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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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戦場ツーリングって素敵やん

 「おいストーム!あんま無茶すんなよ!!」


 ヒラヒラと単車を寝かせて高速でコーナーを走り抜けるストームに、バランスを崩しそうになるたびに身体強化で足ついたり、ゲイルで強引に戻したりしながらやっとこさついて行く俺。

 

 「えー、別に無茶なんかしてないよー」


 気の抜けた返事をしながら両輪をスライドさせながらコーナーを抜けるストーム。しかも抜けた先でアクセル吹かして前輪が浮いてやがんの。もう、トラッカーベースでそんな走りすんなっての、こっちの自尊心が砕けちまうぜ。

 

 「クルース君!あれ!」


 居留地の方の空が明るくなっている。


 「火が出たか!」


 「急ごう!!」


 更に速度を上げるストーム。くそー、こいつ生息速度域が違うな、特攻のストームか?ケンカ止めに行くんか?

 俺は必死にストームについて行く。

 居留地に到着すると国防軍と飛行ヘパタロスが空中戦を繰り広げ、地上では衛兵隊と魔物が戦っていた。

 次々やって来る飛行ヘパタロスがポンポンと落としているのは魔物の入れ物か。

 空中戦では国防軍が数では押されてはいるが攻撃力や戦いの練度で勝っているようで、飛行ヘパタロスが地面に多数落下しているのが見える。

 地上戦はといえばもう乱戦であった。


 「ナスコを探すぞ!」


 「チャスコばあちゃん家まで突っ切ろう!!」


 俺とストームは魔物と兵士が戦う戦場を帝国製バイクで駆け抜ける。俺はすれ違う魔物に左手で鉄鋼散弾を喰らわせながらストームに続く。ストームの奴は行く手を塞ぐ魔物にはお得意のウォーターレーザーをぶちかまして撃退している。

 

 「見えた!ばあちゃん家だ!」


 「よっしゃ!滑り込むぞ!」


 俺とストームはバイクでテントの中に滑り込む。


 「おい!ナスコはいねーか!」


 「ナスコちゃんやーい!!」


 テントの中を見渡して声をかける俺とストーム。


 「うっうっうっ」


 テントの隅で子供が鍋みたいなものを被ってうずくまっているのを発見。


 「ナスコちゃん?」


 ストームが声をかける。


 「うえっ、うえっ、ご、ごべんなざいー」


 ストームに声をかけられこちらを向いたナスコは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら謝った。


 「謝る事、ないよ。チャスコばあちゃんの忘れ物を取りに来てくれたんでしょ?」


 ストームはナスコが被っている鍋みたいなものをコンコンと叩いて言った。ああ、ナスコが被ってたのは龍鳴ポットだったのか。

 

 「うん、ぐすっ、でも、危ないから来ちゃダメだって言われたから、ぐすっぐすっ」


 「そうだね、危ない事はしちゃだめだね。でも、もう大丈夫だからね、お兄ちゃん達が迎えに来たから早く帰ろうね」


 ストームは優しく言うとナスコが被った龍鳴ポットが落ちないように顎の下で紐でくくった。


 「ほら、こうすれば兜みたいでしょ?」


 ストームが言うとナスコは少し笑った。ヘルメット代わりだな、それにしてもこいつ子供慣れしてるな、弟か妹でもいるのかね?


 「それじゃ、帰ろうクルース君」


 ストームはバイクに跨ると後ろに乗せたナスコの身体と自分の身体を紐で結んで言った。


 「了解!」


 俺とストームはバイクに乗ってテントを飛び出した。


 戦局は大きな変化を見せず、居留地は兵士と魔物、飛行能力を失ったヘパタロスが入り乱れ荒れた戦いを繰り広げている。魔物とヘパタロスは連携せずただ暴れているような状態に対して、人間側は声をかけあい連携を取りながら戦っているのでこの調子ならばいずれ人間側の勝利になるだろう。


 「クルース君!山が!」


 またまたストームが俺に声をかける。こいつ、運転しながらどれだけ広い視野を保ってんだよ?

 俺は山を見る。

 

 「なんだありゃあ?」


 山の中腹部から天に向かって光の筋が出来ていた。


 「あれは何か連絡用の術式具だよ!誰かが何かに合図を送ってるんだ!」


 ストームが叫ぶ。


 「合図だって?今、この状況でか、こりゃろくな合図じゃなさそうだな」


 「僕もそう思うよ、クルース君!」


 「わかった、ちょっと行ってくるぜ」


 俺はストームに叫ぶ。


 「気をつけてよ!」


 「そっちもな!」


 俺はストームに声をかけ進路を光の筋が出ている山へと向ける。

 あの辺りは例の巨大杉と遺跡がある場所ら辺じゃねーか?俺はアクセルをひねり荒れた山道を登った。

 トロッコ道を登り巨木に辿り着くと石造りのアーチの前に男が座っており、その男の前には光を発している筒が地面に刺さっていた。

 

