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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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森の中の駆け引きって素敵やん

 シエンちゃんのやたらパンチ拳を受けたカリストイオは身体中に拳の跡を残し仰向けにぶっ倒れた。


 「立て!立つんだ!!カリストイオ!!」


 チビガニメデスが叫んだ。


 「もう、この村を襲う奴はいない」


 クルリと振り向いたシエンちゃんが渋い声で決める。

 

 「よーし、良くやったぞシエン。トモもご満悦だぞ」


 キーケちゃんが嬉しそうに言う。


 「だろだろ?トモちゃんから聞いた話を真似てみたんだ!大きさ的にもちょうど良い感じだったろ?」


 「うんうん、まさにって感じだったね、見ごたえあったよ!」


 賭けは俺の負け、そうと決まればこの場は全力でシエンちゃんを労うのみ!


 「まさか、カリストイオがパンチごときで」


 立ち上がらないカリストイオにチビガニメデスが驚愕の声を上げる。


 「ただのパンチではない、赤龍神拳究極奥義だ」


 シエンちゃんが言う。

 ワッキネンが心細い顔をして俺を見る。

 

 「嘘だよ、ただのパンチだよ」


 俺の言葉にワッキネンは更に表情を曇らす。なぜ?


 「ただのパンチのほうが恐ろしいですよ」


 ツィルマが小さな声で俺に教えてくれる。あ~、なるほど、そう言う事か。

 シエンちゃんの人となりを知ればおっかながることも無いんだけどなあ。


 「で?どうするんだ?まだ続けるのか?」


 ホフスさんの凛とした声が森に響く。

 

 「このままではおかんぞ」


 「このままではおかん?継戦意思ありという事だな?」


 「ぐう」


 ホフスさんの返しにチビガニメデスが小さく唸る。


 「お前ら、自分の立場がわかっていないようだから教えてやるが、お前らに与えられた選択肢はふたつだ。ひとつ、このまま尻尾を丸めてここから去り二度と顔を出さぬ事。もうひとつは、ここで我らに捕縛され衛兵に引き渡される事。どちらを選ぶ?」


 ホフスさんがニヤリと笑う。


 「ならば、捕縛すれば良かろう」


 チビガニメデスは威勢の良い事を言うが、声が若干細くなっている。

 

 「そうしても良い。良いが貴様らも抵抗はするだろ?これ以上この森を壊されるのはわたしとしては勘弁して貰いたい。だが、他の連中にとっては関係のない事だ」


 「ああ、関係ないな」


 ホフスさんの言葉に胸を張って言うシエンちゃん。そこ、胸を張るとこじゃないよ。


 「そんな事を言って我らが引けば後ろからやるつもりなのだろ?」


 「かっかっか、お前たち自身がそんなやり方ばかりしとるからそう思うんだ。目的を達成するためには手段を選ばないのが最も優れたやり方だと思っとるんだろ?それもあながち間違いじゃあないが、常にそうしたやり方をしているのは弱さを産む。今のお前がそうだ。自分がやるなら相手もそうだと思い疑念に捕らわれ自滅しそうになっておる、それじゃあ浮気性で女たらしな男が自分の嫁を信用できなくて家で暴れるようなものじゃ。なあぼうず?」


 「なんで俺見て言うのよ!俺は浮気性なんかじゃないっちゅーの!」


 人聞きの悪い、謂われのない事を言われて俺はホフスさんに抗議をする。


 「かっかっかっか、女たらしというのはあっておろうが。こんな美女を四人もたぶらかしておって。罪な男よ、のう?」


 ホフスさんがしなをつくって俺を見る。


 「も~いや~ん」


 俺は胸を押さえておどけて見せる。つか、四人って言ったよな?それってツィルマの事じゃないよね?自分の事だよね?美女って堂々と言ったなおい。


 「わかった、最初の選択肢を取らせて貰おう、だが」


 「だが?」


 俺達の様子を見ていたチビガニメデスの言葉にホフスさんが返す。


 「そちらのお嬢ちゃんはどうなんだ?第三世界の情報機関員なら、ここで我らを逃す事に反対するのではないか?」


 チビガニメデスの声にはこちらを図るような意思が感じられる。ホフスさんとツィルマの間に対立を煽って再びこの場のキャスティングボートを握ろうってか。しぶといやっちゃなあ。


 「自分は皆さんの意見に従います」


 ツィルマは即答する。


 「それで大丈夫なのか?上に知れたら厳罰が下るんじゃないのか?第三世界の情報機関では情報員の命は紙切れのように軽いと聞く」


 「なるほど、浮気性の男というのは救いようがないですね。あなた方こそ、ここで逃げて大丈夫なのですか?粛清されたりしませんか?」


 「我らはそんな前時代的な組織ではない」


 「なら良かった、まだ追えるという事ですからね」


 「・・・・」


 チビガニメデスが押し黙る。これはツィルマの一本勝ちか?


