主導権争いって素敵やん
青空美術館に向かう道すがらマディ学芸部長が事情を聞かせてくれる。
ご領主の居城である森生城で今後の事について会議をしていた生徒会メンバーの元に、青空美術館祭り計画とザイトム男爵の介入についての知らせが入って来た。
ザイトム男爵の評判を知っていたアルロット会長は、男爵が祭りを私用化する事を懸念し牽制のために青空美術館へ向かう事を決めた。
生徒会メンバーは同行を望んだが、現在の不安定な情勢を鑑みて生徒会メンバーには領主城で待機し、いざという時に備えて欲しい旨を伝えたアルロット会長だったが、さすがに一人では行かせられないという事でマディ学芸部長がボディーガードについて来る事になったのだった。
「聞けばザイトムという男は国や領の事よりも私利私欲を優先するような男だと言うじゃないか。とんでもない奴だ!ガツンと言ってやらなけりゃならないな!」
タンデムシートのマディ学芸部長が力強く言う。
「そう簡単に行かないと言ったでしょうマディ。事態は混迷を深めているんです、だから皆には城に残って貰ったのですから」
荷車に乗ったアルロット会長が声を上げる。
「何がそんなに混迷を深めてるんです?」
不安定な状況を考えて生徒会メンバーには城に残って貰ったって話だったけど、そんなにややこしい事になってるのか?
「昨晩のジャーグル王国の侵攻で、国内の各派閥が活発な動きを見せていると報告が入ってます。国の安全を憂い武力強化や厳しい外交政策を求める派閥、同じ動機で今極端な動きはするべきではないと慎重論を掲げる派閥、私欲のために武力強化を進めたい派閥、私欲のためにそうした派閥の台頭を防ぎたい派閥、そこにそうした派閥を行き来しながら少しでも良いポジションにつこうとする者達や、特定の派閥同士を争わせたい勢力も動き出して事態は非常に込み入った状態になっています。ザイトム男爵自身は小物に過ぎませんが、なにしろ人脈作りパーティーが趣味という人間です。どんな派閥が彼と繋がっているのかわかるまではむやみに刺激すべきではないのです」
「ふわぁ~、そんな事になってるんですか。面倒くさいですね~」
アルロット会長の説明に俺は頭がくらくらした。良かったよ俺、貴族じゃなくって。そういう派閥だのなんだのってマジで苦手なんだよ。
以前勤めてた先の上司がそういうの大好きな人間で、あいつは何々派閥で自分に弓引く可能性があるから口を聞くなとか、そんな事の根回しばかりエネルギッシュに動く人だった。
管理職としての仕事はパワハラ、えこひいき、職権乱用等々、そりゃあ酷いもんだったけど会社内ではそこそこ重用されてたからなあ。実際、社会じゃそういう人が成功するもんだよな。
「なーに他人ごとみたいに言ってるんだ君は?思いっきり君の領分に食い込んで来てる問題じゃないか」
マディ学芸部長が俺の背中を叩く。
「うえっ?私の領分ですか?いや、見ての通り私はただの使い走りですよ?」
「ヤグーショップ、波乗りショップ、ケイトモショップ、これらは全て君の肝入りじゃないか。ある意味、青空美術館祭りには君の威信がかかっていると言ってもいい」
「うんうん、その通りですね」
マディ学芸部長が言い、アルロット会長が頷く。
「私の威信ですか?うーん、それは言い過ぎですよ。祭りの企画発案は青空美術館で働いてる人達ですからね。やはり自分は使い走り、小間使いですよ」
「何かあった時に責任を取るのは誰だい?彼らに取らせるのかい?」
「いや、それはみんなで対処しますけど」
「またまた、君はいつも一人で対処してしまうだろ?いざと言う時に真っ先に動くのは君だ。だからこそ現場のみんなも力を出せる。そういう存在の事を世間じゃ責任者って言うのだよ」
「まあ、責任ある立場でいながら、いざという時には真っ先に逃げるような者も多くなってますけどね。嘆かわしい事です」
マディ学芸部長の言葉にアルロット会長が続く。
「まさにザイトム男爵はそういう者だよ。彼に主導権を取らせていいのかい?祭りがめちゃめちゃになってしまうぞ?」
「それは困りますけど。でも祭りは実行委員会があってですね、彼らが自主的に動いてやってますし。それに責任者と言うのなら青空美術館の保護委員会長も務めてらっしゃるオッシュキン氏や波乗り振興会の会長をされてるランラート男爵が適任なのでは?」
「さっき言ったろう?現在国内の有力者はややこしい事になってるんだよ。だから今の段階でザイトム男爵に有力者をぶつけるのは得策じゃない。オッシュキン氏やランラート男爵のような有能で人望もある人なら尚更マズい。ザイトム男爵筋との関係をこじらせる事でなんらかの利を得ようとする者達が群がって来る可能性が非常に高い」
「なるほど、私のように無能で人望も無いどこの馬の骨とも知れぬ輩なら角も立たないってわけですね。さすがマディ学芸部長!冴えてますねっておーーーーい!!」
俺は大きな声で乗りツッコミをしてやる。
「ふふふっ、そこまでは言わないが現在の君は帝国内で特定の派閥に属してないし、どこかの派閥と懇意にしているという噂もない。名前が知れ渡っている訳でもないし適任なのだよ」
「ギライス祭り大穴の影の立役者としては知られてますけどね」
アルロット会長がマディ学芸部長の言葉を補足する。てか、そんな補足いらないっす。
「しかし今更、ザイトム男爵が納得しますかねえ。あの人、自分は実行委員会会長だって嬉しそうに言ってましたよ。あんな検問やり始めたり、余計な所で動きも早いし」
「会長は彼に名乗らせておけば良いさ。チヤホヤして飲み食いさせてればあの手の奴は満足するさ、後はたまに意見を求めて大仰に素晴らしい!さすがです!って言っときゃ十分だ。あくまで主導権は君が握るんだ」
マディ学芸部長、あんた前世の会社飲み会でも上手くやれそうね。
「ヴァルターさんも飲み食いさせて貴賓席に座らせて口出しする暇を与えないって言ってましたけど」
「さすがヴァルターさんだ!そう言う事だよ!」
背中をバシバシと叩くマディ学芸部長。
なんだか面倒なことになりそうだけど、祭りは成功させたいしザイトム男爵の事はヴァルターさんが上手くやってくれるだろうし、まあ、いっか。




