表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
828/1116

やっぱり後処理は面倒ねって素敵やん

 かなり無茶な運転をして青空美術館へ到着した俺はすぐにクランケルを探した。

 すると、小山のように積みあがった飛行ヘパタロスの脇で佇んでいるクランケルを発見する。


 「おお!クランケル!」


 俺はバイクを停めて声をかけた。


 「おはようございますクルース君。ナスコ君は怪我無く帰ってきましたが、その後、如何でしたか?」


 「如何も何も、その事は後でゆっくり話すけどさ。今更だけどお前大丈夫なのか?」


 「こいつらの事ですか?だったら大丈夫ですよ。飛行性能と防御力は高かったですが戦闘能力はさほどでもなかったですからね。青空美術館では人的被害も物的破損もほぼなしですよ。それよりその恰好はどうしたんです?」


 いつもの如く平静なトーンで言うクランケル。


 「いや、結構手ごわい奴に出くわしてって、そうじゃなくてだな、お前の実家、トーカ領だろ?トーカ領はジャーグル側に着く可能性が高いって話しだったろう?」


 「ふふっ、それでそんなに焦った顔をしてたんですか」


 クランケルが笑う。


 「いや笑いごっちゃねーだろ。マジで大丈夫なのか?」


 「ふふふ、いや失礼。クルース君は忙しくしてたから聞いてなかったんですね。実家の事でしたら生徒会の皆さんも心配してくれましてね、トーカ領に潜入するなら力を貸すと言われたのですが心配ないとお断りしたんですよ」


 「なぜだ?」


 「私の実家は港湾関係の管理を任されていましてね。元々土地柄的に荒っぽい場所なので父を始め管理する兵たちも武闘派ぞろいでして。なにしろ港で働く人間ってのは血の気が多くてケンカ好きですからね」


 「しかし、よう。そうは言っても戦争だぜ?」


 「この程度の戦力なら自分達の身を守って隣領に逃げる事くらいはできるでしょう。港には足の速い船も揃ってますしね」


 あくまでクールな態度を崩さないクランケル。


 「そうは言ってもやっぱり心配だろ?今からでも見に行くってんなら付き合うぜ?」


 「ふふふ、クルース君も世話焼きですねえ。ほら、もうひとりの世話焼きが帰って来ましたよ」


 クランケルが視線を向けた方向からバイクの音が聞こえ、すぐにストームの姿が見えた。


 「おーーい!!クランケル君やーーい!!安心してくれーーーー!!」


 バイクの上で手を振って叫ぶストームは、そのままこちらにやって来て急停車した。


 「あ!クルース君もいるじゃん!どうだったのあれから?」


 バイクから降りながらストームが尋ねる。ストームの服は埃だらけだ、あれからあちこち走り回ってたんだろうな。


 「っていうかどうしたのその服?新しいファッション?」


 「んなわけねーだろ!いいからトーカ領の事、聞かせてくれよ」


 「ああ、そうそうクランケル君!トーカ領もビリガント領も被害少なく無事に守り抜いたってさ!勿論、アルロット領もね」


 「ほう?トーカ領全体がですか?一部ではなく?」


 ストームの報告にクランケルが目を細めた。トーカ伯の裏切りや戦力的な事を考えて全領地を守ったと言う事に驚いたのだろう。俺も同じ気持ちだ。情報局の前予想では資源採掘地は根回しし死守する構えだったが、その他は寝返る可能性が高いと言う話だった。


 「そうなんだよ。って言うのもさトーカ領にはカティス波乗り宣伝部がたまたま来てたらしいのよ」


 ストームが嬉しそうに言って俺を見る。あちゃー、そう言う事か。カティス波乗り宣伝部ってのは波乗り文化を広める営業の事だろう、となると当然、あのふたりもいる訳で。


 「カティス波乗り宣伝部、もしかしてクルース君の仲間がいる?」


 「そうっ!!そうなんだよー!たまに噂で聞いてたけどさ、マジで半端なかったらしいよ。クルース君の仲間ふたりで戦局ひっくり返しちゃったんだってさ。トーカ伯とその取り巻きはジャーグル王国に亡命しちゃったって話だよ」


 ストームが興奮して言う。


 「ほう、ふ~ん。それはそれは、見たかったですねえ」


 クランケルが怖い笑みを浮かべる。

 だから、あんまりうちのメンツに興味持つのやめてくれって。お前はどれだけ強さを求めるつもりなんだよ?

 

 「なんです?クルース君?お仲間をとられると思って心配になりましたか?大丈夫ですよ、それだけの実力者になると気が向かない限り教えてはくれないでしょうからね。あの人もそうでしたし」


 クランケルが言うのはサーヴィングのおとっつぁんの事だな。確かにあの人はそう言うタイプだったしキーケちゃんも似たような所があるが、シエンちゃんは褒めると結構ちょろいからなあ。おだてたら何でも教えてくれそうで心配だけど、まあ、シエンちゃんの場合、教えて貰えてもそれを人間が再現できるかは別問題だからな。


 「いや別にそんなこたぁ心配してねーけどさ。クランケルの実家が無事ならそれでいいんだが、でもなあ領主が逃げちまうとはなあ」


 「そーなんだよ、前代未聞だよこんなの。それで次期領主をどうするかで色々話があってさ」


 ストームは微妙な顔をしてクランケルを見た。


 「嫌な予感がしますね、まさか」


 クランケルは何かを察して眉をひそめる。

 なんだなんだ?何か不安事でもあるのか?次期領主候補と実家が仲が悪いとか?

