人情って素敵やん
メルヘンベル邸での楽しい夜も過ぎ、翌朝。
俺たちは迷宮街出口までスタンファさんに案内してもらった。
ベルさんとシエンちゃんは気が合ったようで、ベルさんは随分と名残惜しそうにしていたがシエンちゃんは弟をよろしく頼む、と一言残し颯爽と別れていた。
溶岩の流れる細い道を行き、何カ所かの隠しトビラを抜けようやく迷宮街を出ることができた。
敬礼するスタンファさんに手を振り、俺たちは道を進む。
幾らも行かないうちに切り立った山間の道は終わり、大きな湖が見えて来た。
あいにくの曇り空、先に見える湖は靄がかかりどうにもスッキリしない感じだ。
「さて、分かれ道でおますな。」
「うむ、教わった道を行くかの。」
サマ爺の言葉にキーケちゃんが答える。
湖を突っ切る湿地帯ルートは立て看板があったのですぐにわかった。
ところどころ浅い水の中を通る事にはなるが島状に陸地がある。
陸地にはもさっとした樹木が生い茂り、馬での通行は難しそうだ。
我々はどう見ても怪しい湿地帯を進んで行く。
魚かなにかが水面を跳ねる音や、鳥が羽ばたく音の他には音もせず静かなのが余計に不気味だ。
「オウルルゥゥゥ。」
大きな水音がし湖からうめき声をあげた何かが飛び出してきた。
そいつは青白いふやけた身体をした人型のモノだったが、顔はほぼ骨に皮が張り付いただけといった有様で、そのくせ耳まで裂けた口からは鋭い牙が沢山見え、さらに細い指には鋭い鉤爪がついており非常に凶暴な印象を受ける。
「ルイァァァァ!。」
それは、うがいしながら叫んでいるみたいな声を挙げてこちらに襲いかかって来た。
キーケちゃんは指で何かを弾く仕草をすると、そいつの額に穴が開きバッタリ倒れた。
「これがグールです。今、キーケちゃんは土魔法で頭を破壊しましたけど、このように頭を破壊しないと動きが止まらないので注意してください。」
「きひひ、急に出てくるからの、反応速度と正確さを上げる練習と思えば丁度良かろう。」
なるほど、こりゃ前世界のガンシューティングゲームみたいだな。
「よーし!やる気出て来た!。」
「やる気出しすぎて湖を破壊しないように気を付けろよ!。」
「はーい!。」
シエンちゃんにたしなめられるが、言われるまでもなくなるべく威力を弱めた魔法でヘッドショットを狙って行くつもりだ。
少し歩くとまたもや、水際から音がし至近距離からグールが飛びかかってきた。
俺は、圧縮空気の玉を指先から発射したが一発目は耳に当たり、二発目は顎を打ち抜き掴みかかられる寸前でようやく頭を打ち抜き行動を停止させることができた。
「クルースはーん、あんまり冷や冷やさせんといてーな。心臓にわるーおまっせ。」
「ゴメンゴメン、焦って狙いが外れたよ。確かにこれはキーケちゃんが言う通り良い練習になるね。」
「きひひ、トモは戦闘中の心の揺らぎがまだまだ大きいからな。落ち着いて冷静になれるように、湖を渡るまではグールの対応はトモに任せるとしよう。」
「えー!我もやりたい!。」
「シエンは、そうだな、グール以外の魔物の対応を任せようか。」
「やった!任された!。」
喜ぶシエンちゃん。
と言うわけで急に出てくるビックリ系魔物グールは俺が、その他の魔物はシエンちゃんが倒すことで話は決まりました。
グールは得物が近くを通ると水中や木の陰から襲いかかってくる。
中には死んだふりしている奴までいて、脅かしのテクニックは大したものだった。
その度に、俺とサマ爺は、おうっ!とか、あひゃ!とか声を上げてしまいちょっとばかり恥ずかしい思いをするのだった。
しかし、そうはいっても湿地帯にあるのは水と陸地に木、あとは水辺に生える草くらいなものだから隠れる場所も限られており、段々と俺も慣れてくる。
一発でヘッドショット決められる回数も増えていく。
「中々、上手になってきたな。」
キーケちゃんにも褒められる。
「しかし、グール以外出てこないじゃないか。つまらん。」
シエンちゃんがこぼす。
「助けてー!わー!。」
前から子供の声がする。
「おっ!なんだ!。」
言うが早いかシエンちゃんは前方へダッシュした。
「子供の声でしたね。」
「うん。早く行こう!。」
俺たちもすぐに続く。
靄の立ち込める中、カバくらいの大きさのオオトカゲに囲まれる2人の子供が見え、直後にシエンちゃんがオオトカゲに飛び蹴りを食らわせていた。
シエンちゃんの蹴りを食らって転がり湖の中に沈むオオトカゲ。
他に囲んでいるオオトカゲは3匹。
俺が出ようとするとシエンちゃんからストップがかかる。
「ちょっと待ったー!グール以外は我の得物な!な!。」
キラキラした目で嬉しそうに言われちゃかなわない。
「んじゃ、子供だけ頂くよ。」
俺は一言声をかけ、ゲイルブーストでオオトカゲに囲まれて肩寄せあっているお子さん2人を救出した。
救出したは良いけれど、お子さん2人、服は着てますけど緑の体色、頭のお皿、指には水かき、くちばしのような口、河童やないの!
