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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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不思議の森って素敵やん

 爺さんの馬車に揺られる事、小一時間、前方に鬱蒼とした森が見えてくる。


「あれがミチエギクの森だ。曲がり木の所まで行けば良いのかね?」


「ああ、頼む」


 爺さんの言葉にキーケちゃんが答える。

 馬車は森の入り口を右に折れ森を左手に見て迂回するように進む。

 しばらく進むと森の中から川が流れて道を横切っているのが見える。

 川幅は一メートル弱、大人なら飛び越える事が出来る位の幅だ。

 丸太を何本か横に並べた丈夫そうな橋が架かっており馬車はそこを通った。

 良く晴れた日中のんびりと馬車で移動していると、こちらの世界に初めて来た日の事を思い出す。

 あの時はアウロさんに拾ってもらったんだったな、アウロさんは冗談ばかり言って途方に暮れてた俺を慰めてくれたっけっか。

 随分昔のように思うよ。

 なんて思い出に浸っていると馬車の速度が落ちた。


 「ほら、ここじゃよ」


 爺さんが言って馬車を止める。

 

 「ええ!曲がってるってこんな曲がり方なの?」


 俺は現物を見て驚いた。

 その木は地面からすぐの所で直角に森側に向かって折れそこから湾曲しており、ちょうどひらがなの『し』か釣り針のような形になっていたのだ。

 そんな奇妙な曲がり方をした木が道沿いにずらりと並んでいる。

 新聞記事には絵がなかったから湾曲ってどんな感じなのかイマイチイメージし辛かったけど、まさかこんなとは。


 「これはいつ頃、こうなったんだい?」


 「半月ほど前だよ」


 キーケちゃんの質問に爺さんが答える。


 「新聞には一晩のうちにこうなったと書いてありましたが、実際、そうなんですか?」


 アルスちゃんが尋ねる。


 「一晩かどうかはわからんよ、この道はあまり村人は通らんからね。ここの森は面白いですねなんて村の酒場で言う旅人がいたからわしらも気付いたんだ。新聞書きにもそう説明したはずだが、いい加減なもんだ」


 爺さんは呆れたようにそう言った。


 「色々とお話を聞かせて頂いてありがとうございます。これ御代金です、どうぞ」


 「ん?こりゃあ、あんた、多すぎるよ」


 アルスちゃんから受け取った硬貨を見て爺さんが言う。


 「いいんですよ、本当に面白いお話しでしたから」


 アルスちゃんがにこやかに言う。


 「そうかい?悪いなあ。帰りはどうするつもりなんだ?なんなら夕方頃ここで待とうか?」


 急に愛想よくなる爺さん。


 「いや、大丈夫だ。森で一晩過ごすかもしれんからな」


 キーケちゃんが言う。え?野宿するの?なんの装備も持ってないけど。


 「森でだって?やめとけやめとけ、夜になるとレイスが出るぞ」


 爺さんが言う。レイスだって?マジで?あった事ないぞ?いるの幽霊?シャーマンが住む森に幽霊が出るの?やだ、怖いんですけど。


 「大丈夫ですよ、私達はこう見えて冒険者なんですよ」


 アルスちゃんはにこやかにそう言って馬車を降りる。

 シエンちゃんはとっくに馬車を飛び降りて曲がった木をまじまじと見ている。

 

 「本当に大丈夫かね?あんた、顔が青いぞ?」


 爺さんが俺を見て言う。


 「大丈夫だ、なんせこいつはパーティーのリーダーだからな。魔物が出ると聞いて喜んでいるのよ、ほら!行くぞ」


 キーケちゃんは爺さんにそう言ってから俺の背中をばしんと叩いた。

 

