晩餐会って素敵やん
さて、長かった団体戦も無事終了し、いよいよ目的の晩餐会となりました。
やはり、この街の最高権力者の邸宅だけあって宮殿のような建物だ。
晩餐会と呼ぶに相応しい豪華なお部屋、そして御馳走。
「いやー、これは食いでがあるぞ。」
「きひひ、そうだな変わったモノが食べたいのう。」
「わてもご相伴にあずからせてもらいまっさ。」
シエンちゃん、キーケちゃん、サマ爺は連れ立って食べ物が並ぶテーブルに歩いて行った。
「アルスちゃんはいいの?。」
「ええ、ゆっくり頂きます。トモトモはいいのですか?。」
「ああ、ちょっと気になる事があってさ。」
「うふふ、決勝戦のお相手ですか?。」
「さすがアルスちゃん、鋭いねえ。待ってれば挨拶に来ると思うんだよね。」
「あら、トモトモもそう思いますか?。」
「ああ、アルスちゃんも?。」
「ええ。」
この街の有力者なのだろう多くの人たちが談笑している中、奥の大きなトビラが開いて皆が静まり返る。
トビラから出て来たのは、看板に描いてあった狼顔の小さな女の子とその傍に立つスラっとした狼顔の女性、そして背の高い美形の男性だった。
狼幼女はどうやらこの街の最高権力者メルヘンベルその人のようで、群がる人々から、挨拶を受けている。
メルヘンベルは群衆に挨拶をしながらこちらに歩いてきた。
「お前たち!強かったにゃー!私がこの街の最高責任者、メルヘンベルにゃ。こっちが近衛兵団長のスタンファ、そしてこちらは食客のエンポリオ氏だ。」
「私はクルースと申します、よろしくお願いいたします。」
「アルスと申します。以後お見知りおきを。」
「堅苦しい挨拶は抜きにゃ。残りのメンツはどうしたのにゃ?。」
「はい、今、食事を取りに行ったところですので、すぐに戻って来るかと思います。」
「そうかそうか!ならば良い。もう分かっている事と思うが、決勝戦マスクドペインは我々にゃのだ!。」
「おー!こんにゃろー!。」
食事を持ってきたシエンちゃんがエンポリオさんの肩にパンチを入れた。
このままでは、にゃのだ!と胸を張っているメルヘンベルがあんまりなので、俺とアルスちゃんで大げさに驚いたら満足顔になってくれたので一安心した。
「オフッ。勘弁してくださいよ姉上。」
「なんと!エンポリオ氏の姉上様ですか!どうりであれだけの接戦をされたわけです!。」
スタンファさんが驚いている。
「お?ああ、そう、そうね。そうだったそうだった!強くなりましたねえ!弟君よう。」
下からねめつけるシエンちゃん。
よしてくれってヤンキーじゃないんだから。
キーケちゃんとサマ爺も戻ってきて会話に加わる。
「いや、最後の試合、もう一戦出来なくてすまなかったにゃ。我々もまさか負けるなどと考えておらなくてにゃ、残りのメンツは非戦闘員で、我らが一人負けた時点で団体戦敗北だったのにゃ。ただ、スタンファがどうしても試合がしたいと言うので敢えてやらせてもらった訳にゃ。」
にゃ、が少々煩くなってきましたよ。そもそも狼なのに、なぜゆえ語尾猫なのにゃ?
「はい、我儘を言いました。しかし、お強かった。己の未熟を感じました。」
「いいええ、スタンファさんも十分お強かったですよう。」
いつもの調子でアルスちゃんが答える。
「クルースよ、良ければお前たちも食客ににゃらぬか?どうにゃ?。」
「いや、お気持ちは嬉しいのですが我々も目的のある旅の途中でして、申し訳ありません。」
「いやいや、いいのにゃ。無理を言ってすまにゃんだ。しかし、目的とはなんにゃのだ?。」
「はい、ちょっとした人探しでして。」
「ほうほう、人探しとにゃ。面白そうな話にゃ。良ければ別室で詳しく聞かせてくれにゃいか?。」
「はい。」
そうして、我々は別室に通された。
俺は、モミバトス教からの依頼を、そしてレインザーで起きた発見者騒動について、モミバトス教実践会が同じ道を進みそうである事、そしてそれを裏から動かそうとしているアドバイザーの存在、アドバイザーの人相風体について、ありのままに話した。
「ベル様。」
「わかっとるにゃ。」
スタンファに言われ何事か考え込むメルヘンベル。
「わかったにゃ。結論から言うと、その男なら先日までここにおったにゃ。」
メルヘンベルさんの話はこうだった。
我々がキズメと呼ぶその男はデクラインのサインの入った通行証を携えていた。
デクラインとは、退廃街の王と自らを呼ぶアーマーオウガの男で壁の中で最大の勢力を持ち、無法エリア壁の中の統治者を気取っているのだそうだ。
ベルさんは、いつでも相手をしてやる迷宮街なら遅れはとらんにゃあ!と息まいているが、まあ、そうは言ってもガチでやり合うにはリスクの高い相手、しかもやり合ってる間に漁夫の利を狙う奴らもいるってんで、本音を言えばやり合いたくないわけで、そうした相手の通行証をもった奴を無下にするわけにもいかなかった。
一応客人として迎えたものの、愛想はないし、この街の一押しエンタメである闘技場にも興味を示さず、すぐに去っていったとのこと。
ちなみになのだが、この迷宮街。迷宮以外に出入りできるルートがあるそうだ。
そりゃそうだよな。
だが、そのルートは火山の溶岩地帯を抜けるもので、更に隠しトビラで厳重に隠されているため外部から無理に侵入するのは不可能だという。仮に極大魔法か何かで強引に侵入したとしても、センサー的な魔法が仕掛けてあるのですぐに迎撃出来るし、完全に有利な位置取りができるからそう簡単には攻め落とせないだろう、とは近衛兵団長スタンファさんの談。
さて話は戻って、キズメの動向だ。
デクラインのサイン入り通行証を持ち迷宮街を通って行った男は、ペイルンと名乗り非常に無口な男だったようだ。
シエンちゃんの弟さんもペイルンとは会っているようで、エンポリオさん曰く周りに気を許さず油断せず気を張り続ける様子は、何かに追われる逃亡者のようであったという。
左手の手首に二本の鎖が絡まり合う入れ墨があったそうだ。
「間違いない、黒死の残党だな。」
キーケちゃんが言うのは、前に説明してくれた傭兵団、夜戦を得意とする褐色の耳長族で構成された集団のことだった。
ベルさんが言うには、デクラインは壁の外に何らかの繋がりがあり、その伝手でこうして迷宮街を通過して行く奴が偶にいるのだとか。
さて、いよいよペイルンを追い詰めて行くぞ、まったく手間を懸けさせよってからに。




