精霊の巫女って素敵やん
森の奥で円陣を組む鎧戦士を発見、アルスちゃんは自分の領分だという事で近寄り、あっという間に従えてしまった。
「それで、こやつらはいったい何者なのだ?」
「ファントムですね」
「ファントムだと?ならば、こやつらはこの土地で死したと言うのか?」
アルスちゃんの説明にキーケちゃんが驚くのも無理はない。ファントムと言うのはアンデッドの中でも実体のない霊体系の魔物で、死んだ場所に縛られるいわゆる前世で言う所の地縛霊的存在なのだ。
こんなフル装備で統率の取れた軍隊みたいなのがこの場所で死んだとすると、それをやったのはどんな相手なんだという事になる。
キーケちゃんはそれを懸念しているのだ。
「いいえ、そうやらそうではないようです。何者かによってここに連れてこられたと言っています」
アルスちゃんが答える。
「連れて来ただと?そんな事が可能なのか?」
「私が知っている限りでは不可能です。魔道具や魔法を用いて別の場所に召喚しても普通は消え去ってしまいます」
「どういう事だ?」
「彼らも良くわからないと言っています」
キーケちゃんの質問にアルスちゃんが答えるとファントム鎧戦士たちがうんうんと頷く。
「大方、外の木を曲げた奴の仕業だろう。とっ捕まえて話を聞けば済むことだ」
シエンちゃんはそう言って一点を見つめる。
「むう、何者か!」
キーケちゃんがシエンちゃんが見つめる先を睨みつけ誰何する。
俺も呼吸を整え周囲の気配を探るが小さな生き物の気配以外なにも感じない。
何がいるんだ?
俺は緊張し、両手を軽く胸元まで上げていつでも空雷弾を放てるように身構える。
「ぬしらこそ、何者か?理を外れる者達を使役し何をなさんとす?」
しわがれた老女のような声が四方から聞こえてくる。
これは、幻術か?
俺は深く呼吸をし意識を研ぎ澄ます。自分の身体の中を巡る魔力に意識を集中し、それを足元から大地を伝い周囲の森の木々へと広げて行く。
俺の後方、木の上に温かい人の気配を感じる。
更に意識を広げて行くと、俺の前方、右手、左手にも樹上に温かい人の気配を感じる。
まてよ?人のように温かく感じるがそれはとても小さい、まるでリスくらいのサイズに感じ取れる。
なんなんだ、これ?
「わたしたちは人を探しにこの森へ来ました」
「その理外が探し人だと言うのか?」
アルスちゃんの答えに答える声はまた四方から聞こえてくる。しかも、答える時にはリスほどだった気配が少し大きくなったり小さくなったりしている。これは、スピーカー的な何かなのか?バッグゼッドは魔学が進んでいるので風魔法の術式を流用した放送設備が学園などには設置してあるが、それが出す音より全然リアルだ。
「いいえ違います。探し人はこの森の曲がった木に関心を持っていました。わたしたちもそれについて調べていたところ森の奥からオルトロスがテリトリーを追われ出てきたので、彼らを元の場所に帰しに来たらこの子達が居ました。それで事情を尋ねていた、と言う訳です」
「それでその理外はなんと答えた?」
「誰かに連れて来られた、と」
「・・・、それでおぬしはその理外をどうするつもりだ?」
「この子達も本来いる場所から離され困惑しているのです。本当であれば元いた場所に帰してあげたいのですが、この子達自身も随分長い間、存在し続けているためその場所も存在目的も忘れてしまったようです。ですので、彼らの意思を尊重して本来行くべき場所へ行かせてあげようかと思います」
「本来行くべき場所とな?」
「ええ、多くの人が恐れ、多くの人が望み、皆が必ず行く場所。無であり全てであり究極の孤独であり至高の結びつきである場所です」
アルスちゃんが穏やかな口調で静かに言う。気づいてみればシエンちゃんとキーケちゃんも臨戦態勢を解除し自然体に戻っている。
「ふふふ、おぬしがそれを言うのか。どうやら、おぬしらは奴らとは別勢力のようだな」
今度の声は四方からじゃなかった。シエンちゃん達が見ていた方向、アルスちゃんがずっと話しかけていた方向からのみ聞えてきた。
「奴らと言うのは、妙な魔道具を使う連中の事ですか?」
アルスちゃんが問う。
「そうだ」
はっきりした声が聞え、藪の中から小柄な人影が現れた。
濃いグレーのローブにつばの広いとがり帽、先端の曲がった木の杖をつきながら現れたのは小柄な老婆だった。
う~ん、いかにも魔法使いって感じ!
