首を突っ込み自ら浸かるって素敵やん
ケイトと合流して青空美術館を歩き回り、力仕事を手伝ったり、居留地に向かおうとする人を説得したりしていると復興の手伝いや被害状況の確認に来ている衛兵さんや国防軍さんにちょくちょく出会った。そして彼らから色々な情報を手に入れる事が出来た。現在までに戦闘に関わった兵士の中に死者、重症者なし。軽症者のほとんどは戦闘初期での興奮状態で指示を守らず魔物に突っ込み過ぎたためなのが理由だと言う。
バッグゼッド帝国は大陸でも有数の力を持つ国であり久しく侵略行為を受ける事などなく、更に現在では植民地政策をとっていないこともあり大規模な戦闘経験がほとんどないのため一部兵士が浮足立ってしまったのが原因であり、今後の大きな課題であるとは国防軍さんの意見。
今回のジャーグル王国の侵略行為はジャーグル単独で事を及んだとは考え辛く、資金や技術提供をした第三国があると思われるため、その究明も急がれている。バッグゼッド帝国は正式な声明で、ジャーグル王国に対し資金、技術援助をした国は自ら名乗りを上げその理由を述べるよう訴えかけている。
ここからは俺の予想だが、バッグゼッドの情報機関は既にその第三国がどこの国かつかんでるんじゃないかね?その声明は、名乗り出るなら表立って賠償金の話をしましょう、貴国は大陸の信頼を失うがその分、賠償金はおまけしましょう、名乗り出ないのであればその分のペナルティーは受けて貰いますよ、みたいな含みを持たせているんだろうな。
その辺の駆け引きについて詳しいケイトいわく。
バッグゼッドに対抗できるような大国なら、あれは侵略させるための援助ではないとかなんとか言い訳付きで名乗り出るだろう、大国ならば自国の築き上げた同盟国もあるし色んな政治的裏技も使えるから苦しい言い訳でもごり押しできる。
そうでないならだんまり決め込んでしらばっくれ続ける。そしてバッグゼッドとその同盟国との国交を天秤にかけて言い逃れできなくなれば水面下で賠償の話し合いになるだろう。
折り合いがつかなければ暴発する可能性もあるが、バッグゼッドはそこまで追い込むことはしないだろう。
との事だ。
「さすがケイトさん。国際情勢にお詳しい」
「誉め言葉に聞えませんね。汚れ仕事に長けているみたいで」
「汚れ仕事も立派な仕事。そうさこの世のどぶさらい、暗い闇夜を引き裂いてくれよ」
俺はおどけてそう返した。
「なんだか格好の良い事を言っているようで、良く聞いてみれば酷い言い分ですね。政を行うのは大変な事なんですよ?それを執り行う人が無能で我欲に弱いと国は容易に傾くのですから」
政を為すは人にあり、か。
「そうだな、大変な仕事だよな政ってのは。俺にはとてもとても」
俺は肩をすくめて首を振る。
「何を言ってるんですか、あなたは既に胸元まで浸かってますよ」
真面目なトーンで言うケイト。
「よしとくれよ、俺にそんな器量はないよ」
「自分から首を突っ込んでおいて何を言ってるんです?」
「いや、政にはそんなに首を突っ込んじゃいないだろうよ?」
「十分首を突っ込んでますよ、現にほら」
ケイトが羽で指し示す方を見るとフィン書記とブリーニェル副会長がこちらに向かって歩いて来ているのが見える。
「フィン書記とブリーニェル副会長じゃないか」
「政がこちらに来ますよ」
ケイトが面白そうに言った。
「政って、大袈裟だなあ」
俺は若干顔を引きつらせる。
「クルース君、探したよ」
フィン書記が言う。
「どうしました?」
「君が昨晩捉えたジャーグル工作員の口から人身売買組織との繋がりが示唆されるような情報が出たらしくてね」
「本当ですか!」
ブリーニェル副会長の口から出た言葉に俺は思わず声を荒らげてしまう。
「ああ、だがそれ以上は頑として口を割らないのだそうだ。そこで君に相談なのだが」
副会長の言葉にほらね、と言わんばかりの目で俺を見るケイト。そうだよ、どうせ俺は首を突っ込んじまうよ。
「尋問ですか?」
「そうだよクルース君、君の幻術の力を貸して欲しいんだ。今このタイミングで彼らとヨグスタインの繋がりが明らかになれば人身売買組織に大きなダメージを与える事が出来るはずだ。」
フィン書記が力強い目で俺を見て言う。
「わかりました。できるだけの事はさせて頂きます」
俺が答えるとケイトがまたもや、先ほどのような目で俺を見てくる。俺はケイトを見て口角を上げ白目をむき変顔を披露した。ケイトの肩が震える。笑いをこらえてるようだ。
「では、一緒に来てくれ」
フィン書記が言いブリーニェル副会長もクルリと来た方向を向き歩き出す。
「どこへ行くのです?」
俺は質問する。
「彼らが捉えられている衛兵詰め所だ。馬車を待たせてるから急いで欲しい」
フィン書記が言う。
「ではジミーさん、行ってらっしゃい」
なんとか笑いをこらえる事が出来たケイトは他人事のように俺に言った。
「生徒会のメンバーは皆、先に行ってますからケイトさんもご一緒にお願いしますよ」
フィン書記が言う。へへへ、お前だけ蚊帳の外にはさせねーぞ。
「わかりました、では私も同行しましょう。しかしジミーさん、あなたのその目はなんですか?喜んでませんか?」
「いや、別に~」
「絶対、喜んでますよね?私も巻き込まれて」
「巻き込まれてとは失敬な、君ももう首元まで浸かっているんだよ?」
「うっ、さっきの私の言葉ですね?それに私は胸元と言ったのに水位を上げましたね?」
「くふふふ、わかった?」
「わかりますよ!」
ケイトが怒る。
「ふたりとも仲が良いのは結構だが、急いではくれまいか?」
フィン書記が振り返って俺達に言う。
「あ、すんませんです」
俺は頭を掻いてそう言って歩みを早める。ケイトは、あなたのせいですよ、と俺を羽ではたいた。
なんか、ちょっとばかりケイトとキャッキャウフフっぽくなっとるな俺。
なんでかね、ケイトは完全に俺を恋愛対象としては見てないってのがわかってるからかね?俺としては非常に話しやすい相手なんだよなあ。
俺はケイトを見てちょいとばかり笑顔になりながら、前を歩くブリーニェル副会長とフィン書記に続くのだった。