 

 「クランケル君にとってはあまり良い知らせじゃないと思うんだけどさ、次期領主候補として君の父君の名が上がってるみたいよ」


 「何と言う事だ」


 クランケルは真剣なトーンでそう言って頭を抱えた。


 「おいおいおいおい、なんだよ?そこ頭抱える事か?めでたい事じゃないのか?」


 「何言ってるのよクルース君。クランケル君の将来の夢、知らないの?」


 ストームが俺に詰め寄る。


 「いや知らないけど、何だよ?まさか世界一周ケンカ旅とか?」


 「知ってるじゃん!だったらわかるでしょ?父君が領主になんてなったらそんな夢どころじゃないでしょ」


 おいおいおい!クランケルよう!お前は何バカ一代になるつもりなんだ?片眉剃り落としたいのか?世界各地で昼は現地の猛者と夜は艶っぽいお姉さま方と戦いを繰り広げるつもりなのか?


 「いや、そりゃお前、なんつーか・・・、うん!まだ決まった訳じゃないし、そんなに気を落とすなよ!な?クランケルよう?」


 父親が領主になるかもってんでこんなに落ち込む奴も珍しい、俺も何を慰めてんだか良くわからなくなってきたぞ。


 「そ、そうですよね。まだわかりませんよね」


 クランケルはこめかみを揉みながら絞り出すように言った。


 「いやー、どうだろう?トーカ領防衛戦で父君は兵と地元の荒ぶる人達を従えてかなり華々しい働きをしたらしいよ。クルース君のお仲間達が力を貸してくれたのもその戦いを見て触発されてだって話だし、今回のトーカ領防衛の一番の功労者なんじゃないかな?」


 「バカ!お前、追い打ちかけてどうすんだよ!」


 「ごめん」


 またもやズーンと沈み込むクランケルに口を押えて謝るストーム。

 こりゃ、戦後処理も色々と大変そうだぞ。


 「君達!手を貸してくれないか?昨日の敵の残骸を一か所に集めてるんだ」


 飛行ヘパタロスの残骸が山積みになったリアカーを引っ張りながらヴォーン生活部長が俺達に声をかける。


 「わっかりましたー!」


 ストームが手を振り返す。


 「気を取り直して、俺達が出来る事をやろうぜ」


 「そ、そうですね。すいません、お見苦しい所を」


 俺の言葉にクランケルは立ち上がる。

 俺はホッとしてストームを見るとナイス!とばかりにこっちにサムズアップしてやんの。まったく。

 それから俺達は青空美術館内の飛行ヘパタロスの残骸を広場に集め、その後は各々のやれる事へと戻った。

 俺は昨晩の件を誰に報告すべきか考えていたが、ちょうど良いと言うのか何と言うのかコゼランちゃんが来て生徒会や商会関係者、そして記者団に声をかけ現状報告会を開くことになった。

 場所はバラと弓展望台にある旧チェスロム邸。

 大きな屋敷の大会議室に俺達は招き入れられると、まずはコゼランちゃんから昨晩のジャーグル侵略騒動の顛末が語られた。

 各領に工作員が潜り込んでいて、現地の連絡係と連携をとっていた形跡がある事。その工作員と連絡係の一部はすでに捕らえられている事。一部の協力的連絡員に対しては帝国で保護し安全な場所で名前を変えて暮らしてもらう手はずになっているとの事。これは前世で言う所の商人保護プログラムのようなものだろう。ここであえて伝えたのは記者団を通じて帝国はあくまで人道的に対処すると言うアピールだろう。

 そうしたアピールは周辺国を味方にするための作戦でもあるのだろう。

 さらにバッグゼッド帝国は正式な声明として、ジャーグル王国のこの度の行いは明らかな侵略行為であると非難したと言う。これに対してジャーグル王国側の返答は今のところなし。

 周辺国の反応は詳しい状況がわかるまで保留だが、バッグゼッド帝国の声明が正しければ然るべき対応を取るというという意見が大半を占めていたとの事。

 この然るべき対応というのは貿易などの取引や出入国の規制、また資産の凍結も含まれるという事で実行されればジャーグル王国にとって大変な痛手になるだろうという事。

 あまり急激にやるとジャーグル王国が暴走しかねないので、そのあたりは各国で話し合い段階的に行われることになるだろうと言うのがコゼランちゃんの予想だ。

 また現在わかっている被害状況だが、戦闘に関わった兵士や一般徴用兵で軽症者が出た程度で人的被害は抑えられてるとの事。物的な被害については魔物襲撃による家屋破壊、それに伴う火災が幾らか起きており当該地域の住人にはしばらくの間、空き家屋や簡易テントでの借りぐらしを強いてしまう事になってしまうが基本的に損害は国で保証する事になるとコゼランちゃんは言う。

 

 「勿論、損害の賠償はジャーグル王国に請求するけどな」


 コゼランちゃんの話しでは戦争賠償には戦争で生じた損害のみならず帝国の戦費も含まれるとの事。そしてこれはコゼランちゃんの予想だが、恐らくジャーグル王国にその返済能力はないので分割での支払いと一部国土の割譲で落ち着くのではないかとの事。

 結局ジャーグルは領地を増やすどころか減らす事になるわけか。

 だがそれは将来的にまた侵略の口実、元々は自分の土地であったという言い訳に使われる可能性を秘めたものなのだがな。

 戦の火種は無くならないってこったな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