 「どうするんだ?これだけ派手にやってくれたんだ、うかうかしているとこんな場所でもさすがに衛兵が来るぞ?」   


「決められないなら我が決めてやろうか?ん?」


 ホフスさんに続いてシエンちゃんが凄む。


 「わかった。最初の条件を飲む」


 「そうか、なら行け」


 ホフスさんの言葉を聞いたチビガニメデス達は、一斉にこちらを振り返る事もなく去って行った。


 「カリストイオでしたっけ?残して行きましたね」


 「もうあいつはカリストイオじゃあない、ガラクタイオだ。くふっくふふふふふ」


 ツィルマの言葉にシエンちゃんが答えて笑う。なにそれ?シエンちゃん、今のそれ、上手い事言った、面白い事言ったって笑みだよね?ううむ、みんな微妙な顔をしてるぞ?特にワッキネンはお化けでも見たような顔してるよ。

 まあ、シエンちゃんがご満悦なら野暮なツッコミはしないけども。


 「悪かったなツィルマよ、勝手に話を進めて」


 「いえ、良いんです。どちらにしても私個人の力では捕縛どころか逃げる事すら出来ませんでしたから」


 「そう言って貰えると助かる。戦姫はどうだ?これで良かったか?」


 「その呼び方はやめてくれ、キーケで良い」


 「ではキーケよ。改めて聞く、これで良かったか?」


 「ああ、問題ない。我らの仕事はそっちの嬢ちゃんの安全確保でハンプトンの捕縛ではないからな、鹵獲品もあるし十分だ」


 「そうか、ならば良かった。そうなると、まずは倒れた木をなんとかせんとな。まったく、年寄りに重労働をさせよって」


 ホフスさんが腰を叩いて言う。


 「倒木をどうするんだ?」


 キーケちゃんがホフスさんに聞く。


 「元に戻すのよ」


 「ならば、あたしも手伝おう」


 「精霊術が使えるか?」


 「いや、だができる」


 そう言ってキーケちゃんは地面に手をやり例の土魔法で木を生やすやつをして見せる。


 「むう、今、魔力を発生させ打ち消したか?」


 「さすが、一発で見抜くか。これを我らは相克と呼ぶ」


 「我らとな?皆、これができるのか?」


 「皆ではない。まあ、やろうと思えばすぐに使えるようになるだろうがな。これのヒントを与えてくれたのはトモよ」


 キーケちゃんが俺を見る。いやー、そんなあ。


 「かかかかか!やっぱり巫女に欲しくなったぞ」


 「まずは、こいつを戻そうじゃないか」


 俺を見て笑うホフスさんにキーケちゃんが声をかける。ナイス!キーケちゃん!

 ホフスさんとキーケちゃんは倒木を元に戻す作業に取り掛かった。


 「我々はどうします?」


 ツィルマが俺達を見て聞く。


 「そうですね、とりあえず散らばったもの片付けますか」


 ワッキネンが周囲に散らばった重力魔法発生装置や壊れた毒刃球を見て言う。


 「これって刃に毒がついてるんでしょ?危ないから一か所にまとめた方がいいよね」


 俺は毒刃球を枝でつついて言う。


 「揮発性の高い毒ですので本体が機能を停止すればすぐに乾いてしまいますよ。渇けば効力は薄れて塵になり風に舞ってなくなります」


 「マジで?なんか環境に優しい兵器だねえ」


 俺は教えてくれたアルスちゃんに言う。


 「ふふ、制圧した後すぐ突入できるようにという攻撃側の利便性を考えて作られた兵器ですけどね」


 ツィルマが笑う。


 「優しいのはトモトモですよ」


 アルスちゃんも柔らかい笑みを浮かべる。

 

 「ま、まあ、あれだ、とにかく片付けちゃおう!ね!」


 「照れてるんですか?」

 

 ツィルマがニヤリと笑って俺の顔を覗き込む。


 「照れてなんかないやい!」


 俺は精一杯強がって重力発生装置を持ち上げる。


 「照れるじゃないですかー。ねえ?」


 「うふふ、そうみたいですねえ」


 ツィルマとアルスちゃんがそう言って笑う。

 照れてないやい!


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