 「ぶほっ」


 俺は情けない声を出す。


 「本当に大丈夫かね?」


 「だ、大丈夫です。お世話になりました」


 馬車から降りた俺は爺さんに精一杯虚勢を張って言う。


 「なら良いのだが。あまり無理をされるなよ、森の奥には魔物も出るでな」


 「ありがとうございます」


 俺は馬車の向きを変えて帰って行くお爺さんに挨拶をした。


 「トモよ、どうした?なにを怯えておる?」


 キーケちゃんが俺の顔を見る。


 「いや、だってレイスが出るんでしょ?俺、レイスなんてあった事ないからさ、ちょっと、ねえ」


 「ぷっ、お前はそんな事を心配しておったのか。確かにレイスに通常武器や格闘術は通じぬが、魔法ならば普通に効く。特に光魔法は良く効くからおぬしにとってはなんら脅威ではない。それになトモよ、お前は仲間に誰がいると思っとるんだ?不死者の王がおるのを忘れちゃいないか?アルスがおればレイスだろうがリッチだろうがレヴァナントだろうが村人に会うのと変わらん」


 「あっ、そっか、すっかり忘れてた。ずっと一緒にいるからただの天才美少女だと思っちゃってたよ」


 キーケちゃんに言われて俺は言った。よく考えればそうだったよ、ここの所アルスちゃんのメチャ強っぷりを目の当たりにしてなかったから油断してたよ。


 「あらあら、おほほほほほ。やですよトモトモったら」


 アルスちゃんが嬉しそうに笑いキーケちゃんが口角を上げいい顔をして俺を見る。

 参ったね、うむうむトモよ、お前はそれで良い、とキーケちゃんの目が言ってるよ。

 

 「うーむ、なんだが魔力の残滓を感じるぞ。それもおかしなやつだ」


 シエンちゃんが珍しく真面目な顔をして腕組みする。


 「ちゅーか今更だけど、みんなその格好は何よ?」


 俺は今回、久しぶりの冒険気分という事で私服で来たんだけどシエンちゃんは赤の運動着という体育教師スタイル、キーケちゃんは藍色の作務衣上下に白い割烹着という学食おばちゃんスタイル、アルスちゃんに至ってはファルブリングカレッジの制服だよ。


 「何って、先生だぞ」


 シエンちゃんが胸を張って言う。


 「きひひ、いいだろ?気に入っとるんだ、動きやすいしな」


 「ええ、機能的なんですよ」


 キーケちゃんとアルスちゃんも言う。


 「いやあ、さっきの爺様が心配してたのはみんなの格好を見てだと思うよ」


 「きひひ、そりゃトモが顔を青くしとったからだ。それよりシエンよ、確かにおかしな魔力の残滓を感じるな」


 キーケちゃんが笑いながら曲り木に手をかざして言う。


 「だろ?あれだな、何か道具を使ったんじゃないか?」


 「シエンさんの言う通りですね、これは術式具を使用してますね」


 シエンちゃんに続いてアルスちゃんが言う。

 凄いねみんな、そんなのわかるの?俺も真似をして湾曲した木に手をかざし呼吸を整え手の平に意識を集中してみる。


 「なんだトモよ、木を破壊する気か?」


 「きを破壊するきってキーケちゃんダジャレな?」


 「むう、期せずしてそうなっただけだ」


 シエンちゃんに言われて恥ずかしそうな顔をするキーケちゃん。お?珍しいね、キーケちゃんがそんな顔をするなんて。


 「あ!また、きが出たぞ!キーケちゃんのき、だな」


 「だから違うと言っとろうが」


 キーケちゃんがシエンちゃんに言う口調がなんだか親が子供に言うような感じに聞こえる。

 なんか、ちょっとふたりの関係性が近くなってるような気がするぞ。

 そうか、しばらくふたりだけで動いてたもんなあ、そういう事もあるか。

 俺とアルスちゃんの関係性はどうかな?

 少しは近くなったのかな?

 俺はアルスちゃんを見る。

 アルスちゃんは、シエンちゃんとキーケちゃんのやり取りをじゃれあってる子猫を見るような慈愛に満ちた目で見ている。

 ちゅーか、俺の手のかざし方、ダメなの?これって攻撃の仕方なの?んじゃ、どうやって探るの魔力の残滓。

 俺はちょっと情けない気持ちになるのだった。


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