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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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自分の道を踏みしめてって素敵やん

 「どうかされたんですか?」


 俺は魔導バイクを停止させて衛兵さんに尋ねた。


 「ザイトム男爵の命令で青空美術館に向かう者は荷物を検めるように言われているのだ」


 衛兵さんは槍で荷車をコンコンと叩きながら横柄な口調で言った。

 ザイトム男爵か。いや、指示は間違っちゃいないけどさ、確かに今は色々と警戒をした方が良い時期だ。でもなあ、どういう方面に頼んだんだ?ちゃんとした所に頼んだのか?

 俺は道を封鎖している衛兵連中を見て思う。

 嫌な笑いを浮かべて荷車の周りを歩いている男は荷に顔を近づけたり遠ざけたり、荷物を検めるというよりはただただ無駄に時間をかけている様に見える。

 他の衛兵連中もへらへら笑い俺を見ている。

 街から青空美術館へ舗装された道はこれ一本だ、後は細い獣道みたいなものばかりで荷車を引っ張って通るのはちょいとキツイ。

 こいつら、それがわかっていてここに陣取っているんだろうな。

 横柄な態度から見てこいつらの目的はおおよそ察しが付く。


 「明後日、青空美術館で大きな祭りが行われるのは知ってるか?」


 槍の衛兵が俺を見て言う。


 「ええ、知ってますとも。この積み荷はそのお祭りのための資材ですからね」


 「魔物避けの鈴に子供の玩具に調理用品、怪しい事この上ないな。そう思うだろ?」


 「ああ、怪しいなあ」

 「怪しすぎるぜ」

 「積み荷を全部下ろして中身を確認しなきゃマズいなあ」


 槍の衛兵の言葉に道を塞いでいる他の衛兵たちが答える。

 こりゃ、あからさまな嫌がらせだな。要するに、面倒が嫌なら袖の下を渡せって奴だ。

 まったくザイトム男爵はどこに頼んだんだよ。


 「ちょっとお聞きしたいのですが、あなた達はアルロット領の衛兵隊ですか?」


 「いや、俺達は領の衛兵じゃねーよ。ザイトム男爵直属の兵だよ」


 なるほどザイトム男爵の私兵か。どうりで態度がチンピラじみてると思ったよ。よく見れば装備もまちまちだし、身に着けてるライトアーマーもキレイすぎる。

 今日見かけた衛兵さん達は皆、昨晩の戦いに参加して汚れたアーマーを身に着けていた。

 

 「随分と装備がキレイですが、昨晩の戦いには参加してないのですか?」


 「俺達はザイトム男爵の警護があったからな。俺達が出ていれば、被害も抑えられたんだが残念だよ」

 

 槍を持った私兵が言い周りの連中が笑う。

 

 「ふーん、危険な時はお屋敷に籠って危険が去ったら市民から銭たかろうってかい?」


 「随分と反抗的な態度だな小僧。こりゃあ、あれだな、小銭で済ませてやろうと思ってたけどそれなりの手間賃貰わないといけねーようだなー。なー!」


 「おう!教育料だ!」

 「年長者を敬うって事を教えてやるよ」

 「今なら有り金全部と金目の物で勘弁してやるぞ」

 「いーや、そりゃあ甘いだろ。二度と生意気な口が叩けねーように身体に刻み込んでからだ!」


 私兵の数は五人。獲物は目の前の男が槍、他の奴らは片手剣がふたりと大剣がふたり。それぞれ武器をむき出しにしてにじり寄って来る。

 どうしたものかねえ?

