お使いクエストって素敵やん
楽しい飲み会で英気を養った我々一同は明日の本番に向けて準備を急ぐのだった。
俺は基本的にバイク便での荷運びと、情報伝達が仕事だ。
あちこちに荷物を運びながら、困りごとや足りないものなどを聞いては実行委員に知らせて対応する。
まあ、やってる事は昨日と変わらない小間使いだが、あちこちに顔を出しているうちにだんだんと顔を覚えて貰えるようになってくる。
顔を覚えて貰えるようになってくると、一気に頼られるようになってくる。
ジラファ・ジュマエに完成した輿を装着する際に火魔法で大人しくさせるのも俺の仕事になった。
「つーか、これは・・・、なんすか?」
俺はザイトム男爵達が乗る予定だという輿を見て、思わず開いた口がふさがらなくなった。
金色の塗装、輿の前方二股に長く飛び出た突起、サイドには角のようなヒレのような突起が多数ついており、後部には稲妻のようなギザギザした飾りつけとエビの尻尾のように反り返った大きな突起がごてごてと飾り付けられている。
しかも突起ごとに色が違うもんだから目がちかちかする。
何とも形容しがたい気持ち悪さだが、無理に例えるならまるで酔っ払いが作ったバニングカーみたいだ。
「どうよ?凄いでしょ?」
シッラさんが胸を張る。
「確かに凄いですけど、ジラファ・ジュマエが嫌がらないですか?これ?」
前方の突起なんてジラファ・ジュマエの首を挟むようについてるけど?
「大丈夫大丈夫、ジラファ・ジュマエはそんなの気にしないから。それよりどうよこのセンス?凄いでしょ?」
「いや、もう、何と言ったらよいのか。これ、シッラさんがひとりで考えたんですか?」
「まさか!さすがに私ひとりじゃここまでイカレタのは作れないよ。制作中ザイトム男爵とミディオンがずっとくっついてて、あーしろこーしろって口出すから、ムカついて全部聞いて更に過剰にしてやったんだよ。そしたらふたり共、大喜びでもっと大きくしろもっと付けろってさ。笑ったなー、色も最初は金一色にしようと思ったんだけど、男爵達がこっちはこの色、あっちはこの色って口出してきて。その通り塗ったらこの有様さ。これは狙って作れるようなもんじゃないよ、天性のアホセンスだ。いやーいい仕事したわ」
シッラさんは笑いながら言った。
「と言うか強度的に大丈夫なんですかね?」
俺は巨大な装飾品を見て言う。
「さあ?ダメなんじゃない?パレードしながらどんどん壊れていって最後は丸裸ってのも面白いんじゃない?あいつららしくて」
「うわー、なんか想像できますけど。怪我人だけは出ないようにお願いしますよ」
「大丈夫大丈夫!パレードの最後を歩かせるから」
シッラさんはさらに笑って言った。
まさに裸の王様だな。
シッラさんはザイトム男爵達が落ちて怪我する事は考えてなさそうだな。
まあ、本人たちのリクエストに答えたんだからそれもやむなしか。
でも、自分で注文つけてその通りに提供されたものでも文句言うなあの手の輩は。
当日は男爵達の後ろを歩いていざとなったら助けるか。
まったく、わがままで出しゃばりなポンコツってマジで厄介だよ。
前世でも良く見たよ。そんで、なぜか俺が尻拭いする羽目になるんだよなあ。
10代の頃、クレーンゲームで景品が取れずキレてレンタルして来たビデオに膝蹴りしたポンコツ君。俺が壊れたたらどうするんだとたしなめると、手加減してるに決まってるんだろ!と中指立てたが、いざ家に帰った中身を見た彼はビデオテープが破損している事に気付き俺に泣きついて来た。
俺は彼の持っているセルビデオを分解しパーツを交換してやったのだった。
彼は返却に付き合ってくれと言って来たがさすがにそれはひとりで行けとつっぱねた。
社会に出てもそうしたタイプのポンコツ君とは定期的に出会う事になる。
そしてやはりどういう訳だか俺が尻拭いをする事になるのだった。
そういう星の元に生まれて来たのか?はたまた、結局尻拭いしてしまう俺が悪いのか?