 「なにをしてるのかね?」


 俺はバイクを降りて男に近付く。


 「ひっ!誰だ!!」


 怯えた様子で俺を見たのはドーンホーム教会地区長のボウランだった。


 「私ですよ、クルースです」


 「こんな所でなにしてるんだ」


 弱弱しい声で言うボウラン。


 「それはこっちのセリフですよ。なんなんですかその光は?誰に何の合図を送ってるんです?バッグゼッド兵、にではなさそうですよね」


 俺はボウランを睨んだ。


 「そ、そんな目で見るな!貴様ら帝国主義の豚共にそんな目で見られる筋合いはない!」


 ボウランが自分を奮い立たせるように怒鳴った。


 「うーん、苦しいですね。自分が悪い事をしてる自覚があるのにそれから目を背けるために大きな声を出してるように見えますが?」


 「何を言うか!貴様らは欲に溺れ弱きものから奪い悪逆の限りを尽くしてきた!そんな邪悪な者から何を言われても私の信仰は揺るがない!」


 「いや、あなたねえ、信仰云々言うならばあなたの上司であるタンゼニン氏の意向はどうなんです?あなたのやってる事は彼の意向でもあるんですか?ドーンホームの総意でもあるんですか?」


 俺は光を出す筒に近付いて言う。


 「ち、近付くな!タンゼニンも神聖協力会も間違ってるんだ!私は、私こそが本当の・・」


 「なんだボウラン?そいつは誰だ?」


 ボウランの叫びを遮るように林の中から男が姿を現した。

 月明かりで怪しい輝きを見せる白い肌、キレイな金髪、場違いな仕立ての良いスーツ姿の男はボウランと俺とを見比べて言った。

 こいつ、何者だ?なんの気配の感じなかったぞ?

 

 「お前こそ誰やっちゅーねん?」


 俺はおどけた調子で言って男を見る。


 「ん?オーシャニヤンの出?いや、ちょっとイントネーションが違うな、良くいる偽訛りか。ボウラン、こいつは?」


 男は自然な動きでボウランに近付くと光を出している筒を軽く蹴った。

 筒はポッキリと半ばから折れ光が消える。筒の下は地面に刺さっているがそれほど深く刺さっている様にも見えない。筒を倒さずに半ばから折るにはどれほどの速度が必要なのだろうか?

 俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


 「こ、こいつは、慰問に来てる学生で、なにかとドーンホームの教えに異を唱える異端者だ!」


 唾を飛ばしながら俺を指差すボウラン。


 「グダグダうるさいな、シンプルに敵か味方か言えよ?こっちが何を望んで質問してるのかぐらい察しろよ?これだからダメなんだよ、お前らみたいのは。で?どうなの?どっちなの?」


 男はボウランに顔を近づけて言う。端正な顔立ちに立派な格好をしているが、どうも中身がそれに伴っていないようだ。

 

 「て、敵だ、敵で間違いない」


 「最初からそう言いなさい?まどろっこしいんだよお前は。それじゃあ、君、死んでもらおうかな」


 男はボウランの頭を乱暴に撫でた後、俺の方を向いて言った。


 「おじさん、随分自信がありそうだねえ」


 俺は男から発せられる鋭い殺気を受け流しながら言う。


 「ふぅ~ん、少しは使えるってかい?でも、その程度じゃあな」


 男はそう言うと一息で俺の間合いに入り鋭い上段蹴りを放った。俺は蹴りを受けようとしたが男の顔を見て方針を変える。ゲイルダッシュで後ろへ飛んで避ける。


 「お?受けようとして急に辞めたな?なんでだ?」


 男は面白そうに笑った。


 「なんかヤバそうな感じがしたんでね」


 俺は呼吸を整え男に言った。


 「へえ?具体的には?どんな風に感じたんだい?」


 男の気配に怖いものが濃く混じる。俺は深く吸った息をらせんを意識して丹田に下ろす。


 「むうっ」

 

 男は眉をしかめて後ろずさった。

 俺は意識して下ろした呼吸をゆっくりと背骨を伝って喉まで上げる。

 いつも使う小周転の呼吸法をいつもより丁寧に行う。

 

 「面白いじゃないの兄ちゃん。名前は?」


 「クルース、トモ・クルース」


 「ああ、そうか、なるほどな、なんか聞いた時あるな。なんとか団とか言う冒険者のリーダーだったよな?他のメンツはよ?」


 男の声に緊張したものが混じる。

 どうやらうちらの事を少しは知っているらしい。そうなると当然、警戒するのは俺以外のメンバーの所在だよなあ。

 

 「こっちも名乗ったんだ、そちらも名乗ったらどうだ?」


 「お?時間稼ぎか?うかうかしてると仲間が来ちまうってか。噂通りならお前の仲間とはあんまりやりたくねーが、リーダーは武闘派じゃなく商売特化だとも聞くなあ。変わった術式の使い方をするからちょっと警戒しちまったけど、さっきの似非オーシャニヤン訛りといいハッタリがお前の武器か。商売人らしいな」


 うわっ、見切られちまった。男の声に余裕が戻って来ちまった。


 「ほんじゃあ、お仲間が来る前に片付けさせて貰うとするかね」


 男は嫌な笑みを浮かべて首を左右に傾けた。

 参ったなこりゃ。


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