは進み後はできるのを待つばかりとなった。

 打ち合わせをしながらちょっとした軽食をみんなで取る。

 そうして休憩していると気になって仕方ないのがスーちゃんだ。


「橋を渡った後の話しはわかったのだが、結局、クルース殿はどうやってこの橋を渡るのであるか?」


 さすがは新聞記者さんだ、好奇心が強くてらっしゃる。


「へへへのへ。この橋渡るべからずって言われたら頓智をきかせなきゃでしょ!」


「頓智とな!」


「ふふふーーん。もうすぐできるだろうからボチボチ行って見ますか」


 と言うことで橋まで一直線に行ける棟梁指定の広場へ行く。


「な、何であるかこれは!」


 そこにあるのは逆さまになったフラットボートだ。サイドに車輪がついている。


「棟梁!いいじゃないのーー!」


 俺は出来上がった物を見て回った。俺が注文したのは馬ごと馬車が入るサイズの廃船を逆さにして車輪を付けてくれって事だった。まったく注文通りだ、さすが棟梁!。


「おうっ来たか。ほれ、注文通り後ろはトビラにしておいたぞ。中にかんぬきがあるからよ」


「おーーっ!バッチリだよ!」


「それでよ、本当に橋の向こうで下取り出すのかよ?」


「出すよ。向こうにもあるんでしょ棟梁んとこの店が」


「おう、一応話し通しておいたけどよ。本当にいいのかよ」


「いいのいいの。橋さえ渡れればいいんだから。弓矢のオプション付きだけどね」


「おー、なんだかわかんねーけどよ。矢も使えるなら買い取るぞ」


「よし、じゃ、これ料金ね。いい仕事してくれたからさあ。色つけといたよ」


「おう、なんだかわりーな」


「こっちこそ、助かったよ!」


「なにこれーー!カッコイイーーー!トモちゃんが買ったの?」


 ハティちゃんは大はしゃぎだ。


「そーだよー。まあ、橋渡ったらすぐに売り払うけどねー!」


「クルースさん、これはいったい何なのですか?」


 オウンジ氏が俺に尋ねる。

 まあ、そうでしょうな。


「これはですね即席ウォーワゴンです」


「戦争に使う物なのであるか?」


「おや、さすがの敏腕記者スーちゃんも御存じない?」


「自分は従軍記者ではないのである」


「まあそれもそうか、ウォーワゴンってのは移動する要塞みたいなものだな。飛び道具から身を守りながら移動するための道具なのだ!」


「おおっ!」


「へへへー。即席だけどね。ダメになった輸送船をひっくり返して覗き窓開けて、車輪付けただけだからね。車輪も中に馬ごと馬車入れる都合で軸棒通してないから強度低いし。本当に向こう側に渡るためだけだからね。まあ兎に角、中に入って見ましょうよ」


 てなわけで中に馬ごと馬車を入れてみる。


「すごーい!中広ーい!」


「でしょー。なんせ輸送船ですから元は」


「この棒は何であるか?」


「ああ、それは馬車に固定して連動できるようにするための棒だよ」


「ふむ、考えられているのであるな」


「それほどのこっちゃないけど、こっちは俺が固定するから反対側はスーちゃん頼むよ」


「心得た!」


「しかし、クルースさん。これでは前がほとんど見えませんぞ。覗き窓が小さすぎます」


 オウンジ氏が言う。


「基本真っ直ぐしか進みませんし、俺が上に登って誘導しますから大丈夫ですよ」


「ムム、クルース殿。大丈夫であるか?」


「そこら辺も考えてますよ。じゃあ、早速出発と行きますか!。俺が出たら後ろのトビラにかんぬきかけて下さいね」


「心得た」


 俺は外に出る。


「おう兄ちゃん。上に言われた物載せてあっからよ。縄ばしご取り付けてあるから行って確認してくれよ」


「ありがとう棟梁!」


 縄ばしごを使って上に登る。

 元船底、現屋根に登ってみると注文通り外したトビラと木箱に大量の五寸釘が置いてある。


「棟梁!バッチリっす!」


「おう!そいつはよかったぜ」


「橋の通行の方はどうですかー!」


「おう!そっちもいいぞ!」


「ありがとうございまーーす!それじゃあ、行ってきまーーす!」


「おう!」


 俺は大声で中に向かって叫ぶ。


「では、出発!進行!」


「了解であーーる!」


 おおっ、動いた動いた。なんだか祭りの神輿に乗ってるみたいで楽しくなってくるな。

 さっき棟梁に確認した橋の通行の事なのだが、我々が渡る時は危険なので一般の方の通行は規制してもらう段取りだったのだ。無関係な人が巻き込まれるのを防ぐ目的と、それでも無視して通行する者は敵の可能性が高いので警戒しやすいという利点がある。勿論、それも料金に含まれるのだが。

 さあ、来るなら来い。

 外したトビラはこちらも注文通り片手で持てるように取手が付けてある。

 まあ、でかい盾だな要するに。

 五寸釘もしこたまあるし五寸釘祭りだな今日は。


「そーれそれそれ!わっしょいわっしょい!」


 俺は声をかける。


「何なのであるかそれは?」


 下からスーちゃんの声がする。


「いや、掛け声よ!掛け声!」


「なんだか良くわからぬが、油断されるなよ!」


「りょーーーかいっ!」


 そうして橋に差し掛かると早速現れましたよ舟が。

 手漕ぎ舟に人が三人程乗っており、ひとりが漕いで2人が弓で攻撃してくる。そんな舟が三隻、橋を渡る我々に並走して来る。俺は盾代わりのトビラで矢を受け止めながら下に声をかける。