「あなたがこの森に暮らす精霊の巫女さんですか?」
「いかにも、そうだ」
アルスちゃんの問にしわがれた声で答える老婆。
なんと!この人が精霊の巫女さんなのか!う~ん、ちょっとイメージと違うぞ。
「そこのボウズ、思ってたのと違うと考えたな?」
「うぇ?いやっ、あのー、すんません、ちょっと思っちゃいました」
「素直な奴め。まあ、良かろう。わたしは精霊の巫女ホフスだ、よろしくな」
精霊の巫女、見た目魔女のホフスさんは手を出してきた。
「あ、ああ、私はアリビオ団のトモ・クルースと言います。よろしくです」
俺は握手を返す。
「我はシエン!よろしくな婆ちゃん!」
シエンちゃんが元気良く言って握手をする。
「わたしはアルスと申します。お見知り置きを」
アルスちゃんは上品にそう言って握手を交わした。
「キーケ・タモクトだ。よろしく頼む」
「なんと!ぬしがレインザーのリーサルウェポンか!どうりで一筋縄ではいかんような連中を従えてる訳だ」
ホフスさんが驚いて言う。
さすがは生ける伝説キーケちゃん、その名は大陸にも轟いてるんだなあ。ちゅーか、どんな二つ名だよ!犬と一緒に海辺のトレーラーハウスで暮らしてそうだな!
「別に従えてはおらんよ、リーダーはこいつだからな」
キーケちゃんが俺を指して言う。
「いやー、どうも」
俺は頭を掻いてなるべく笑顔を心掛けて答える。
「こやつが、か?ふ~む、なんとも地味な男だが、ん?おぬし、そう言えば妙な事をしとったな?」
ホフスさんが俺の顔をまじまじと見て言う。
「妙な事っすか?え?なんすか?」
「おぬし、微かだが精霊の匂いがするのう。精霊に会った事があるのか?」
「ええ、何回か」
「トモトモは精霊に好かれやすい体質なんですよ。だから、ホフスさんの精霊術にも反応したんでしょう」
アルスちゃんが言う。
「精霊術?」
俺は繰り返す。
「おぬしが気配を探っとった奴だよ、ほれ」
ホフスさんが杖を上げると俺が感じていた四方の樹上から光の玉が飛んできた。
光の玉はホフスさんの杖の先に集まり回転する。
「ごりっと回ってご苦労さん」
ホフスさんが労うように言い杖で地面突くと回転していた光の玉は消えてしまった。
「ふわぁー、キレイっすねえ。それが精霊術っすか?」
「まあ、そんなとこだ。おぬし、素養がありそうだな?どうだ?精霊の巫女になる気はないか?」
「え!いやっ、巫女って女性じゃないとダメっすよね?自分、男なもんで」
突然のお誘いに驚いて昭和の伝説的俳優みたいな事を口走ってしまう。
「おぬし、まだ純潔を守っておろう?だったら大丈夫だ!」
ホフスさんが俺の身体の匂いを嗅ぎながら言う。いや~ん、はずかすぅぃ~~!俺は思わず自分の胸胸を隠すように腕を交差させて身構えてしまう。
「ふっひっひっひっひ!かわゆい反応をしおってからに。冗談だよ冗談、ぼうずにもやるべき事があるんだろ?わかっとるよ」
ホフスさんは高笑いしてそう言った。もう、悪い冗談だよ。
「とにかく、だ。この森で起きてる妙な事を追えばおぬしたちが探している者へと近付く事にもなると言う訳だろう?ならば、協力しようじゃないか」
「うむ、協力しよう」
ホフスさんの意見にキーケちゃんが同意をし、俺達も頷くのだった。
しかし精霊の巫女か。
この人もかなりの使い手なんだろうな、こんな森で普通に暮らしている訳だし。
そう思ってホフスさんを見ると俺に向かってバチバチとウインクしてる。
俺はアゴを出し口角を上げて白目を向く変顔をして見せる。
「だっはっはっはっは!精霊に好かれるのもわかる気がするわ!」
ホフスさんが大笑いする。
なに?精霊ってベタなの好きなの?今度は滑って転ぶやつ披露しようか?