「あら、スワンプゴブリンのお子様ですねえ。大丈夫でしたか?。」
服装からして小さな女の子とその兄といった感じか、小さな女の子をしっかり抱きしめた年上の少年はウンウンと頷いた。
「ほら、もう心配ありませんよ。」
アルスちゃんが指さす先ではシエンちゃんが水を得た魚のように、いきいきとはつらつに暴れていた。
大きな口を開け襲いかかってくるオオトカゲ、ってよりもすでに恐竜サイズなのだが、その恐竜オオトカゲをシエンちゃんはアッパーで迎え打つ。
下から突き上げるパンチを喰らったトカゲは口を閉じたままひっくり返ってしまった。
他の2匹は同時にシエンちゃんに襲い掛かる、がやはり知性無き魔物の悲しさか、ただ口を開けて突進してくるだけのオオトカゲ達。
大口を開けてシエンちゃんに噛みかかる2匹のオオトカゲは、ガブリと口を閉じても何も噛んだ感触がしなかった事が腑に落ちなかったのだろう、不思議そうにその場で顎を動かしたがすぐに飛びあがったシエンちゃんの空中からの蹴りを受けて地面に沈んだ。残ったオオトカゲは食べ物が戻ってきたとでも思ったのか、ノータイムでシエンちゃんに襲い掛かったが開けようとした口をつかまれ、じたばたしている内に横面を蹴られ地面に横たわってしまった。
「お姉ちゃんたち、ありがとうございました。」
「ありがとう、まいました!。」
しっかりと頭を下げて感謝する兄とそれをたどたどしく真似る妹。
話を聞くと退廃街に住んでいて商業都市オーディナスへお使いに行く途中だとの事。
普段はこの道は危ないから通っちゃいけないと母親から固く言われているのだが、今日はその母親が病に臥せっているためその薬を買いに行くのに急いで行きたくてこの道を通ってしまったのだと言う。
「なんと、大した子供ではないか。トモちゃん!送って行ってやろう!いいだろ?。」
「確かに見ればシンたちよりも小さいだろうに、よく頑張ったな。名前はなんと言うのかのう?。」
シエンちゃんのお願いにキーケちゃんが続いて子供たちに質問した。
「僕はキッパ、こっちは妹のルッパ。」
「ルッパ!。」
元気よく返事する妹くん。
「よし、キッパにルッパ。エラくはあったが、本当に危険だったのだぞ!お前たちに何かがあったらお母さんは本当に悲しむぞ!悲しすぎて病気になってしまうかも知れないぞ!わかるな。」
2人の頭を撫でながら言うシエンちゃんに、うんうんと頷く2人の子。
「よし!わかれば良い。お母さんを悲しませないようにするんだぞ。」
「うん!。」
「わかった!。」
元気よく答えるキッパとルッパ、そして、おっそろしくまともな事を言うシエンちゃん。
「わたしは良いと思います。ここまでくればそれ程の遠回りでもありませんし。」
「俺もいいと思うよ。キッパとルッパをこのままにしておけないしね。」
「わても、そうして頂けるとありがたいですわ。ホンマは職務上、先を急ぐ事を進めなアカンのですけど、すんまへん、わても見過ごせまへんわ。」
なんて、浪花節だよサマ爺は。
「きひひ、満場一致だな。よし、オーディナスへと行くか。」
と言うわけで、一同は進路変更、商業都市オーディナスへと向かうのだった。