「ぼんくら共が来ましたよー!こっちは地道に進みましょう!。それ福はーうち!鬼はー外っ!」


 俺は雨あられと降り注ぐ矢の隙間を縫って五寸釘を投擲する。距離が結構あるから威力は大分削がれるがそれでも舟には突き立ってるようだし慌てる姿が見られる。


「そーれそーれ、商売繫盛笹持って来いっ!」


 来い!のところで力いっぱい釘を投擲する。敵の弾幕が薄くなってくる。


「そーれ、商売繫盛笹持って来いっ!」


 段々と薄くなる弾幕。手漕ぎ舟は橋の死角に入り見えなくなる。ふと前を見ると馬車が2台こちらに向かってくる。今度は前方から弓矢の雨だ。即席ウォーワゴンはハリネズミみたいな有様だ。


「下は大丈夫ですかーー?」


「平気なのである!矢の一本も入って来ないのである!」


「よーし!では引き続き微速前進!ヨーソロー!」


「任せるのである!」


 俺は前から向かって来る馬車を引きつけて馬を傷つけないように御者と荷台に五寸釘の雨を降らせる。


「ぎゃっ!」


「うわーーっ!」


 馬車から転がり落ちる者あり、体中に釘が刺さって転がりまわるものあり、阿鼻叫喚の地獄絵図、制御する者のいない馬車が負傷者を乗せてすれ違う。


 ドン!


「クルース殿!後ろである!」


 衝撃とスーちゃんの声に後ろを見ると並走する馬車からカギ縄を投げこちらに登ってくる者の姿が見えた。

 仲間が乗り移る代わりに弓での攻撃が出来なくなるだろ。


 ドン!


 うおっと。こんの野郎ぶつけて来やがったな。


「クルース殿!車輪がひとつ取れたのである!」


「りょうかーーい!手早く片付けまーーす」


 俺は奴らが登ってくる方へ走る。

 ひとり上がってきて剣を手に向かってきたので盾代わりのトビラを構えて突進する。


「それ!どーーーん!」


「あびゃっ!」


 男をすっ飛ばす。

 もうひとりはまだ登ってくる途中だったのでかぎ縄の爪を外して持ち上げる。


「よ、よせっ!やめろっ!」


「よーいしょっと」


 揺らしてから馬車の荷台にほっぽりなげる。


「やろうっ!撃て撃て!」


「そんなゆっくり待ってねーつーの!」


 俺は馬車の御者に向けて盾代わりのトビラをぶん投げた。


「あぶっ!」


 トビラをまともにくらった御者が崩れ落ち、馬がスピードを緩めどんどん後方へと下がって行く。


「待てっ!止まれ!」


 荷台に乗った連中が叫ぶ。


「バーカ、バーカ!待てと言われて待つ奴がいるかっ!」


 そいつらに向けて俺は叫ぶ。

 苦し紛れに弓矢を打ってくるが左手のバックラーで一蹴する。鼬の最後っ屁にもなりゃしない。


「よーし、みんなー!もう渡りきるからねー!よく頑張りました!」


 俺は下に向けて声をかけた。

 そうして俺たちは無事に橋を渡り切ったのであった。

 橋を渡り切り下の町に入ると屈強な男たちが待っていた。


「棟梁から話しはきいてるよ。しかし、すげー有様だなこりゃ」


「買い取れないかい?」


「いや買い取るよ。こいつはこのまま飾っとくぜ。いい見世物になるわ、こりゃ」


「わりーね」


「いや、珍しいもん好きで荒っぽいのがこの辺の気風だからな。こりゃ評判になるぜ!」


「ならいいんだけどさ。んじゃ、頼むよ」


 俺は簡易ウォーワゴンの後ろトビラを叩いて叫ぶ。


「おーい!もう出ても大丈夫だぞーー!」


 かんぬきを外す音が聞こえトビラが開きスーちゃんとハティちゃんが出てきた。。


「全然頓智ではないのである!力技なのである!」


「もう終わり?雨は止んだの?」


「そうだよもう雨は止んだよ」


 奥から出てきたオウンジ氏がハティちゃんに答える。

 即席ウォーワゴンと馬車を繋いでいた木の棒を外して馬車とスーちゃんの馬を出す、というよりも集まった棟梁の所の若衆が即席ウォーワゴンを押して動かして馬車とリッキーが現れると表現したほうがいいな。

 人がどんどん集まってきて若衆や俺たちに質問する。


「何があったんだよ?」

「こりゃ、いったいなんだい?」

「誰がこんな事を?」

「あんたら、大丈夫かい?」


 一斉に質問されて俺たちも、いやー、とか、えーとですねー、とかむにゃむにゃするだけだった。


「みなさん、通してください!道をあけて下さい!」


 どうやら衛兵さんがご到着のようだ。


「この件の当事者さんおられますか?」


「はーい。わたしでーす!」


 俺は手を挙げた。


「事情聴取をしたいのですが、よろしいですか?」


「ええ、お願いします」


「では詰め所までご同行願います」


 と言うことで俺たちは下の町の詰め所に衛兵さんたちと共に向かったのであった。

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