 空雷弾で制圧しても良いのだが、ザイトム男爵の私兵だからなあ。

 めんどくさいなあ。

 でも放っておけば市民の皆さんに害になるしなあ。


 「どうしたんだ?何かトラブルかい?」


 声がして振り返るとそこに居たのはマディ学芸部長とアルロット会長だった。


 「ええ、この人達に有り金置いてけと言われまして」


 「なんだ?追剥か?白昼堂々良い度胸じゃないか!」


 俺の言葉にマディ学芸部長は嬉しそうにそう答えた。


 「おいおいお嬢ちゃん、追剥じゃねーよ。俺達はなザイトム男爵の指示で青空美術館へ危ないものを持ち込ませないように検問してんだよ検問を。ザイトム男爵の主催で明後日に大きな祭りをやるんでよ、その警備って訳よ」


 槍持ちがマディ学芸部長を見て言う。

 マディ学芸部長はお嬢ちゃんと言われた事にムカついたか眉間にしわが寄っている。


 「で?その警備がなんで有り金置いてけなんて言うわけ?」


 マディ学芸部長の声にイラつきが見える。後ろにいるアルロット会長もそれをくみ取ったのか、困惑した表情になっている。止めるべきか考えているんだろうな。止めなくていいっすよ会長。


 「それはこの小僧が生意気な態度をとるから大人として教育してやろうってな。教育料ってやつだよ、教育は大事だろ、なあ嬢ちゃんたち?」


 にやけ面で言う槍持ちに額がぴくぴくと動いているマディ学芸部長。こりゃあマディ学芸部長、キレそうになってるな。


 「あなた方」


 「ちょっと待って下さい会長」


 さすがに咎めようとしたアルロット会長をマディ学芸部長が止めた。


 「クルース君、彼らはザイトム男爵の私兵で間違いないな?」


 「ええ、そうですね。アルロット領の衛兵ではないようです。昨晩の戦闘にも参加していないとの事でしたよ」


 「そうかそうか。市民の皆さんですら後片付けや救護活動をされているというのに、この者達は天下の往来を塞いで市民を恐喝、金銭を巻き上げ私腹を肥やしていたと言うのだな」


 「そうなりますね」


 俺が答えるとマディ学芸部長はニンマリと笑った。


 「やってしまって構いませんね会長」


 「わかりました。あまり大きなケガをさせないようにしてください」


 嬉しそうに言うマディ学芸部長に、アルロット会長はやれやれと首を振りながら答えた。


 「君達は教育は大事だと言ったな?」


 「言ったが、どうするってんだいお嬢ちゃん?」


 槍持ちが余裕の笑みを浮かべて答える。


 「私が君達に特別授業をしてやろう」


 マディ学芸部長は怖い笑みを浮かべポケットから九節鞭を出した。

 

 「なんだそりゃ?ネックレスか?そんなもんで何ができるってんだいお嬢ちゃん?」


 槍を構えて笑う私兵の男。


 「何でもできるさ」


 マディ学芸部長が手首を軽く動かすと九節鞭は男の槍に絡みつく。


 「チェアッ!!」

 

 マディ学芸部長が裂帛の気合のもと九節鞭を引くと、槍は男の手を離れマディ学芸部長の足元に刺さった。

 槍を持っていた男はポカンと口を開ける。


 「チェェェェェイ!!」


 マディ学芸部長は気合一閃、九節鞭を振り回し槍の柄を地面に埋めんばかりの勢いで打った。

 すると、地面に刺さった槍が柄から真っ二つに裂けた。

 

 「さて、ここまでで質問のある者」


 マディ学芸部長は私兵たちに聞く。


 「てっテメー、そんな事をしてタダで済むと思ってんのか!」

 「そうだ!俺達はザイトム男爵の命令でやってんだ!」

 「ザイトム男爵に逆らうってのか!」


 剣を持った私兵たちが何とか声を振り絞り叫ぶ。


 「ええーい!静まれ静まれ!ここにおわすお方をどなたと心得る!恐れ多くもアルロット領ご領主のご令嬢、マリル・アルロット様にあらせられるぞ!えーい!頭が高い!控えおろう!!」


