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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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城塞衛兵詰め所って素敵やん

 「武装蜂起だと?いったいなぜだ?」


 ホレンツ所長が怒鳴るように尋ねる。そりゃそうだ、俺も理由を知りたい。


 「それが所長を出せと」


 「わかった、話を聞こうじゃないか」


 衛兵の言葉にホレンツ所長が憤慨するように答え荒々しい歩調で外へ向かった。

 俺もそれに続いて外に向かう。


 「いったい何が起きたんだろうね」


 「お前は部屋で待ってろよ」


 当然のような顔でついて来たストームに俺は言う。


 「いいじゃんいいじゃん」


 屈託ない笑顔で言うストーム。


 「仕方ねーなー、本当はダメなんだぞ」


 俺はストームに言う。


 「自分だって見物人のくせに」


 「まあな」


 ストームの的確な指摘に俺は苦笑いを浮かべて答える。

 ホレンツ所長は詰め所の中庭を通り、出入り口の大門を開き外へ出る。俺とストームもそれに続いて外に出ると、そこに居たのは手に鍬や鎌を持ち殺気だった群衆だった。


 「なんかピリついてるね」


 「こりゃ大人しくしてた方が身のためだな」


 ホレンツ所長の後ろで小さくなりながら俺とストームは囁いた。


 「私は所長のホレンツだ!どういう事か話を聞こう!」


 殺気だった群衆相手に一歩も引く事なく堂々と言うホレンツ所長。なかなかの豪傑である。


 「我々の要求はひとつだ!かくまっているジャーグル工作員を渡して頂こう!」


 群衆の先頭に居た中年男性が大きな声で言う。


 「君はブドウ農家のパンテンだな?なぜだ?理由を聞こう」


 「ここに集まったのはそれぞれ農家の人間だ。昨晩の戦いで我々農家はそれぞれ大きな被害を被った、その罪をそいつらに償ってもらう」


 パンテンと呼ばれた中年男は恐ろしいほどの真剣さでそう訴えた。


 「先の戦いによる損害は国が保障すると伝えてあるはずだ」


 「保障すりゃ済む問題じゃねー!うちは爺ちゃんが怪我してんだ!」


 ホレンツ所長の言葉に群衆の中にいる若者が叫んで答える。


 「畑を見に言ってケガを負った者が何人もいる」


 パンテンが言う。


 「怪我人の治療も国が保障すると伝えている」


 「金の問題ではない!プライドの問題だ!我々農家は天気や害獣、疫病と日々戦っている!それは命を懸けた戦いだ!我々がどういう覚悟で生きているのか、そいつらの身体に刻み込む必要があるのだ!」


 パンテンが言うと群衆は足を踏み鳴らし、刻み込め!刻み込め!と声を上げた。


 「我々の覚悟は理解できただろう?ジャーグル工作員を大人しく渡して貰いたい!」


 「君達は私刑を行おうとしているのにできる訳がなかろう」


 「我々はできる事ならば衛兵諸君とは争いたくはない。君達は昨日の戦いでも国を守るために尽力してくれた」


 「ならば大人しく引いてくれ」


 「しかし我々を守り切るには至らなかったのも事実。どうしても渡さないと言うのならば我々は実力行使も辞さない!」


 パンテンが言うと群衆は足を踏み鳴らし声を上げた。


 「しばし猶予は与える。彼らを引き渡すなりそこから撤退するなりやり方は任せよう」


 「ぐぬう、そんな無法は通らせん!」


 ホレンツ所長が唸る。


 「無法はジャーグルの方だろう。そんな奴らのために守るべき国民と戦うのか、部下たちと話し合ってくるが良い」


 「ぬう、ふざけた事を」


 「さあ、話しあって来たまえ!」


 パンテンの言葉に悔しそうに唇をかみしめながらホレンツ所長は詰め所に戻った。


 「くそう!どうなってるんだ!」


 ホレンツ所長はドスドスと足音を立てながら速足で歩く。


 「各部隊長と副隊長を会議室へ集めろ!」


 「はっ!!」


 吠えるようなホレンツ所長の言葉に近くにいた衛兵が敬礼し走り去る。


 「すまんな、こんな事になってしまって」


 ホレンツ所長は俺とストームを見て言った。


 「いえいえ、それより対策を考えましょう。我々も協力しますよ」


 「すまん」


 俺の言葉にホレンツ所長はこめかみを揉みながら答えた。治安を守る身としては頭の痛い問題だろう。

 ホレンツ所長と共に生徒会メンバーのいる会議室に戻ると、呼び出された隊長さん達が次々と部屋に入って来た。

 

 「よし、みんな集まったな」


 入って来た衛兵さん達を見まわすと、ホレンツ所長は先ほど詰め所の外であった事を説明した。


 「所長、まさか奴らを引き渡すのですか?」


 衛兵さんが質問する、


 「その選択肢はない。かと言って彼らは付近の農民だ、本気で戦う訳にもいかない、しかし、彼らも一歩も引かない姿勢を貫いている。どうすれば良いのか、誰か妙案はないか?」


 ホレンツ所長が言う。


 「はい!」


 ストームが元気良く手を上げた。お?なんだなんだ?何か案があるってのか?


