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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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愚公山を移すって素敵やん

「とりあえず、お近づきのしるしだ」


 俺は光魔法のフォーカスレーザーをぶちかます。

 文字通り山のような大きさの飛行山の中腹部にフォーカスレーザーは命中する。

 手ごたえはあった。

 遥か彼方の空へと突き抜けるフォーカスレーザーが見える。

 しかし、それだけだ。飛行山は変わらぬ速度で移動し続けている。

 高度を上げて飛行山を見下ろす形で見てみると、草木の一本も生えておらず小屋などの人工物も見当たらない。

 これでは火魔法で山火事にしてやるのも難しそうだし、このデカブツを操る誰かがいるのかどうかもわからない。

 

 「オッシュキンさんからもう少し話を聞いとくんだったな」


 独り言ちるが後の祭りだ、って、あれだな、今は祭りの直前だったな。そうだ、この後、祭りがあるんだ、なんとしてもこの山を撃墜せねばならない。

 オッシュキンさんが操縦するガニメデスイオはどうしているかと見れば、飛行山に向かって攻撃を仕掛けながら移動している。

 飛行山は攻撃を喰らってもびくともしない。まさに泰然自若ってやつだ。

 ガニメデスイオより飛行山の移動速度の方が速いという話だったから、グズグズしてる暇はない。

 と言って、めったやたらに魔法を放ってもジリ貧だ。

 ヤバい時こそ冷静になれ。

 俺は考える。

 フォーカスレーザーはこいつを貫通した。

 やたら滅多連発すればいずれはこのデカブツの核みたいなものを破壊できるかもしれない。

 だが、そんなものがあるのか不明だしフォーカスレーザーは結構魔力を食う。

 魔力吸収ができない今、そんな非効率的な事はできない。

 じゃあ、どうするんだ?

 後、俺の得意な魔法と言えば土魔法の鉄鋼弾だが、山相手じゃどうにもなんねー。帯電させた空気弾を放つ空雷弾も同じだ。

 水魔法のウォーターレーザーじゃこの山を貫通させることも叶うまい。

 土魔法のインチキメテオもガニメデスイオの攻撃も通らないんじゃ望みは薄い。

 あー!もう!こんな事なら破壊力重視の攻撃魔法についてもっと学んでおけばよかった。

 今まで、結構何とかなってたからなあ。

 ちゅーか、あれか、もし今身につけてたとしても魔力吸収がままならない状態じゃあ同じ事か。

 それに、今更そんなことを考えたとて後の祭り、って考えが堂々巡りしてきたぞ!

 

 「まて、落ち着け。絶対、何か解決策はあるはずだ。考えろ俺」


 俺はそう口に出す。

 フォーカスレーザーが燃費が悪いってのはロジちゃんが言ってたよな、フォーカスレーザーは極大魔法以上だって。

 確かロジちゃんはこうも言ってたはずだ、光の極大魔法はフォーカスソードだって。

 フォーカスソードの方はフォーカスレーザーよりも格段に燃費が良い。

 しかし問題は攻撃範囲の短さだ。

 いつも俺が出してるフォーカスソードは一メートルほど、こいつを伸ばす事はできないか?

 

 「よっしゃ、やってみんべ!」


 思わず前世の生まれた地区の訛りが出ちまった。

 俺はゲイルで飛び、飛行山の進行方向前方、飛行山を自分の下に通過させる高さに浮かび下に向かってフォーカスソードを出した。

 体内に残っている魔力を小周転の呼吸法で循環させ、フォーカスソードに注いでいく。

 フォーカスソードは光を強めていくので俺は長さを伸ばすように意識して更に魔力を注入する。

 

 「いけるぞ!」


 伸びて行くフォーカスソードに思わず声が出る。

 フォーカスソードはぐんぐんと伸びて行く。

 飛行山を貫通するほどの長さを想像してつい下に向けて伸ばしたが、振ってもいつものフォーカスソードのようにほとんど重量は感じられない。そりゃそうだ、光には重さがない質量ゼロなんだもんな。

 だったらぶら下げなくても普通に剣を扱うように持って良かったか?いや、それじゃあ切断した飛行山の破片を浴びる事になっちまうか。

 

 「結果オーライってか!」


 俺は飛行山を貫通できる長さまで伸ばしたフォーカスソードをぶら下げ、飛行山の上を飛んだ。

 

 「ふんぬっ!!」


 伸ばしたフォーカスソードが飛行山に触れる瞬間、俺は気合を入れた。

 前にカティスで、学園を首になった体育教師が悪い大人に騙されて襲い掛かって来た時に使った巨大な腕はかなり気合を入れないとフォーカスソードの刃が入らなかったからな。

 

 「およ?」


 込めた気合は肩透かしを食らう。ほとんど抵抗なくフォーカスソードは飛行山を切断していったからだ。


 「んだよ。カエルちゃんの攻撃で傷ひとつ付かなかったから構えちゃったよ。なんか、階段上っててもう一段あると思ってたら無かった時みたいだよ」


 拍子抜けしちまったが気を取り直して俺は飛ぶ。

 長く伸ばしたフォーカスソードを持ったまま飛行山の上を飛んで行く。

 まず直線で飛び真っ二つにするが、飛行山はわずかに隙間が空いたまま飛び続ける。

 

 「へえ、凄いね。どういうテクノロジーなんだ?」


 俺は感心する。空を飛ぶ人工物で真っ二つになっても落下しないってのは大したもんだ。


 「どういう仕掛けか知らないけど、さいの目切りにしても浮かんでられるかな」


 俺は速度を上げて飛行山の上を往復する。

 刃の通った抵抗がないから、ただ飛んでるのと変わらないな。

 なんて思ってたら急激に怠くなって冷汗が出てきた。

 うわー、むっちゃ怠い、なんか吐きそう。

 これはハンガーノック、低血糖の症状に似てる。

 前世で飯食わないで長距離自転車移動した時に同じような症状になった事があるが、これって魔力が不足してるって事か。

 俺は急いでポケットからオッシュキンさんに貰った魔力シリンダーを出して口に咥える。

 一呼吸するといつもの魔力が体内に入って来る手ごたえを感じ、冷や汗が引いてくる。

 こりゃ、急がねーと。

 縦に五往復ほど横に三往復ほどした時、飛行山は端の方からゆっくりと落下し始めた。

 魔力シリンダーはもう空だ、冷汗はおさまったが怠さは続いている。

 この調子でどこまで飛べるか自分でもわからない。

 飛行山は端から崩れ、ゆっくりと落下しているが全体が機能を停止するには至ってないのか、まだ飛行を続ける土地がある。

 俺は飛行し続ける土地の上をフォーカスソードを持って飛ぶ。

 

 「ふぅーーーーー」


 思わず長く息をついてしまう。

 いつの間にか口にくわえていた魔力シリンダーもなくなっている。

 意識が朦朧としてきてるのか。

 心臓がバクバクして首元が圧迫される感覚がする。

 後、もう少し。

 飛行している土地はあと少しだ。

 俺はまるでゴールテープがすぐそこにあるみたいに最後の力を振り絞った。

 参ったね、前世じゃマラソンなんて好きじゃなかったのに、こっちにきてこんな厳しい事をやるなんて。

 フォーカスソードを手放すな。

 つーか、光魔法で発生させてるんだ手から離れやしないって。

 それを言うなら長さを維持しろ、だ。

 って、飛行山が近付いてきてないか?

 俺が落下してんのか?

 視界が狭まってるのか?

 なんか熱いな。

 ジンジンしてきた。

 もう無理っぽ。

 そうして俺は意識を手放した。


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