 俺はここぞとばかりに前に出て大きな声で私兵共に叫んだ。頭の中では雅楽のような荘厳な曲が流れている。いやあ、人生で一度は口にしたいセリフが言えた。


 「君はなんでそんなにホクホク顔なのだ?」


 「いやあ、いい仕事ができたと思いまして」


 不思議そうに言うマディ学芸部長に俺は笑顔で答えた。


 「嘘をつくな!そんな高貴なお方がこんな時期にこんな場所にいるか!」

 「そっ、そうだ!ご領主様の娘を名乗る不届きものめ!」

 「ひっとらえてくれるわっ!」


 私兵たちがいきり立つ。

 うわっ、そっちのパターンか。ご老公じゃなくて遊び人将軍様の方だったか。

 俺とマディ学芸部長は身構える。

 

 「お待ちなさい!これが目に入りませんか!」


 アルロット会長は首元からペンダントを出して私兵たちに見せた。

 ペンダントトップは大きなメダルでそこには茂る木と岩山そして城が掘られていた。

 

 「あ!あれは!」

 「森生城のレリーフ!」

 「まごうことなきアルロット伯血縁者の証!」

 「ははーーー」


 私兵の男達はメダルを見て平伏する。遊び人将軍からご老公に戻ったみたいだな、良かった良かった。


 「面を上げなさい」


 アルロット会長が言うと平伏した男どもが顔を上げる。


 「あなた方が今日、市民から徴収した物を出しなさい」


 アルロット会長の言葉に男達がポケットからお金を出す。アルロット会長はマディ学芸部長に頷く。


 「これで全部だろうな?」


 マディ学芸部長は男達の前に置かれたお金を回収しながら念を押す。男達は、これで全部です間違いありません、と油汗を流して言う。

 それからアルロット会長は男達に尋問し、金を巻き上げた市民は皆、青空美術館へ向かった事や被害者の人相風体、被害金額を事細かく聞いた。

 

 「このお金は全て被害者にお返しします。よろしいですね?」


 「「「「「勿論でございます!!」」」」」


 男達は声を揃えて答える。


 「もう、金品を巻き上げるような事はしませんね?」


 「「「「「勿論でございます」」」」」


 「では、検問を解除しザイトム男爵の元に戻りなさい。私からもザイトム男爵には話を通しておきます」


 「「「「「わかりました!!」」」」」


 男達は凄い勢いで立ち上がり敬礼をすると、飛ぶように走り去って行った。


 「おいおい、こいつを片付けてけよ」


 マディ学芸部長が通行止めの柵を見て言う。


 「いらないんなら貰ってって良いですかね?祭りで使えるかも知れないんで」


 「いいでしょう、私からザイトム男爵に言っておきます」


 「すいません、ありがとうございます」


 俺はアルロット会長に感謝した。


 「クルース君は青空美術館へ向かうんだよな?」


 「ええ、おふたりもですか?」


 「ああ、ザイトム男爵の件でな」


 マディ学芸部長がうんざりした口調で言う。


 「でしたら乗って行きますか?」


 「頼めるかい?」


 「ええ」


 俺は荷車の後ろに腰を掛けられるほどのスペースを作った。


 「では、どうぞ」


 「お邪魔しますね」


 アルロット会長がそう言って荷車の後ろに腰を掛けた。


 「私はこっちでいい」


 マディ学芸部長はそう言ってちょこんと魔導バイクのタンデムシートに腰を掛けた。


 「いや、あっちの方が乗り心地良いと思いますよ?こっちは窮屈ですし」


 「なんだ?私が後ろじゃ嫌だって言うのか?」


 マディ学芸部長が大きな目で俺を見て言う。この人、目力あるんだよなあ。


 「いや、そうは言ってないですけど」


 「だったらいいだろう?さあ、グズグズしないで出発だ」


 「わかりましたよ、窮屈だったら言って下さいね?停めますから」


 「さあ!出発、出発!」


 マディ学芸部長が元気良く言い、後ろでアルロット会長が笑った。

 妙な事になったがひとまず青空美術館だ。

 俺はそろりとアクセルをひねるのだった。


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