 「君は、ストーム君と言ったね?何か良い案があるのかね?」


 ホレンツ所長が問い、集まった他の衛兵さんが眉を顰める。そりゃそうだ、素人が何を言おうってんだ?って思うよな。ところがストームはと見れば、屈託のない笑顔でなにも物怖じしていない。

 空気が読めない奴じゃない、衛兵さん達の冷たい視線に気づいてながらその笑顔は大したもんだ。


 「実は先ほど所長さんと一緒に外に出た時、集まった農家の人の中に妙な人を見かけましてね。集まった人はみんな、昨日の後始末で汚れた格好してたのに一人だけきれいな格好をした人が居たんですよね」


 「それがどうかしたのかね?」


 「その人物は向こうのリーダーが何か言った時、一番最初に声を上げて足を踏み鳴らしてたんですよね」


 「まさか」


 ホレンツ所長が苦い顔をする。


 「多分、アジテーターだと思います」


 ストームが言った。アジテーター、つまり扇動者か。なるほど、刺激的な事を民衆に吹き込んで煽り極端な行動をとらせるデマゴーク、これはストームの得意分野だ。


 「なぜ彼らがジャーグル工作員がここにいる事を知ったのか、なぜこんなに早く行動を起こせたのか、それならば説明がつく」


 ホレンツ所長が腕組みして言う。


 「しかし所長、それがわかった所で問題解決にはなりません」


 「ううむ、確かにそうだ。ストーム君、そこから君は何を導き出すのだ?」


 兵の言葉に難しい顔で言うホレンツ所長。


 「扇動者がいるのであれば彼を捕らえてその素性と目的を明らかにすれば、後々民衆の興奮もおさまる事でしょう」


 「現状でそれは不可能だろう。興奮する民衆の中にいるものをどうやって確保すると言うんだ?もし捕らえられたとして、そう簡単に素性や目的が判明するとは思えん」


 「確かにそうだ」


 兵の言葉にホレンツ所長が同意する。


 「それは後々で良いと思います。まずは彼らを無力化しアジテーターを捕らえる事だと思います。必要ならば無力化した後、集まった者達は牢屋で少し頭を冷やしてもらって、その間にアジテーターを尋問すれば良いと思います」


 「無力化か。簡単に言うがそれが一番難しい。興奮し殺気だっている者を相手にすればこちらもそれに触発されてしまう。さらに言うならば、現在この詰め所にある武器の問題もある。現在ここにあるのは侵略戦を想定した術式具がほとんどであり、それを使用して非殺傷での無力化はかなり難しいだろう。私は自分の身を危険に晒してまでそうしろとは部下に命令できん」


 「それなら僕に考えがあります」


 ストームはそう言うとテーブルの下から大きな袋を出した。


 「これを見て下さい」


 ストームが大きな袋を開くと中から現れたのはトンファー、ヌンチャク、三節根など以前俺がたわむれに作った武具であった。


 「これはなにかね?」


 「これはすべて武器です」


 「これがかね?ふうむ、フレイルの一種か?それにしては重みが足らなそうだが」


 ホレンツ所長がヌンチャクを手にして首をひねる。


 「使い方次第でかなりの威力を出せる武器ですが、刃物を使っていないので殺傷力は低いと言えます。勿論、打ちどころが悪ければ死に至りますが、生徒会のメンバーはこの武器に精通していますので相手に与えるダメージをコントロールして無力化する事も可能です。今回の相手は訓練された兵ではなく武術の素人ですので与えるダメージは最小限に抑える事が出来ると思います。更に、こちらのクルース君の得意技は雷を帯びたエアバレットです。非殺傷での無力化に特化した技の使い手と言えましょう」


 ストームが流れるように言い、生徒会のメンバーが頷く。って最後は俺かい!仕方ないので俺も頷いとく。


 「衛兵さん達が出てしまうと国対国民の図式になってしまいます。我々ならば国民同士の小競り合いという事で済みますし」


 ストームが言いホレンツ所長が考え込む。


 「とは言え君達は貴族だ、親が出てくれば国民同士の小競り合いとはいかないぞ、特にお嬢様おふたりは」


 ホレンツ所長が渋い顔でアルロット会長とコバーン体育部長を見る。


 「そこは若気の至りという事でお願いします」


 アルロット会長が笑顔で言う。


 「参った、本当に参った」


 ホレンツ所長は心底困った顔で自分の頭をペチペチと叩く。


 「所長!外の住人達がまだかと騒いで石を投げております!」


 「ええい!わかった!君達、頼めるか?」


 部屋に入って来た兵の報告にやけだとばかりにホレンツ所長が言う。


 「わかりました!お任せ下さい!」


 アルロット会長が笑顔で答えて立ち上がり、三節根を手に取った。他の生徒会メンバーも次々に席を立ち、それぞれ得物を手に取った。


 「無理を承知で言うが君達もケガをせず、相手にも大きなケガをさせずに頼むぞ!」


 拝むように言うホレンツ所長に手を上げ、俺達は部屋を出る。

 

 「みんな、頼むよー」


 ニコニコしながら手を振るストーム。


 「お前も来るんだよ」


 俺はストームの手を引っ張った。


 「えー!僕なんてなんの役にも立てないって!」


 「アジテーターの顔見てんのお前だけだろ?だったらお前もこなきゃダメだろ」


 俺は満面の笑顔で言ってやった。


 「うわ~、言わなきゃよかった~」


 散歩を拒否する犬のように足を揃えて踏ん張るストームを俺はズルズルと引きずって行くのだった。


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