みんなイベンターって素敵やん
「ご紹介に預かりましたアルスです。今回、わたしが提案させて頂いたのはエグバード王国からやって来る留学生を歓迎するために何か催し物をやりたいという事でした」
「アルスさんの時、やってあげられなくってごめーーん!!」
どこかから男子生徒の声が飛び会場内が笑いに包まれる。
アルスちゃんはにこやかにお辞儀をする。
「この話を最初に提案したのは私が顔を出している幾つかのクラブの生徒さん達です。エグバード王国から留学生がやって来るのならば、歓迎の意を示したい、とおっしゃる生徒さんが多くおられたのです。そして、各クラブの特性を生かした見世物で歓迎出来たらと言うお話しを頂き、それでしたら複数のクラブに顔を出しているわたしが話をまとめましょうという事で生徒会さんに相談しましたところ、このような場を設けて頂いたという訳です」
「それでは、あくまで生徒会は場を設けただけで決定権はないと、そう言う事ですか?」
ゲンツケンが質問する。
「決定権は皆さんにありますので、その質問の答えはいいえです。生徒会も皆さんと同じ立場ですから」
アルスちゃんがにこやかに返答しゲンツケンは苦い顔をする。
「しかしながら、一般生徒がエグバード王国からの留学生を歓迎したいなどと言い出すものでしょうか?先ほどアルロット会長が言ったようにエグバートと我が国の関係はとても良好とは言えないものです。それはこの学園に通う生徒であれば誰でも知っている事です。なのに歓迎案が出るというのは不自然ではないですか?」
尚も食い下がるゲンツケン。なかなか頑張るね。
「聡明なゲンツケンさんならばビューロ庭園の演説の事は当然知っておられますよね?」
アルスちゃんが言いゲンツケンの眉間にしわが寄る。
「ああ、勿論だ」
「多くの勢力が入り乱れ陰謀をめぐらし帝都にも混乱が起きていたそんな時、ホーエン・ビューロ宰相は憎しみ争い合う時代に我々の手で幕を下ろそうとおっしゃられました。自分達の欲得のために分断を望む者達の思うようにさせてはならない、分断は疑念から、疑念は無知や恐れから来るものであり我々はお互いに知り合う事でそれに抗う事が出来る。そうやって人も国も成長して行かねばならないと宰相はおっしゃられました。この演説に多くの人は心を打たれました、歓迎祭を提案して下さった生徒さん達もそのひとりです。ゲンツケンさんはいかがですか?」
アルスちゃんはにこやかに言った。
「無論、私も感銘を受けたひとりです」
ゲンツケンが言う、
「ここにお集まりの皆さんもそうではないですか?」
アルスちゃんが言うと会場内が拍手に包まれた。う~む、アルスちゃんにはアジテーターとしての才もあるなあ。
俺も拍手をする。
アルスちゃんがゆっくりと手を上げると拍手は止む。
「ありがとうございます皆さん。ホーエン・ビューロ宰相の言葉はバッグゼッド帝国民のみならず、平和を愛するすべての人の心に記念碑的な言葉として永遠に残る事でしょう。私達、ファルブリングカレッジの生徒の心にもビューロ宰相が提示された理念はしっかり根付いています。そこで皆さんに今一度、確認をさせて頂きたいと思います。エグバード王国からの留学生を歓迎するための催しに賛成の方は拍手をお願いします」
会場は割れんばかりの拍手に包まれる。
ゲンツケンすらも拍手をしている。
アルスちゃんはふたたび手を上げ拍手を収める。
「ありがとうございます。私は皆さんがビューロ宰相の理念をしっかりと受け継がれている事を誇りに思います。では早速ですが催し物の内容について話し合いをしたいと思います。準備をしますので少々お待ちください」
アルスちゃんがそう言うと舞台袖から何人かの生徒がイスを持って舞台中央にやって来た。
生徒達はイスを置いてある者は舞台袖に帰り、ある者はそのままイスに座った。
アルスちゃんは中央に置かれたイスに座る。
「今、こちらに座っているのは先ほどご説明した歓迎祭を提案された各クラブの生徒さん達です」
アルスちゃんが言うとイスに座った生徒がペコリとお辞儀をした。
「皆さん、自己紹介をお願いします」
アルスちゃんに言われてイスに座った生徒達が自己紹介を始める。
それぞれ、演劇や楽器演奏、歌唱などをやっている生徒のようで彼ら彼女らはそれぞれの得意分野を生かした出し物をやりたいという意見のようだ。
「さて、他に意見のある人は遠慮せずに是非、壇上に上がって下さい」
アルスちゃんが言うと何人かの生徒達が壇上に上がった。
その中にはオッテツやディッキンバッカー、生徒会のオライリーさん、うちのクラスからはアルヌーブがいた。
「よっ!いいぞー!」
「がんばれー」
フェロウズ達の声援が飛びアルヌーブが拳を掲げた。おいおい、格闘技の試合に出ようってんじゃないんだから。
「待ってました!!」
「頼んますよ!」
「うちらの代表だー!」
「おい!拍手だ拍手!」
激しい声援と拍手の中、しっかりとした足取りで壇上に登ったのはゲンツケンだった。
こっちはこっちで、戦いに向かうような雰囲気を出しとるわ。
別にディベートしようってんじゃないんだから、もっと穏やかに行きましょうよ、穏やかに。
「勿論、壇上に上がっていない皆さんにも発言権はありますので、意見がある場合は遠慮せずに挙手をして下さいね」
アルスちゃんが穏やかに言う。そうそう、こうじゃなくっちゃ。
こうして生徒達による留学生歓迎祭についての話し合いが行われた。
オッテツは留学生も含めて模擬戦をやりたいと言い、さすがにそれはダメだと速攻で却下された。
それなら演武でどうだと食い下がるオッテツに、それならば現実的だとオライリーさんが答える。
楽器演奏を提案した生徒が演武の後ろで演奏しましょうかと提案し、オッテツは喜んでお願いする。
そのやりとりが誘い水になり、壇上に上がった生徒達からは色々な意見が出てくるようになった。
ゲンツケンはバッグゼッドの歴史を紹介したいと提案し、それならば演劇でやるのはどうかと他の生徒が提案する。
そんなやり取りの中、アルヌーブが意を決したように手を上げた。
「はい、アルヌーブさんどうぞ」
アルスちゃんがにこやかに言う。
「今の歴史演劇についてなんですが、私はシナリオをルブランさんにお願いしたいと思います」
場内がざわついた。
ここに来てアルヌーブがブッコんで来たぞ。
壇上に上がる時のポーズはこれをやるための気合入れだったか。