酷い時などポンコツ君の尻拭いをしたら、そのミスの主原因にされてしまう事もあったからなあ。
ある仕事では運んでいたお客さんの荷物をポンコツ君が落とし、当の本人はポケーっと立ち尽くしていたので近くにいた俺がすぐに拾い上げお客さんに頭を下げたのだが、現場の上司がポンコツ君と昵懇の仲だった事で、近くにいながらフォローできなかった俺の過失として会社に報告された事もあった。
まったく、こっちにきても前世でムカツいた事を思い出させるような奴に度々遭遇するのはなんでだ。
って、あれか、どの世界、どの時代でも人ってのはそんなに変わらないか。
仕方ない、と俺は腹をくくって小間使い兼影の責任者としての仕事に専念したのだった。
準備は着々と進み、飾り付けられた青空美術館の街はお祭りムード一色になっていった。
「明日だね」
「ああ、明日だな」
「楽しみだね」
「盛り上げようぜ」
あちこちでこんな会話が交わされている。
沿道には屋台も組み立てられ、否が応でも気分が盛り上がって来る。
作業している人達の賄い用にだろう、あちこちから美味しそうな匂いも漂ってくる。
やっぱお祭りっていいよなあ。
ちょっと気分が浮足立ってくるが、まだ仕事はあるから集中しないとな。
昨日に引き続きサトッツヨ君たち地元の学生さんも手伝ってくれている。
ありがたいな。
記者さん達も来ているようで作業している人にインタビューをしていたりする。
サトッツヨ君もインタビューされて、絶対成功させます!と意気込んでいた。
もう彼らも実行委員会みたいなもんだな。
「あちゃー、なんだよこれ!」
そんな街の様子を身体で感じているとディアナの不機嫌そうな声が聞えてくる。
俺はディアナが誰かと大きな声で話している所へ近付いて行く。
「どうしたー?なんかあったかー?」
「あ!いいとこに来たジミー!これ見てくれよ!」
不機嫌そうに言うディアナが指さすのは飾り付けられてる最中のランタンだった。
街の各所でも目にしたがこのランタンは一際大きい。
「それが、どうかしたのか?」
「よく見ろって!」
ディアナに言われてよく見ると、円筒形のランタンには四方にザイトム寄贈と大きく書かれていた。
「いやー、まあ、祭りってほら、協賛金出してくれた所の名前を貼りだしたりするし」
俺は怒るディアナをなだめる。
「なーんも出しちゃいねーっての!ランタンは全部ご領主さんの提供だってーの!!」
「いやー、そうなんですが、男爵様が祭り実行委員会会長だとおっしゃられて、名前を入れろという事で急遽対応させて頂いた訳でして」
ランタンをセットしている男性が困惑気味に答えた。
「で、名前入りは幾つあんのよ?」
ディアナが仏頂面で尋ねる。
「昨晩、急にでしたので、そこまでの数では」
「幾つなのよ?」
言葉を濁す男性にディアナが詰め寄る。
「百個程です」
「百個だって!!あんのボンクラ親分!!」
ディアナがプンスカ怒ってランタンを装着している男性は困惑している。
「何を怒ってるんだいディアナちゃん?」
「あ!チャスコばあちゃん!ちょっと聞いておくれよ!」
通りがかったチャスコばあちゃんにディアナは経緯を説明した。
「てなわけさ、ホント、腹立たしいよ!どっかに飛んでっちゃえばいいのに!」
「だったら飛ばしちゃおうかねえ」
チャスコばあちゃんは柔和な笑みを浮かべて言う。
「え?飛ばすって、どうやって?」
「ランタンの上に大きな紙袋をつけてね、熱気球みたいにして浮かせるんだよ」
チャスコばあちゃんが言う。
なるほどスカイランタンか!そりゃあ面白い!
「ランタンの光源はなんだい?」
「赤光石を使ってます」
チャスコばあちゃんの問に男性が答える。
「だったら大丈夫。浮かせるには十分な熱が出るよ。火事の心配もあまりないしうってつけだよ」
「ふえ~、本当にそんな事ができるの?」
ディアナが感心して聞く。
「ああ、できるよ。ヤグー族には無病息災を祈ってランタンを飛ばす習慣があってねえ」
「へえ、面白いねえ。でも、なんでランタンを飛ばそうなんて思ったの?」
ディアナには珍しく子供らしい質問だが、それは俺も思った。
「昔々、まだ盗賊が良く出た時代にね、村から山に逃げた女子供に安全を知らせるためにランタンを飛ばしたのが始まりだって話だよ」
「へ~、面白いなあ。キレイそうだし、それいいじゃん!看板にも燃え上がれザイトムって書いてあったし、ちょうどいいよ!」
「うふふふ、赤光石はまず発火はしないと思うけど熱くなるから落下した時には注意が必要だよ」
「それでしたら、お祭りで使う火の対策にあちらこちらに水を用意してますんで、落下したランタンには水をかけるように周知しましょう」
俺はチャスコばあちゃんに言った。
「うんうん、そうしておくれ。それじゃあこちらはランタン飛ばしの準備を進めとくから」
「あたしも行くよ!また来るから、その時は手伝ってくれよな!」
ディアナはランタンの取り付けをしていた男性にそう言うと、チャスコばあちゃんと共に去って行った。
忙しいねえ。まあ、人のことは言えんけど。
「おーい、ふたり共、良ければ乗って来なよ」
俺はチャスコばあちゃんとディアナをバイクで追っかけて荷車に乗せると、アンテナショップに向かった。
ふたりを降ろすとアストさんの所で竹ひごを貰ってきてくれと頼まれたので、急ぎアストさんの所に行く。
アストさんの元に行けばついでに美術館にコーヒー豆を届けて欲しいと頼まれ、竹ひごとコーヒー豆を積んで博物館へ向かう。
博物館に行けば波乗りショップに届け物を頼まれる。
てな具合に一日中青空美術館の街を走り回る事になるのだった。




